アジア仕様の限界を露呈したハリルJAPAN ~日本×ブラジル~

<アジア仕様の限界を露呈したハリルJAPAN>~日本×ブラジル~
アジア最終予選を突破し、本大会へ舵を切ったハリルJAPAN。
就任以降、世界の一線級との対戦が無かったこのチームの実力を測る上で、
ブラジル&ベルギーと組まれた今回の欧州遠征はとりわけ重要なものでした。
しかし蓋を開けてみれば、アジア予選では「隠れていた」課題が次々と浮き彫りになるかたちでいいところなく2敗。
とりわけ流れの中からほとんど崩せる事なく無得点に終わった内容は来年の本大会に向け指揮官が言うほど説得力のあるものだったとは言い難いのではないでしょうか。
ちょうど4年前、同じく本大会を半年後に控えたザックJAPANがオランダとベルギー相手に1勝1分、流れの中からの素晴らしい崩しで5得点を挙げていたのと比べると実に対照的です。
勿論、強化試合なので結果を単純に比較してもあまり意味はないですし、課題を見つける為の試合だったと指揮官は言うかもしれません。
しかし、今回の欧州遠征で見つかったのはチームを次のレベルへ引き上げる為の新たな課題ではなく、
どれもアジア予選の頃から「分かっていた事」で、アジアだから問題にはならかったに過ぎないというものばかり。
そこで今回はアジア予選の試合と比較しながら、ブラジルとの試合にフォーカスし、現在のハリルJAPANの問題点を分析していきたいと思います。
<ブラジルにボールを渡す自殺行為>
アジア予選でハリルの評価を一層高めたのは突破を自力で決めたホーム豪州戦でした。
実際、この試合では「相手の強みと弱みを分析して対策を立てる」というハリルのストロングポイントが良く出た試合だったと言えるでしょう。
オーストラリアは稚拙な技術力にも関わらず必ず自陣から繋いでくると分かっていたので
日本は中盤にボールハンター(井手口、山口、長谷部)をズラリと並べて中盤にプレスラインを設定。
DFラインにはある程度自由にボールを持たせて、そこから必ず出てくる中盤へ預けるパスに網を張り、次々とボールを奪取していました。
この試合の日本のボール支配率は35%でしたが、シュート数では15:4と圧倒。
まさにハリルからすると会心の勝利で、世間も「これがハリルのサッカーか」と評価を新たにしました。
しかし、この試合をしっかり観ていけば決してハリルJAPANの守備が強固だった訳ではなく、
オーストラリアがわざわざボールを失う為に自陣でパスをつなぐのに終始した、という特殊なチームスタイルとゲームプランにあった事は間違いありません。
ハッキリ言ってしまえば、本大会でこんな「マヌケなチーム」と対戦する機会はまず無いと言っていいでしょう。
(でも辛くもプレーオフで出場決めたけどNE!)
なので個人的にはこんなサッカーで本大会に挑んだら、まず間違いなく惨敗するだろうと確信したのですが、
予選突破の祝福ムードでチラッとそんな事をつぶやいたら炎上しました(笑)
・・・とまあ、前置きが長くなりましたが、そんな流れを踏まえて迎えた今回のブラジル戦。
ハリルのゲームプランは勿論、オーストラリア戦の流れを汲むもので、DFラインではブラジルにある程度ボールを持たせてボランチのところに入って来るパスを2枚のインサイドハーフ(井手口&山口)で狩る!というものでした。
では実際の試合でどうなったか見ていきましょう。

画像はブラジルがGKからのパス出しでビルドアップ開始の瞬間。
日本はブラジルのダブルボランチにプレスラインを張ってCBは放置。
そう、確かにオーストラリアにはこれで良かった。
この「待ちの守備」で次か、次の次に出てくるパスに対して全体でGO!⇒ショートカウンター(゚д゚)ウマー!
しかし、この日の相手はユニフォームこそ同じ黄色だが、あのセレソンなのである。

ボールが世界のマルセロに渡っても日本はステイ。
マルセロは難なく前を向いてオープンな姿勢でボールを持てている。
アジアのSBはだいたい走力やクロス精度自慢の選手が多く、ゲームメイクの能力は低い。
だからこの距離感で守っていても問題は無い。
だが世界のSBはもう「司令塔化」が進む流れだ。
そしてこのマルセロとかいうSBはそのトレンドの中でも先頭集団を走る手練れである。

日本がボールサイドに寄せて次のタテパス狙いなのを見透かしたマルセロがボランチ経由のサイドチェンジを促すパス。
日本はファーストディフェンスでボールにプレッシャーがかかっていない為、後ろも押し上げられず実にチグハグな守備になっている

フリーで受けたボランチから逆サイドに高精度のサイドチェンジを通されて、日本の横スライドは間に合わず。
68Mの横幅を目一杯に使われて右に左にと走らされるハリルJAPAN。
こんな守備でボールが奪えるはずがない。
一方、チッチのセレソンは世界のトレンドを組んだ超絶インテンシティの高いチームに仕上がっていた。
あのブラジルがここまでハードワークするのか・・・と驚いた人も多いのではないか。
【ブラジルの前プレ (ネイマールのハードワーク)】

局面は日本が攻め込んだ流れで長谷部にボールが下げられる瞬間。
相手のバックパスにタイミングで全体を押し上げてGOをかける、はセオリーではあるが、ネイマールの寄せのスピードが凄い。
ボールにプレッシャーをかける、という域を超えて完全に「奪う」為のプレスになっている。

ネイマールの寄せがすさまじ過ぎて、ボールを受けた長谷部は後ろを向かされている。
こうなるともう次の選択肢はバックパスしかないので、ネイマールのファーストディフェンスのおかげでブラジルはノーリスクでチーム全体を一つ押し上げられる。

長谷部からCBの吉田に下げられたボールにもネイマールは二度追い。
しかもスピードを落とさないどころかむしろギアを上げている。
チームの絶対的なスター選手であるネイマールが守備で40Mをフルスプリントできなければ使ってもらえないのがブラジルなのである。
このプレッシャーにより吉田⇒長谷部のパスが僅かではあるが弾んだボールになってしまう

受けた長谷部がファーストタッチでボールを浮かしてしまう。
その隙に背後からジェズスが猛烈なプレスバック

ジェズスに押し込まれた長谷部の身体の向きではパスコースはSBの酒井しかない

酒井にパスだ出た瞬間にブラジルは「待ってました!」とばかりに一気に3人で包囲。
これがアジアとは違う「世界の守備」「世界基準のインテンシティ」である。
あのネイマールが必死に日本のCB(吉田)にまでボールを自由に持たせないよう前プレをかけてくる時代に
日本がブラジルにボールを持たせるというのは自殺行為でしかない。
現代サッカーにおけるビルドアップも、この「前プレ」を前提に、それをいかに剥がすかの攻防が行われているのに対し、
日本の中盤は自分達ばボールを持つ事が主眼から抜け落ちた構成なので、ロクにバックパスすら回せない惨状では・・・OTL
<問題その② 原口の5バック化問題>

二つ目の問題はハリルJAPANの守備におけるポジショニングとゾーン設定がかなり曖昧なところ。
もっと言ってしまえば完全に選手任せなのか?という疑念も。
特にアジア最終予選のアウェイ豪州戦で顕著になった原口の守備ゾーンを思い返していただきたい。
原口は相手のSBが上がっていくとどこまでもマンツーマンでそれに付いていってしまう。
【SB化する原口と5バックになる日本】

原口はSBを受け渡さず付いて行くし、槙野も「こりゃ助かるで」とばかりに放置してるのでチームとしては5バック化してしまうのがなかば常態化しているハリルJAPAN。
むしろ日本ではこれを「原口のハードワークすげー!」という論調すらあるが、とどのつまり日本サッカーの守備文化はどこまでいっても「マンツーマン」と「気持ち守備」の合作である証拠。
そしてアジア予選では「原口半端ない」で済んでてもブラジル相手にはチームとして何が問題かを突きつけられるのである。
【5バック化する日本 byブラジル戦】

局面はブラジルの最終ラインのビルドアップから。
この段階で原口はもはやSBではなく右WGのウィリアンを気にして早くもポジションを下げ始めている。

原口がSB化しているので、日本の左サイドにボールを回されたら当然そこには誰もいない
しかも流れでアンカーに回っていた山口がブラジルの1トップ(ジェズス)を見ているんだから前の人数が足りるはずがない。
(一方で日本のDFライン4枚に対しブラジルはウイリアン1枚でピン止めに成功している)
この場面、ブラジルならこう守るというポジションを可視化してみます↓

本来ジェズスのラインにCBが行けるようライン設定をすべきで、ウィリアンはオフサイドに置いておけば良し。
全体を一列づつ前に押し上げればブラジルのDFラインにもプレスがかかるはずなのだ。

奪うならこのポジションバランスで前プレでしょ!
<問題その③ 3センターの鎖が繋がっていない>

ハリルJAPANの基本形4-3-3(4-1-4-1)では中盤の3センターのバランスが肝になってきます。
「3センター」「ブラジル」で思い起こされるのが前回アギーレが戦った2年前のブラジル戦。
この試合でアギーレは森岡、柴崎、田口で3センターを採用。
しかし常に横スライドしながらお互いにチャレンジ&カバーを繰り返し一定の距離感を保つ、
まさにチェーン(鎖)で繋がれているかのような動きが求めらる3センターにあって、日本はこの意識が決定的に欠けています。
【前回アギーレJAPANの3センター】

このように1枚(柴崎)がチャレンジしたら残りの2枚(田口&森岡)がカバーのスライドを行うという基本中の基本の動きすら怪しいレベル。
ではハリルになってそれが改善されたのかどうかを先日のブラジル戦から検証してみましょう。

前半いいようにブラジルにやられただけあって、さすがにハリルも「これ前から行かんとアカンわ!」と気付いたのか後半はプレスラインを高くして前からプレスをかける日本。
GKからのパスを受けるCBに久保が、そしてブラジルの両方インサイドハーフに井手口と山口が付いていますが、とするとこの2枚を結ぶ中間にアンカーの長谷部がいなければいけないはず。
しかし長谷部の姿は見えず、この場面では3センターのチェーンが切れて個々がバラバラに守っているのが分かります。

逆に展開されたボールに対して今度は山口と原口が出ていこうとしますが、やはり長谷部がいない。

で、これに気付いたカゼミーロに前に出られてポッカリ空いたバイタルで受けられるの図↑
肝心の長谷部はどこにいたのかというと、何と左SBのマルセロにマンツーマンで付いていた・・・という按配。
この場面では山口と井手口の間を割られて、後ろにアンカーがいないという3センターの布陣では本来有り得ないような事が起きてしまっている。
つまりアギーレもハリルも「3センター」というよりは、前者はボール扱いに長けた3枚を、後者はボールを奪うのに長けた3枚を、ただ中盤に並べただけという代物に過ぎないのではないか?
【問題④デュエルしてもボールが奪えない件】

4つ目の問題はボールにプレッシャーをかけたとしても、最後ボールを奪う、という個の能力が低くて奪いきれないという問題です。
日本サッカーにおける永遠の課題ですね。
ブラジル戦ではネイマールへの対応で、まず酒井が背後から寄せて、横からはアンカーの長谷部が、前からSHの久保がプレスバックして必ず数的優位を作って奪う、という約束事が徹底されていました。
しかし個々で奪えない集団で囲んでも結局3対1をネイマールに面白いようにいなされ、必死に寄せる酒井はファイルを量産するだけに終わりました。
実際の試合から攻防を振り返っていきましょう。

局面はまさに今、酒井、長谷部、久保の3枚でボールを持ったネイマールを包囲しようというところ

まず側面から寄せてきた長谷部を難なく右手のハンドオフ1本でボールに近付かせないネイマール
長谷部は右手1本の力で上半身がのけ反った上体にさせられており、肩から入れない

そのまま右手で長谷部をブロックしながら足裏でボールをコントロール
前後からもう2枚が挟むように近付いてきているのを感じているネイマールは狭いスペースの中で最もボールを細かく動かせる足裏を選択したのだが、こういうのはストリートの感覚なのか南米の選手は本当に上手い。

プレスバックしてきた久保がボールにアタックするが、まさに「足先だけ出す」という典型のような守備。
足裏でボールを保持していたネイマールは久保の出した足と重心をしっかり見て、逆を取る持ち出し

足から行っている久保は逆をつかれたら完全に腰砕け状態で対応出来ない。
久保の矢印とネイマールの矢印を見れば上手くいなされているのが分かるだろう。
この後、久保を外したネイマールは難なくマルセロに返して包囲網を脱出。
1対1の守備では「肩から先に入れろ」や「腰(ケツ)から入れ」など選手によって色々やり方はあるのだが、
日本の選手の奪いに行く時の姿勢は総じて軽い、の一言に尽きる。
<またもアジア仕様を脱しきれず>

試合後の指揮官は「後半だけならブラジルに勝っていた」「ベルギー戦は負けに値しない」と何故か満足そうだが、
アジア予選で分かっていた課題を世界で改めて認識し直しているようでは5歩は出遅れている。
率直に言って、ブラジルW杯後の4年もまたアジアにドップリ浸かって無駄にしてしまったという感しかない。
このままハリルで行っても本大会は相手に合わせてその都度メンバーと戦術をいじり、ストロングを消しながら耐えて耐えての3試合。
上手くいけばベスト16ぐらいは可能だが、このてのチームは頑張ってもそこが限界というのはW杯の歴史が証明している。
個人的にはこの国にW杯で旋風を巻き起こすようなチームの構築を長年望んでいるので
アジア予選など全試合ハーフコートに押し込んで世界基準のインテンシティとポゼッションで圧勝するぐらいでいってもらいたいのだが・・・
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