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踏み出した一歩 ~日本☓スペイン~

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<踏み出した一歩 ~日本☓スペイン~


【プロローグ】

日本☓スペインの激闘から遡ること約一ヶ月-


強化合宿の最中、代表監督の森保一は悩んでいた。


森保(くそう…どの新聞を見ても「無能」だ「3敗」だと好き放題書きやがって・・・)

森保(だが実際、スペインは強すぎる・・・。)



森保は前夜、自室で繰り返し見たスペイン代表の残像が頭から離れなかった。

(ていうか…スタメンの中盤3枚がバルサってどういう事よ?もはやそれバルサやん!)


【スペイン代表 スタメン】
barusajyane.jpg
森保の不安通り、スペイン代表の4-3-3で中核を担う中盤3枚はFCバルセロナの選手で占められていた。
ただでさえ上手い選手を揃えていながら連携面でも隙は見当たらない。





森保「いやーバルサ無理!バルサ怖い!」



??「果たしてそうですかね?」




森保「誰だ!?」









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鎌田「だって俺・・・バルサ倒した事あるし」



森保「オイオイ・・・マジかよ大地。ちなみにどうやって倒しか教えてくんね?」



鎌田「いやー、だからフランクフルトではこうして、ここでハメて・・・」



森保「ふむふむ・・・」


(*尚、この物語はフィクション・・・のはずです)








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<スペイン撃破の下敷きはフランクフルトのコピー>

それではスペイン戦のマッチレビューを始めていきましょう。
ですがその前に、まず鎌田の件に触れないわけにはいきません。


昨季、ヨーロッパリーグの準々決勝で鎌田擁するフランクフルトがバルサを撃破するジャイキリを起こし話題になりました。

この試合でMVP級の活躍をし、バルサ撃破の立役者となったのが何を隠そう鎌田だったのです。

バルサを完封したフランクフルトの戦術は以下の通りとなります。

まずバルサで抑えなくてはいけないのが4-3-3の中盤ブスケス、ペドリ、ガビの3人。
そう、スペイン代表とまるっきり同じ顔ぶれです。


そこでフランクフルトは守備時、5-4-1でブロックを組みます。


フランクフルト1
バルサのCBは放置し、両SHが内側に絞って背中でIHへのパスコースを消して、バルサのパスルートをSBへと誘導させます。
(ちなみに鎌田は左SHとして完璧にこの役割をこなしました)





フランクフルト2
SBに出たらSHが中切りで寄せてパスコースをWGの一択にします。
同時にこの時、バルサのIH(ペドリ、ガビ)はCBが捕まえています。




フランクフル31
バルサのWGに出させたと同時にSHとWBで挟みます。
この挟み込みで奪えればベスト。
もしバルサのSBへパスを戻した場合は・・・






フランクフル4
ハイ!ハマった!!

WBをニ度追いで押し出して、アンカーのブスケスにはVOが、CBへのバックパスは1トップのFWがハメます。
これでバルサには中盤3枚を使わせる事なくサイドのタッチライン際でハメる事が出来るのです







フランクフル5
しかも奪った後はバルサはCB2枚の2バック状態なので、3対2でカウンターが打てるという設計。
このシーンではFWがそのまま切れ込んでシュートを打ち、フランクフルトの得点が生まれています。



【フランクフルトの対バルサ戦術まとめ】

①5-4-1でCBは放置

②SBに誘導して奪うorバックパスをさせる

③バックパスにはWB+ボランチを押し出して、CBには1トップがGO!

④奪ったらバルサは2バック状態ウマー!(゚д゚)


この試合こそが、森保JAPANにおけるスペイン戦のゲームプランの下敷きになった事は間違いありません。
鎌田本人がインタビューに以下のように答えています。


鎌田「試合の2日前の練習では5バックの2トップを試していましたが、相手のCBからハメに行くための形なのに前から行こうとしないから、上手くいかなかった。選手たちも違和感を抱いていたなかで、フランクフルトでバルセロナと対戦した時にハマった3-4-2-1をミーティングで提案しました。」



試合の二日前に選手から提案されたプランがドハマりするという運命の巡り合せ。W杯ではこういう運も必要なのです。

なんせ説得力が違います。だってバルサを倒した事がある張本人が言うのですから。


そういう意味で、日本代表は圧倒的に監督よりも選手の方が世界で戦ってきた場数、ノウハウを持っています。
森保監督はそこで選手と下手に張り合おうとせず、謙虚に選手の意見を取り入れる姿勢が今大会はハマっていると思います。


これ、言うほど簡単な事じゃないんですよ。
海外の監督の中には、選手時代の目立った実績を持っていない監督がスター選手と対立する、なんて日常茶飯事ですから。
とかく監督という人種はプライドが高いのです。


加えて僅か二日でフランクフルトのコピーをスペイン撃破のレベルまで仕上げる早さも日本人が持つ強さの一つではないでしょうか。

「模倣に長けて獨創の才無し」
(*「獨創」・・・独自の発想でつくりだすこと)

文化人類学の方面からも日本人とは「想像よりも模倣が得意である」という声があるように、このコピー戦術は一定の成果を見せました。

ですが、相手は世界の強豪国スペインです。
当然、日本といえどクラブチームのフランクフルトのレベルまで練度を上げる事は難しく、特に前半序盤は一方的に押し込まれてしまいました。

ではこの時間帯の攻防をフランクフルトと森保JAPANの守備を対比させながら解析していきましょう。


【序盤ハマりきらなかった日本の5-4-1】
WBの違い1
スペインがボールを持つと日本は5-4-1のブロックを敷いてCBは放置。ここまではOK。




WBの違い2
SBにパスが渡ったのと同時にSH鎌田がファーストディフェンスで方向を限定。
アプローチのタイミング、身体の面の作り方(背中でガビを消している)、共に完璧です。
この選手はもう完全に欧州(ヨーロッパ)の選手ですね(笑)

ところが、鎌田が限定し、次のパスコースはWGのウィリアムズに絞らているにも関わらず、WB長友の寄せが遠い、遠すぎる…!




WBの違い4
その結果、鎌田がプレスバックして挟む前にウィリアムズに前を向かれてカットインを許してしまっています。

せっかくサイドに追い込んだにも関わらず逆サイドに展開されてしまい、これではハマるはずがありません。

左サイドの問題=WB長友が押し出せない


やはりか…。


この画ですが、実は試合前に想定してました。
日本が3バックで臨んだ場合、WBの押し出しが鍵になること、そして長友だと押し出しきれないであろう事を。





一方、日本の右サイドでは別の問題が起きていました。


WBの違い5

当然右サイドも同様SH久保がスペインのSBに出て方向を限定し、次のパスにWB伊東を押し出します。
このWB(伊東)の押し出すスピードと距離感、これが重要です。





WBの違い6
ボールを受けた時にはスペインのWG(ダニオルモ)が前を向けないこの距離感!
右WBの伊東はこれが出来るので、ダニオルモにカットインを許さず、狙い通りバックパスを出させています。
このバックパスには久保がハメに出ますが、FW前田の立ち位置に注目して下さい。

見て分かる通り、アンカーのブスケスをマークし続けています。
バックパスにはFWを押し出さないと、この後CBに下げられたら一からやり直しで、一生日本のプレスはハマリません。
ブスケスにはボランチの守田を押し出しているので、前田はマンマークを続ける必要は無いんです。



WBの違い7jpg
これでは一生ハマらん!


FWの前田は運動量はあるのですが、マンマークの文化が染み付いてしまっているんですよね…。
ボール状況に応じて、後ろのボランチ(守田、田中)と連動して、ブスケスを背中で消す守備からCBへGO!という守備が出来ないのでフランクフルトのようにせっかくバックパスを出させてもハマらないんです。


右サイドの問題点=FW前田がブスケスをマンマークで見続けている




スペインはCBが常にフリーなので、日本のプレスにハマリそうになったらCBに戻せばいいだけ。それで日本の守備はリセットされるんですから。

スペインはピッチの横幅68Mを目一杯使って、CBを中継点に右から左へ、左から右へとボールを動かし続けます。
日本はその度にひらすらスライドを強いられるのですが、物理的にも人が動くよりボールを動かす方が早いので、押し込まれ続ける展開になるのは自明の理でした。

先制点もその流れから。


スペイン先制1
日本はこの時間帯、ジリジリ押し込まれるので、最後は自陣ゴール前でサイドの1対1に晒されています。
ですが右WB伊東は1対1で対面のダニオルモをスピードで完封。
この場面でも伊東のアプローチの距離とプレッシャーが効いているので、ダニオルモがヘッドダウン(顔が下がっている)しているんですね。これではいかにスペインと言えど中の状況が確認できず良いクロスを上げるのは難しい状況です。(そもそもスピードで伊東が上げさせないが)

つまり右サイドでは最後の最後でダムが決壊しなかったのは伊東の個の力に大きく助けられていたからです。


この場面でもスペインはクロスを上げきれず、ボールは逆サイドへ





スペイン先制2
左サイドでWGのウィリアムズにボールが渡りますが、対峙した長友の距離がここでも遠すぎます。
ボールを持ったウィリアムズの視線に注目して下さい。
顔が上がっているので長友の背中を抜けるガビを自然に視野に捉えています。つまり突破しても良し、パスでガビを使っても良しという大手飛車取り状態。
スペイン代表クラスのアタッカーにこの寄せではなんらプレッシャーになっておらず、何でも出来る距離と言えます。



スペイン先制3
やはりガビを使われて、ペナルティエリアに侵入されてしまいました。
現代サッカーではポケット(ハーフスペース)と言われるこのエリアに侵入されるとデータ的にも失点率が跳ね上がるのですが、何故かというとここをえぐられたら全員が後ろ向きの守備をさせられるからです。

この場面でもSB長友、SH鎌田が自陣に向かって背走するかたちで守備をさせられており、それがこの後に効いてきます。




スペイン先制4
ガビのクロスは跳ね返したものの、日本は前田を含めほぼ全員がペナルティエリアに背走させられているので、セカンドボールがまず拾えません。
更にウィリアムズにSH鎌田が対応するという事は、上がってきたスペインの右SB(アスピリクエタ)を捕まえる人がおらず、完全にフリーになってしまうのです。

アスピリクエタが狙いすましたクロスを上げてスペインが先制。





tanakaaosupein.jpg
<ピッチ上の指揮官が動く>

この状況に最初にアクションを起こしたのはベンチでもテクニカルエリアで立つ森保監督でもなく、ピッチにいた田中碧でした。

失点直後から、CB板倉、FW前田らと積極的にコミュニケーションを取る様子が見られています。

そして前半15分以降、日本の守備が少しづつ修正されていきます。


【田中碧の修正】
田中碧1
前半18分過ぎ、これまで通り日本の右サイドでスペインのSB→ダニオルモのところでハメようというシーンです。

田中碧のアクションに注目して下さい。

田中碧はピッチ上で戦いながら、先述した日本の守備の問題点に気が付いていました。
そこでハメれる可能性があるとしたら左ではなく日本の右サイドだという事を確信したはずです。

これまでであれば、この後前田がブスケスをマンツーマンで付き続けるので、CBへのバックパスがハマらなかったのですが、SBにパスが渡る段階で既に前田に「ブスケスは俺が突くから一列押し出して!」という趣旨のコーチングを出していると思われます。




田中碧2
この試合、初めてブスケスをボランチ(田中碧)が見て、CBにはFW前田を押し出すフランクフルト型の完コピが実行されました





田中碧3
ほら!ハマった!!

前田が横パスのコースを切っているので1枚で2CBを見れるこの形!
ボールサイドに限定をかけているので、後ろのCB板倉も押し出せて、右サイドでは日本の数的優位が作れています。

ボールを持ったCBパウトーレスはパスを出そうにも出せる受け手は全て日本の選手に捕まっている格好。


田中碧4
こうなれば必然的にボールは奪えるんです。相手がスペインだろうと関係ありません。






ただ、日本が初めて意図的にボールを奪うまでに既に18分が経過してしまっています。

このレベルで修正が15分遅れたら手痛い代償を支払うのは当たり前といえるでしょう。
(この問題はドイツ戦、コスタリカ戦でも同様)

日本はスペイン相手に重すぎる先制点を失ってしまいました。


しかも修正がベンチワークではなく選手主導というのもなかな厳しいものがあります。

試合二日前に選手の提案を採用出来るフレキシビリティーと、その裏面としての状況把握の遅さ。
これは森保JAPANが持つ両面といえるのではないでしょうか。



ピッチ上に話を戻しましょう。

ピッチでは田中碧監督が更に日本の守備をもう一段押し上げるべく修正を図っています。



前半30分田中1
前半30分のシーンです。

スペインのボール回しが日本の左サイドに展開されようとしていますが、田中碧は左サイドで日本の守備がハマらない事はもう把握しています。(WBが長友なので)
つまりこの後、左ではハマらず、右にボールが戻ってくるだろうという事も。

田中は3手先の展開を読み、この時点で自分の背中にいるペドリを後ろのCB板倉に受け渡すよう手で指示しています。
何故ならこちらにボールが展開されてきた時、自身がペドリをマークしていたらCBのパウトーレスには前田が1人で追わないといけないからですね。

勿論、それでも前田は二度追いで後ろからプレスを掛け、先程のようにCB板倉でボールは奪えるかもしれませんが、そこから得点に直結するカウンターを繰り出すにはゴールが遠すぎます。
1点ビハインドを追っている状況ではもう一列高い位置でボールを奪いたいので、ボランチの自分を押し出してスペインのCBに2対2の状況を作る、その下準備を既に始めているのです。
(この人多分、将来優秀な監督になると思います。)



前半30分9
はい出た!5-4-1からの4-4-2可変!

CB板倉を一列押し出すこの可変こそ、5-4-1でドン引き一辺倒にならないソリューションなのです。

欧州などトップレベルで5-4-1を採用するチームは、この「いつ4-4-2に可変させて前プレのスイッチを入れるか?」という駆け引きこそが勝負の肝というのはもはや常識になっています。

CBに2対2の数的同数でプレスをかけられたスペインはもう、GKに下げるしかパスコースがありません。



前半30分田中3
GKへは前田がそのまま猛烈プレス。
右CBには左SH鎌田を押し出すので、隣の右SBにはWB長友が連動して後ろから押し出せれば、日本は敵陣でボールを奪える守備になります。



ところが・・・





前半30分田中52
長友・・・押し出せず・・・(無念)

鎌田(ブンデスと勝手が違いすぎる・・・)


では何故、長友は押し出せなかったのか?

それはスペインの巧みな配置に一因があります。



この場面での全体の配置を図で表すと下記の通り↓

nagatomo1203.jpg
長友はスペインの右WGウィリアムズにオフサイドにならないハーフラインギリギリで立たれているので、ここをマンツーマンで付き続けていたが故に、アスピリクエタには押し出せなかったという事になります。

このすぐ後にも似たようなシーンでスペインのGKシモンをNINJYA前田が前プレで追い詰めますが、同じように右SBに蹴られて打開されています。

本田解説委員『信じられへん…!!』

GKシモンは前を見ずに蹴っていますが、これは最悪右SBに蹴っておけばフリーになっているって予め分かっていたからこそ出来たプレーなんですよ。

何故なら日本の左WBは出てこれないから。



ここで強調しておきたいのは、この長友の対応は決して間違いではないという事。

だって、ウィリアムズを放置して前に出た結果、プレスが剥がされて裏に蹴られたら?


吉田麻也と1対1、もしくは吉田のカバーが間に合わずにタテポン1本でGK権田と1対1の可能性すらあります。

格上スペイン相手に、WBはステイして、全体を40M下げる。
こちらの方がむしろ常道でしょう。



それはその通りなんですよ。

それは、そうなんですが・・・




果たしてこれでスペイン相手に2点を取って番狂わせが起こせますかね?



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『負ける事を恐れるな。リスクを冒せ』


僕は毎回、日本代表がW杯に挑む度に思うんです。

挑戦者である我々に元々失うものはないじゃないか、と。

セオリー通り戦っていて、世界の強豪相手に勝てるのか?と。




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<日本サッカー史上、"最狂"の布陣>

ハーフタイム、指揮官の森保監督が動きます。


まずは久保に代えて堂安を投入。
久保はドイツ戦に続き、守備面での戦術理解を買われて先発に抜擢されている事がハッキリと分かる交代でした。
「前半は0-1でも我慢でOK」という森保監督のプランにおいて、前半のSHにはなにより守備の理解力が重要だからです。

反面、得点力という点においては堂安の方が買われているという事でしょう。
久保は森保プランにおいてはかなり可哀想な役回りを求められているともいえます。

そして押し出せないWB長友に変わってはアタッカーの三笘を投入。
これは前半の問題点を修正したというより、予め用意していたプランだったと思います。(ドイツ戦、コスタリカ戦と同様のベンチワーク)
前半の修正に関してはピッチで田中監督代行がやってくれていましたので。

ちなみにスペインもハーフタイムに右SBをカルバハルに変えていますが、もしかすると後半の三笘投入は読まれていたのかもしれませんね。


とにかく後半のピッチにはドイツ戦に続き、右WB伊東、左WB三笘という日本サッカー史上「最狂」の布陣が顔を揃えました。

その効果は後半3分、早くもかたちになって実を結びます。


堂安得点1
再び前田の前プレが発動した日本。
スペインのCBに鎌田を押し出し、SBにはWBを押し出せるのか・・・??







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森保『行け!!三笘!!』






堂安得点2
三笘のアプローチスピード速すぎwwワロタwww

スペインのSBカルバハルがボールを受ける時にはもうこの距離まで寄せています。

カルバハルはたまらず後ろを向いてバックパスをするしかなく、そのままGKまでパスが戻されます。



堂安得点3
GKに返されたボールには前田が三度追い(マジか!)

これではGKシモンに顔を上げる余裕は無い。



シモン(落ち着け…大丈夫だ。日本は右サイドでハメようと左WBをDFラインから押し出してきた。つまり逆サイドのSBに蹴っておけばフリーのはず)



はい、その通り。

この瞬間の全体の配置はこうなってました↓

後半WB1203
日本は最初左サイドでハメようと後ろから押し出してるんで、スペイン陣内に6枚かけてプレスしてるんです。(谷口も入れれば7枚)
で、スペインは左WGのダニオルモがハーフラインギリギリに開いて待ってるので、ここで伊東を押し出したら、剥がされなくても蹴られたらアウト。

つまり、左SBバルデにボールをコントロールされる前に一発必中で死んでも奪わないと終わります。



この状況で普通、行きませんよね?


でもね・・・この時の伊東の立ち位置が強気なんですよまた。
左WBの三笘もそうなんですがスペインのWGの背後からマンマークに付くのではなく、この時点でマークを背中に置いてるんです。
仮に背後に蹴られてもこの距離感ならヨーイドン!で追いつける自信があるから出来るんでしょうね。
自分を前に置いてるのは、いざ押し出すとなった時の距離を少しでも縮めておきたいから。

3バックで守っているチームがボールサイドのWBを押し出て4-4-2に可変させる事はままあります。
でも両WBを同時に押し上げるとなったら話は違います。
実質2バックになっちゃいますからね。





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森保『伊東!行けー!!』


あれ・・・?もしかして誰か憑依してません?




堂安得点4
本当に行ったよwww

敵陣に8枚の神風特攻プレス!


これだよ!俺が長年W杯で見たかったのは!!
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勿論、こんな守備が出来るのも両WBに本職がウイングを置いているという狂気のフォーメーションだからこそ。
この日本サッカー史上「最狂」の布陣にドイツに続き、スペインも全く対応出来ていません。


スペインが混乱に陥る最中、日本の追加点が生まれます。




田中得点1
日本陣内のFKからのリスタートですが、ここでも三笘、伊東の両WBは高い位置を取って日本は5トップ状態。

4バックのスペインは一枚落として守る必要があるのですが、ダニオルモ、お前のその位置取りは少々伊東を舐めすぎだ。



日本はGK権田のキック一発で伊東が背後を取る事に成功。

そこからサポートに入る田中碧にパスが渡る


田中得21
田中碧から堂安にラストパスが出ようという瞬間には、既に逆サイドで三笘がゴールに向かって走り出している。


オシム『日本では、うまい選手ほど少ししか走らない。それは逆だ。技術のある選手が、もっと走ればいいサッカーができる。』





田中得3
三笘がラインギリギリのボールに足を伸ばそうとするその瞬間、ゴール前のスペインの選手達を見てください。

全員足が止まっています。CBのロドリに至ってはオフサイド(?)を主張して手を上げている有様。


その中で一人・・・・、ただ一人田中碧だけが足を止めずにゴール前へ走り出しています。
そしてこの差が日本とスペインの勝敗を分けました。



オシム
『相手より5歩余計に走れば、その5歩がすでに勝利の5歩だ』




これね、普通は一瞬足が止まるもんなんですよ。
その証拠に日本の選手達だって、ラインを割るかどうか一瞬見てしまってますよね?


この瞬間に折り返される事を信じて足を動かせるのは、考えて走っていたんじゃ遅いんです。
思考を越えた反応で走っていないとこの田中碧の走りは説明がつきません。



その理屈を越えた反応の事を日本語でこう言います。










『信頼』と
mitomatanaka4.jpg


田中碧(試合後の談話)
『本当に小さい頃から一緒にサッカーをやってきたので。
最後まで信じて走ったので、それが最終的にはゴールにつながったので、彼を信じて良かったなって思います』



スペインの中盤にバルサの血が流れているならば、日本代表の中盤にはスカイブルーの血が流れていました。



オシムさん、見てくれていますか?


日本の選手達はこんなにも逞しくなりましたよ-





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<過去の悲劇が今日の奇跡を作る>

日本が逆転に成功したことで、FW前田はお役御免。浅野と交代になりました。
逆転に必要だった2得点で、前田が影のアシストを担っていた事は忘れるべきではないでしょう。
1点目はGKへの猛烈なプレスが最初のスイッチになっていますし、2点目も三笘と共に最後までゴール前に飛び込む執念を見せていました。

FIFAの公式スタッツでは62分の出場で60回のスプリント(勿論、この試合最多)を記録。
1分に1回スプリントするという驚異的なパフォーマンスで走り切りました。


一方のスペインは日本の狂気のWBを切り崩すためにサイド攻撃を強化。
左SBにレギュラーのジョルディ・アルバを入れて伊東が前に出てくる背後を2枚で突こうという姿勢を見せてきました。

すると返す刀で一分後に日本ベンチが動きます。



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森保「冨安、右サイドを封鎖だ」


この交代は完全に用意されていたプランでしたね。
さすがの伊東と言えど、スペインにWGとSB(アルバ)の2枚がかりで攻められたら分が悪いのは明らかです。
鎌田に代えて冨安を入れて、伊東は攻撃に専念出来るよう左のSHへ。
ここからはもう我慢からのカウンター狙いなので、鎌田のキープ力よりも伊東のスピードを残したかったという意図でしょう。

交代で入った冨安はこもミッションを完璧にこなし、Jアルバを完封。
当たり前です。サラーを完封した男なのですから。


以降の日本は5-4-1の10枚ブロックを引いて森保JAPAN得意の塩漬け戦法を開始。
この時間帯は押し込まれてはいますが、今大会最もコンパクトに戦えていました。
プレスバック、スライド、全体が一つの生き物のように連動。
スペインはどこにボールを動かしても全ての局面で日本が数的優位を作れているのでブロックの強度は崩れません。

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試合はさながら、スペインリーグでバルサがアトレティコに負ける時のパターンの様相です




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森保「我慢だ!粘り強く戦え…!!」



ここにきて森保監督が今大会でずっと強調してきた「我慢」と「粘り強さ」の最高峰を見せています。




一方のスペインの指揮官、ルイス・エンリケはこの終盤になって打つ手が無くなっていました。
スペイン代表の選手選考基準は明確です。上手くて賢い奴、それを26人集めました。
「我々が一番良いフットボールをしている」という自負と自信があったはずです。
誰が出ても上手い反面、足元は不器用でもでかくて強いアフロ頭とか、パスワークは苦手でも無骨に仕掛けるドリブラーといったタイプは今回のスペインにはいません。

交代カードを切る度、スタメンの劣化版が出てくるに過ぎないスペインに対して、日本は三笘、冨安、終いにはクローザーとしてブンデスリーガのデュエル王(遠藤)が出てくるなど、交代カードを切るたびにチームが強化されていきました。

ルイス・エンリケ
『森保半端ないって!ベンチから次々とエース級が出てくるもん!そんなんできひんやん、普通(涙目)』




森保JAPANには明確なスタイルもゲームモデルもありません。
だからこそ、上手いやつ、速いやつ、強い奴、何か一芸に秀でていればどんな選手でも選考対象になります。
「全員がレギュラー」と公言してきた森保JAPANは選手構成によってガラリと姿を変え、ドイツやスペインはその変化に全く対応出来ませんでした。
欧州と言わず、今大会世界中を見渡してもこんなチームは他に類を見ないからです。


特筆すべきはロスタイムの7分間、スペインに1本のシュートはおろか、CKさえ与えていない日本の戦い振りでしょう。
それは日本サッカーが積み上げてきた歴史が、ロスタイムの戦い方をピッチ上の選手達にインストールしてきたからです。


doha.jpg
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もしかすると観ているファンの脳裏には過去幾多のシーンが浮かんだかもしれません。
しかし昨日までの悲劇が、今日の強さにつながっているのです。



森保監督
「最後の1分くらいのときに、私のドーハの記憶が出てきました。でもちょうどそのときに選手が前向きにボールを奪いに行っていたところで、あ、時代は変わったんだな、と。選手たちが新しい時代のプレーをしてくれているということを思いました」



一方のスペインがロスタイムにした事。
それはCBからのタテポン放り込みでした。万策尽きたスペインは最後の最後に自分達のスタイルを捨てるしか手が無かったのです。

僕にはそれはスペインからの白旗のように見えました。


リスクを恐れずに一歩を踏み出した森保JAPANが日本サッカーに新たな歴史を作ってくれました。




moriyasusuoaein.jpg
<森保JAPANが見せた二面性>


この勝利の要因を分析すると森保JAPANが持つ二面性が見えてきます。


まずはドイツ戦に続いてこのスペイン戦でも森保監督の戦略がビタリとハマった事が最大の勝因になります。
日本がスペイン相手に「神風特攻プレス」をかけるなら15~20分が限界と踏み、それをどの時間帯で繰り出すか?

森保監督が出した答えは前半45分をひたすら我慢(0-1でもOK)して、後半の頭から三笘、堂安という人的リソースを投入し15分で勝負を賭けるというもの。そこでリードを奪えば今度は冨安、遠藤といったカードで試合をクローズさせる。


そしてこの神風戦略を成功に導いているのが日本の選手達が持つ自己犠牲の精神です。
考えても見て下さい。チームで一番ドリブルが上手い三笘と伊東が本番でいきなりWBをさせられて、賢明に守備でも頑張っているからこそこの戦略は成り立っている訳です。

これは南米や欧州の国だったらそう簡単な話ではないですよ。

だってネイマールやムバッペがいきなりWBやらされて、こんなに献身的にプレー出来ると思いますか?


普通は逆です。
今大会でもアルゼンチンやポルトガルの試合を見てみて下さい。GK権田より一試合の走行距離が少ないメッシやロナウドといった選手の負債をチームが肩代わりしている図式です。


これらの例を見ても日本人が持つ特性と森保監督の戦略がビタリとハマっている事は間違いないと思います。



一方で、では具体的にどう前半45分を耐えるのか?
スペインのポゼッションをどのように制限し、どこでボールを奪うのか?

そういった具体的な戦術に関してのベンチワークは今大会ほとんど見られていません。
2日前までは別のシステムでスペインに対峙しようとしていたんですから、それも無理はないでしょう。

現状は選手の「粘り強さ」に一任されている状態です。



だからこそ、強豪相手(ドイツ、スペイン)にビハインドを負い、やる事が明確になった時にこのチームは最大の強さを発揮します。
リアクションの強さと言い換えても良いかもしれません。

一方でドイツ、スペイン相手に快勝したのが森保JAPANの現実なら、コスタリカ相手に何も起こせず敗戦したのもまたこのチームが持つ一面なのです。歴史的勝利でそこから目を背けるべきではないでしょう。

コスタリカのように、相手に日本を研究されて、ボールを持たされて自分達からアクションを起こす時、このチームが持つ武器はあまりに少ないと言わざるを得ません。
過去の日本代表も「自分達のサッカー」と言い出した途端、負けパターンにハマってきた歴史があります。


果たしてベスト8を賭けたクロアチア戦で見られるのはどちらの森保JAPANなのでしょうか?






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テーマ : FIFAワールドカップ
ジャンル : スポーツ

日本サッカーの歪さの象徴として~日本×サウジアラビア~

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<日本サッカーの歪さの象徴として ~日本×サウジアラビア~

お久しぶりの人、どうもご無沙汰しております。
ブログでは初めましての人、ようこそ変態の世界へ。

このブログを放置していた期間に色々身の回りに起きたものの、わたくしサッカー店長の原点はここ戦術ブログにあります。
初心忘れるべからず、今一度原点に回帰して、ブログを更新したいと思います。

というのも、更新していない間にもDM等で「森保JAPANは一体全体どうなってるんや!?」「来年のW杯大丈夫なの?」「むしろ、ここらで予選敗退も悪くない」などなどたくさんの意見をいただいておりました故。
わたくしも重い腰を上げて、そろそろ日本代表について一太刀入れるべき時が来た、といったところでしょうか。


まず、昨年11月のオマーン戦黒星をピークに沸騰したW杯大丈夫なのか問題について。
これについては個人的に全く心配しておりません。予選が始まる前から全勝は無いだろうが、どう間違っても予選通過ラインは突破するだろう、と確信を持っていたからです。(万が一、3位で大陸間プレーオフに回った場合も、それはそれで楽しめるだろうという楽観主義ww)

言い方を変えれば、それだけ日本サッカーの総力は現在においてもアジアでは上位に入ると思っています。
これは主に選手個々のクオリティの高さが担保されていることからくる安心感でもありますが。

今回はここらへんも踏まえて本題に入りたいと思います。
先日のサウジ戦のマッチレビューから森保JAPANの現在(いま)を検証していきましょう。


<事前準備の差が明確になった立ち上がりの攻防>
まず日本代表のスタメンは先日の中国戦から継続でした。これはまあ過去の采配からも想定通りでしょう。
巷では不満の声も一部聞かれましたが勝っているチームをいじるにはそれ相応の理由が必要です。
チームとして明確な形がなく、選手同士の連携をパッチワークのようにつなぎ合わせて作られている現在の日本代表において、パズルを組み替えるリスクは小さくありません。

いっぽうのサウジにしたって前線のメンバーこそ一部入れ替わっていますが、やってくることは前回対戦時とほぼ何も変わっていません。後ろからしっかりボールをつないでくる事、その際3バックに可変して噛み合わせをズラしてくることなどなど。DFラインはほぼ同じメンバーなのでSBを上げてボランチを落とす可変のパターンも全く同じでした。

つまり、日本とサウジはお互いにお互いの手の内が分かり切った上での試合だったはずです。
となれば試合の優劣を左右するのはチームとしての事前準備と、選手個々のクオリティの総和になります。

ではまず実際の試合からサウジアラビアの最初のビルドアップに対して、日本がどのような守備を行ったかを見ていきたいと思います。日本のこの試合に向けた準備が問われるシーンになります。


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サウジアラビアのフォーメーションは4-2-3-1。ビルドアップではそこからボランチが1枚落ちて3バックに可変するのが彼らの一つのパターンになっています。
これに対し、4-3-3の日本はCFの大迫が1枚でCBを見る守備を敷いていました。両WGは相手のSBが高い位置を取って来るのでそれに引っ張られるように後退。結果的に大迫が孤立するようなかたちになっています。システム的には4-5-1気味の守備とでも言いましょうか。

この守備では当然、ボールの出どころが1対3の数的不利なのでプレッシャーなどかかる訳もなく、自由に蹴られてしまいます。



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サウジに高い位置を取ったSBに振られて、これに対応するのはSBの酒井。
同タイミングで酒井が出ていった裏のハーフスペースにサウジの選手が走り込んでいます。
このオートマティズムは試合を通して見られたサウジの形であり、彼らの事前準備が見られたシーンと言えるでしょう。



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結果的にサウジに最初の攻撃からクロスまで持っていかれてしまいました。
サウジの最も基本的な攻撃パターンに対し、前半1分で後手を踏んでいることからも両チームの「事前準備」ではまずサウジに軍配が上がったと思える立ち上がりでした。

そしてこの日本の守備は前半を通してあまり大きな変化は見られませんでした。
次が前半30分過ぎのシーンです。

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相変わらず大迫1枚ではファーストディフェンスにならず、サウジのCBに自由にボールを運ばれているのが分かります。
右ウイングの伊東は背後で高い位置を取るサウジのSBが気になるので出て行けず、実に中途半端な位置取りになっています。


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日本の守備はボールの出どころに対してファーストディフェンスが定まらないので、結局中盤を経由されてSBを使われています。



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前半の日本の守備の問題は結局サイドを使われて、前線のWGが後追いで戻ってくることにあります。
この守備だと例えボールを奪えたとしても、カウンターで本来使いたいWGのスピードが活かせません。


前半の日本の先制点がサウジの右サイドのスローインから始まっていたのは偶然でも何でもなく、こちらから攻めてくれた場合のみ逆サイドの伊東が高い位置に留まれるからです。

【日本の先制点につながったサウジのスローイン】
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恐らくこのスローインが逆サイドからだったなら、日本の先制点は生まれていなかったことでしょう。




<最適解の修正>

後半、日本の前線の守備が修正されていました。
後半立ち上がり5分のシーンでそれが垣間見られます。

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サウジのCBがビルドアップでボールを持つと、日本は両WGの南野と伊東が背中でSBを消しながら外切りで猛烈なプレスをかけに出ているのが分かります。

このハイプレスで落ち着いてボールを持てなくなったサウジは、慌ててSBへ対角のパスを送りますが・・・



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このパスは後ろのSB長友を押し上げることでインターセプトに成功。
ファーストディフェンスでサウジの選択肢を削っているので、後ろのDFが次を狙いやすい状況を作り出していました。

この守備の利点は、ボールを奪った瞬間に前線の3トップが高い位置でカウンターに関われることにあります。
クロップ監督のリバプールなども得意としている4-3-3の守備ですね。
サラー…じゃなくて、伊東のスピードを活かすなら前半と後半、どちらの守備が良いかは一目瞭然。

願わくば事前準備の段階で、この守備を仕込んでおけば前半からもっとチャンスを作れたんじゃないかという気も?

この後半の修正もチーム主導なのか、選手達の判断なのかは内情を見た訳ではないので分かりません。
ですが、後半も選手交代で3トップの顔ぶれが変わるとまた元の守備に戻ったりしていたので、前半を戦い終えた選手達主導の話し合いで修正された可能性は充分あるな、と個人的には思いました。


<中盤の三銃士>
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では続いて、日本の攻撃面を見ていきましょう。

日本が最終予選の序盤で苦戦を強いられていた要因がこの攻撃面にあります。
これまでの日本の攻撃における問題点は「前線に幅がないこと」「柴崎が間で受けずに落ちてきてしまうこと」の二つでした。

↓の画像はオマーン戦からのワンシーンですが、日本の典型的なポジショニングがコレです。
【日本のポジショニングの問題点】
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このポジショニングの問題点はまず3トップを敷いているにも関わらず、何故かFWが3枚とも中央に寄っていて3トップシステムが持つ本来の良さを全く活かせていないということです。
そして中盤ではIHの柴崎が密集を嫌がって間のスペースを離れ、相手の守備ブロックの外に落ちてきてしまっています。

よく現代サッカーにおける攻撃の定石として「深さ」「幅」「間」の三点を抑えろと言われますが、↑の日本代表が体現している4-3-3(らしきもの)のポジショニングでは何一つ抑えられていないということが分かります。



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このポジショニングでいくらボールを回したところで、3トップが密集しているので相手の4バックも密集していしまい、前線は常に3対4の数的不利の状況。
加えて中盤の「間」に人(柴崎)がいないので、相手は何の躊躇いもなく3トップを潰しに行けます。

この状況でDFラインから無理な縦パスを打ち込んでは失っていたのがオマーン戦前半までの日本の攻撃でした。

ですが、この試合の後半に伊東と三苫が幅を取るようになり、中国戦からは中盤で守田が使われるようになって日本のポジショニングが大幅に改善されるようになりました。



ただ今回のサウジ戦も序盤は中盤の3枚が上手くボールに絡めない時間帯が続いていました。
アンカーの遠藤がサウジの2トップに上手く消されて狭いスペースに押し込められたことで、CBからアンカーにパスが出せず、外→外一辺倒の攻撃ではせっかくの3トップの幅を活かしきれません。

この状況にいち早く反応したのが田中碧です。
積極的にポジションをローテーションしながら動いて、CBからのパスを引き出す動きを見せ始めました。

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このシーンでは遠藤の代わりに田中がアンカーの位置に入って、中盤3枚のポジションがローテーションされています。
そしてアンカーの位置に入った田中碧はDFラインまで落ちるのではなく相手の2トップの間で我慢のポジショニング。ボールを受ける前に背後から寄せてくる敵がいないことを認知しておきます。


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だから2トップに挟まれていても余裕で前が向ける!
間で止めて(遠い左足)→前向いて→インサイドパス(右足)
この淀みないアクションがFWのプレスバックを許さない。



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このパスを間で受けた守田も余裕で前向けちゃう。
これがKAWASAKIスタンダードの『止める・蹴る』なのか…!?
やはり4-3-3は中盤3枚が間で受けて前を向けたら強い。
中盤の真ん中を割ってパスを通しているのでサウジの守備がギュッと中央へ絞っているのが分かる。
これで3トップが幅を取る意味が最大化され、出し手の守田が前を向けるからスルーパスも出し放題。

そして、これだけサイドにスペースがある状況でモハメッド伊東を走らせておけば…




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格が違うのだよ!格が!


これなんですよ、日本がアジアで取るべき正しい振る舞いは。
サウジの左SBが脅威とかいう事前報道もありましたが、相手はマルセロでもアルフォンソ・デイビスでもないんだから、問題無し!

田中と守田が中盤を制圧し、遠藤がボールを狩りまくる。
遠藤は前向きにボールを奪った後の最初のパスが必ず縦パスで一つ奥を狙っており、これぞブンデスリーガというMFに仕上がってきましたね。この試合の日本の2得点はいずれも遠藤がボールを奪った後の縦パスが起点になっています。

時にポジションをローテーションしながら阿吽の呼吸を見せる中盤3枚はモドリッチ、クロース、カゼミーロの領域に足を踏み入れつつあると言ったら言い過ぎでしょうか?

とにかくこの中盤3枚は現在の森保JAPANの核として機能しており、不動のトリオとして外せないユニットになってきました。


サウジの怪しいSBと違い、攻守で完璧なプレーを披露したSBの酒井。
「戦術伊東」と言わしめるほどの存在感を見せつつある伊東。
吉田、富安という守備の格を欠きながらも、危なげないプレーで無失点に抑えた谷口、板倉の急造CBコンビ。

サウジは怪我で欠場の主力ポジションに代わりに出場した選手が大きくチームのクオリティを落としていたのとは対照的に、日本はベンチも含めた選手層の厚さが際立っていました。
日本とサウジの選手個々のクオリティを見れば、一つ一つのプレーの精度の差は明らかです。

最終予選とは序盤は勢いで勝ち点を稼げても終盤戦ともなれば代表の総合力が問われる戦いになります。
だからこそ、日本の予選突破は最初から疑っていません。問題はその先にあります。

「戦術伊東」でフランスやブラジル代表のSBを果たしてこの日のサウジのようにぶち抜けるでしょうか?

守備のゲームプランを試合が始まってから組み立てているようでは、前半の内に致命的な失点を喫するリスクがないでしょうか?


選手という素材は間違いなく上質なものが揃い始めているにも関わらず、これを適切に調理出来る料理人が不在なだけでなく、使っている調理器具と厨房が20年前の時代錯誤な代物という日本サッカーの歪み。
森保JAPANの最終予選におけるチグハグな歩みはその歪みを象徴しているかのようです。

このままなんとなく予選を通過してしまうと、またもや「課題が見つかる」W杯本大会で終わってしまいそうなデジャヴ感。

ならばいっそ・・・本大会前に大陸間プレーオフで南米5位とガチの削り合いをしておくのも良い経験になるかもしれません(笑)




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『愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶ』~日本×カタール~

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<愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ ~日本×カタール~

西野JAPANのロシアW杯ベスト16を引き継ぐ形で発足した森保JAPAN。
昨年のテストマッチでは南米の強豪ウルグアイを破る快進撃を見せ、アジア杯決勝を迎えるまで目下無敗という成績。
このカタール戦を迎えるまで、森保JAPANには追い風しか吹いていなかったはずが、たった1つの敗戦で今や空気は一変してしまいました。

それぐらい、衝撃的な完敗劇だったと言えるのではないでしょうか。

しかし今大会の勝ち上がりを見ても森保JAPANの強さはアジアでは際立っていたはずでした。
「絶対に先に失点しない」という森保監督の強い哲学が感じられるゲーム運びは、今大会で台頭した「日本の未来」こと冨安を中心にしたDFラインの安定感と5-4-1の撤退も辞さない「人海戦術の守備」が鉄壁を誇っています。

象徴的な勝ち方であったサウジ戦では脅威のボール支配率23%で1-0の勝利。
「ボールなどいらない、欲しいのは結果のみ」という割り切りが真骨頂のチームであり、確かにアジアでは日本が組織的に我慢比べを挑めば、必ず先に根を上げるのは相手チームの方です。
大会優勝最有力と見られていたイランも日本の我慢比べに根負けして結局自滅していました。

勿論、これが通用するのはアジアまでです。
日本サッカー界はW杯後の4年間で毎度アジアでイキって調子に乗り⇒世界に出て叩かれるのサイクルを繰り返してきた歴史があります。

だからこそ、このアジア杯では日本が優勝候補であり続けられる訳ですし、それは大会前から分かっていた事でした。
しかし、このアジアで欧州や南米の一線級を相手にした時のような完敗を喫したとなればこれは一大事です。
この一敗は前回大会でシュート37本を打ちながらPK負けしたベスト8の"アレ"とは全く別次元のものとして扱うべきでしょう。

ではせめてこの歴史的な一敗という「経験」から我々も最大限学べるよう、敗因を分析しながら試合を振り返っていきたいと思います。



<恐るべきカタールのポジショナルサッカー>
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日本の最大の敗因、それはカタールがこれまでのアジア諸国には見られなかった緻密なサッカーで日本を完全攻略してきたからでした。
この試合、これまでの日本の勝ちあがり方をスカウティングしたカタールは3-5-2の布陣を選択。
具体的な狙いは両チームの布陣の噛み合わせを見れば明らかです。

【日本×カタール 両チームの布陣噛み合わせ】
日本カタール2

後ろから丁寧にボールをつなぐカタールはビルドアップの始点で日本の2トップに対し3対2の数的優位。
加えて1・5列目をウロウロしているFW11番のアフィフがこのチームにおけるメッシ役で、機を見て中盤に降りてくるので中央エリアでは日本の2ボランチ×カタールの3MF+1FWという絶対的な優位性を築いています。

では実際の試合序盤のシーンからカタールの狙いと日本の噛み合っていない守備を検証していきましょう。


【カタールの4-4-2殺し】
カタールポジショナル1
カタールの3バックから始まるビルドアップに対し、日本は2トップで規制をかけようとしていますが、ここではカタールがCHまで加わって4対2の鳥カゴ状態になっているのがよく分かります。




カタールポジショナル2
3バックに規制がかからないので、間を通されてボールはCHへ。
このCHに柴崎が出て行くと、もう1枚のボランチ塩谷は前線から落ちてきたFWアフィフをケアするのでハーフスペースに落ちてきているIH(インサイドハーフ)が完全に浮いてしまいます。
しかも日本のDFラインはカタールの1トップ+WBでピン止めされているので、この落ちていくIHを捕まえられる選手は誰もいません。

3バックで2トップのファーストラインを剥がし、CHでセカンドラインのボランチ(柴崎)を食い付かせたら次はハーフスペースへ、という具合に日本の守備ラインを1列づつ剥がしていく狙いがカタールの配置に集約されていると言っていいでしょう。


そしてこれがいわゆるオーソドックスな配置の優位性を活かした4-4-2殺し、ポジショナルプレーの系譜です。

吉田麻也
『ボランチの脇で11番を誰が掴むのか。1点目も2点目もそこを起点にされて失点している。そこでの臨機応変さが足りなかった』




-3バックに対して2トップで守備をしていたらハマらない-


ならばSHを加勢させたらどうか…?


この安易な対応こそがカタールの罠であり、結果的に日本は2失点という重過ぎるしっぺ返しをくらう事になろうとは-



【日本の失点シーン検証】
カタール得点1-1
続いてもまたカタールの3バックから始まるビルドアップに対し、2トップ+SHの原口が加勢して3対3のプレスを敢行




カタール得点1-2
しかし、この時の原口の寄せる意識は完全に「人(CB)」に向いており、背中にいる敵と自分の内側のパスコースを切る意識が皆無と言って良いレベルで低いと言わざるを得ない。

ポジショナルプレーとはすなわち相手の出方を見た後での「後出しジャンケン」なので、カタールのCBは原口のこの寄せを見て隣のCBではなくハーフスペースへのクサビを選択




カタール得点1-3
やはりこの原口の寄せ方だとこのコースを通されてしまう。
守る側である日本からすると、このハーフスペースにクサビを入れられてしまうと一気に苦しい状態に追い込まれてしまうのだが・・・




カタール得点1-4
それは何故か?と言えば、中を通された場合、守備ブロックは一度中央に収縮させざるを得ない。
カタールはここでもそんな日本の動きを見た「後出しジャンケン」で今度は空いたサイドのスペースへ流れたアフィフへサイドチェンジ。
(この11番アフィフは本当に厄介な選手で、常に日本の陣形の動きを見た後で「空いたスペース」を察知し、そこへ顔を出す)





カタール得点1-5
上空からのアングルで見ても明らかな通り、中に絞った日本の守備ブロックと、サイドに空いたスペースが一目瞭然。
これだけスペースのあるサイドにボールを展開されたら守備側は後退するしか手は無い。







カタール得点1-6
↑はアフィフがサイドでボールを受けた後のシーンです。
カタールは次のクロスに備えて、FW+IHの2枚がゴール前に走り込もうとしていますが、そのポジション取りに注目。
きちんと5レーンにおけるハーフスペースのレーンをIHが走っています。
中の3枚が全員、日本のDFとDFの間のコースを取っている事にカタールの完成度が垣間見えます。
(明らかにこれまで対戦した中東の「前線個人頼みサッカー」とは一線を画している)






カタール得点1-8
で、実際にクロスが中央のFWに入った瞬間ですが、結果的にこの後、オーバーヘッドを選択してゴールにつながるこのシーン。
ゴールを決めたFWの両脇をIHがサポートに走り込んでおり、クロスが入った時点でカタールにはいくつもの選択肢があった事が分かります。
攻撃の確率とはいかに多くの選択肢を用意するかなので、この状況を作った事が既にカタールの勝利であり、
このゴールは結果的にその選択肢の中から自分でオーバーヘッドという選択を取ったに過ぎない。



そして続くカタールの2点目も全く同じ構図から生まれています。



【カタールの2点目を検証】
カタール得点2-1
このシーンでは左SHの原口と右SHの堂安がポジションを入れ替わって守備をしていますが、人が変わっても全く同じ状況が生まれている事にご注目。
ここでも3バックの右CBに堂安が寄せるが、やはり意識はあくまで「人(CB)]であり、背中にいる敵と自身の内側のコースを切る意識が希薄になっています。

↑このシーンを見て「堂安じゃなくて、ボランチの塩谷がこのコースを切ったら良いのでは?」と思う人もいるかもしれません。
しかし、もしボールに充分なプレッシャーがかかっていないこの状況でボランチの塩谷が堂安の背後をケアするポジションを取った場合、一体何が起こるのか?




カタール得点2-2
仮に塩谷のポジションが堂安の背後寄りにスライドしていたら、一番肝心な中央のFWへのクサビルートがポッカリと空いてしまいます。
そもそもボランチはこの一番打ち込まれたくないコースとスペースを消すのが役目なので、ここを空けてしまったら本末転倒。
故に、だからこそハーフスペースというのは現代サッカーにおいて有効と言える訳ですね。






カタール得点2-3
結果的に1失点目と全く同じパスコースを通されてしまう日本。
こうなると守備側は自陣ゴール前まで撤退あるのみ






カタール得点2-4
しかーし!自陣で4×4のブロックを形成しても、やはり堂安の中を閉める意識が低過ぎてバイタルへのコースがガラ空きやー!






カタール得点2-5
ここを通されてしまうと、CBの吉田と冨安はまず失点の確率を減らす為、DFライン背後のスペースを消す後退の一択しかない。
(もしここにスルーパスが出たらそれこそ致命傷)








カタール得点2-6
故にドリブルで中に切り込まれてそのままシュートを打たれるこの場面でも、一度背後をケアした分、CB吉田の対応が1歩遅れて寄せきれず⇒シュートコースが消しきれなかったというロジックですね。

TVの前で思わず「何で吉田、寄せんねん!」と思ってしまった方は、あの瞬間CBがボールに食い付いて、背後にスルーパス出された時には文句を言えないのでご注意下さい(笑)





<後手に回り続けた日本の対応>
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気付けば前半26分でスコアはまさかの0-2。
その原因ともなったこれまでの日本の守備の問題点をまとめてみましょう。

・3バックにされた事で2トップ×3バックだとプレスがハマらない
・空いたCBからCHを使われて、ボランチが出て行くと今度はハーフスペースにいるIHが浮いてしまう
・かと言ってSHを2トップに加勢させて3バックに「3対3」の同数でプレスに行くと中を通されて、これまたハーフスペースを使われる


うーん・・・こう書き出すとまさに八方塞りですね(^^;
つまり、これが「人」に付くだけの守備の限界であり、だからこそ4-4-2ではSHが守備の戦術インテリジェンスが低い場合、スコスコにやられるっていう良い一例なんですけどね。

3バックに対して4-4-2で守る場合、SHが内側のコースを背中で消しながらCBに出て行くという「1人で2人を見る守備」が出来ないと簡単に中を通されてしまいます。
この「1人で2人を消す守備」が日本で最も得意なSHは乾なんですが、その乾もスペインに渡ってからこのポジショニングを叩き込まれたので現状、日本の育成でこの守備は実装出来ていません。

ちなみに乾はエイバル時代のメンディリバル監督から「CBとボランチとSBの3枚を1人で見ろ!」と言われており、「1人で3枚を消す守備」を要求されていたというんですから、世界のトップはげに恐ろしき。
(具体的な方法は背中でボランチを消しながらCBを牽制し、SBに出されたら一気にスライドする、という頭脳とハードワークを兼ね備えた極めて高レベルのプレーでした)

そんな乾だけに試合後のコメントは悔しさが滲み出ています。

乾『2トップで3バックを見ていた。それだと絶対に(プレスは)はまらない。気づいていたのに言えなかった』



それにしても日本ベンチの対応は一体どうなっているのか?
0-2とされた後の日本ベンチが抜かれた画を見て、戦慄が走ります-

森保前半28分
まだ監督とコーチが対応を話し合っている・・・だと?

この試合、キックオフから5分もすればカタールの布陣とその狙い、そして4-4-2との噛み合わせの悪さは一目瞭然だったはず。であるならば遅くとも前半10分~15分までにはベンチから修正の一手が打たれるのはCLなどのトップレベルのサッカーでは当たり前の光景です。
それをもう前半も30分になろうかというこの時間帯でまだ対応策を決めかねている・・・というのでは現代サッカーでは致命的とも言える遅さ。

実際にそうこうしている内にスコアは0-2になってしまった訳ですから、勝敗の8割はこの前半30分までに決まってしまったと言っても過言ではないでしょう。


この後、ベンチの森保監督がタッチライン際に大迫を呼んで前線の守備を修正したのは前半35分の事。
森保前半35分

「どう修正してくるかな?」と注目して試合を見ていましたが、この修正が実際にピッチ上で具現化されたと思われる前半45分のシーンがコチラ↓


【前線の守備を修正】日本修正(前半44分)
カタールの3バックに対してはパスが出てからSHが出て行く形だと先ほどのように中を通されてしまうので、あらかじめ堂安、原口のSHを上げて大迫とマンツー気味の3トップを形成。
CHにトップ下の南野がマンツーマンで付いて、IHの2枚を2ボランチ(柴崎+塩谷)で、WBにはSBを押し出して、逆サイドのWBを捨てる事で最終ラインの「+1」を確保。

やはり「守備=人に付く」意識が強い日本の修正はどこまでいってもマンツー寄りではありましたが、こうする事でようやく守備に安定感が生まれ、前で引っかけるシーンも出てきました。


・・・しかし、時間はもう前半45分を過ぎたロスタイム。
あまりにも遅すぎた修正であり、終始後手に回り続けたこの試合を象徴するようなシーンでした。



<カタールのゾーンを主体とした守備>

一方、カタールは守備もポジショナルディフェンスと言うか、あくまで人ではなくボールとゾーンを主体にした見事な配置を見せていました。


【カタールの守備を検証】
守備カタール4
↑は守備時WBを下げて5-3-2で守るカタールの守備ブロックの図

2トップが縦関係で、中盤の3枚がボールサイドからL字型に綺麗なディアゴナーレ(チャレンジとカバー)を形成しているのが分かります。
カタールの守備は1人が1人に付く、というものではなく、ボールと味方を基準にしているのでこの時の各選手の果たしている守備の役割を可視化させると以下のようになります↓


守備カタール3
まず前線の大迫は3CBがいるので、大迫がどう動こうと3対1の完全数的優位で対応出来るので問題無し。
縦関係の2トップは1・5列目に入る11番のアフィフが背中でボランチ(柴崎)を消しています。
そしてボールホルダーのSB酒井にはIHが寄せますが、ナナメのコースを切りながら中から寄せるので結果としてボールに寄せながら背中にいる堂安も消せているので「1人で2人を」見れています。
そしてこのIHとディアゴナーレを組むCHは、あくまで味方のIHの位置を基準にナナメ後方に位置取る事で「相手(堂安)」に付くのではなくスペースを消しながら結果として目の前にいる堂安を見つつ、背中でトップ下の南野を消せているのでこれまた「1人で2人」を見れてしまいます。

このようにゾーンベースの守備はあくまでボールと味方を基準とした位置を取り、その結果として間のスペースに立っている敵(人)を消してしまう・・・という守り方です。

この守り方の利点は以下の通り
・人を前に置くのではなく、自分が前で背中で消しているのでパスが出てから寄せるのではなく、パスコース自体を消せている
・守備がリアクションではないので相手にどう動かれても陣形のバランスが崩れにくい
・SBが上がったらどこまでも付いて行く原口・・・というような属人的な過負荷が無いので運動量を節約出来る

そして最大の利点は「ボールを奪った瞬間にカウンターで優位性が持てる点」です。


【背中で消す守備の利点=カウンターの優位性】
カタール守備ゾーン1
↑はカタールのゾーン守備の優位性が明らかになったワンシーン。
まずカタールは縦関係の2トップがディアゴナーレを組む事で2枚で日本の2CB+ボランチ(柴崎)を消せているのが分かるかと思います。
3バックのカタールに3枚をマンツーでブチ当てないと守れない日本とはまず守備の始点で違いが明らか。





カタール守備ゾーン2
カタールはここでもボールと味方を基準にディアゴナーレを組むのでFWもCHも背中でコースを消せている状態。
追い込まれた吉田はグラウンダーのパスだと全てカットされるので浮き玉のロングボールを前線に蹴るぐらいしか選択肢が無い






カタール守備ゾーン3
まんまとロングボールを「蹴らされた」吉田だが、ここは逆サイドのIHが絞ってカバーしていたので難なく処理。
そしてこのボールを跳ね返す瞬間に、マークを自分の「前」ではなく「後ろに置いていた」事の利点が明らかに。
カタールはこのボールを前線に跳ね返せば、攻撃と守備の⇒が入れ替わるのでボランチ(柴崎)の背後でFWがフリーで前を向ける状態に





カタール守備ゾーン4
ハイ!出たこの形。2CBに2トップで向かって行ける極めて危険なカウンター。
日本は自陣から何でもないロングボールを一発蹴っただけで、跳ね返されたらもうこの状態である。


これが攻撃と守備を分けて考えるのではなく、連動したものとして
奪った瞬間のカウンターを想定した配置で守る、という考え方ですね。

これ即ち、ポジショナルプレーなり



<両指揮官の修正力の差が明暗を分ける>
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カタールから見れば前半を終えて2-0。あとは安全運転で後半を乗り切れば問題は無いだろう。
という事でハーフタイムにカタールのサンチェス監督は5-4-1へ布陣を変更して守備を固める一手を打ちます。
しかし、これは結果的に日本に息を吹き返すチャンスを与える悪手でした。


【5-4-1にしたカタール】カタール5-4守備1

日本は前半、ボランチもSHも上手くゾーンの中に取り込まれてパスコースを消されてしまい、結果的にCBやSBから長いアバウトなタテパスを入れるしか攻撃の手が無かったのですが、後半のカタールが5-4-1で撤退を選択した為に、前半ほとんど前を向いてボールを持てなかったボランチ、とりわけ柴崎がフリーで前を向けるようになったのは救いでした。

日本はボランチがボールを持てるようになるとSBが上がる時間を作れるようになり、攻撃に「幅」と「厚み」が生まれます。
更にこの状態でボールを持った柴崎はこの身体の向きから・・・・





カタール5-4守備2
このコースにタテパスを刺せるから!

柴崎はこういうオープンな姿勢からサイドに出すと見せて相手DFを動かし⇒厳しいコ-スにタテパスを通すのが真骨頂。
ちなみに4年前の前回大会でも、この形から日本のゴールが生まれていたのを憶えていますか?


【4年前のアジア杯ゴールシーン】
前回アジア杯
この身体の向きからバイタルで待つ本田にタテパスを通してゴールの起点を作っていました。

つまり、柴崎が前を向ける、というのは日本のバロメーターでもある訳です。
(以前は遠藤ヤットがこの役割)


実際に試合では5-4-1で撤退するカタールに対し、日本がボランチを中心に一方的にボールを支配する時間が続きます。
これを見てカタールのサンチェス監督は自身の一手が悪手だった事に気付き、すぐさま動きます。


カタール352修正1
後半15分、すぐさま選手交代で布陣を5-4-1から前半の5-3-2へ戻してきました。
やはりこの15分というベンチの反応時間が世界のスタンダードと言えるのではないでしょうか。
(前半、35分まで動けなかった森保監督と後半15分で動いてきたサンチェス監督)



カタール352修正
後半15分、カタールの守備陣形が5-3-2に戻っているのが分かります。


これで再び試合は拮抗するかに思われましたが、カタールはもう1つディスアドバンテージを抱えていました。
それは「中2日」という日程面での不利であり、後半20分過ぎからじょじょに足が止まっていきます。

この間隙を突いて生まれたのが日本の得点でした。



【日本の得点シーンを検証】
0203日本得点1-1
↑は後半23分のシーンですが、日本がSBからSBへUの字に横パスをつなぐと、特に中盤3枚で横幅68Mを横スライドするIHに明らかに疲れが見えて日本のSBへの寄せが甘くなっています。

これで余裕を持って前線を見れるSB酒井から、後半途中投入された武藤の裏抜けへ。
前半と違ってボールにプレッシャーがかからず、ナナメのコースも切れてないカタールは背走するしかない




0203日本得点1-2
前半、ほとんど入らなかったFWへのクサビが入るようになり、日本はカタール陣内で試合を運べるようになりました。
↑このシーンでもこの後、武藤はボールを奪われてしまうのですが、敵陣深くから守備をスタート出来るので・・・








0203日本得点1-3
奪った後の二次攻撃も敵陣深くからスタート。
SBも高い位置を取っているので、これを拾った酒井がカットイン






0203日本得点1-4
この流れから塩谷がタテパスを入れて南野が待望のゴール、という流れ。

勿論、日本からすると待望のゴールだった訳ですが、このシーンをよく見てみると前線4枚+両SBにボランチまで加勢して、まさに「神風特攻オフェンス」のごとき。後ろには2CBしか残っていません。

つまり森保JAPANとは先に先制してしまえば後は5-4-1の「人海戦術」で守って逃げ切るか、
このようにビハインドを追って攻めに出る時も2-2-6の「人海戦術」で特攻するしかないという、どこまで行っても「人を増やす事」でしか攻撃も守備も出来ないチームと言えるのではないでしょうか?


さて、この嫌な時間帯に1点差に追いつかれたカタールのサンチェス監督。
これがもし立場が逆であったなら日本は「これは追いつかれる流れ」「だから2-0は危険なスコアだとあれほど…」「とにかくアフロが出て来たら気を付けろ」とパニックになるところでしたが、日本の同点弾が戦術的なロジックではなく単なる「全員攻撃の特攻」による産物に過ぎない事を見抜いていました。



カタール後半修正
失点後、すぐさまMF(カリム)を呼び寄せて指示を与えるカタールベンチの動き。
IHに投入する事で、まず守備では疲れの見える横スライドの遅れ問題を解消するのがこの交代による狙いの1点。

そしてもう1点、日本が2CBを残して全員攻撃状態であるならば、狙うは勿論カウンター。
その時に2トップに+もう1枚、攻撃に上がって来れる元気なIHがいる事でカウンターの厚みを増し、得点率を高めたい。
これが失点の瞬間にカタールのサンチェス監督が描いたであろう青写真だったと見ます。


そして実際にこの交代から6分後に試合を決めるカタールの3点目が生まれます。



【カタールの3点目を検証】
カタール得点3-1
1点差に追い上げて、なおもイケイケ状態の日本。
当然両SBを前線に上げて、人海戦術の特攻攻撃継続中。

しかしここからボールを失ってしまうと・・・・






カタール得点3-2
ハイ、お馴染みのパターン!

これだけ広大なスペースでFWに前を向かれた状態になったら吉田は無力。
ズルズルと自陣ゴール前まで後退するしか術がありません。

そしてこれを見た途中投入のIH(カリム)が全速力で上がって来ます。






カタール得点3-3
局面はカタール2トップ+IHの3枚×日本の2CB+2ボランチの4枚。
IHのカリムが攻撃に厚みを加えていると言っても日本から見れば「4対3」
これは充分守れるはず・・・・










カタール得点3-4
・・・が、こういう広いスペースでのデュエルで攻撃のスピードを止められないのがジョルジーニョタイプに属する柴崎のウィークポイント。(スペインで使われない理由の一つ)

隣にカンテかせめて遠藤航がいるならまだしも、プレー半径の狭い塩谷が相棒ではカバーも間に合わず。
加えて吉田は背後にカリムがいるのでボールへ行くのはどうしても遅れる事に。(カリム投入の狙いがここで活きている)

結局このままシュートを打たれ、何とか足に当てて枠を外させたものの、これで与えたCKから吉田が痛恨のハンドでジ・エンド。


試合を振り返ってみると事前のスカウティングから試合中の修正に到るまで、森保監督とサンチェス監督の差が一つの勝敗の分れ目となった感は否めないのではないでしょうか。



<経験からも学べない愚者に未来は無い>
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その国のサッカーを強くするには一体何をしたら良いのか?

賢者は歴史から学ぼう。

フランスは1988年、国立の育成機関としてかの有名なクレーヌフォンテーヌ国立研究所を設立⇒10年後の98年W優勝&2000年EURO優勝の黄金期到来

ドイツは2004年のEURO惨敗による反省から育成を抜本的に改革⇒10年後の2014年W杯で優勝

そしてカタールは自国開催のW杯も睨み2004年に国が養成機関アスパイアアカデミーを設立⇒06年に現A代表監督であるサンチェスをスペインから招聘し10年に渡ってアンダー世代の代表チームを歴任させ、2017年に満を持してA代表の監督へ⇒2019年アジア杯優勝


サッカーの歴史は雄弁に語っている。
「サッカーにおける強化とは一見遠回りに見える『育成』こそが最短の近道である」と。
そして「成果は10~15年単位で現れる」と。


ではこの15年、日本は何をしていたのか?

15年前と言うとジーコJAPANの「自由なサッカー」がドイツでの惨敗に向けて歩みを一歩一歩進めていたあの時である。
そこからオシムの「日本化」⇒岡田の「全員撤退守備」⇒ザックの「俺達の…」⇒ハリルで「縦に速い」を経て西野、森保の「ジャパンズウェイ」である。

まさにその「ウエイ(道)」があっちへ行ったり、こっちへ行ったりなので、継続した強化のベクトルが生まれていない事が分かる。

古いことわざによると「経験から学ぶのは愚者である」という。

では経験からすら学べないとしたら、果たして日本サッカーに未来はあるのか?


愚者が一足飛びで賢者になるのは難しい。
我々にはまず、この「経験」から最大限学ぼうという謙虚な姿勢こそが今、求められているのではないだろうか-







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テーマ : サッカー
ジャンル : スポーツ

光射す方へ ~日本×コロンビア徹底分析~

0623表紙2
<光射す方へ ~2018W杯 日本×コロンビア~

どうも半年ぶり、ご無沙汰です。
思えば前回のW杯から一体、何回更新したんだ?っていう本ブログではありますが、気が付いたら4年経ってました(笑)
時の流れは早いものです。

さて、ブラジルの地での惨敗から4年、まさかロシアW杯を西野監督で戦っているとは誰が予想したでしょうか?
本当に色々ありました。ありましたが・・・ここでは一旦置いておきましょう。
ここに到る経緯はもう散々メディアなりSNSなりで議論尽くされてきましたから。

本ブログはあくまで「ピッチ上のプレー、戦術にフォーカス」するのが基本路線なので。
何より・・・その手の話題は荒れるしね(爆)


では半年ぶりのマッチレビューは歴史的な勝利を飾ったコロンビア戦の勝因解分析です。
何故日本は勝てたのか?10人になった事で両チームに何が起きたのか?前半と後半の違いは何か?
そこら辺も含めて解析していきましょう。




<的中した選手選考&コロンビアの隙>
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まずは両チームのスタメンから↓

コロンビアスタメン0622

両チーム共にシステムは4-2-3-1

コロンビアはハメスロドリゲスがコンディション不良でまさかのベンチスタート。
一方の日本は本大会まで僅か3試合という強化試合を目一杯に使って西野監督は最適解を見出したと思えるスタメン選考です。
システムは当初、長谷部をCBに落とした3バックを試してみるも結局はやり慣れた4-2-3-1がベストという賢明な判断。
更に直前のパラグアイ戦で光明を見出した香川&乾のユニット、司令塔・柴崎のタテパス、南米のFW相手に対人で完勝してみせた昌子をCBに抜擢。

結果的に見ても前線、中盤、最終ラインでそれぞれ抜擢した選手が躍動し勝利に貢献してくれました。


では、この試合の行方を左右した”あの場面”から試合の検証を始めていきましょう。

前半-
試合開始と共に前からプレスをかける日本に対して、コロンビアにはどこか緩さが垣間見えました。
それは4年前の惨敗のイメージが色濃く残る我々の感覚が、彼らにしたら日本=大勝の感覚で残っていたと考えれば無理も無い事でしょう。

しかし、サッカーにおいてその油断は致命傷を招きます。

オシム『コロンビアが最初にピッチに姿を現したとき、私は彼らの傲りを感じた。南米選手にありがちな、そうした驕慢を私はよく知っている。そして彼らはピッチでその代償を支払うことになった。』



ではPKに到るシーンを少し遡って流れを見ていきましょう。

【前半3分のPKシーンを検証】
1点目0622-1-2
前半3分、コロンビアの左SBが浅い位置から早めのアーリークロスをゴール前に送る場面が↑になります。

まず、注目したいのがコロンビアの攻撃にかける枚数
両SBを同時に高い位置へ上げ、ボールより前に7枚を投入しているのが分かります。
(ネット配信で戦術カメラが観れるのは有り難い!)

前回対戦時の2014W杯のコロンビアは攻撃は前線の3枚~多くても4枚に任せて
4バック+2ボランチの6枚が常に自陣で待ち構えているカウンター主体のプランだったのを考えると2つの試合でコロンビアのアプローチが大きく違うのが分かりますね。

この両SBを同時に上げて攻撃に枚数をかけるサッカーはまさに前回のザックJAPAN、我々の姿そのもの。
これはコロンビア版「俺達のサッカー」なのか…?(笑)

とにかく、こんなところに序盤からコロンビアの傲慢さが垣間見えていた訳です。


日本は守備時、4-4-1-1で守るのでボールより前に残るのは香川+大迫の2人。
しかしコロンビアのボランチ+CBの3枚はそれぞれ、誰が誰を捕まえているのか?非常に中途半端なポジショニングになってるのが分かります。
(基本的には守備残りのボランチが香川を観て、CB2枚で大迫に対して「+1」を作る、というのが基本路線)

攻撃の最中から後ろはカウンターを防止する為の予防的ポジションを取る、というのは現代サッカーの必須戦術となっていますが、この場面におけるコロンビアの予防的ポジションはかなり怪しいと言わざるを得ません。(コロンビアのミスその①)




1点目0622-2
このクロスが跳ね返されて香川にこぼれた瞬間が↑になります。

ここで問題なのが何を血迷ったのか、香川に対してボランチではなく、後ろで大迫を見なければいけないはずのCBがボールにチャレンジする為に前へ突っ込んでいる事です。
またその距離を見ても、明らかに香川の方がボールに近く、先に触られるであろう状況なのにも関わらず、このCBのチャレンジはあらゆる意味から考えてセオリーを逸脱したコロンビアのミスその②です。

香川はドルトムントでもこのポジションでカウンターを発動させる為のスイッチとして機能している選手なので、
ボールを拾う前から自分の背後には大迫とコロンビアのCBが1対2の状況である事、自分が誰からも明確なマークされる距離にいない事を「観て」、分かっていました。

なのでコロンビアのCBが自分に突っ込んできてるのを周辺視野で捉えて、大迫が今この瞬間、自分の背中で1対1の状況である事を瞬時に察知します。しかしこの時、香川の視野はバウンドするボールに身体が向いているので大迫の動き出しまでは恐らく観えていません。そこで感覚で背後のスペースに、事故が置きやすく、かつ大迫がパスコースへの修正が効きやすいフワッとしたロブをスペースへ落としたのです。

これは今季クロップのリバプールを観ていた人には分かるかと思いますが、クロップのチームはセカンドを拾った瞬間にサラー、マネがヨーイドン!するスペースへ向かってアバウトに浮き球を落とすシーンが数多く見られます。(そしてこの2人はだいたいヨーイドン!に勝てるw)

香川は現代サッカーのトップ下に必要とされるこのセンスがとにかく抜群なので、真骨頂とも言えるシーンでした。
(更にパスを出した後に足を止めず、パス&ゴーでゴール前へ詰めていた動き出しがPKにつながったのもミソ)


1点目0622-3
↑は香川のスペースに落とされたパスに対して大迫とCBのDサンチェスが競り合っているシーンです。

ここで大迫と1対1のDサンチェスに求められたのはまずゴールに向かって帰陣し、大迫の突進を遅らせる守備でした。
しかしDサンチェスは所属するスパーズでも度々こういったプレーを見せているように、抜群の身体能力を過信したリスキーなプレー選択が見られるDF。

ここでも遅らせる事ではなく、自分で奪いに行く事を優先した矢印で大迫に向かってしまい、結果入れ変わられてしまいました(コロンビアのミスその③)

よく現代サッカーでは『ミスが3つ続くと失点になる』と言われますが、日本がPKを獲得したシーンは正にコロンビアの致命的なミスが3つ続けて起こった事による必然だったと言えるでしょう。

そして、その引き金となったのは香川の一瞬の判断とセンス、そして大迫の競り合いにおける粘り強さだった事も忘れるべきではないですね。


<10人で落ち着くコロンビア&慌てる日本>

開始3分で1点(PK)&退場で10人へ。
しかしコロンビアの選手達はベンチを見る事もなく自動的に4-4-1のオーガナイズで守備を再構築。
逆に慌てたのが1人多くなった日本で「…え?え?相手10人だけど、どうする?どうする?」と言わんばかりのチグハグさ。
何故、相手より1人多いはずの日本が有効な攻め筋を見つけられなかったのでしょうか?


そこでまずこの時、日本がすべきプレーは何だったのか?を考えてみましょう。

2トップの1枚を削って4-4-1で守るコロンビアに対しての定石はビルドアップの始点で起きる2対1の数的優位を上手く活用する事です。すなわち日本のCB2枚とコロンビアの1トップによる2対1のエリアですね。↓

【数的優位を活かせない日本の攻め筋】
ビルド0621-1
この場面はコロンビアの退場直後の日本のビルドアップから。

吉田と昌子のCBがコロンビアの1トップ(ファルカオ)に対し2対1の数的優位になっているのが分かります。
ここから昌子がボールを運んで・・・・


ビルド0621-2
日本はサイドに入れてコロンビアの矢印⇒を後ろ向きにし、1トップの背後でボランチが前向きに受ければそこからタテパスorナナメの間受けor逆サイドへの対角パスという崩しのフェーズに入ります。

要は1トップを剥がして常に残りの8枚と勝負!っていうのが9人守備を崩す始点になるという事ですね。



ビルド0621-3
しかーし!サイドの乾から横パスを受ける長谷部の距離と身体の向きが悪過ぎる!

日本のボランチ(長谷部&山口蛍)が抱える問題がコレで、要は間で受けて前を向く事が出来ないんですね。



ビルド0621-4
…で、苦しい体勢の長谷部はサイドの乾へリターンパス。

コロンビアはボールサイドに寄せてきているので、これは受けた方が苦しい、いわゆる死に筋のパス。
案の定、乾はこの後難なくボールを奪われてしまいました。


これが日本の左サイドの問題で、ボランチが長谷部、その後ろのCB昌子も運ぶドリブルやタテパスといった攻撃面が苦手という地獄の組み合わせなので、サイドの長友&乾が死んでしまっていたんですね。
(前半、乾のボールロストが多かったのは後ろからの配球側の問題も大きかったと見ます)


じゃあ、もう1枚のボランチ柴崎はどうか?という話になってきます。
続いて右サイドの攻撃ルートを見ていきましょう。

【右サイド(柴崎)の攻撃ルート】
柴崎1-1
局面はCB吉田がボールを持ったところで柴崎がかなり低い位置まで落ちてきてタテパスを引き出す場面


柴崎1-2
柴崎の特徴はこの低い位置からでも正確な長いタテパスを通せるという事です。
香川が欲しいタテパスはまさにコレなんですね。


柴崎1-3
香川は正確なタテパスさせ刺せば、狭いエリアでも苦も無く前を向く事が出来る職人
この場面でも得意のターンから原口へのスルーパスでサイドをえぐりました。

このように右サイドはCB吉田⇒ボランチ柴崎⇒香川⇒SH原口という中→中→外の攻撃ルートがあるのでアタッキングサードまで侵入出来る下地はありました。
左右の攻撃ルートの違いはそのまま長谷部と柴崎の違いと言っても良い訳ですが、ボランチというポジションにとっていかにボールを受ける際の「身体の向きを作るスキル」が重要であるか、この両者を見ていると良く分かります。


【長谷部と柴崎の身体の向きの違い】
長谷部0621-1
日本代表の試合を観ていて↑こういうシーンをよく見かける事にお気付きでしょうか…?

長谷部がこの身体の向きでボールを持っている事で守る側からすると逆サイドの柴崎&酒井は全くケアする必要が無く、非常にハメやすい持ち方であるという事が言えるでしょう。

実際、↑の場面でも柴崎が両手を挙げてアピールしていますが、長谷部の視野には入っておらず、狭い方の乾へタテパスを出してまんまと囲まれてしまいました。これは山口蛍でも同様のシーンを本当に多く見かけます。


身体の向き(柴崎)
続いて全く同じエリアでボールを持った時の柴崎の身体の向きを見て下さい。

この向きで持たれると、まず長谷部へのセーフティな横パスを確保しながらナナメの香川とも目が合うし、パスの選択肢が複数あるのでコロンビアのDFが寄せられないという状況を作っています。
そしてボールにプレッシャーがかかり切らないので同サイドの乾も迷う事なく裏へ走り出せる訳です。

ちなみにハリルJAPANはどちらもこの持ち方が出来ない長谷部&山口蛍という地獄のボランチコンビだったので、完全に日本の攻め筋から中→中→外というルートは消えていました。
もっぱらパスはCB→SB→SHとUの字型に外→外→外。同サイドで3本以上パスをつなぐので相手からするとハメやすく、苦しくなって大迫にタテポンという遅攻が目立ったのはこのためです。

なので個人的に日本のボランチは柴崎と大島の組み合わせしかないだろう、と思っていたのですが西野監督はその折衷案を取って1枚は柴崎or大島の司令塔タイプ、もう1枚に長谷部or山口のファイタータイプという補完性による組み合わせを基本に考えている模様。

であるならば、この日の日本は右サイドを中心に攻めたら良かったのではないか・・・?という疑問は当然湧いてくるのですが、コロンビアも事前のスカウティングでこの事をよく理解しており、対策を立てていました。


【コロンビアのビルドアップ対策】
柴崎ケア1
局面は日本のビルドアップ
1トップのファルカオは基本的に日本のCBは放置。その分、柴崎へのコースをケアする立ち位置で日本のビルドアップを左サイドへと誘います。



柴崎ケア2
・・・で、お馴染みのバックパサー長谷部。
こちらのルートはボランチに預けたところでサイドで詰まるか、バックパスが返ってくるだけなのでコロンビアからすると全く問題無し。



柴崎ケア3
この時のファルカオのポジショニングがミソ

首を振って背後の柴崎を確認し、ここのコースだけは死んでも空けないぞ!という構え。
恐らくコロンビアのペケルマンは当初2トップで柴崎へのパスコースをケアしながらチャンスとあればCBにプレスをかけるというプランだったのだと思いますが、1トップになった事で割り切って「柴崎を消す事」のみにファルカオの守備タスクを絞ったと見ます。

こうなると日本のビルドアップは右サイドに回しても柴崎回避の外→外ルートになるので・・・



柴崎ケア4
ハイ、待ってました~!とばかりに原口が囲まれてジ・エンド。


まさにこれがボランチを補完性のコンビで組んだ時の弱点で、スカウティングされて「片方だけ消す」という対策を講じられやすいんですね。

考えられる日本の打ち手としては「1トップのファルカオが疲れるまで後ろでひたすら回し、柴崎が空くのを待つ」か「長谷部を大島に変えて左右どちらからも攻められるようにする」の2つ。

前者が1-0リードを保ったまま隙あらば追加点を…の安全策で、後者が自分達から2点目をとって試合を決めてしまう積極策なんですが前半の日本はどっちつかずのまま試合を進めて、何となくコロンビアの守備にハメられてカウンターを食らうという展開になっていました。非常に勿体無かったですね。



<香川は何故、試合から消えたのか?>
20180619_shinji-kagawa3448.jpg

この状況に業を煮やした選手がいました。

トップ下の香川です。

気持ちは分かります。「待っててもボール来ねえじゃん…!」という心情だったのでしょう(笑)
こういう時は香川の悪い癖が顔を出します。


【ポジションを崩す香川】
香川落ちる1
局面は日本のビルドアップから。

我慢しきれなくなった香川が「ええい、オレが行く!」とばかりにボランチのポジションまで落ちてきてしまいました。
これでファルカオの1枚を剥がすのにイビツな3ボランチ気味の人数過多になってしまい、その分前の枚数が足りない状況へ自分達からバランスを崩してしまう日本



香川落ちる2
しかしコロンビアからすれば長谷部は捨てられるし、香川が一番怖いエリアから離れてるので、このエリアで受けるなら思い切り強く当たれるだけ



香川落ちる3
更にせっかく柴崎にボールが渡っても前線に香川がいないので大迫が孤立
これならコロンビアのCBも大迫一択で前にインターセプトを狙える状態が整っています



香川落ちる4
アッーーー!!!


日本はこの時間帯、バランスを崩した状態で無理なタテパスを入れてはカウンターを食らうという悪循環に陥ってました。しかもその流れで与えた不用意なセットプレーから痛恨の失点を喫しています。


パスマップのデータで見ても前半の香川のポジション移動は明らか↓

香川位置0624-1
香川位置0624-2

これが香川が諸刃の剣と言われる所以で、4年前のブラジル大会も彼の負の面の方が出てしまい、惨敗につながっているだけに悪い予感が漂う流れになってきました。




<バランスをとった知将ペケルマンの修正>
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一方、10人になったコロンビアの視点で前半を振り返るとどう見えるでしょうか?

ボランチのCサンチェスが退場になった後のコロンビアはトップ下のキンテーロをボランチに下げた4-4-1でそのまま試合を進めました。
実はこのキンテーロという選手、ハメスというクラックがいるから目立っていないだけで、クラシカルな南米の10番タイプとしてなかなかの実力者。事実、10人になった後のコロンビアで攻撃のタクトを振るっていたのはこのキンテーロであり、長いタテパスから何度もカウンターの起点になっていました。

しかし、一方でペケルマンにはこのキンテーロをボランチにした中盤のバランスに懸念はあったはず。
どういう事か、検証していきましょう。

【キンテーロをボランチで使うリスク】
キンテロ1
局面は右から左へ攻めるコロンビアのビルドアップ
キンテーロがボランチの位置でボールを受けます


キンテロ2
1人少ない10人で日本の守備を崩さないといけないという事もありますが、キンテーロの持ち味は強気なプレー
↑の場面でもドリブルで日本の中盤ラインを剥がすべくボールを運びます



キンテロ3
・・・ただ、いかんせんドリブルを始める位置が低い。
ボランチなんで仕方ないんですが、ここでボールを失った場合、前に5枚が取り残された状態で日本にカウンターを浴びるハメになります



キンテロ4
そのままカウンターを食らって、あわや決定的な2失点目を喫するところでした
(このシーンでは乾がシュートをふかして一命を取り留める)


更に守備ではこのようなシーンも↓

キンテロ守備
ファルカオに疲れが見えてきた前半25分過ぎ、日本で最も危険な柴崎が持った時にボランチのキンテーロが中を閉め切れないんですね。

このシーンを見たペケルマンはこのままオープンに日本とカウンターを打ち合うのではなく、一旦ボランチの守備バランスを修正する一手を打ちます。ただし攻撃面を考えると追いつく為には司令塔キンテーロは欠かせない。
という訳で中盤で最も守備力の低いクアドラードを下げて、守備型のボランチ・バリオスを投入。キンテーロを一列前に上げたSHに移します。
(10人になった時に最も守備で計算出来ない選手を下げるのは定石であり、94W杯のイタリア代表ではサッキが前半にあのRバッジョを下げた事で話題にもなった→結果は狙い通り勝ち点1を獲得)


0-1のビハインドを追いながらまずは守備を整え、キンテーロとファルカオの距離を近くして、このホットラインとセットプレーから同点ゴールを狙う。曖昧に前半を過ごした日本とは対照的に明確な姿勢を打ち出したペケルマンのしたたかさが光ります。


実際に試合ではボランチをキンテーロからバリオスに代えた事でまず守備が安定↓

コロンビア中閉め
しっかり中を閉められているので柴崎から大迫へのタテパスを消す事に成功。まず守備を安定させます


そして攻撃ではキンテーロをSHに上げたメリットで早速↓のような場面が生まれました

【キンテーロの間受け⇒ラストパス】
キンテロSH1
右から左へ攻めるコロンビアの攻撃。

右SHに上がったキンテーロはライン間に入ってボールを受ける得意なプレー
先ほどまでのボランチだった時と比べてボールを受けるエリアが一段高くなっている事が分かります。



キンテロSH2
間で受けてファルカオへのラストパス

この交代以降、日本の攻め筋は塞がれ、コロンビアのカウンターに脅威が増していきます。

香川が落ちて中盤のバランスが崩れた日本と、キンテーロを上げて中盤のバランスが修正されたコロンビア
前半の1-1というスコアにはそれなりの必然が潜んでいたと見るべきでしょう。



<最適手に見えた悪手 ハメス投入が勝負を分ける>
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1-1で折り返したハーフタイム-

試合を観ながら日本が勝ちのルートに乗る為の修正点は一つ、だと思ってました。
香川のポジショニングを修正出来るか?これに付きます。

果たして後半の立ち上がりに↓のようなプレーが観れたので「これはもしかすると…」の思いを強めた次第。


【香川のポジションを戻した日本の猛攻】
後半5分香川1
局面は右から左へ攻める日本。
後半はファルカオの電池が切れてコロンビアの1列目の守備が機能しなくなっていました。

加えて香川がしっかりとバイタルエリアにポジションを取っているのでコロンビアのボランチが香川をケアする為に引っ張られているのが分かります。

これでボールを持ったボランチ(長谷部)の前にフリーで運べるスペースが出来ており、さすがにノープレッシャーであれば長谷部も苦も無く前を向いてボールを運べるシーンが増えてきました。



後半8分香川1
↑勿論、それは柴崎とて同じ事。

要は1トップのファルカオが追えなくなってきた事+香川がコロンビアのボランチを引っ張る事で日本のボランチのエリアは完全なオープンスペースになっていたんですね。

香川はボールタッチ数こそ少なかった後半ですが、「いるべきところにいる」事で、日本ペースを生み出す主要因になっていたと見ます。


原口(試合後のコメント)
『ハーフタイムでは監督からポジショニングのことを言われました。せっかく相手が10人なんだからもっと相手の嫌なポジションで受けたら必ずチャンスができるという話だったので、各選手がポジショニングを考え直したと思います。』



・・・さて、日本はハーフタイムでキッチリ修正してきました。
対するコロンビアは規定路線の最適手(?)を打ちます。後半15分、エースのハメス・ロドリゲス投入。

この交代によりピッチでは何が起こったのでしょうか?


【ハメス投入で崩れたコロンビアのバランス】
ハメス守備1
投入直後からハメスの動きは明らかに鈍く、元々守備をほとんどしない選手なので基本は前残り。

それまで4-4-1で保たれていたコロンビアの守備ブロックがハメス投入によって4-3-2になってしまいました。
中盤の2列目が4枚から横幅68Mを3枚でスライドする事になったコロンビアの中盤、特にハメスが入った右サイドは完全にスペースが空いており、ここは香川が受けたいエリアでもあります。

戦術カメラアングルで見てもバランスの崩れたコロンビアの右サイド(日本の左サイド)で数的なバランスが崩れているのは明らか↓

ハメス守備2
これにより日本は左サイドで香川、乾、長友が常に数的優位を傍受しながら気持ちよくパスをつないで崩す事が出来ていました。



ハメス守備3-2
後半、乾のドリブル突破が突如復活したのはコロンビア側のバランスが崩れたからだと言えるでしょう。
(ハメスは乾の突破を後ろで傍観してるだけ)



柴崎(試合後のコメント)
『攻撃の部分で乾くんと(長友)佑都さん、真司さんの連係で左サイドを作りたかった。前半は右サイドに偏っていたので僕がなるべく左サイドでボールを持つようになって全体的にうまく回った印象があります。』




試合は残り20分、コロンビアのバランスが崩れて日本優位の流れ-
ここでぞれぞれの指揮官が次にどんな手を打つかが勝敗の鍵を握っている事は間違いありません。

まず日本の西野監督としては、当然あと1点を求めて勝ちに出たいところ。
コロンビアの中盤のバランスが崩れているという事を鑑みて、ここは中盤からミドルシュートで得点が期待出来る本田の投入を決めました。(香川はオープンスペースでボールを受けてもここまで自分で打つミドルは0本)

本田のメリットはご存知の通り、こういった大一番で決めてくれる得点力であり、デメリットは日本の中で最も運動量とスピードが低い事。
しかし10人のコロンビアは引いているのでスピードが必要な速攻はほとんど無いですし、本田の運動量のマイナス分はコロンビアもハメスがいるので帳尻が合うと踏んだのでしょう。


一方のペケルマン監督はどうか?
さきほどは崩れた中盤のバランスを修正する見事な一手で試合を振り出しに戻した知将。ここは1-1のまま勝ち点1をまず確保する、という選択肢もあったはずです。

しかし、4年前とは違い優勝候補の一つにも挙げられるほどの地位になったコロンビアで、グループ最弱と目されていた日本に「まず初戦で勝ち点3を確保する」以外のプランは頭に無かったとしても無理はないかもしれません。

ペケルマンは崩れたバランスを更に攻撃的に動かし、10人で2点目を奪いに行く一手を選択。
中盤で最も運動量のあるSHイスキエルドに代えてFWのバッカ投入で勝ちにきました。


この一手の明暗は本田のファーストプレーで明らかになります。

【試合の流れをベンチから見ていた本田のファーストプレー】
本田0622-1
バッカ投入でハメスが左、バッカを右サイドに移したコロンビアに対し、本田のファーストプレーはハメス側の右サイドに移動し酒井と2対1を作りに行っています。
これは明らかにベンチで試合の流れを見て、自分が出た時のプレーをイメージしていたであろう事が分かる本田の動きだと思います。




本田0622-2
狙い通り日本は右サイドで本田+酒井の関係性を作り出すと、ハメスは全く追ってきません。
従ってコロンビアの左SBに対して2対1の数的優位を作れています。



本田0622-3
フリーの本田に戻して、ファーストプレーでミドルシュートを選択した本田。
相手の状況を観て最適のポジションを取り、ベンチが求める「引いたコロンビアにミドルの脅威を」という役割を忠実にこなしています。


一方のコロンビアはバッカ投入でただでさえ崩れていたチームのバランスが更に攻撃過多になり4-3-2から4-2-3気味となって、これは日本の得点は時間の問題だろう…というカオス状態に陥ってしまいました。

後半73分、バッカ&本田投入の僅か3分後に生まれた大迫のゴール。
このCKを取る経緯となった日本の攻撃は必然といえる流れだったのではないでしょうか。


【日本の2点目を生んだ攻撃の流れ】
2点目0622-1
局面はもはやコロンビアのファーストラインが崩壊し、フリーで持ち運び自由となった柴崎から乾へのタテパスが起点。
バッカはハメスよりは運動量がありますが、守備で中閉めが出来ないのでタテパスも通し放題



2点目0622-2
乾が間受けで前を向くとハメスは既にスイッチOFF
本田もそれを分かっているのでハメスの背後でスタンバイ



2点目0622-3
右サイドの本田&酒井で数的優位を作る日本。
ここに到る流れの中で既に20本以上パスをつなぎ右に左に揺さぶられたコロンビアはもう大外の酒井をケア出来ません



2点目0622-4
戦術カメラの視点で見てもコロンビアの守備組織がもはや4+2の2ラインで守っていて崩壊しているのが良く分かります。
乾が前を向いた段階でコロンビアは詰んでました。



<僥倖ではなく実力で掴んだ光明>
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この試合の勝敗を分けたポイントは誰がどう見ても「前半3分のPK&退場」で間違いありません。
しかし、それをもって「僥倖」「たまたま勝てただけ」「ラッキーだった」と日本の勝利の価値が下がったかのような論調も目に付きますが果たしてそうなんでしょうか・・?

コロンビアの退場とPKを生んだのは純粋に競技内における日本の一連のプレーでした。
もしあれを「たまたま」と言ってしまうのであればサッカーとはそもそも「たまたま」パスがつながって「たまたま」ドリブルで抜けてしまい「たまたま」シュートが入って勝ってしまう競技という事になってしまいます。

アルゼンチンには「たまたま」メッシがアルゼンチンに生まれてくれて、ポルトガルの好調は「たまたま」ロナウドがポルトガル人だったからでしょうね。ロシアは「たまたま」開催国だったから好調なのかもしれません。


勿論、11対11だったら結果はどうなっていたか分かりませんし、この1試合の結果で両国の実力は測れないでしょう。
しかし元々誰が監督であろうとコロンビアが格上なのは分かっていた事で、それを前提にいかに「10回に1回」の勝ちルートを探るかがW杯という大会ではないでしょうか。


今回の西野JAPANが見せたサッカーも「タテに速いサッカーの遺産」だとか「俺達のサッカー復活」だとかの二元論で語っていては今大会のレベルに日本サッカーが置いていかれるだけでしょう。

開始と共に前へ勢い良く出て来たコロンビアを逆手にとって「タテに速い」パスを2本つないだ前半3分の1点目。
10人になって引いた相手を右に左に22本のパスをつないで崩した2点目。

どちらも相手を観て、最適な判断でパスを繋いだ「日本のサッカー」に他ならないのですから。







*↓のRTと「イイネ!」が一定数以上集まったらセネガル戦のマッチレビューもやる・・・・かも!?

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テーマ : サッカー
ジャンル : スポーツ

アジア仕様の限界を露呈したハリルJAPAN ~日本×ブラジル~

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<アジア仕様の限界を露呈したハリルJAPAN>~日本×ブラジル~

アジア最終予選を突破し、本大会へ舵を切ったハリルJAPAN。
就任以降、世界の一線級との対戦が無かったこのチームの実力を測る上で、
ブラジル&ベルギーと組まれた今回の欧州遠征はとりわけ重要なものでした。

しかし蓋を開けてみれば、アジア予選では「隠れていた」課題が次々と浮き彫りになるかたちでいいところなく2敗。
とりわけ流れの中からほとんど崩せる事なく無得点に終わった内容は来年の本大会に向け指揮官が言うほど説得力のあるものだったとは言い難いのではないでしょうか。

ちょうど4年前、同じく本大会を半年後に控えたザックJAPANがオランダとベルギー相手に1勝1分、流れの中からの素晴らしい崩しで5得点を挙げていたのと比べると実に対照的です。

勿論、強化試合なので結果を単純に比較してもあまり意味はないですし、課題を見つける為の試合だったと指揮官は言うかもしれません。
しかし、今回の欧州遠征で見つかったのはチームを次のレベルへ引き上げる為の新たな課題ではなく、
どれもアジア予選の頃から「分かっていた事」で、アジアだから問題にはならかったに過ぎないというものばかり。


そこで今回はアジア予選の試合と比較しながら、ブラジルとの試合にフォーカスし、現在のハリルJAPANの問題点を分析していきたいと思います。


<ブラジルにボールを渡す自殺行為>

アジア予選でハリルの評価を一層高めたのは突破を自力で決めたホーム豪州戦でした。
実際、この試合では「相手の強みと弱みを分析して対策を立てる」というハリルのストロングポイントが良く出た試合だったと言えるでしょう。

オーストラリアは稚拙な技術力にも関わらず必ず自陣から繋いでくると分かっていたので
日本は中盤にボールハンター(井手口、山口、長谷部)をズラリと並べて中盤にプレスラインを設定。
DFラインにはある程度自由にボールを持たせて、そこから必ず出てくる中盤へ預けるパスに網を張り、次々とボールを奪取していました。

この試合の日本のボール支配率は35%でしたが、シュート数では15:4と圧倒。
まさにハリルからすると会心の勝利で、世間も「これがハリルのサッカーか」と評価を新たにしました。


しかし、この試合をしっかり観ていけば決してハリルJAPANの守備が強固だった訳ではなく、
オーストラリアがわざわざボールを失う為に自陣でパスをつなぐのに終始した、という特殊なチームスタイルとゲームプランにあった事は間違いありません。

ハッキリ言ってしまえば、本大会でこんな「マヌケなチーム」と対戦する機会はまず無いと言っていいでしょう。
(でも辛くもプレーオフで出場決めたけどNE!)

なので個人的にはこんなサッカーで本大会に挑んだら、まず間違いなく惨敗するだろうと確信したのですが、
予選突破の祝福ムードでチラッとそんな事をつぶやいたら炎上しました(笑)




・・・とまあ、前置きが長くなりましたが、そんな流れを踏まえて迎えた今回のブラジル戦。
ハリルのゲームプランは勿論、オーストラリア戦の流れを汲むもので、DFラインではブラジルにある程度ボールを持たせてボランチのところに入って来るパスを2枚のインサイドハーフ(井手口&山口)で狩る!というものでした。

では実際の試合でどうなったか見ていきましょう。


前プレ行かない1

画像はブラジルがGKからのパス出しでビルドアップ開始の瞬間。

日本はブラジルのダブルボランチにプレスラインを張ってCBは放置。

そう、確かにオーストラリアにはこれで良かった。
この「待ちの守備」で次か、次の次に出てくるパスに対して全体でGO!⇒ショートカウンター(゚д゚)ウマー!

しかし、この日の相手はユニフォームこそ同じ黄色だが、あのセレソンなのである。


前プレ行かない2

ボールが世界のマルセロに渡っても日本はステイ。
マルセロは難なく前を向いてオープンな姿勢でボールを持てている。

アジアのSBはだいたい走力やクロス精度自慢の選手が多く、ゲームメイクの能力は低い。
だからこの距離感で守っていても問題は無い。

だが世界のSBはもう「司令塔化」が進む流れだ。
そしてこのマルセロとかいうSBはそのトレンドの中でも先頭集団を走る手練れである。



前プレ行かない3

日本がボールサイドに寄せて次のタテパス狙いなのを見透かしたマルセロがボランチ経由のサイドチェンジを促すパス。
日本はファーストディフェンスでボールにプレッシャーがかかっていない為、後ろも押し上げられず実にチグハグな守備になっている



前プレ行かない4

フリーで受けたボランチから逆サイドに高精度のサイドチェンジを通されて、日本の横スライドは間に合わず。
68Mの横幅を目一杯に使われて右に左にと走らされるハリルJAPAN。

こんな守備でボールが奪えるはずがない。


一方、チッチのセレソンは世界のトレンドを組んだ超絶インテンシティの高いチームに仕上がっていた。
あのブラジルがここまでハードワークするのか・・・と驚いた人も多いのではないか。



【ブラジルの前プレ (ネイマールのハードワーク)】
ネイ前プレ1

局面は日本が攻め込んだ流れで長谷部にボールが下げられる瞬間。
相手のバックパスにタイミングで全体を押し上げてGOをかける、はセオリーではあるが、ネイマールの寄せのスピードが凄い。

ボールにプレッシャーをかける、という域を超えて完全に「奪う」為のプレスになっている。


ネイ前プレ2

ネイマールの寄せがすさまじ過ぎて、ボールを受けた長谷部は後ろを向かされている。
こうなるともう次の選択肢はバックパスしかないので、ネイマールのファーストディフェンスのおかげでブラジルはノーリスクでチーム全体を一つ押し上げられる。



ネイ前プレ3

長谷部からCBの吉田に下げられたボールにもネイマールは二度追い。
しかもスピードを落とさないどころかむしろギアを上げている。
チームの絶対的なスター選手であるネイマールが守備で40Mをフルスプリントできなければ使ってもらえないのがブラジルなのである。

このプレッシャーにより吉田⇒長谷部のパスが僅かではあるが弾んだボールになってしまう



ネイ前プレ4

受けた長谷部がファーストタッチでボールを浮かしてしまう。
その隙に背後からジェズスが猛烈なプレスバック



ネイ前プレ5

ジェズスに押し込まれた長谷部の身体の向きではパスコースはSBの酒井しかない



ネイ前プレ6

酒井にパスだ出た瞬間にブラジルは「待ってました!」とばかりに一気に3人で包囲。

これがアジアとは違う「世界の守備」「世界基準のインテンシティ」である。


あのネイマールが必死に日本のCB(吉田)にまでボールを自由に持たせないよう前プレをかけてくる時代に
日本がブラジルにボールを持たせるというのは自殺行為でしかない。

現代サッカーにおけるビルドアップも、この「前プレ」を前提に、それをいかに剥がすかの攻防が行われているのに対し、
日本の中盤は自分達ばボールを持つ事が主眼から抜け落ちた構成なので、ロクにバックパスすら回せない惨状では・・・OTL



<問題その② 原口の5バック化問題>
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二つ目の問題はハリルJAPANの守備におけるポジショニングとゾーン設定がかなり曖昧なところ。
もっと言ってしまえば完全に選手任せなのか?という疑念も。

特にアジア最終予選のアウェイ豪州戦で顕著になった原口の守備ゾーンを思い返していただきたい。
原口は相手のSBが上がっていくとどこまでもマンツーマンでそれに付いていってしまう。

【SB化する原口と5バックになる日本】
香川低い1014-5

原口はSBを受け渡さず付いて行くし、槙野も「こりゃ助かるで」とばかりに放置してるのでチームとしては5バック化してしまうのがなかば常態化しているハリルJAPAN。

むしろ日本ではこれを「原口のハードワークすげー!」という論調すらあるが、とどのつまり日本サッカーの守備文化はどこまでいっても「マンツーマン」と「気持ち守備」の合作である証拠。

そしてアジア予選では「原口半端ない」で済んでてもブラジル相手にはチームとして何が問題かを突きつけられるのである。


【5バック化する日本 byブラジル戦】
原口5バック

局面はブラジルの最終ラインのビルドアップから。
この段階で原口はもはやSBではなく右WGのウィリアンを気にして早くもポジションを下げ始めている。





原口5バック2

原口がSB化しているので、日本の左サイドにボールを回されたら当然そこには誰もいない

しかも流れでアンカーに回っていた山口がブラジルの1トップ(ジェズス)を見ているんだから前の人数が足りるはずがない。
(一方で日本のDFライン4枚に対しブラジルはウイリアン1枚でピン止めに成功している)


この場面、ブラジルならこう守るというポジションを可視化してみます↓


原口5バック3

本来ジェズスのラインにCBが行けるようライン設定をすべきで、ウィリアンはオフサイドに置いておけば良し。
全体を一列づつ前に押し上げればブラジルのDFラインにもプレスがかかるはずなのだ。


原口5バック4
奪うならこのポジションバランスで前プレでしょ!





<問題その③ 3センターの鎖が繋がっていない>
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ハリルJAPANの基本形4-3-3(4-1-4-1)では中盤の3センターのバランスが肝になってきます。
「3センター」「ブラジル」で思い起こされるのが前回アギーレが戦った2年前のブラジル戦。


この試合でアギーレは森岡、柴崎、田口で3センターを採用。
しかし常に横スライドしながらお互いにチャレンジ&カバーを繰り返し一定の距離感を保つ、
まさにチェーン(鎖)で繋がれているかのような動きが求めらる3センターにあって、日本はこの意識が決定的に欠けています。


【前回アギーレJAPANの3センター】
3センター2

このように1枚(柴崎)がチャレンジしたら残りの2枚(田口&森岡)がカバーのスライドを行うという基本中の基本の動きすら怪しいレベル。


ではハリルになってそれが改善されたのかどうかを先日のブラジル戦から検証してみましょう。


長谷部いない1

前半いいようにブラジルにやられただけあって、さすがにハリルも「これ前から行かんとアカンわ!」と気付いたのか後半はプレスラインを高くして前からプレスをかける日本。

GKからのパスを受けるCBに久保が、そしてブラジルの両方インサイドハーフに井手口と山口が付いていますが、とするとこの2枚を結ぶ中間にアンカーの長谷部がいなければいけないはず。

しかし長谷部の姿は見えず、この場面では3センターのチェーンが切れて個々がバラバラに守っているのが分かります。



長谷部いない2

逆に展開されたボールに対して今度は山口と原口が出ていこうとしますが、やはり長谷部がいない。



長谷部いない3

で、これに気付いたカゼミーロに前に出られてポッカリ空いたバイタルで受けられるの図↑

肝心の長谷部はどこにいたのかというと、何と左SBのマルセロにマンツーマンで付いていた・・・という按配。

この場面では山口と井手口の間を割られて、後ろにアンカーがいないという3センターの布陣では本来有り得ないような事が起きてしまっている。

つまりアギーレもハリルも「3センター」というよりは、前者はボール扱いに長けた3枚を、後者はボールを奪うのに長けた3枚を、ただ中盤に並べただけという代物に過ぎないのではないか?



【問題④デュエルしてもボールが奪えない件】
GettyImages-872466440-min.jpg

4つ目の問題はボールにプレッシャーをかけたとしても、最後ボールを奪う、という個の能力が低くて奪いきれないという問題です。

日本サッカーにおける永遠の課題ですね。

ブラジル戦ではネイマールへの対応で、まず酒井が背後から寄せて、横からはアンカーの長谷部が、前からSHの久保がプレスバックして必ず数的優位を作って奪う、という約束事が徹底されていました。

しかし個々で奪えない集団で囲んでも結局3対1をネイマールに面白いようにいなされ、必死に寄せる酒井はファイルを量産するだけに終わりました。

実際の試合から攻防を振り返っていきましょう。


ネイ囲む1

局面はまさに今、酒井、長谷部、久保の3枚でボールを持ったネイマールを包囲しようというところ


ネイ囲む2

まず側面から寄せてきた長谷部を難なく右手のハンドオフ1本でボールに近付かせないネイマール
長谷部は右手1本の力で上半身がのけ反った上体にさせられており、肩から入れない



ネイ囲む3-1

そのまま右手で長谷部をブロックしながら足裏でボールをコントロール
前後からもう2枚が挟むように近付いてきているのを感じているネイマールは狭いスペースの中で最もボールを細かく動かせる足裏を選択したのだが、こういうのはストリートの感覚なのか南米の選手は本当に上手い。



ネイ囲む4

プレスバックしてきた久保がボールにアタックするが、まさに「足先だけ出す」という典型のような守備。

足裏でボールを保持していたネイマールは久保の出した足と重心をしっかり見て、逆を取る持ち出し


ネイ囲む5

足から行っている久保は逆をつかれたら完全に腰砕け状態で対応出来ない。
久保の矢印とネイマールの矢印を見れば上手くいなされているのが分かるだろう。
この後、久保を外したネイマールは難なくマルセロに返して包囲網を脱出。

1対1の守備では「肩から先に入れろ」や「腰(ケツ)から入れ」など選手によって色々やり方はあるのだが、
日本の選手の奪いに行く時の姿勢は総じて軽い、の一言に尽きる。






<またもアジア仕様を脱しきれず>
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試合後の指揮官は「後半だけならブラジルに勝っていた」「ベルギー戦は負けに値しない」と何故か満足そうだが、
アジア予選で分かっていた課題を世界で改めて認識し直しているようでは5歩は出遅れている。

率直に言って、ブラジルW杯後の4年もまたアジアにドップリ浸かって無駄にしてしまったという感しかない。


このままハリルで行っても本大会は相手に合わせてその都度メンバーと戦術をいじり、ストロングを消しながら耐えて耐えての3試合。
上手くいけばベスト16ぐらいは可能だが、このてのチームは頑張ってもそこが限界というのはW杯の歴史が証明している。


個人的にはこの国にW杯で旋風を巻き起こすようなチームの構築を長年望んでいるので
アジア予選など全試合ハーフコートに押し込んで世界基準のインテンシティとポゼッションで圧勝するぐらいでいってもらいたいのだが・・・









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Author:サッカー店長/龍岡歩
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