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変態ブログが一冊の本になるまで


この変態ブログが一冊の本に―


今まで誰がそんなことを考えたでしょうか。


「いくらスクロールしても終わらない」「試合より解説の方が長いのでは」「日本で唯一の読者=俺のブログ」


そんな声もどこ知らず、ただただ、己が書きたいから書く


それだけで続けてきた本ブログに一通のDMが届いたのは今から遡ることおよそ2年前‐


当時いただいたDM(ほぼ原文をそのまま再現)


>>サッカー店長 様

突然のDM突然のDMを失礼します。
私、光文社新書編集部のTと申します。

以前よりブログを楽しく読ませていただいております。

さて、本題なのですが、弊社にて「ペップ・グアルディオラを通じて現代サッカーをよみとく」というテーマで、店長さんに新書をご執筆いただけないものかと妄想しております。
ペップのチームが披露してきたこの10年少々のパフォーマンスを振り返り、現代サッカー界の変化(と変わらない本質)をよみとくという、壮大で濃厚な一冊を是非読んでみたいです。
そしてそれは、多くの人に買ってもらい、楽しんでもらえるものになると思います。

他の出版社などから同様のお声がけをされているかもしれませんが、こういった出版に興味はないでしょうか?
ご検討くださいますと幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>




ははーん、なるほど・・・











新手のDM詐欺だな( ^ω^)

*光文社の皆様、その節は大変申し訳ございませんでした(焼き土下座)





残念過ぎることに普段サッカー以外の本を読まない無知な私には当時、そのように見えてしまったのだ。




加えて色々多忙な時期だったこともあり、このDMを数ケ月スルー
(*光文社の皆様、その節は…)…




数か月後、光文社様がいかに出版界のビッグクラブであるかを改めて知った愚か者からのお詫びの連絡もこころよく受け入れていただき、一度本社にお話しを聞かせていただくことに




後日、東京文京区にある光文社本社ビルに我到着せり―




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*あくまで筆者のイメージです




ううーん、本当にこのビルに入っていって大丈夫なんだろうか?
(ソッコーで警備員とか飛んできたりせんだろうな…ドキドキ)





ビビっていても埒が明かないので突入。
受付にいた乃木坂のセンター横に立ってそうな綺麗なお姉さんにドギマギしながら要件を告げると上へ案内され、遂に担当のTさんとご対面。



そして開口一番、私は率直な思いをお伝えさせていただくことにした。




『大変ありがたいお話なんですけどあのブログ…
変態しか読んでないと思うんですが、大丈夫でしょうか?』

(*色んな方面に失礼)




すると担当のT氏は涼しい顔をしてこう答えたのだ




担当T氏『ええ…知っていますとも。









だって私、18歳の頃からあのブログを読んでいるその変態の一人なので(キリッ!)






なんと話を聞けばこのT氏、サッカー部でボールを追いかけていた高校時代から将来出版の仕事について、いつか自分の本を出せる日が来たらあの変態ブログを一冊の本にして世に送り出そうと企んでいたという生粋の変わり者

そしてこの度、本当にオファーをくれた、という訳である。


なんという壮大なストーリー!
(今のところ登場人物変態しかいないけど)





こんな粋なオファーを受けて日和ってる変態いる?





いねえよなぁ?

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しかし、二つ返事で受けたものの、そこからは苦闘の日々が始まった



店「ペップで現代サッカーを語るなら、やっぱライバルのクロップは外せないですよね?」


T氏「いいですね!入れましょう!」


店「となればモウリーニョも…」


T氏「いいですね!入れましょう!」


店「また違った立ち位置のアンチェロッティも語らないとですし、そうすると師弟関係のジダンにも言及して…」


T氏「いいですね!入れましょう!」


店「王道とは言い難いですが、ガスペリーニみたいなキワモノも…」


T氏「いいですね!入れましょう!」


店「そしたらビエル…」


T氏「入れましょう!」



このような果てしないワンツーパスの交換により、書く範囲もテーマも取り上げる監督も膨大に広がっていき、自分が納得するまで書切った頃には1年半が経過していました(爆)


その間、長いことこのブログも放置してしまいましたが、その分、今回の本に特濃でぶち込まさせていただきました!


今回は本書の「まえがき」を原文そのままにこちらに完全掲載させていただきます。
全変態の皆様のお手元に届く事を願って―












「サッカー店長の戦術入門(まえがき)」完全掲載

本書を手にとってくださった奇特な皆さま(敢えてリスペクトを込めてそう呼ばさせて下さい)、はじめまして。まず始めに簡単な自己紹介も兼ねて、私が「サッカー店長」として本書を上梓するまでに至った経緯をご紹介させていただければ幸いです。

元々、私自身はサッカーとは無縁の少年時代を送っていた、ごく普通の運動音痴でした。特に体育のサッカーでは皆の足を引っ張るのが嫌で憂鬱な気分になっていたことを今もよく憶えています。そんな私が12歳の頃、運命を変える出来事が起こります。それが1993年のJリーグ開幕でした。

同世代のファンなら当時のことはよく憶えていらっしゃる方も多いかとは存じますが、現代の日本では到底考えられないような熱狂がそこにありました。超満員の国立競技場がまばゆいカクテルライトに照らされ、顔にお気に入りのクラブのペイントを入れた若いサポーターが耳慣れない音のチアホーンを鳴り響かせていたあの日。たまたまTV放送でそれを目撃した私は、「この国で何かとてつもないことが始まろうとしている」という予感に、わけも分からず興奮していました。それからは熱に浮かされたように、毎週放送されるJリーグの試合を全試合録画して繰り返し観る日々の始まりです。周囲の同級生達が部活動や勉学、恋愛と青春を謳歌する中、私はひたすらサッカーを「観る」ことに青春を捧げていたのです。今振り返ってみても何か悪いものに取り憑かれたのではないか、としか説明が付きません。


そうして来る日も来る日もサッカーの試合を観ていると、素人ながらにいくつかの疑問が湧いてきます。中でもゴールはフィールドの真ん中にあるのに、何故どのチームも回り道するかのようにサイドへ迂回するのか?は大きな疑問でした。当時は今と違ってインターネットも発達しておらず、グーグル先生に聞く訳にもいきません。そこで本屋や図書館でサッカー関連の書籍を漁ってみると、どうやらサッカーはただ走ってボールを蹴るだけに収まらない領域があることを知ることになります。それが私が初めて「戦術」と出会った瞬間でした。


元々運動神経が悪かった私は、ことさらこの頭脳戦の領域に興味を惹かれ、更にのめり込むようになります。
世界中のチームの戦術、過去のW杯の歴史、最先端のトレンド、戦術に関する情報ならば、ありとあらゆるものを集める日々が始まりました。観た試合は全てノートにメモを取り、フォーメーションや監督采配、拙い戦術分析を書き始めたのもこの頃です。頭を使って戦略で相手を出し抜く、その過程に覚えるワクワク感は今でも1ミリも変わっていません。



そんなサッカー漬けの日々も気付けば10年を超え、多くの同級生達が社会人として着々と人生を歩む中、私はと言えば相変わらずの日々を送っていました。アルバイトをしてお金が貯まると海外にサッカー放浪の旅に出て、お金が尽きる頃に戻ってきてはまたアルバイトをして…の繰り返し。当時の流行り言葉で言うなら「フリーター」というやつでしょうか。日本でのサッカーブームも一段落し、いい歳をして365日サッカーに浮かされているような人間は明らかにこの社会で浮いていたと思います。しかし、その海外放浪の日々で私は一つの確信を得たのでした。

あれは初めて海外に一人でサッカーを観に行った時の事です。W杯よりもレベルが高いと言われる欧州選手権を観に、私はオランダを訪れていました。そこで観たフランス代表の試合のある場面で不思議な感覚を体験したのです。
それはフランスが攻め込まれた後、自陣でフランス代表のSBテュラム選手がボールを奪った瞬間のことです。ボールは奪えたものの、あいにくテュラム選手は敵のFWに囲まれていたので、自陣ゴール前ということもあり前線にロングフィードを蹴るかな、と観ていました。ところがテュラム選手はDFとは思えない巧みなステップワークで敵の包囲網をかいくぐると、近くにいた味方選手に横パスをつなぎました。パス自体は何でもない横パスですが、ここで苦し紛れにクリアに逃げるのと、パスでつないでマイボールにするのとでは、その後の展開に雲泥の差が生まれる場面です。スタンドで観ていた自分は思わず、さすが世界トップレベルのプレーだ、と感嘆の溜め息を漏らしていたその時、スタンド全体から自然と拍手が沸き起こったのです。つまりこのスタジアムにいる人々は皆、今起きたプレーの価値の高さを分かっている、ということです。シュートシーンでもなければGKの決定的なセーブでもない、SBの横パス1本でこのような反応をスタンドが示す光景を私はそれまで経験した事がありませんでした。その時、言葉も文化も全く違う異国にいながら、「サッカー」という文法で彼らとつながり、日本では浮きまくっていた自分がつかの間受け入れられたような、そんな感覚を憶えたのです。もちろん私の一方的かつ勝手な妄想ですが、少なくともサッカーを深く知らなければ通じ合えない瞬間だったことは間違いないと思います。



他にも海外のサッカー事情は驚きの連続でした。オランダではオランダ代表の試合がキックオフされると、本当に街中から人々の姿が消えました。そして試合を観ていなくても街を歩いていれば、家々から起こる喝采でオランダの得点を知ることが出来ます。南米ではゴール裏の金網に半裸でよじ登ったサポーターが半狂乱になりながらチームを鼓舞する姿に衝撃を受けました。そんな彼らを見て「人生の中にサッカーがある」のではなく「サッカーの中に人生がある」、そんな生き方を尊く思うと共に、自分の中で一つの確信が芽生えたのです。このサッカーという競技、文化、言語は人生を賭けるに値するものだ、と。



欧州や南米等、一通り行きたいと思っていた国に行き尽くした私は、今度は少しでもサッカーに関わる仕事がしたいと思い立ち、地元のサッカーショップで働くことにしました。その頃、ちょうど世間ではインターネット通販(楽天、アマゾン)が盛んになり始めた時期で、自分が働いてたショップでもネット通販事業の拡販に発信力のある人間が求められていました。既に職場内でも異常にサッカーに詳しい「変態」として知れ渡っていた私が、気が付けばネット通販部門の「店長」に抜擢されることとなります。即ち、これが「サッカー店長」誕生の瞬間です(笑)。


しかし、当初はネット通販の売上が思ったように伸びず、苦悩の日々でした。少しでも売上増につながれば…との思いで始めたショップブログにも誰も訪れてくれません。そんな誰も読んでくれないブログを日々更新していると、ふつふつと私の中に巣食う変態の虫が顔を覗かせるようになります。どうせ誰も読んでいないなら…の軽い気持ちでショップとは全く関係のない、最近見た試合の分析記事が紛れ込むようになるまでそう時間はかかりませんでした。ところが、この試合分析が一部の同志にハマったのか、以降少しづつブロクのアクセス等が伸び始めるではないですか。コメント欄にも「分析、面白いです!」などの有り難いお言葉をいただくようになり、売上にも少しづつ影響が見られるようになります。

完全に調子に乗った私は、気が付けば2万文字にも渡る戦術分析のブログを書き綴るようになっていました。完全に常軌を逸していますが、こと戦術の話しになると私にはブレーキが付いていないのです。なにせ既に15年以上もの間、私の中には誰に披露するでもない戦術に関する知見が溜まりに溜まっており、ダムの決壊は時間の問題だったのです。ところが人生、何が起こるか分からないもので、このブログが次の思わぬ転機となりました。



なんとJリーグクラブの藤枝MYFCの当時の社長がこのブログを目にし、チームの戦術分析官として自分にオファーをくれたのでした。恐らく当時、サッカー未経験の分析官など日本のサッカー界では異例中の異例の出来事だったと思います。もちろん私はこのオファーを快諾し、2014年にプロの戦術分析官としての第一歩を踏み出します。以降、4年に渡って藤枝で務めた後、現在は関西リーグからJリーグ昇格を目指すおこしやす京都ACの一員としてサッカー漬けの日々を奮闘しています。


プロの現場の最前線に立たせていただいたことで、今まで見えてこなかった日本サッカーの一面が見えてきました。自分もそうでしたが、ファンの立場で試合を観てああでもない、こうでもないとサッカー談義に花を咲かせるのは楽しいものです。これは間違いなくサッカーが持つ魅力の一つで、ファン、サポーターの特権のようなものだと思います。一方でどこまでいっても現場で実際に起きている内情については知るよしもありません。かといえば方や現場は現場で外部の意見や知見を積極的に取り入れる姿勢が当時はまだ少なかったと思います。そういった姿勢は外から観ているファン、サポーターからすると歯がゆく感じられたりすることもあるでしょう。

私はある意味、この両面に片足ずつを置いているような、サッカー界ではレアな立場に身を置く機会をいただけたと思っています。だからこそ、なるほど外からでは見えない「現場の現実」というものをこの数年でたくさん経験させていただきました。一方で、やはりここは外部の意見も積極的に取り入れた方が良いのでは、と感じる部分も発見することが出来ました。だからこそ本書にはこの「外からの客観的な視点」と「内部の現実」の両面を盛り込んだ戦術論を書かせていただいたつもりです。


最後に、本書のテーマである「戦術」の魅力とはなにかを私なりにお伝えして、まえがきの結びとさせていただきたいと思います。
私はブログのタイトルにもしていたように、常々「戦術とは浪漫である」と思っています。戦術は過去の偉大なチームと現在のチームを線でつなぐ一本の糸のような役割を果たします。例えばスペインのFCバルセロナで考えてみましょう。その物語は戦術史に一大革命を起こした1974年オランダ代表の「トータルフットボール」抜きに語れません。

この当時FCバルセロナ監督と兼任でオランダ代表を率いていたオランダの名将ミケルスの元には、愛弟子として同じくFCバルセロナ、オランダ代表、双方で大活躍中のクライフがいました。そしてクライフが監督としてFCバルセロナに帰還すると、クライフ流にアレンジされたトータルフットボールは完全にこの地に根付きます。そのクライフ監督の「ドリームチーム」と言われたバルサで司令塔を務めていたのがペップ・グアルディオラになります。後にペップが監督としてバルサを立て直し、黄金時代を築いた時の中心選手の一人はシャビでした。そして今、シャビがそのバトンを受け継いで物語は続いていくー。オランダの名将ミケルスからシャビに至る半世紀にも及ぶその過程を「戦術」という観点でつなぐと、見事に浮かび上がってくる一本のストーリー。私はこの一大ストーリーにこそ、歴史の浪漫を感じるのです。サッカーを点ではなく線で観ることの魅力が「戦術」にはあります。

そして過去を知ることは現在を理解することであり、更にそれは未来を予測することにもつながります。例えば現在、戦術のトレンドワードとして語られている「5レーン」や「ハーフスペース」「偽SB」や「可変システム」に至るまで、それらは全くのゼロから生み出された訳では決して無く、全て過去の歴史にその源流をみてとることが出来るのです。


過去から引用され、現代風にアレンジが加わり、そしてまたそれらが影響しあって次のトレンドを生んでいく。それが戦術史なのです。したがって本書は過去から現在、そして未来へと続く戦術史の糸を手繰り寄せるような構成になっています。

本書が貴方にとって戦術が持つ本当の魅力を知る、その「入門」になってくれたなら、これ以上の喜びはありません。



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⇒amazon『サッカー店長の戦術入門』
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日本サッカーの歪さの象徴として~日本×サウジアラビア~

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<日本サッカーの歪さの象徴として ~日本×サウジアラビア~

お久しぶりの人、どうもご無沙汰しております。
ブログでは初めましての人、ようこそ変態の世界へ。

このブログを放置していた期間に色々身の回りに起きたものの、わたくしサッカー店長の原点はここ戦術ブログにあります。
初心忘れるべからず、今一度原点に回帰して、ブログを更新したいと思います。

というのも、更新していない間にもDM等で「森保JAPANは一体全体どうなってるんや!?」「来年のW杯大丈夫なの?」「むしろ、ここらで予選敗退も悪くない」などなどたくさんの意見をいただいておりました故。
わたくしも重い腰を上げて、そろそろ日本代表について一太刀入れるべき時が来た、といったところでしょうか。


まず、昨年11月のオマーン戦黒星をピークに沸騰したW杯大丈夫なのか問題について。
これについては個人的に全く心配しておりません。予選が始まる前から全勝は無いだろうが、どう間違っても予選通過ラインは突破するだろう、と確信を持っていたからです。(万が一、3位で大陸間プレーオフに回った場合も、それはそれで楽しめるだろうという楽観主義ww)

言い方を変えれば、それだけ日本サッカーの総力は現在においてもアジアでは上位に入ると思っています。
これは主に選手個々のクオリティの高さが担保されていることからくる安心感でもありますが。

今回はここらへんも踏まえて本題に入りたいと思います。
先日のサウジ戦のマッチレビューから森保JAPANの現在(いま)を検証していきましょう。


<事前準備の差が明確になった立ち上がりの攻防>
まず日本代表のスタメンは先日の中国戦から継続でした。これはまあ過去の采配からも想定通りでしょう。
巷では不満の声も一部聞かれましたが勝っているチームをいじるにはそれ相応の理由が必要です。
チームとして明確な形がなく、選手同士の連携をパッチワークのようにつなぎ合わせて作られている現在の日本代表において、パズルを組み替えるリスクは小さくありません。

いっぽうのサウジにしたって前線のメンバーこそ一部入れ替わっていますが、やってくることは前回対戦時とほぼ何も変わっていません。後ろからしっかりボールをつないでくる事、その際3バックに可変して噛み合わせをズラしてくることなどなど。DFラインはほぼ同じメンバーなのでSBを上げてボランチを落とす可変のパターンも全く同じでした。

つまり、日本とサウジはお互いにお互いの手の内が分かり切った上での試合だったはずです。
となれば試合の優劣を左右するのはチームとしての事前準備と、選手個々のクオリティの総和になります。

ではまず実際の試合からサウジアラビアの最初のビルドアップに対して、日本がどのような守備を行ったかを見ていきたいと思います。日本のこの試合に向けた準備が問われるシーンになります。


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サウジアラビアのフォーメーションは4-2-3-1。ビルドアップではそこからボランチが1枚落ちて3バックに可変するのが彼らの一つのパターンになっています。
これに対し、4-3-3の日本はCFの大迫が1枚でCBを見る守備を敷いていました。両WGは相手のSBが高い位置を取って来るのでそれに引っ張られるように後退。結果的に大迫が孤立するようなかたちになっています。システム的には4-5-1気味の守備とでも言いましょうか。

この守備では当然、ボールの出どころが1対3の数的不利なのでプレッシャーなどかかる訳もなく、自由に蹴られてしまいます。



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サウジに高い位置を取ったSBに振られて、これに対応するのはSBの酒井。
同タイミングで酒井が出ていった裏のハーフスペースにサウジの選手が走り込んでいます。
このオートマティズムは試合を通して見られたサウジの形であり、彼らの事前準備が見られたシーンと言えるでしょう。



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結果的にサウジに最初の攻撃からクロスまで持っていかれてしまいました。
サウジの最も基本的な攻撃パターンに対し、前半1分で後手を踏んでいることからも両チームの「事前準備」ではまずサウジに軍配が上がったと思える立ち上がりでした。

そしてこの日本の守備は前半を通してあまり大きな変化は見られませんでした。
次が前半30分過ぎのシーンです。

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相変わらず大迫1枚ではファーストディフェンスにならず、サウジのCBに自由にボールを運ばれているのが分かります。
右ウイングの伊東は背後で高い位置を取るサウジのSBが気になるので出て行けず、実に中途半端な位置取りになっています。


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日本の守備はボールの出どころに対してファーストディフェンスが定まらないので、結局中盤を経由されてSBを使われています。



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前半の日本の守備の問題は結局サイドを使われて、前線のWGが後追いで戻ってくることにあります。
この守備だと例えボールを奪えたとしても、カウンターで本来使いたいWGのスピードが活かせません。


前半の日本の先制点がサウジの右サイドのスローインから始まっていたのは偶然でも何でもなく、こちらから攻めてくれた場合のみ逆サイドの伊東が高い位置に留まれるからです。

【日本の先制点につながったサウジのスローイン】
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恐らくこのスローインが逆サイドからだったなら、日本の先制点は生まれていなかったことでしょう。




<最適解の修正>

後半、日本の前線の守備が修正されていました。
後半立ち上がり5分のシーンでそれが垣間見られます。

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サウジのCBがビルドアップでボールを持つと、日本は両WGの南野と伊東が背中でSBを消しながら外切りで猛烈なプレスをかけに出ているのが分かります。

このハイプレスで落ち着いてボールを持てなくなったサウジは、慌ててSBへ対角のパスを送りますが・・・



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このパスは後ろのSB長友を押し上げることでインターセプトに成功。
ファーストディフェンスでサウジの選択肢を削っているので、後ろのDFが次を狙いやすい状況を作り出していました。

この守備の利点は、ボールを奪った瞬間に前線の3トップが高い位置でカウンターに関われることにあります。
クロップ監督のリバプールなども得意としている4-3-3の守備ですね。
サラー…じゃなくて、伊東のスピードを活かすなら前半と後半、どちらの守備が良いかは一目瞭然。

願わくば事前準備の段階で、この守備を仕込んでおけば前半からもっとチャンスを作れたんじゃないかという気も?

この後半の修正もチーム主導なのか、選手達の判断なのかは内情を見た訳ではないので分かりません。
ですが、後半も選手交代で3トップの顔ぶれが変わるとまた元の守備に戻ったりしていたので、前半を戦い終えた選手達主導の話し合いで修正された可能性は充分あるな、と個人的には思いました。


<中盤の三銃士>
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では続いて、日本の攻撃面を見ていきましょう。

日本が最終予選の序盤で苦戦を強いられていた要因がこの攻撃面にあります。
これまでの日本の攻撃における問題点は「前線に幅がないこと」「柴崎が間で受けずに落ちてきてしまうこと」の二つでした。

↓の画像はオマーン戦からのワンシーンですが、日本の典型的なポジショニングがコレです。
【日本のポジショニングの問題点】
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このポジショニングの問題点はまず3トップを敷いているにも関わらず、何故かFWが3枚とも中央に寄っていて3トップシステムが持つ本来の良さを全く活かせていないということです。
そして中盤ではIHの柴崎が密集を嫌がって間のスペースを離れ、相手の守備ブロックの外に落ちてきてしまっています。

よく現代サッカーにおける攻撃の定石として「深さ」「幅」「間」の三点を抑えろと言われますが、↑の日本代表が体現している4-3-3(らしきもの)のポジショニングでは何一つ抑えられていないということが分かります。



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このポジショニングでいくらボールを回したところで、3トップが密集しているので相手の4バックも密集していしまい、前線は常に3対4の数的不利の状況。
加えて中盤の「間」に人(柴崎)がいないので、相手は何の躊躇いもなく3トップを潰しに行けます。

この状況でDFラインから無理な縦パスを打ち込んでは失っていたのがオマーン戦前半までの日本の攻撃でした。

ですが、この試合の後半に伊東と三苫が幅を取るようになり、中国戦からは中盤で守田が使われるようになって日本のポジショニングが大幅に改善されるようになりました。



ただ今回のサウジ戦も序盤は中盤の3枚が上手くボールに絡めない時間帯が続いていました。
アンカーの遠藤がサウジの2トップに上手く消されて狭いスペースに押し込められたことで、CBからアンカーにパスが出せず、外→外一辺倒の攻撃ではせっかくの3トップの幅を活かしきれません。

この状況にいち早く反応したのが田中碧です。
積極的にポジションをローテーションしながら動いて、CBからのパスを引き出す動きを見せ始めました。

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このシーンでは遠藤の代わりに田中がアンカーの位置に入って、中盤3枚のポジションがローテーションされています。
そしてアンカーの位置に入った田中碧はDFラインまで落ちるのではなく相手の2トップの間で我慢のポジショニング。ボールを受ける前に背後から寄せてくる敵がいないことを認知しておきます。


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だから2トップに挟まれていても余裕で前が向ける!
間で止めて(遠い左足)→前向いて→インサイドパス(右足)
この淀みないアクションがFWのプレスバックを許さない。



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このパスを間で受けた守田も余裕で前向けちゃう。
これがKAWASAKIスタンダードの『止める・蹴る』なのか…!?
やはり4-3-3は中盤3枚が間で受けて前を向けたら強い。
中盤の真ん中を割ってパスを通しているのでサウジの守備がギュッと中央へ絞っているのが分かる。
これで3トップが幅を取る意味が最大化され、出し手の守田が前を向けるからスルーパスも出し放題。

そして、これだけサイドにスペースがある状況でモハメッド伊東を走らせておけば…




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格が違うのだよ!格が!


これなんですよ、日本がアジアで取るべき正しい振る舞いは。
サウジの左SBが脅威とかいう事前報道もありましたが、相手はマルセロでもアルフォンソ・デイビスでもないんだから、問題無し!

田中と守田が中盤を制圧し、遠藤がボールを狩りまくる。
遠藤は前向きにボールを奪った後の最初のパスが必ず縦パスで一つ奥を狙っており、これぞブンデスリーガというMFに仕上がってきましたね。この試合の日本の2得点はいずれも遠藤がボールを奪った後の縦パスが起点になっています。

時にポジションをローテーションしながら阿吽の呼吸を見せる中盤3枚はモドリッチ、クロース、カゼミーロの領域に足を踏み入れつつあると言ったら言い過ぎでしょうか?

とにかくこの中盤3枚は現在の森保JAPANの核として機能しており、不動のトリオとして外せないユニットになってきました。


サウジの怪しいSBと違い、攻守で完璧なプレーを披露したSBの酒井。
「戦術伊東」と言わしめるほどの存在感を見せつつある伊東。
吉田、富安という守備の格を欠きながらも、危なげないプレーで無失点に抑えた谷口、板倉の急造CBコンビ。

サウジは怪我で欠場の主力ポジションに代わりに出場した選手が大きくチームのクオリティを落としていたのとは対照的に、日本はベンチも含めた選手層の厚さが際立っていました。
日本とサウジの選手個々のクオリティを見れば、一つ一つのプレーの精度の差は明らかです。

最終予選とは序盤は勢いで勝ち点を稼げても終盤戦ともなれば代表の総合力が問われる戦いになります。
だからこそ、日本の予選突破は最初から疑っていません。問題はその先にあります。

「戦術伊東」でフランスやブラジル代表のSBを果たしてこの日のサウジのようにぶち抜けるでしょうか?

守備のゲームプランを試合が始まってから組み立てているようでは、前半の内に致命的な失点を喫するリスクがないでしょうか?


選手という素材は間違いなく上質なものが揃い始めているにも関わらず、これを適切に調理出来る料理人が不在なだけでなく、使っている調理器具と厨房が20年前の時代錯誤な代物という日本サッカーの歪み。
森保JAPANの最終予選におけるチグハグな歩みはその歪みを象徴しているかのようです。

このままなんとなく予選を通過してしまうと、またもや「課題が見つかる」W杯本大会で終わってしまいそうなデジャヴ感。

ならばいっそ・・・本大会前に大陸間プレーオフで南米5位とガチの削り合いをしておくのも良い経験になるかもしれません(笑)




【お知らせ】『店長、本出すってよ』

なんとこの度、初の著書を出させていただくことになりました。
しかも二冊同時発売です。

二冊も本書いてたら、そりゃーブログも更新出来ないよね(言い訳)


まず一冊目は自分のサッカーヲタク人生30年余りで熟成されてしまった独自の戦術論を余すことなく一冊の本にまとめさせていただきました。
目次を見ても「 「打倒ペップ」で読み解く戦術史」「マルセロ・ビエルサ ~狂気のサッカーヲタク~」「ファンタジスタとは誰のことか?」等といったラインナップで、このブログの読者なら何も言わずとも分かってくれることでしょう(笑)

そうです、そういう本です。


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⇒amazon『サッカー店長の戦術入門』





2冊目は全フォーメーションの噛み合わせを図版約500枚を使って解説するという、こっちも負けず劣らずの変態本(笑)
執筆中は毎晩戦術ボードの夢を見てうなされながら作りましたww
これからフォーメーションを理解したいという人からその筋のマニアまで幅広く読んでいただければ!

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⇒『サッカーフォーメーション図鑑』



2月15日に同時発売予定となっております!

絶賛予約受付中なので同士の皆様におかれましては読む用、保存用、布教用のハットトリックをマストにご購入下さい(笑)
よろしくお願いします。

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奇跡の価値は ~CL準決勝リバプール×バルセロナ~

リバ表紙0518
<奇跡の価値は ~CL準決勝リバプール×バルセロナ~

「奇跡」 「感動」 「アンフィールドの魔力」

ドラマティックな決着となったCL準決勝リバプール×バルセロナの一戦はCLの長い歴史の中でも今後語り継がれていくに相応しい名勝負となりました。

勿論、この試合の勝敗に「人智を超えた何か」が介在した事を完全に否定するのは難しいでしょう。
しかし、本ブログではこの試合を単なる奇跡で片付けるのではなく、あくまでそこにあったロジックを紐解く、いつも通りのアプローチでこの名勝負にも挑みたいところ。

奇跡が起こる必然性、圧倒的な優位を活かせなかったバルサの敗因とリバプールの勝因に迫りつつ、現代サッカーにおける戦術史の中でこの試合をどう位置づけるかも考察していきたいと思います。



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<奇跡を招いたバルサの構造的欠陥>

試合はキックオフから一方的にバルサ陣内でゲームが進んでいきます。
1stレグを0-3で落として後のないリバプールがスタートから激しいプレッシャーをかけてくる事は誰もが分かっていたので、問題はバルサがそれを真っ向勝負で剥がしに行くのか、リスクを冒さず受けに回るのか。
ところがバルサはリバプールの捨て身のハイプレスを前につないで剥がそうとすれば捕まり、ロングボールで回避しようとすれば簡単に回収される、実に中途半端な出方で完全に主導権をリバプールに握られてしまいました。

その流れのまま得たリバプールのCKをバルサが跳ね返したところから奇跡に到る第一歩、前半6分の先制点が生まれます。

この試合の勝敗を振り返る時、アンフィールドのサポーターに背中を押されたリバプールのプレス強度が挙げられる事に異論は無いですが、この所謂ゲーゲンプレスを支えていたのは逆説的に言えば「バルサ側のプレス」とそこから発生するこの試合が持つ構造に遠因があったと確信します。

それを象徴するリバプールの先制点の場面を見てみましょう。


【リバプールの先制点を解析】
リバ1点目0518-1
リバプールのCKが自陣まで跳ね返された後、GKアリソンを経て再びリバプールが自陣からボールをつなぎ始めたのがこのシーン。

ボールの出所に前残りだったJアルバがプレスをかけ、パスを受けるシャキリに対しては背中からブスケスが寄せる連動したプレス。



リバ1点目0518-2
パスを受けたシャキリに前を向かせる事を許さなかったバルサ。ここまではバルサのプレスの流れに問題は無し。
あとは戻ってきたファンダイクへの横パスにメッシとスアレスが挟み込む形でプレッシャーをかければボールを奪えないまでもリバプールのビルドアップ精度を大幅に削る事が出来るはず。




リバ1点目0518-3
しかしメッシは棒立ちでファンダイクを眺めるだけ。スアレスも絶賛ジョギング中。

結果的にファンダイクは完全にノープレッシャーのまま対角パスをバルサ陣内深くに蹴る事が出来ます。
せっかく高い位置までプレスをかけていたJアルバはこれが逆に仇となり、自分の背中のスペースを埋める為に急いでプレスバック。

DFが長い距離を背走させられるとボールを見ながら、つまり進行方向に背を向けながら走らされる事になるので周囲の状況を充分に認識する事が出来ません。Jアルバがイージーとも思えるバックパスをマネにかっさらわれた背景としてはファーストディフェンスとしてプレッシングのスイッチを入れに前へ出たものの、セカンドディフェンスがメッシだった為にプレスの連動がここで断ち切られ、前に出た事がリスクにしかならない状況になってしまったという側面があります。

結果的にJアルバが割を食う形となったこのリバプールの先制点にこそ、この試合が持つ構造が凝縮されていました。

プレッシング戦術はボールに対するアプローチが2つ、3つと連動しなければ、前に出て陣形を縦方向に圧縮している分、背後に蹴られた時に守備の矢印が全て引っくり返ってしまうリスクを構造上抱えています。
バルベルデのバルサが前からのプレスを捨てて、基本的にリトリートを採用しているのはこの為ですね。
つまりメッシとスアレスの2トップを守備の組織に組み込めないという特殊事情に他なりません。

しかしこの先制点の場面では試合開始から一方的にバルサが押し込まれていた事もありCKを跳ね返したボールをせっかく一度はGKアリソンにまで戻させたので、ここで一気に押し上げて陣地を取り返したい(自陣ゴール前から少しでもボールを遠ざけたい)という、DF心理としては到って真っ当な行動原理がJアルバに働いたと見ます。


では、そもそも何故バルサは一方的に押し込まれてしまっていたのか?

まずバルサの布陣は守備時、4-4-0という極めてイビツな構造になっています。
となるとリバプールはこのシーンに限らずCBのファンダイク、マティブ、そしてアンカーのファビーニョは常にフリーな状況を確保出来ていました。

キックオフからリバプールの攻撃の起点は明らかにこの3枚で、特にCBのファンダイクは得意の対角ロングフィードをノープレッシャーな状況から徹底的にバルサDFの背後に放り込んでいます。
但し、ここまではある意味、バルサ側(バルベルデ)も割り切って受け入れた試合構造。
これを回避したければCBに対して最低限のファーストプレスが必要なので、今季のバルサは敵陣でのボール回収を諦め、回収地点を自陣深くに設定→ここからのロングカウンターからスアレスとメッシの個の暴力で相手の骨を断つ、というチーム構造になっていました。


確かに、持ち駒で圧倒的な優位性を持つ国内リーグであれば、これは充分収支で採算が取れる戦術です。
バルサは別に4-4の8人で守ってようがDFラインを低く設定し、背後のスペースさえ消していればピケらCBの個人能力で最後は守れる計算が立ちます。仮にそこを突破されようとその後ろにはテアシュテーゲン神が控えていますしね。



しかし相手がリバプールクラスになってくると話はそれほど単純には進みません。
まずファンダイクのロングフィードは正確無比の精度を誇り、マネやシャキリのフィジカルモンスター相手に常にヨーイドンで競り合わなければならないバルサのSBは災難だった事でしょう。
なんせJアルバやSロベルトは自由に蹴れる状況のボールに対し、背走しながら、ボールとマークの同一視が出来ない状態(相手WGは常に自分の背後を取ろうと走っている)でシャトルランを繰り返し強要される状況ですからね。

一方、このボールをヨーイドンで走り出すマネやシャキリは前向きのまま、ボールと自分をマークするDFとを自然な身体の向きで同一視したまま、自分のタイミングで走り出せば良いだけです。
だからこそ現代サッカーではファーストライン(前線)がこのボールの出所に何らかの制限(パスコースを限定する、ボールホルダーの時間を制限するetc)を与えないとズルズルと押し込まれる事になる訳ですが・・・。なんせバルサの布陣は現代サッカーではアブノーマル過ぎる4-4-0。


この構造こそが、リバプールの、否クロップサッカーの強みを最大限に発揮させる下地となっていました。
何故ならクロップのサッカーは攻撃も守備も常に「前向き」に矢印が出ている時、その推進力を最大限に発揮出来るからです。

バルサ側のファーストプレスが皆無だった事で、リバプールは常に前向きにロングボールを蹴れる⇒バルサは常に後ろ向きに走らされる事から守備も攻撃も始まる⇒リバプールはこのロングボールがマイボールになろうとバルサボールになろうと構う事はなく、ただひたすら前向きに次のプレスをかければいいだけ


これほどゲーゲンプレスを行うに恰好な状況が果たして他にあるでしょうか?


当然の帰結としてリバプールの2点目も、基本的にはこれと同じ構造で生まれています。

【リバプールの2点目】
リバ2点目0518-1
局面はSBアーノルドに対し、バルサはボールサイドのコウチーニョを基準にディアゴナーレのL字ラインを形成。
しかしここでも本来アンカーに蓋をすべきFWのメッシが独自の立ち位置(笑)にいる為、ファビーニョはフリー。
バルサは4-4の中盤ラインが守備のファーストラインになるのでかなり苦しい状況である事がよく分かる局面と言える。






リバ2点目0518-2
ファビーニョに対してはブスケスが出て行く形に。
と同時にラキティッチは横スライドしながら絞ってカバー







リバ2点目0518-3
ボールは逆サイドのミルナーまで振られるとバルサの中盤ラインは全体がピッチの横幅68Mをスライドさせられるハメに。
ここまでボールの出所に全くプレッシャーがかかる事なくサイドを変えられている







リバ2点目0518-4
次の横パスに対しては再びブスケスがチャレンジ、ラキティッチがカバー
相変わらずファビーニョはずっとフリー。バルサはどこでボールを奪うのか守備の基準点が定まらない。








リバ2点目0518-6
メッシが蓋をしないファビーニョには仕方なくラキティッチが遅れて出て行く事になるが、ボランチの2枚がチャレンジ&チャレンジという極めてイビツな守備になっている。
ボールは上がってきたSBアーノルドにもう一度振られる事に








リバ2点目0518-7
アーノルドにはコウチーニョが出て行く事になるのでバイタルを埋めるのはボールにチャレンジしたばかりのラキティッチ




リバ2点目0518-7-2
ラキティッチがきっちりスライドした事でここでボールを回収






リバ2点目0518-8-2
ハイ、問題のシーン

ここで回収したボールをJアルバに預けた横パスを掻っ攫われて失点。
失点につながったのはボールを回収したラキティッチの身体の向きで、リバプールのプレスをモロに受ける方向でプレーしてしまった事が痛恨でした。







リバ2点目0518-8-3
無論、正しくは逆サイドに身体を開いてプレーする事で、その向きならば隣のブスケスと一つ奥でフリーのメッシに展開出来ていた場面。

しかし・・・・である。


ラキティッチがここでボールを回収するまでの流れを巻き戻して考えてみましょう。
①ボールサイドのカバー⇒②ブスケスのチャレンジに対するカバー⇒③サイドを変えられて横スライド⇒④再びブスケスのカバー⇒⑤メッシの代わりにファビーニョに寄せる⇒⑥サイドを変えられて横スライドしながらカバー⇒ボールを回収

右から左、左から右へと振られながら3回、身体の向きを変えさせられている。
同じ守備でもボールを主導的に追い込んでいるのと、相手に自由に動かされてリアクションで走らされているのとでは奪った瞬間の余裕、ポジショニング、全体のバランスは大きく変わってきます。
やっとの事でボールを回収したラキテッチにこの時、周囲の状況に対する認知と余裕はほとんど無かったはず。
これも1点目と同様、人一倍ハードワークした選手(ラキティッチ)の余裕の無さがゲーゲンプレスの餌食にされた恰好と言えるでしょう。





仮に・・・・もし仮に、ここでボールを回収したのが極東に放牧させたあの男であったなら・・・・

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この位置でのボールロストは有りえなかったはずですが、そもそもこのポジションがイニエスタであったら今度はラキティッチと同様のハードーワークが出来ず、結果ボールを回収出来てはいないというジレンマ。

このジレンマこそバルベルが率いるバルサの本質である、と確信します。



<質を確保する為に量で担保する>
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バルベルデのバルサが苦しいのは、このメッシ+スアレスの「質」を確保する為に、他のパーツで量を担保するというその構成にあります。

第一の被害者はリバプールから鳴り物入りで獲得したコウチーニョでしょう。
元来、通常のチームであればメッシやスアレス側にいるはずのこの王様が彼らの分の量を補う便利役で使われている配役にまず無理があると思います。

過去、この役割を背負わされた選手は肉体的にも精神的にも疲弊し、やがてクラブを後にする命運を辿ってきました。
バルサで前任者でもあるネイマールは、再び王様へと返り咲くためにPSGへ移籍し、今では「パリの王様」を謳歌しています。
マドリーでこの役割を担わされてきたベイルは不満を露に移籍寸前という状態。


バルサでコウチーニョのパフォーマンスが批判の対象になるのは分からないではないですが、あのポジションで使うなら他の選手を獲って来るべきだったのではないでしょうか。
(個人的には「戦術コウチーニョ」が可能な中堅クラブで輝く彼のプレーが見たいものです)


第二に4-4の2ラインで守るアブノーマルなシステムを機能させる為に、中盤も質より「量」を重視した構成にならざるを得ないという悩みです。

本来、「バルセロナの中盤」という選手像から最も合致するはずのアルトゥールがこの大一番でベンチに座り、代わりにピッチではビダルが獣のように泥だらけになっている姿がその象徴とも言えるのではないでしょうか。


しかし、メッシ+スアレスを起用する為のビダル抜擢が、この試合その2人の存在感を消す一因になっていたというのは皮肉という他ありません。



【メッシが消える中盤ビダルの弊害】
ビダル0518-1
局面はバルサの中盤での組み立ての場面で、ビダルにボールが入る瞬間。
脇にメッシが得意のポジションで控えており、ビダルは前向きにボールを受けて預けるだけの簡単なお仕事です





ビダル0518-2
・・・が、しかし。ビダルは身体の向きを変えられず、そのままの姿勢でバックパス






ビダル0518-3
1本バックパスを挟んだ事でその間にリバプールのスライドが間に合って、メッシへのパスコースは死に筋に






ビダル0518-4
その後、待っていてもボールが出てこないメッシが我慢出来ずに中盤の低い位置まで降りてくる悪循環へ。
代わりにビダルが本来メッシが受けて欲しいスペースにいるというこのアンバランスさである





結局バルベルデは0-3になってから慌てて中盤の優位性を取り戻そうとSロベルトを中盤に上げる+ビダルを下げてアルトゥール投入という後手後手の采配。

しかし今の攻守分業、質より量で勝ってきたバルサがいまさら中盤の優位性で勝負に出ようとしても中途半端感は否めません。
その象徴とも言えるシーンがリバプールの勝利を決定づけた4点目のCKにつながるバルサのボールの失い方に現れています。


【リバプールの4点目につながるバルサのボールロストを検証】
アルトゥ0518-1
後半、バルサに必要だったのはクロップによって極限までハイテンポに上がったゲームのリズムを一旦落ち着かせる事。
この場面ではリバプールのファーストラインから鬼プレスを受けているDFラインを助ける為にアルトゥールが落ちて数的優位と時間を作り出しました。
加えてブスケスを消そうと相手が食い付くなら、脇のスペースを使えるSロベルトという3人が有機的に連鎖した配置。
これぞ我々が知っている”本来のバルセロナの姿”です



アルトゥ0518-2
Sロベルトの間受け成功(この試合、一体バルサは何回の間受けを成功させたのか・・・記憶に薄い)

あとはここにメッシ+SBが絡んで、後ろで作った優位性を前線まで運ぶだけ!






アルトゥ0518-3
ところが一度狂ったバルサのイビツな構成はとてもじゃないですが、0-3の試合状況から中盤の優位性を取り戻せる状態ではありませんでした。

もはや大外を取り囲むラインの「間」にポジションを取っているのはブスケスとSロベルトのみという、
一体どこのモイーズが指揮しているのか!?状態の配置。

この配置に一体いくつのトライアングルが描けるというのか?(ファンハール先生も激おこ)
天国のクライフにセメドが延々クロス60本を上げるファイトボールを見せる気か?

勿論、この後中央で孤立したSロベルトがリバプールのボール狩りの餌食にされたのは言うまでもありません。
ここからカウンターを食らい、その流れのCKからしょーもない失点が生まれ、それが勝負を決めたのです。
(きっとクライフ先生からの天誅)



<量で質を凌駕するクロップのロック魂>
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本ブログではバルサやマドリーの守備構造を常々「貴族守備」と評してきましたが、それと比べるとクロップのリバプールはまさに「炭鉱の労働者」で固めたような勤勉さとハードワーク、そして魂が感じられます。

唯一リバプールで特権に近い役割が与えられていたのがサラーでしたが、元々の構造がバルサとは違うので、この大一番でサラーとフィルミーノという「質」を欠く状態に陥ってもリバプールは4点取って逆転出来うる下地を持っていました。
反対にバルサがこの状態からメッシとスアレスを欠いていたとしたら100%逆転の芽は無かったと言えるでしょう。

両チームの10番を背負った選手のプレーにこの試合の全てが集約されています。


【後半ロスタイムの赤の10番】
マネ0517-1
時間は後半ロスタイム。もはやリバプールの攻め手は前線のターゲット、オリギめがけて放り込むのみという、どこぞのイニエスタが今極東で味わっている絶望のような光景(勿論4-0で勝っているので当然)

しかし、この神頼みのようなロングボールにですら、もしこぼれてきた時のワンチャンを律儀に狙い続ける10番マネの姿がその傍らに必ずありました。
この走り続ける10番の姿勢こそが、Jアルバを疲弊させ、ラキティッチの判断を誤らせ、ひいてはリバプールの大逆転を生んだのです。



マネ0517-2
GKのテアシュテーゲンの手にボールが収まった瞬間には、何事も無かったように守備へ戻る10番の姿が
これも90分繰り返されたプレーです





マネ0517-3
そのまま自陣DFラインまで吸収されて、大外のJアルバをケア。
DFラインがこの地味なカバーにどれだけ助けられた事か、想像に難くないでしょう。




マネ0517-4
リードしているチームの終盤守備固めに有りがちなのがこのままズルズルと下がって人数だけはゴール前にかけて、何故かやられるというフットボールの不条理パターンですね。
しかし、あくまでも受け身で守備をしなクロップのチームにあって、チャンスと見ればこの横パスにGO!をかけるマネ




マネ0517-5
そしてこの寄せのスピードよ。ブスケスがファーストタッチする瞬間にはもう背中にマネの息づかいを感じるこのアプローチ





マネ0517-6
更に奪った瞬間にはカウンターの先陣を切り・・・・







マネ0517-7
気付けばもうゴール前!!


スタンド観戦のポジェッティーノ
『すでに試合は90分を回ったというのに、まるで今始まったかのようなあの動き・・・・あの赤の10番は脅威!』


一方、キックオフからすでに後半90分のような運動量だったバルサの10番。
果たしてどちらの10番が”世界ナンバーワンの10番”と言えるのか?

そこに誰も明確な答えが出せないところにフットボールの奥深さがあるとは思いませんか-




<停滞していた現代フットボールの戦術史が動き出す予感>

近代表紙

ここ5シーズン、チャンピオンズリーグのタイトルはBBCやMSNといった、組織よりも個の質にものを言わせて殴り勝って来た王者達によって独占されていました。


「選手こそが戦術」

勿論、それもフットボールが持つ紛れもない一面ではありますが、そういう意味で個人的には近代戦術史に若干の停滞感を感じていたというのが本音のところでした。
攻守分業、貴族守備のチームが札束で殴り合う最高峰の舞台に。

しかし、今季のチャンピオンズリーグではその潮目に変化の兆しが見られます。
強者必衰、スペインの貴族チームに「それで勝てる時代は終わった」という痛烈なカウンターパンチを浴びせた挑戦者達による頂上決戦。

ハードワークをベースに戦術的な幅と深みを持ったチームが今季のファイナリストに顔を揃えました。

俊英アヤックスの躍進は「札束から育成への原点回帰」というアンチテーゼなのか?

迷えるバルサは「クラブの哲学」を見直す転換期を迎えているのか?


現代サッカーの戦術史にとって節目となりそうな予感が漂っている。


















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テーマ : 欧州サッカー全般
ジャンル : スポーツ

『愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶ』~日本×カタール~

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<愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ ~日本×カタール~

西野JAPANのロシアW杯ベスト16を引き継ぐ形で発足した森保JAPAN。
昨年のテストマッチでは南米の強豪ウルグアイを破る快進撃を見せ、アジア杯決勝を迎えるまで目下無敗という成績。
このカタール戦を迎えるまで、森保JAPANには追い風しか吹いていなかったはずが、たった1つの敗戦で今や空気は一変してしまいました。

それぐらい、衝撃的な完敗劇だったと言えるのではないでしょうか。

しかし今大会の勝ち上がりを見ても森保JAPANの強さはアジアでは際立っていたはずでした。
「絶対に先に失点しない」という森保監督の強い哲学が感じられるゲーム運びは、今大会で台頭した「日本の未来」こと冨安を中心にしたDFラインの安定感と5-4-1の撤退も辞さない「人海戦術の守備」が鉄壁を誇っています。

象徴的な勝ち方であったサウジ戦では脅威のボール支配率23%で1-0の勝利。
「ボールなどいらない、欲しいのは結果のみ」という割り切りが真骨頂のチームであり、確かにアジアでは日本が組織的に我慢比べを挑めば、必ず先に根を上げるのは相手チームの方です。
大会優勝最有力と見られていたイランも日本の我慢比べに根負けして結局自滅していました。

勿論、これが通用するのはアジアまでです。
日本サッカー界はW杯後の4年間で毎度アジアでイキって調子に乗り⇒世界に出て叩かれるのサイクルを繰り返してきた歴史があります。

だからこそ、このアジア杯では日本が優勝候補であり続けられる訳ですし、それは大会前から分かっていた事でした。
しかし、このアジアで欧州や南米の一線級を相手にした時のような完敗を喫したとなればこれは一大事です。
この一敗は前回大会でシュート37本を打ちながらPK負けしたベスト8の"アレ"とは全く別次元のものとして扱うべきでしょう。

ではせめてこの歴史的な一敗という「経験」から我々も最大限学べるよう、敗因を分析しながら試合を振り返っていきたいと思います。



<恐るべきカタールのポジショナルサッカー>
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日本の最大の敗因、それはカタールがこれまでのアジア諸国には見られなかった緻密なサッカーで日本を完全攻略してきたからでした。
この試合、これまでの日本の勝ちあがり方をスカウティングしたカタールは3-5-2の布陣を選択。
具体的な狙いは両チームの布陣の噛み合わせを見れば明らかです。

【日本×カタール 両チームの布陣噛み合わせ】
日本カタール2

後ろから丁寧にボールをつなぐカタールはビルドアップの始点で日本の2トップに対し3対2の数的優位。
加えて1・5列目をウロウロしているFW11番のアフィフがこのチームにおけるメッシ役で、機を見て中盤に降りてくるので中央エリアでは日本の2ボランチ×カタールの3MF+1FWという絶対的な優位性を築いています。

では実際の試合序盤のシーンからカタールの狙いと日本の噛み合っていない守備を検証していきましょう。


【カタールの4-4-2殺し】
カタールポジショナル1
カタールの3バックから始まるビルドアップに対し、日本は2トップで規制をかけようとしていますが、ここではカタールがCHまで加わって4対2の鳥カゴ状態になっているのがよく分かります。




カタールポジショナル2
3バックに規制がかからないので、間を通されてボールはCHへ。
このCHに柴崎が出て行くと、もう1枚のボランチ塩谷は前線から落ちてきたFWアフィフをケアするのでハーフスペースに落ちてきているIH(インサイドハーフ)が完全に浮いてしまいます。
しかも日本のDFラインはカタールの1トップ+WBでピン止めされているので、この落ちていくIHを捕まえられる選手は誰もいません。

3バックで2トップのファーストラインを剥がし、CHでセカンドラインのボランチ(柴崎)を食い付かせたら次はハーフスペースへ、という具合に日本の守備ラインを1列づつ剥がしていく狙いがカタールの配置に集約されていると言っていいでしょう。


そしてこれがいわゆるオーソドックスな配置の優位性を活かした4-4-2殺し、ポジショナルプレーの系譜です。

吉田麻也
『ボランチの脇で11番を誰が掴むのか。1点目も2点目もそこを起点にされて失点している。そこでの臨機応変さが足りなかった』




-3バックに対して2トップで守備をしていたらハマらない-


ならばSHを加勢させたらどうか…?


この安易な対応こそがカタールの罠であり、結果的に日本は2失点という重過ぎるしっぺ返しをくらう事になろうとは-



【日本の失点シーン検証】
カタール得点1-1
続いてもまたカタールの3バックから始まるビルドアップに対し、2トップ+SHの原口が加勢して3対3のプレスを敢行




カタール得点1-2
しかし、この時の原口の寄せる意識は完全に「人(CB)」に向いており、背中にいる敵と自分の内側のパスコースを切る意識が皆無と言って良いレベルで低いと言わざるを得ない。

ポジショナルプレーとはすなわち相手の出方を見た後での「後出しジャンケン」なので、カタールのCBは原口のこの寄せを見て隣のCBではなくハーフスペースへのクサビを選択




カタール得点1-3
やはりこの原口の寄せ方だとこのコースを通されてしまう。
守る側である日本からすると、このハーフスペースにクサビを入れられてしまうと一気に苦しい状態に追い込まれてしまうのだが・・・




カタール得点1-4
それは何故か?と言えば、中を通された場合、守備ブロックは一度中央に収縮させざるを得ない。
カタールはここでもそんな日本の動きを見た「後出しジャンケン」で今度は空いたサイドのスペースへ流れたアフィフへサイドチェンジ。
(この11番アフィフは本当に厄介な選手で、常に日本の陣形の動きを見た後で「空いたスペース」を察知し、そこへ顔を出す)





カタール得点1-5
上空からのアングルで見ても明らかな通り、中に絞った日本の守備ブロックと、サイドに空いたスペースが一目瞭然。
これだけスペースのあるサイドにボールを展開されたら守備側は後退するしか手は無い。







カタール得点1-6
↑はアフィフがサイドでボールを受けた後のシーンです。
カタールは次のクロスに備えて、FW+IHの2枚がゴール前に走り込もうとしていますが、そのポジション取りに注目。
きちんと5レーンにおけるハーフスペースのレーンをIHが走っています。
中の3枚が全員、日本のDFとDFの間のコースを取っている事にカタールの完成度が垣間見えます。
(明らかにこれまで対戦した中東の「前線個人頼みサッカー」とは一線を画している)






カタール得点1-8
で、実際にクロスが中央のFWに入った瞬間ですが、結果的にこの後、オーバーヘッドを選択してゴールにつながるこのシーン。
ゴールを決めたFWの両脇をIHがサポートに走り込んでおり、クロスが入った時点でカタールにはいくつもの選択肢があった事が分かります。
攻撃の確率とはいかに多くの選択肢を用意するかなので、この状況を作った事が既にカタールの勝利であり、
このゴールは結果的にその選択肢の中から自分でオーバーヘッドという選択を取ったに過ぎない。



そして続くカタールの2点目も全く同じ構図から生まれています。



【カタールの2点目を検証】
カタール得点2-1
このシーンでは左SHの原口と右SHの堂安がポジションを入れ替わって守備をしていますが、人が変わっても全く同じ状況が生まれている事にご注目。
ここでも3バックの右CBに堂安が寄せるが、やはり意識はあくまで「人(CB)]であり、背中にいる敵と自身の内側のコースを切る意識が希薄になっています。

↑このシーンを見て「堂安じゃなくて、ボランチの塩谷がこのコースを切ったら良いのでは?」と思う人もいるかもしれません。
しかし、もしボールに充分なプレッシャーがかかっていないこの状況でボランチの塩谷が堂安の背後をケアするポジションを取った場合、一体何が起こるのか?




カタール得点2-2
仮に塩谷のポジションが堂安の背後寄りにスライドしていたら、一番肝心な中央のFWへのクサビルートがポッカリと空いてしまいます。
そもそもボランチはこの一番打ち込まれたくないコースとスペースを消すのが役目なので、ここを空けてしまったら本末転倒。
故に、だからこそハーフスペースというのは現代サッカーにおいて有効と言える訳ですね。






カタール得点2-3
結果的に1失点目と全く同じパスコースを通されてしまう日本。
こうなると守備側は自陣ゴール前まで撤退あるのみ






カタール得点2-4
しかーし!自陣で4×4のブロックを形成しても、やはり堂安の中を閉める意識が低過ぎてバイタルへのコースがガラ空きやー!






カタール得点2-5
ここを通されてしまうと、CBの吉田と冨安はまず失点の確率を減らす為、DFライン背後のスペースを消す後退の一択しかない。
(もしここにスルーパスが出たらそれこそ致命傷)








カタール得点2-6
故にドリブルで中に切り込まれてそのままシュートを打たれるこの場面でも、一度背後をケアした分、CB吉田の対応が1歩遅れて寄せきれず⇒シュートコースが消しきれなかったというロジックですね。

TVの前で思わず「何で吉田、寄せんねん!」と思ってしまった方は、あの瞬間CBがボールに食い付いて、背後にスルーパス出された時には文句を言えないのでご注意下さい(笑)





<後手に回り続けた日本の対応>
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気付けば前半26分でスコアはまさかの0-2。
その原因ともなったこれまでの日本の守備の問題点をまとめてみましょう。

・3バックにされた事で2トップ×3バックだとプレスがハマらない
・空いたCBからCHを使われて、ボランチが出て行くと今度はハーフスペースにいるIHが浮いてしまう
・かと言ってSHを2トップに加勢させて3バックに「3対3」の同数でプレスに行くと中を通されて、これまたハーフスペースを使われる


うーん・・・こう書き出すとまさに八方塞りですね(^^;
つまり、これが「人」に付くだけの守備の限界であり、だからこそ4-4-2ではSHが守備の戦術インテリジェンスが低い場合、スコスコにやられるっていう良い一例なんですけどね。

3バックに対して4-4-2で守る場合、SHが内側のコースを背中で消しながらCBに出て行くという「1人で2人を見る守備」が出来ないと簡単に中を通されてしまいます。
この「1人で2人を消す守備」が日本で最も得意なSHは乾なんですが、その乾もスペインに渡ってからこのポジショニングを叩き込まれたので現状、日本の育成でこの守備は実装出来ていません。

ちなみに乾はエイバル時代のメンディリバル監督から「CBとボランチとSBの3枚を1人で見ろ!」と言われており、「1人で3枚を消す守備」を要求されていたというんですから、世界のトップはげに恐ろしき。
(具体的な方法は背中でボランチを消しながらCBを牽制し、SBに出されたら一気にスライドする、という頭脳とハードワークを兼ね備えた極めて高レベルのプレーでした)

そんな乾だけに試合後のコメントは悔しさが滲み出ています。

乾『2トップで3バックを見ていた。それだと絶対に(プレスは)はまらない。気づいていたのに言えなかった』



それにしても日本ベンチの対応は一体どうなっているのか?
0-2とされた後の日本ベンチが抜かれた画を見て、戦慄が走ります-

森保前半28分
まだ監督とコーチが対応を話し合っている・・・だと?

この試合、キックオフから5分もすればカタールの布陣とその狙い、そして4-4-2との噛み合わせの悪さは一目瞭然だったはず。であるならば遅くとも前半10分~15分までにはベンチから修正の一手が打たれるのはCLなどのトップレベルのサッカーでは当たり前の光景です。
それをもう前半も30分になろうかというこの時間帯でまだ対応策を決めかねている・・・というのでは現代サッカーでは致命的とも言える遅さ。

実際にそうこうしている内にスコアは0-2になってしまった訳ですから、勝敗の8割はこの前半30分までに決まってしまったと言っても過言ではないでしょう。


この後、ベンチの森保監督がタッチライン際に大迫を呼んで前線の守備を修正したのは前半35分の事。
森保前半35分

「どう修正してくるかな?」と注目して試合を見ていましたが、この修正が実際にピッチ上で具現化されたと思われる前半45分のシーンがコチラ↓


【前線の守備を修正】日本修正(前半44分)
カタールの3バックに対してはパスが出てからSHが出て行く形だと先ほどのように中を通されてしまうので、あらかじめ堂安、原口のSHを上げて大迫とマンツー気味の3トップを形成。
CHにトップ下の南野がマンツーマンで付いて、IHの2枚を2ボランチ(柴崎+塩谷)で、WBにはSBを押し出して、逆サイドのWBを捨てる事で最終ラインの「+1」を確保。

やはり「守備=人に付く」意識が強い日本の修正はどこまでいってもマンツー寄りではありましたが、こうする事でようやく守備に安定感が生まれ、前で引っかけるシーンも出てきました。


・・・しかし、時間はもう前半45分を過ぎたロスタイム。
あまりにも遅すぎた修正であり、終始後手に回り続けたこの試合を象徴するようなシーンでした。



<カタールのゾーンを主体とした守備>

一方、カタールは守備もポジショナルディフェンスと言うか、あくまで人ではなくボールとゾーンを主体にした見事な配置を見せていました。


【カタールの守備を検証】
守備カタール4
↑は守備時WBを下げて5-3-2で守るカタールの守備ブロックの図

2トップが縦関係で、中盤の3枚がボールサイドからL字型に綺麗なディアゴナーレ(チャレンジとカバー)を形成しているのが分かります。
カタールの守備は1人が1人に付く、というものではなく、ボールと味方を基準にしているのでこの時の各選手の果たしている守備の役割を可視化させると以下のようになります↓


守備カタール3
まず前線の大迫は3CBがいるので、大迫がどう動こうと3対1の完全数的優位で対応出来るので問題無し。
縦関係の2トップは1・5列目に入る11番のアフィフが背中でボランチ(柴崎)を消しています。
そしてボールホルダーのSB酒井にはIHが寄せますが、ナナメのコースを切りながら中から寄せるので結果としてボールに寄せながら背中にいる堂安も消せているので「1人で2人を」見れています。
そしてこのIHとディアゴナーレを組むCHは、あくまで味方のIHの位置を基準にナナメ後方に位置取る事で「相手(堂安)」に付くのではなくスペースを消しながら結果として目の前にいる堂安を見つつ、背中でトップ下の南野を消せているのでこれまた「1人で2人」を見れてしまいます。

このようにゾーンベースの守備はあくまでボールと味方を基準とした位置を取り、その結果として間のスペースに立っている敵(人)を消してしまう・・・という守り方です。

この守り方の利点は以下の通り
・人を前に置くのではなく、自分が前で背中で消しているのでパスが出てから寄せるのではなく、パスコース自体を消せている
・守備がリアクションではないので相手にどう動かれても陣形のバランスが崩れにくい
・SBが上がったらどこまでも付いて行く原口・・・というような属人的な過負荷が無いので運動量を節約出来る

そして最大の利点は「ボールを奪った瞬間にカウンターで優位性が持てる点」です。


【背中で消す守備の利点=カウンターの優位性】
カタール守備ゾーン1
↑はカタールのゾーン守備の優位性が明らかになったワンシーン。
まずカタールは縦関係の2トップがディアゴナーレを組む事で2枚で日本の2CB+ボランチ(柴崎)を消せているのが分かるかと思います。
3バックのカタールに3枚をマンツーでブチ当てないと守れない日本とはまず守備の始点で違いが明らか。





カタール守備ゾーン2
カタールはここでもボールと味方を基準にディアゴナーレを組むのでFWもCHも背中でコースを消せている状態。
追い込まれた吉田はグラウンダーのパスだと全てカットされるので浮き玉のロングボールを前線に蹴るぐらいしか選択肢が無い






カタール守備ゾーン3
まんまとロングボールを「蹴らされた」吉田だが、ここは逆サイドのIHが絞ってカバーしていたので難なく処理。
そしてこのボールを跳ね返す瞬間に、マークを自分の「前」ではなく「後ろに置いていた」事の利点が明らかに。
カタールはこのボールを前線に跳ね返せば、攻撃と守備の⇒が入れ替わるのでボランチ(柴崎)の背後でFWがフリーで前を向ける状態に





カタール守備ゾーン4
ハイ!出たこの形。2CBに2トップで向かって行ける極めて危険なカウンター。
日本は自陣から何でもないロングボールを一発蹴っただけで、跳ね返されたらもうこの状態である。


これが攻撃と守備を分けて考えるのではなく、連動したものとして
奪った瞬間のカウンターを想定した配置で守る、という考え方ですね。

これ即ち、ポジショナルプレーなり



<両指揮官の修正力の差が明暗を分ける>
20190202_6984.jpg

カタールから見れば前半を終えて2-0。あとは安全運転で後半を乗り切れば問題は無いだろう。
という事でハーフタイムにカタールのサンチェス監督は5-4-1へ布陣を変更して守備を固める一手を打ちます。
しかし、これは結果的に日本に息を吹き返すチャンスを与える悪手でした。


【5-4-1にしたカタール】カタール5-4守備1

日本は前半、ボランチもSHも上手くゾーンの中に取り込まれてパスコースを消されてしまい、結果的にCBやSBから長いアバウトなタテパスを入れるしか攻撃の手が無かったのですが、後半のカタールが5-4-1で撤退を選択した為に、前半ほとんど前を向いてボールを持てなかったボランチ、とりわけ柴崎がフリーで前を向けるようになったのは救いでした。

日本はボランチがボールを持てるようになるとSBが上がる時間を作れるようになり、攻撃に「幅」と「厚み」が生まれます。
更にこの状態でボールを持った柴崎はこの身体の向きから・・・・





カタール5-4守備2
このコースにタテパスを刺せるから!

柴崎はこういうオープンな姿勢からサイドに出すと見せて相手DFを動かし⇒厳しいコ-スにタテパスを通すのが真骨頂。
ちなみに4年前の前回大会でも、この形から日本のゴールが生まれていたのを憶えていますか?


【4年前のアジア杯ゴールシーン】
前回アジア杯
この身体の向きからバイタルで待つ本田にタテパスを通してゴールの起点を作っていました。

つまり、柴崎が前を向ける、というのは日本のバロメーターでもある訳です。
(以前は遠藤ヤットがこの役割)


実際に試合では5-4-1で撤退するカタールに対し、日本がボランチを中心に一方的にボールを支配する時間が続きます。
これを見てカタールのサンチェス監督は自身の一手が悪手だった事に気付き、すぐさま動きます。


カタール352修正1
後半15分、すぐさま選手交代で布陣を5-4-1から前半の5-3-2へ戻してきました。
やはりこの15分というベンチの反応時間が世界のスタンダードと言えるのではないでしょうか。
(前半、35分まで動けなかった森保監督と後半15分で動いてきたサンチェス監督)



カタール352修正
後半15分、カタールの守備陣形が5-3-2に戻っているのが分かります。


これで再び試合は拮抗するかに思われましたが、カタールはもう1つディスアドバンテージを抱えていました。
それは「中2日」という日程面での不利であり、後半20分過ぎからじょじょに足が止まっていきます。

この間隙を突いて生まれたのが日本の得点でした。



【日本の得点シーンを検証】
0203日本得点1-1
↑は後半23分のシーンですが、日本がSBからSBへUの字に横パスをつなぐと、特に中盤3枚で横幅68Mを横スライドするIHに明らかに疲れが見えて日本のSBへの寄せが甘くなっています。

これで余裕を持って前線を見れるSB酒井から、後半途中投入された武藤の裏抜けへ。
前半と違ってボールにプレッシャーがかからず、ナナメのコースも切れてないカタールは背走するしかない




0203日本得点1-2
前半、ほとんど入らなかったFWへのクサビが入るようになり、日本はカタール陣内で試合を運べるようになりました。
↑このシーンでもこの後、武藤はボールを奪われてしまうのですが、敵陣深くから守備をスタート出来るので・・・








0203日本得点1-3
奪った後の二次攻撃も敵陣深くからスタート。
SBも高い位置を取っているので、これを拾った酒井がカットイン






0203日本得点1-4
この流れから塩谷がタテパスを入れて南野が待望のゴール、という流れ。

勿論、日本からすると待望のゴールだった訳ですが、このシーンをよく見てみると前線4枚+両SBにボランチまで加勢して、まさに「神風特攻オフェンス」のごとき。後ろには2CBしか残っていません。

つまり森保JAPANとは先に先制してしまえば後は5-4-1の「人海戦術」で守って逃げ切るか、
このようにビハインドを追って攻めに出る時も2-2-6の「人海戦術」で特攻するしかないという、どこまで行っても「人を増やす事」でしか攻撃も守備も出来ないチームと言えるのではないでしょうか?


さて、この嫌な時間帯に1点差に追いつかれたカタールのサンチェス監督。
これがもし立場が逆であったなら日本は「これは追いつかれる流れ」「だから2-0は危険なスコアだとあれほど…」「とにかくアフロが出て来たら気を付けろ」とパニックになるところでしたが、日本の同点弾が戦術的なロジックではなく単なる「全員攻撃の特攻」による産物に過ぎない事を見抜いていました。



カタール後半修正
失点後、すぐさまMF(カリム)を呼び寄せて指示を与えるカタールベンチの動き。
IHに投入する事で、まず守備では疲れの見える横スライドの遅れ問題を解消するのがこの交代による狙いの1点。

そしてもう1点、日本が2CBを残して全員攻撃状態であるならば、狙うは勿論カウンター。
その時に2トップに+もう1枚、攻撃に上がって来れる元気なIHがいる事でカウンターの厚みを増し、得点率を高めたい。
これが失点の瞬間にカタールのサンチェス監督が描いたであろう青写真だったと見ます。


そして実際にこの交代から6分後に試合を決めるカタールの3点目が生まれます。



【カタールの3点目を検証】
カタール得点3-1
1点差に追い上げて、なおもイケイケ状態の日本。
当然両SBを前線に上げて、人海戦術の特攻攻撃継続中。

しかしここからボールを失ってしまうと・・・・






カタール得点3-2
ハイ、お馴染みのパターン!

これだけ広大なスペースでFWに前を向かれた状態になったら吉田は無力。
ズルズルと自陣ゴール前まで後退するしか術がありません。

そしてこれを見た途中投入のIH(カリム)が全速力で上がって来ます。






カタール得点3-3
局面はカタール2トップ+IHの3枚×日本の2CB+2ボランチの4枚。
IHのカリムが攻撃に厚みを加えていると言っても日本から見れば「4対3」
これは充分守れるはず・・・・










カタール得点3-4
・・・が、こういう広いスペースでのデュエルで攻撃のスピードを止められないのがジョルジーニョタイプに属する柴崎のウィークポイント。(スペインで使われない理由の一つ)

隣にカンテかせめて遠藤航がいるならまだしも、プレー半径の狭い塩谷が相棒ではカバーも間に合わず。
加えて吉田は背後にカリムがいるのでボールへ行くのはどうしても遅れる事に。(カリム投入の狙いがここで活きている)

結局このままシュートを打たれ、何とか足に当てて枠を外させたものの、これで与えたCKから吉田が痛恨のハンドでジ・エンド。


試合を振り返ってみると事前のスカウティングから試合中の修正に到るまで、森保監督とサンチェス監督の差が一つの勝敗の分れ目となった感は否めないのではないでしょうか。



<経験からも学べない愚者に未来は無い>
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その国のサッカーを強くするには一体何をしたら良いのか?

賢者は歴史から学ぼう。

フランスは1988年、国立の育成機関としてかの有名なクレーヌフォンテーヌ国立研究所を設立⇒10年後の98年W優勝&2000年EURO優勝の黄金期到来

ドイツは2004年のEURO惨敗による反省から育成を抜本的に改革⇒10年後の2014年W杯で優勝

そしてカタールは自国開催のW杯も睨み2004年に国が養成機関アスパイアアカデミーを設立⇒06年に現A代表監督であるサンチェスをスペインから招聘し10年に渡ってアンダー世代の代表チームを歴任させ、2017年に満を持してA代表の監督へ⇒2019年アジア杯優勝


サッカーの歴史は雄弁に語っている。
「サッカーにおける強化とは一見遠回りに見える『育成』こそが最短の近道である」と。
そして「成果は10~15年単位で現れる」と。


ではこの15年、日本は何をしていたのか?

15年前と言うとジーコJAPANの「自由なサッカー」がドイツでの惨敗に向けて歩みを一歩一歩進めていたあの時である。
そこからオシムの「日本化」⇒岡田の「全員撤退守備」⇒ザックの「俺達の…」⇒ハリルで「縦に速い」を経て西野、森保の「ジャパンズウェイ」である。

まさにその「ウエイ(道)」があっちへ行ったり、こっちへ行ったりなので、継続した強化のベクトルが生まれていない事が分かる。

古いことわざによると「経験から学ぶのは愚者である」という。

では経験からすら学べないとしたら、果たして日本サッカーに未来はあるのか?


愚者が一足飛びで賢者になるのは難しい。
我々にはまず、この「経験」から最大限学ぼうという謙虚な姿勢こそが今、求められているのではないだろうか-







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5レーンを封鎖せよ!~シティ、チェルシー ポジショナルサッカー攻略法~

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<5レーンを封鎖せよ!~ポジショナルサッカー攻略法~

『ポジショナル VS ストーミング』

今季のプレミアリーグを敢えて今流行りのパワーワードで表現すれば、こんなところになるでしょうか。
ポジショナル勢は元祖ペップのシティと今季からサッリを招聘したチェルシー。ストーミング勢は元祖クロップのリバプールとポジェッティーノのスパーズですね。

開幕から5ケ月-
現在のプレミアリーグの順意表を眺めてみると1位リパプール、2位スパーズ、3位シティ、4位チェルシーとまさにこの4チームの明暗がクッキリ分かれてしまっています。
特にシティは直近のプレミア4試合で1勝3敗と明らかに攻略法がバレてしまった感もありますね。

そこで今回はポジショナルサッカーが陥っている現在の不調の原因を探る為、その目的と攻略法を解析していきたいと思います。


<ポジショナルサッカーの目的とは?>

こんな辺境のブログに迷い込んだ人の中に今更「そもそもポジショナルサッカーって何?」という人はまずいないと思いますが
詳しい解説を読みたい方はネットや雑誌にいくらでも転がってますのでそちらをご参照下さい(笑)

ここではその概念や言葉遊びみたいなのは本題から逸れるので一旦置いておき、
大雑把にポジショナルサッカーとは「再現性の高いポジショニングの型からロジカルにサッカーというゲームを攻略する戦術」という風に定義しておきましょう。

まあ要するに本質的にカオスであるフットボールに将棋の定石のような考え方を持ち込んで、詰め将棋のように相手を追い込んでいこうという訳です。

最近、よく聞く「5レーン」というワードもその定石の一つ、ポジショナルサッカーを遂行する上でのいち手段に過ぎない訳ですね。

で、最近のポジショナルサッカーを巡る言説の中で個人的に少し違和感を覚えていたのが、5レーンや再現性の高いポジショニングが手段ではなく目的のように一部語られていて、「そもそもこのサッカーの目的って何よ?」っていう部分が忘れられてはいないか?という話で。

別に5レーンを全て埋めるポジションを取れてるからスゲー!ではなく、この型が効率的な得点につながっているから凄い、とならなくては本来いけないはず。


現代サッカーにおいて、再現性を持って効率的に相手を崩す最終目的とは即ち「相手のCBを崩す」っていう事とほぼ同義と考えて良いと思います。何故なら数あるシュートパターンの中で最も得点率の高いパターンとは「GKとの1対1」だからです。

よくボール支配率70%とか、クロス60本も蹴って得点0みたいな試合、サッカーにはあるあるですよね?
あれは結局、一見攻めているように見えて外⇒外のUの字にボールを誘導されて、相手のCBが自分の持ち場を離れず、常に良い状態から守備をされているので最後の最後で崩しきれていないんです。

なので、サッカーというゲームでは質の低い決定機10本(大外からのアバウトなクロス)よりも質の高い決定機1本(GKと1対1)の方が遥かに価値が高いという事を分かっている監督かどうか?はそのチームのサッカー、特に攻め筋に大きく影響を与えます。
(まだ世界には「とにかくアフロに蹴れ!」が戦術の監督もいる)


言うまでもなくペップやサッリはこの「決定機の質」に人一倍こだわる監督なので、
再現性を持って効率的に質の高い決定機を作る為にポジショナルサッカーを志向しているという訳ですね。


では具体的にポジショナルサッカーが「5レーン」のポジショニングを用いて中央突破から相手のCBを崩す、理想的な例を見ていきましょう。



【5レーンを用いてCBを崩す(中央突破編)】
マンC得点1229-5
画像はシティの直近の試合(レスター戦)から。
シティの前線がお互い横のレーンに重なる事なく、綺麗に5レーンに各1枚、ポジションを取っている事が分かります。
(この場面ではアグエロとデブライネがポジションを入れ替えて更に守りずらくしているが、人は入れ替わっても「いるべき位置に誰かが立っている」というのがペップの再現性の高さ)





マンC得点1229-6
5レーンを取る事の狙いは、4バックで5レーンを守る場合、相手DFの意識は↑のような状態であると言えます。
SBは大外で「幅」を取るWGにピン止めされていて、CBは中央のCFに対してチャレンジ&カバーの関係性。
そうすると「間」を取るIH(この場面では金髪のアグエロ)がどうしても浮いてしまうという「王手飛車取り」



マンC得点1229-1
アングルを変えてみてもマッチアップの構図から1人、アグエロが浮いてしまっているのがよく分かると思います。
本来、守るレスターは2列目のラインで中を閉めて、アグエロへのコースを消さないといけないんですが、中央のMFが並列になってしまい閉め切れていません。





マンC得点1229-2
アグエロに通されてしまうとCBが対応に持ち場を離れて出て行かざるを得ない状況を作り出しています。
これが「CBを崩す」という事で、屈強な2M近い巨漢CB2枚をアグエロとBシウバの小男2人で完全に崩しきっています。
大外からのクロスを跳ね返す、という場面ではレスターのCB2枚は無敵の強さを誇りますが、このように理詰めの『型』で崩されるとその強みも無効化されてしまうのがよく分かりますね。



マンC得点1229-3
狙い通り、『GKと1対1』という最も得点率が高い決定機を作り出す事に成功。



とは言え、当然試合では相手も中は警戒して閉めてきますから、次はサイドからの5レーンを用いた「CBの崩し方」を見ていきましょう。



【5レーンを用いてCBを崩す(サイド攻撃編)】
hafspace3.jpg
局面はここでも人は入れ替わっているが5レーンをしっかり埋めているシテイ
(ボールがサイドにある時は逆サイドのWGは一つ内側のレーンに入る)

WGの位置に流れたジェズスにSBが釣り出されると内側のいわゆる「ハーフスペース」をフェルナンジーニョがオートマッティックに抜け出す




hafspace2.jpg
「5レーン」を用いて「ハーフスペース」を突く目的はCBを持ち場から引っ張り出す事。
すなわち「CBを崩す」事がここでも目的になっているのだ。

本来、守る側としてはゴール中央エリアにCB2枚が待ち構えて、チャレンジとカバーの補完性が効く状態なら失点率を減らす事が出来る。
しかし↑のようにCBが1枚引っ張り出されてクロスに対してCB1枚で守らないといけない場合は失点率が劇的に上昇。
何故ならCB1枚ではボールとマーク(背後のスターリング)を同一視で守る事が出来ないから。





hafspace5.jpg
ハーフスペースからCBを超えるクロスが送られると、スターリングは「GKと1対1」(実際はクロスにGKが動かされているので「1対0.5」ぐらいの感覚)で、ゴールに流し込むだけの質の高い決定機を迎えている。
これだと別に中で待っているのがアフロの大男でなくとも、クロスから充分に得点が狙えるのがお分かりいただけるだろう。


このように中央からでもサイドからでも「5レーン」という一つの型を使う事で極めて再現性高く、相手のCBを崩せる⇒効率的に得点を取れるサッカーがペップやサッリが志向しているポジショナルサッカーの正体という訳ですね。



<5レーンを封鎖せよ!~4-5-1で攻略~>
079660A3-E19D-43FB-9BE8-104BB9F66C8B.jpg

ではこのサッカーにどのように対抗していくべきか?

皮肉にも一つの答えを出したのはペップのシティに今季初の土を着けた男サッリでした。
自分達も日頃から同じサッカーを磨いているので、逆説的にその攻略法を最も知っているのがサッリというのは考えてみれば当たり前の話。
しかし、サッリ自身が披露した攻略法で、今度はチェルシーが苦しめられているというのも何とも皮肉な話ではありますが・・・(笑)


サッリがシティに土を着けた試合で採用したシステムは4-5-1。
中盤に5枚のMFをフラットに並べて、予め5レーンを全て埋めてしまおうという守り方でした。

ではこれをシティ戦で模倣したクリスタルパレスの守り方から5レーンの守り方を見ていきましょう。


【2列目の5枚で5レーンを封鎖】
kuripare4.jpg
↑このように予めシティのIHが陣取るハーフスペースにはこちらもIHを置いて封鎖してしまおうという訳ですね。
これでグラウンダーのパスをIHに通されてCBが釣り出されるという「中央突破」のルートをまずは封鎖。




taikaku1229-1.jpg
こうなった時のシティの応手は相手の2列目を飛ばして逆サイドへ送る対角パス
ここから先ほどのサイド突破の型へ結び付けていきます。
何故なら2列目を飛ばされて逆サイドのWGに付けられた場合、4-5-1で守る側からするとWGに対応するのは大外のSBになるので、SBを釣り出して⇒ハーフスペースのコンボ発動になる訳ですね

しかし、もうこの攻め筋は研究されているので、ここでは逆SHが頑張って横スライド!



taikaku1229-2.jpg
大外をSHがカバーして、SBを釣りださせない守備陣形を維持。
SHがハードワークする事でハーフスペースをIHとSBの2枚で埋められています。
これをやられるとシティの攻撃はサイドで手詰まりになり⇒下げてやり直しというターンが続く

更にこの4-5-1には二重の保険もかかっており、次はSBがWGへの対応で外につり出された場合の守備も見ていきましょう。



【SBがWGの対応につり出された場合】
ih1.jpg
局面はWGザネの対応にSBがつり出された場面。
ここではSBが外に出るのと同時に予めハーフスペースに配置されていたIHが戻ってそこを埋める動きがオートマティックにセットになっています。



ih2.jpg
SBが釣り出されたハーフスペースをIHが埋める事でCBが一歩も動かされていないのがよく分かると思います。
シティはこの状態で大外からクロスを上げても得点を取れる設計にはなっていません(中はジェズスやアグエロ)
というより、先ほど触れたようにそもそもここから大雑把にクロスを上げずに済むよう設計されているチームなのです。

故にこのように中が万全の時は攻撃の目的が曖昧となり、次第にサイドで攻撃が停滞・・・




ih3.jpg
気付けばボールホルダーのザネが挟まれて奪われている、というようなシーンが最近の試合では目立ってきました。

やはり「CBを崩す」という手順に乗らないとなかなかフィニッシュに結び付かない事、
型が精密で再現性が高いが故に、対応策も再現性が高くなってしまうのがポジショナルプレーの弱点と言えるでしょう。



<負けパターンにおける再現性の高さ>
sati1229.jpg

シティとチェルシーは攻撃が手詰まりになった場合、被カウンター時におけるリスクも共通しています。

何故なら前線が常に5レーンを埋めるポジショニングを取っているという事は、失った時に5枚並んでいるワンラインが全員カウンターに置去りにされる、という事と同義だからです。

次の2枚の画像をご覧下さい。


mannc1228.jpg
失点チェルシー1229
↑これらはシテイ、チェルシーがそれぞれ対レスター戦でくらった失点シーンになります。

状況は驚くほど似通っており、カウンターからアンカーを通過されると3枚残りのDFが無防備に晒されている場面になります。
つまり、ここでも失点パターンにおける再現性の高さが確認出来る訳ですね。

では、具体例として実際にチェルシーの典型的な失点シーン(対スパーズ戦)を検証していきたいと思います。


【チェルシーの失点シーン検証】
ジョルジ3
↑は敵陣内でチェルシーがボールを失った瞬間です。
チェルシーは攻撃時、特に左サイドでSBのMアロンソを絡める事で攻撃の厚みを出すポジショニングに特徴があります。
特にウィリアンやアザールがサイドに開いて幅を取った時に、Mアロンソが内側のレーン(ハーフスペース)を取るオートマティズムは完成の域に達してきました。

しかし、↑の画像でも分かる通り、本来SBのMアロンソが内側を取るという事は失った時にSB裏に広大なスペースが広がっている事と同義。
スパーズは事前のスカウティングから完全にこのスペースを俊足のソンフンミンで狙い撃ちにするゲームプランを仕込んでいました。



ジョルジ
実際にソンフンミンに走られて並走で対応するジョルジーニョ。
しかしジョルジーニョは前線の守備が機能している時のパスコースの切り方や、読みを効かしたインターセプトでは守備力を発揮するものの、広大なスペースを肉弾戦で守る局面では無力です。

この場面でも無抵抗のままソンのスピードで千切られますが、チェルシーは被カウンター時アンカーで相手のスピードを止められないと3枚残りのDFが無防備に晒される状態になってしまいます。




ジョルジ2
しかもジョルジーニョが振り切られた後にカバーに入るDルイスも守備で我慢が効かない為、一発で飛び込んで万事休す。
これではいくら高いポゼッション率を記録しても失点が減る訳がありません。


では同じジョルジーニョをアンカーに置いていたナポリ時代はどうやって守っていたのか?と言われれば
それはIHのアランが常に被カウンター時に身体を張って相手のスピードを止めていたのです。

恐らくサッリはチェルシーでIHに起用しているカンテにこの役割を担って欲しいと考えているはずですが、
まだカンテも取るべきポジショニングを完全には理解しきれておらず、それがカウンターを食らった際のモロさに直結していると見ます。


シティの失点パターンも構造自体は同じ。

【シティの失点パターン検証】
mannc1228.jpg
↑はレスター戦の失点シーンですが、アンカーのギュンドアンが置去りにされてDF3枚で守る場面。

ここでもレスターは事前のスカウティングからシティの失点パターンを解析し、フィニッシュパターンを仕込んでいました。
それはデルフのクロス対応です。





derufu3.jpg
クロス対応も基本的にゾーンで守るシティはバーディーが右足に切り替えしたタイミングでCBが1~2歩DFラインを上げています。
デルフは逆サイドからのクロスに対して、必ず隣のCBを基準にラインを上げるのでそれと入れ替わるように背後を取れる、この形を練習から準備してきたに違いありません。

それは同じ試合で何度も繰り返された攻撃パターンからも明らか↓



derufu1228.jpg
本職がボランチのデルフは通常、逆サイドからのクロス対応で正しい身体の向きとポジションを取る、といった局面を数多く経験してきた選手ではありません。

故にどうしてもボール状況に応じてラインを崩して人に付いて行く、深さを取る、といった咄嗟の対応に弱さを覗かせるのはある意味当然です。


では何故ペップはわざわざ本職がボランチのデルフを左SBに起用しているのか?
それはSBの怪我人状況なども勿論ありますが、攻撃時(ボール保持時)に偽SBとして振る舞えるデルフのボランチ性能を高く買っているからに他なりません。


【偽ボランチとして振る舞う左SBデルフ】
derufu.jpg
つまり攻撃時はメリットとなっているSBデルフは今後も再現性高く、クロス対応の守備では繰り返し「穴」になるはずだと予測されます。
これに対するペップの対応策、修正も今後一つの見所ですね。



<ポジショナルサッカーは器に過ぎない>
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例えばチェルシーにアランがいたら・・・、この被カウンター時の諸さは高確率で解消するでしょう。
同じようにシティはアンカーのフェルナンジーニョが怪我で離脱していなければ、DFラインが晒される前に相手のカウンターを潰すか、悪くてもスピードを殺す対応が出来るはずです。(その間に前線の5レーンが猛スピードでプレスバック)

攻撃も同じ話。
いくらハーフスペースを埋められたと言っても、シルバであれば絶妙のタイミングでマークを外してハーフスペースに入っていけるセンスが絶妙ですし、時には自分をオトリにワンツーでWGをカットインさせるなどのバリエーションも豊富。
同じくデブライネが万全の状態であれば、大外からのクロスでもGKとDFラインの間にピンポイントの質で入れる事で「CBを崩す事」が出来るはず。(昨季、何度も見た形)


つまりペップが言うように「戦術が凄いのではなく、まず選手が重要」なのです。
ポジショナルサッカーは単なる器に過ぎず、中身(選手)の質が乏しければ監督が誰であろうと「絵に描いた餅」に過ぎません。

一時、ペップバルサの模倣を目指した多くのチームで死屍累々・・・という時代がありましたが、
同じように今、ペップシティを目指した多くのチームが「質の伴わないポジショナルサッカーほど悲惨なものは無い」という教訓を与えてくれるに違いありません。







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