踏み出した一歩 ~日本☓スペイン~

<踏み出した一歩 ~日本☓スペイン~>
【プロローグ】
日本☓スペインの激闘から遡ること約一ヶ月-
強化合宿の最中、代表監督の森保一は悩んでいた。
森保(くそう…どの新聞を見ても「無能」だ「3敗」だと好き放題書きやがって・・・)
森保(だが実際、スペインは強すぎる・・・。)
森保は前夜、自室で繰り返し見たスペイン代表の残像が頭から離れなかった。
(ていうか…スタメンの中盤3枚がバルサってどういう事よ?もはやそれバルサやん!)
【スペイン代表 スタメン】

森保の不安通り、スペイン代表の4-3-3で中核を担う中盤3枚はFCバルセロナの選手で占められていた。
ただでさえ上手い選手を揃えていながら連携面でも隙は見当たらない。
森保「いやーバルサ無理!バルサ怖い!」
??「果たしてそうですかね?」
森保「誰だ!?」

鎌田「だって俺・・・バルサ倒した事あるし」
森保「オイオイ・・・マジかよ大地。ちなみにどうやって倒しか教えてくんね?」
鎌田「いやー、だからフランクフルトではこうして、ここでハメて・・・」
森保「ふむふむ・・・」
(*尚、この物語はフィクション・・・のはずです)

<スペイン撃破の下敷きはフランクフルトのコピー>
それではスペイン戦のマッチレビューを始めていきましょう。
ですがその前に、まず鎌田の件に触れないわけにはいきません。
昨季、ヨーロッパリーグの準々決勝で鎌田擁するフランクフルトがバルサを撃破するジャイキリを起こし話題になりました。
この試合でMVP級の活躍をし、バルサ撃破の立役者となったのが何を隠そう鎌田だったのです。
バルサを完封したフランクフルトの戦術は以下の通りとなります。
まずバルサで抑えなくてはいけないのが4-3-3の中盤ブスケス、ペドリ、ガビの3人。
そう、スペイン代表とまるっきり同じ顔ぶれです。
そこでフランクフルトは守備時、5-4-1でブロックを組みます。

バルサのCBは放置し、両SHが内側に絞って背中でIHへのパスコースを消して、バルサのパスルートをSBへと誘導させます。
(ちなみに鎌田は左SHとして完璧にこの役割をこなしました)

SBに出たらSHが中切りで寄せてパスコースをWGの一択にします。
同時にこの時、バルサのIH(ペドリ、ガビ)はCBが捕まえています。

バルサのWGに出させたと同時にSHとWBで挟みます。
この挟み込みで奪えればベスト。
もしバルサのSBへパスを戻した場合は・・・

ハイ!ハマった!!
WBをニ度追いで押し出して、アンカーのブスケスにはVOが、CBへのバックパスは1トップのFWがハメます。
これでバルサには中盤3枚を使わせる事なくサイドのタッチライン際でハメる事が出来るのです

しかも奪った後はバルサはCB2枚の2バック状態なので、3対2でカウンターが打てるという設計。
このシーンではFWがそのまま切れ込んでシュートを打ち、フランクフルトの得点が生まれています。
【フランクフルトの対バルサ戦術まとめ】
①5-4-1でCBは放置
↓
②SBに誘導して奪うorバックパスをさせる
↓
③バックパスにはWB+ボランチを押し出して、CBには1トップがGO!
↓
④奪ったらバルサは2バック状態ウマー!(゚д゚)
この試合こそが、森保JAPANにおけるスペイン戦のゲームプランの下敷きになった事は間違いありません。
鎌田本人がインタビューに以下のように答えています。
鎌田「試合の2日前の練習では5バックの2トップを試していましたが、相手のCBからハメに行くための形なのに前から行こうとしないから、上手くいかなかった。選手たちも違和感を抱いていたなかで、フランクフルトでバルセロナと対戦した時にハマった3-4-2-1をミーティングで提案しました。」
試合の二日前に選手から提案されたプランがドハマりするという運命の巡り合せ。W杯ではこういう運も必要なのです。
なんせ説得力が違います。だってバルサを倒した事がある張本人が言うのですから。
そういう意味で、日本代表は圧倒的に監督よりも選手の方が世界で戦ってきた場数、ノウハウを持っています。
森保監督はそこで選手と下手に張り合おうとせず、謙虚に選手の意見を取り入れる姿勢が今大会はハマっていると思います。
これ、言うほど簡単な事じゃないんですよ。
海外の監督の中には、選手時代の目立った実績を持っていない監督がスター選手と対立する、なんて日常茶飯事ですから。
とかく監督という人種はプライドが高いのです。
加えて僅か二日でフランクフルトのコピーをスペイン撃破のレベルまで仕上げる早さも日本人が持つ強さの一つではないでしょうか。
「模倣に長けて獨創の才無し」
(*「獨創」・・・独自の発想でつくりだすこと)
文化人類学の方面からも日本人とは「想像よりも模倣が得意である」という声があるように、このコピー戦術は一定の成果を見せました。
ですが、相手は世界の強豪国スペインです。
当然、日本といえどクラブチームのフランクフルトのレベルまで練度を上げる事は難しく、特に前半序盤は一方的に押し込まれてしまいました。
ではこの時間帯の攻防をフランクフルトと森保JAPANの守備を対比させながら解析していきましょう。
【序盤ハマりきらなかった日本の5-4-1】

スペインがボールを持つと日本は5-4-1のブロックを敷いてCBは放置。ここまではOK。

SBにパスが渡ったのと同時にSH鎌田がファーストディフェンスで方向を限定。
アプローチのタイミング、身体の面の作り方(背中でガビを消している)、共に完璧です。
この選手はもう完全に欧州(ヨーロッパ)の選手ですね(笑)
ところが、鎌田が限定し、次のパスコースはWGのウィリアムズに絞らているにも関わらず、WB長友の寄せが遠い、遠すぎる…!

その結果、鎌田がプレスバックして挟む前にウィリアムズに前を向かれてカットインを許してしまっています。
せっかくサイドに追い込んだにも関わらず逆サイドに展開されてしまい、これではハマるはずがありません。
左サイドの問題=WB長友が押し出せない
やはりか…。
この画ですが、実は試合前に想定してました。
日本が3バックで臨んだ場合、WBの押し出しが鍵になること、そして長友だと押し出しきれないであろう事を。
【スペイン戦 展望】
— サッカー店長/龍岡歩 (@a_tatsuoka) December 1, 2022
・ブスケス(コケ)を誰が捕まえるんだ?問題
・狩るなら遠藤だが、一番重要な時にいない矛盾(ターンオーバーとは?)
・4バックを捕まえようとすればアンカーが、アンカーを捕まえようとすればSBが空く
・3バックにしたところで長友がWBでは押し出すのは至難(冨安…)
一方、日本の右サイドでは別の問題が起きていました。

当然右サイドも同様SH久保がスペインのSBに出て方向を限定し、次のパスにWB伊東を押し出します。
このWB(伊東)の押し出すスピードと距離感、これが重要です。

ボールを受けた時にはスペインのWG(ダニオルモ)が前を向けないこの距離感!
右WBの伊東はこれが出来るので、ダニオルモにカットインを許さず、狙い通りバックパスを出させています。
このバックパスには久保がハメに出ますが、FW前田の立ち位置に注目して下さい。
見て分かる通り、アンカーのブスケスをマークし続けています。
バックパスにはFWを押し出さないと、この後CBに下げられたら一からやり直しで、一生日本のプレスはハマリません。
ブスケスにはボランチの守田を押し出しているので、前田はマンマークを続ける必要は無いんです。

これでは一生ハマらん!
FWの前田は運動量はあるのですが、マンマークの文化が染み付いてしまっているんですよね…。
ボール状況に応じて、後ろのボランチ(守田、田中)と連動して、ブスケスを背中で消す守備からCBへGO!という守備が出来ないのでフランクフルトのようにせっかくバックパスを出させてもハマらないんです。
右サイドの問題点=FW前田がブスケスをマンマークで見続けている
スペインはCBが常にフリーなので、日本のプレスにハマリそうになったらCBに戻せばいいだけ。それで日本の守備はリセットされるんですから。
スペインはピッチの横幅68Mを目一杯使って、CBを中継点に右から左へ、左から右へとボールを動かし続けます。
日本はその度にひらすらスライドを強いられるのですが、物理的にも人が動くよりボールを動かす方が早いので、押し込まれ続ける展開になるのは自明の理でした。
先制点もその流れから。

日本はこの時間帯、ジリジリ押し込まれるので、最後は自陣ゴール前でサイドの1対1に晒されています。
ですが右WB伊東は1対1で対面のダニオルモをスピードで完封。
この場面でも伊東のアプローチの距離とプレッシャーが効いているので、ダニオルモがヘッドダウン(顔が下がっている)しているんですね。これではいかにスペインと言えど中の状況が確認できず良いクロスを上げるのは難しい状況です。(そもそもスピードで伊東が上げさせないが)
つまり右サイドでは最後の最後でダムが決壊しなかったのは伊東の個の力に大きく助けられていたからです。
この場面でもスペインはクロスを上げきれず、ボールは逆サイドへ

左サイドでWGのウィリアムズにボールが渡りますが、対峙した長友の距離がここでも遠すぎます。
ボールを持ったウィリアムズの視線に注目して下さい。
顔が上がっているので長友の背中を抜けるガビを自然に視野に捉えています。つまり突破しても良し、パスでガビを使っても良しという大手飛車取り状態。
スペイン代表クラスのアタッカーにこの寄せではなんらプレッシャーになっておらず、何でも出来る距離と言えます。

やはりガビを使われて、ペナルティエリアに侵入されてしまいました。
現代サッカーではポケット(ハーフスペース)と言われるこのエリアに侵入されるとデータ的にも失点率が跳ね上がるのですが、何故かというとここをえぐられたら全員が後ろ向きの守備をさせられるからです。
この場面でもSB長友、SH鎌田が自陣に向かって背走するかたちで守備をさせられており、それがこの後に効いてきます。

ガビのクロスは跳ね返したものの、日本は前田を含めほぼ全員がペナルティエリアに背走させられているので、セカンドボールがまず拾えません。
更にウィリアムズにSH鎌田が対応するという事は、上がってきたスペインの右SB(アスピリクエタ)を捕まえる人がおらず、完全にフリーになってしまうのです。
アスピリクエタが狙いすましたクロスを上げてスペインが先制。

<ピッチ上の指揮官が動く>
この状況に最初にアクションを起こしたのはベンチでもテクニカルエリアで立つ森保監督でもなく、ピッチにいた田中碧でした。
失点直後から、CB板倉、FW前田らと積極的にコミュニケーションを取る様子が見られています。
そして前半15分以降、日本の守備が少しづつ修正されていきます。
【田中碧の修正】

前半18分過ぎ、これまで通り日本の右サイドでスペインのSB→ダニオルモのところでハメようというシーンです。
田中碧のアクションに注目して下さい。
田中碧はピッチ上で戦いながら、先述した日本の守備の問題点に気が付いていました。
そこでハメれる可能性があるとしたら左ではなく日本の右サイドだという事を確信したはずです。
これまでであれば、この後前田がブスケスをマンツーマンで付き続けるので、CBへのバックパスがハマらなかったのですが、SBにパスが渡る段階で既に前田に「ブスケスは俺が突くから一列押し出して!」という趣旨のコーチングを出していると思われます。

この試合、初めてブスケスをボランチ(田中碧)が見て、CBにはFW前田を押し出すフランクフルト型の完コピが実行されました

ほら!ハマった!!
前田が横パスのコースを切っているので1枚で2CBを見れるこの形!
ボールサイドに限定をかけているので、後ろのCB板倉も押し出せて、右サイドでは日本の数的優位が作れています。
ボールを持ったCBパウトーレスはパスを出そうにも出せる受け手は全て日本の選手に捕まっている格好。

こうなれば必然的にボールは奪えるんです。相手がスペインだろうと関係ありません。
前田がブスケスを見ていたジリ貧守備から、ブスケスには守田、田中碧を押し出す守備に変えてようやくファースト→セカンドラインの連動が出来てきた。
— サッカー店長/龍岡歩 (@a_tatsuoka) December 1, 2022
これならワンチャン取れる。
ただ、日本が初めて意図的にボールを奪うまでに既に18分が経過してしまっています。
このレベルで修正が15分遅れたら手痛い代償を支払うのは当たり前といえるでしょう。
(この問題はドイツ戦、コスタリカ戦でも同様)
日本はスペイン相手に重すぎる先制点を失ってしまいました。
しかも修正がベンチワークではなく選手主導というのもなかな厳しいものがあります。
試合二日前に選手の提案を採用出来るフレキシビリティーと、その裏面としての状況把握の遅さ。
これは森保JAPANが持つ両面といえるのではないでしょうか。
ピッチ上に話を戻しましょう。
ピッチでは田中碧監督が更に日本の守備をもう一段押し上げるべく修正を図っています。

前半30分のシーンです。
スペインのボール回しが日本の左サイドに展開されようとしていますが、田中碧は左サイドで日本の守備がハマらない事はもう把握しています。(WBが長友なので)
つまりこの後、左ではハマらず、右にボールが戻ってくるだろうという事も。
田中は3手先の展開を読み、この時点で自分の背中にいるペドリを後ろのCB板倉に受け渡すよう手で指示しています。
何故ならこちらにボールが展開されてきた時、自身がペドリをマークしていたらCBのパウトーレスには前田が1人で追わないといけないからですね。
勿論、それでも前田は二度追いで後ろからプレスを掛け、先程のようにCB板倉でボールは奪えるかもしれませんが、そこから得点に直結するカウンターを繰り出すにはゴールが遠すぎます。
1点ビハインドを追っている状況ではもう一列高い位置でボールを奪いたいので、ボランチの自分を押し出してスペインのCBに2対2の状況を作る、その下準備を既に始めているのです。
(この人多分、将来優秀な監督になると思います。)

はい出た!5-4-1からの4-4-2可変!
CB板倉を一列押し出すこの可変こそ、5-4-1でドン引き一辺倒にならないソリューションなのです。
欧州などトップレベルで5-4-1を採用するチームは、この「いつ4-4-2に可変させて前プレのスイッチを入れるか?」という駆け引きこそが勝負の肝というのはもはや常識になっています。
CBに2対2の数的同数でプレスをかけられたスペインはもう、GKに下げるしかパスコースがありません。

GKへは前田がそのまま猛烈プレス。
右CBには左SH鎌田を押し出すので、隣の右SBにはWB長友が連動して後ろから押し出せれば、日本は敵陣でボールを奪える守備になります。
ところが・・・

長友・・・押し出せず・・・(無念)
鎌田(ブンデスと勝手が違いすぎる・・・)
では何故、長友は押し出せなかったのか?
それはスペインの巧みな配置に一因があります。
この場面での全体の配置を図で表すと下記の通り↓

長友はスペインの右WGウィリアムズにオフサイドにならないハーフラインギリギリで立たれているので、ここをマンツーマンで付き続けていたが故に、アスピリクエタには押し出せなかったという事になります。
このすぐ後にも似たようなシーンでスペインのGKシモンをNINJYA前田が前プレで追い詰めますが、同じように右SBに蹴られて打開されています。
本田解説委員『信じられへん…!!』
GKシモンは前を見ずに蹴っていますが、これは最悪右SBに蹴っておけばフリーになっているって予め分かっていたからこそ出来たプレーなんですよ。
何故なら日本の左WBは出てこれないから。
ここで強調しておきたいのは、この長友の対応は決して間違いではないという事。
だって、ウィリアムズを放置して前に出た結果、プレスが剥がされて裏に蹴られたら?
吉田麻也と1対1、もしくは吉田のカバーが間に合わずにタテポン1本でGK権田と1対1の可能性すらあります。
格上スペイン相手に、WBはステイして、全体を40M下げる。
こちらの方がむしろ常道でしょう。
それはその通りなんですよ。
それは、そうなんですが・・・
果たしてこれでスペイン相手に2点を取って番狂わせが起こせますかね?

『負ける事を恐れるな。リスクを冒せ』
僕は毎回、日本代表がW杯に挑む度に思うんです。
挑戦者である我々に元々失うものはないじゃないか、と。
セオリー通り戦っていて、世界の強豪相手に勝てるのか?と。

<日本サッカー史上、"最狂"の布陣>
ハーフタイム、指揮官の森保監督が動きます。
まずは久保に代えて堂安を投入。
久保はドイツ戦に続き、守備面での戦術理解を買われて先発に抜擢されている事がハッキリと分かる交代でした。
「前半は0-1でも我慢でOK」という森保監督のプランにおいて、前半のSHにはなにより守備の理解力が重要だからです。
反面、得点力という点においては堂安の方が買われているという事でしょう。
久保は森保プランにおいてはかなり可哀想な役回りを求められているともいえます。
そして押し出せないWB長友に変わってはアタッカーの三笘を投入。
これは前半の問題点を修正したというより、予め用意していたプランだったと思います。(ドイツ戦、コスタリカ戦と同様のベンチワーク)
前半の修正に関してはピッチで田中監督代行がやってくれていましたので。
ちなみにスペインもハーフタイムに右SBをカルバハルに変えていますが、もしかすると後半の三笘投入は読まれていたのかもしれませんね。
とにかく後半のピッチにはドイツ戦に続き、右WB伊東、左WB三笘という日本サッカー史上「最狂」の布陣が顔を揃えました。
その効果は後半3分、早くもかたちになって実を結びます。

再び前田の前プレが発動した日本。
スペインのCBに鎌田を押し出し、SBにはWBを押し出せるのか・・・??

森保『行け!!三笘!!』

三笘のアプローチスピード速すぎwwワロタwww
スペインのSBカルバハルがボールを受ける時にはもうこの距離まで寄せています。
カルバハルはたまらず後ろを向いてバックパスをするしかなく、そのままGKまでパスが戻されます。

GKに返されたボールには前田が三度追い(マジか!)
これではGKシモンに顔を上げる余裕は無い。
シモン(落ち着け…大丈夫だ。日本は右サイドでハメようと左WBをDFラインから押し出してきた。つまり逆サイドのSBに蹴っておけばフリーのはず)
はい、その通り。
この瞬間の全体の配置はこうなってました↓

日本は最初左サイドでハメようと後ろから押し出してるんで、スペイン陣内に6枚かけてプレスしてるんです。(谷口も入れれば7枚)
で、スペインは左WGのダニオルモがハーフラインギリギリに開いて待ってるので、ここで伊東を押し出したら、剥がされなくても蹴られたらアウト。
つまり、左SBバルデにボールをコントロールされる前に一発必中で死んでも奪わないと終わります。
この状況で普通、行きませんよね?
でもね・・・この時の伊東の立ち位置が強気なんですよまた。
左WBの三笘もそうなんですがスペインのWGの背後からマンマークに付くのではなく、この時点でマークを背中に置いてるんです。
仮に背後に蹴られてもこの距離感ならヨーイドン!で追いつける自信があるから出来るんでしょうね。
自分を前に置いてるのは、いざ押し出すとなった時の距離を少しでも縮めておきたいから。
3バックで守っているチームがボールサイドのWBを押し出て4-4-2に可変させる事はままあります。
でも両WBを同時に押し上げるとなったら話は違います。
実質2バックになっちゃいますからね。

森保『伊東!行けー!!』
あれ・・・?もしかして誰か憑依してません?

本当に行ったよwww
敵陣に8枚の神風特攻プレス!
これだよ!俺が長年W杯で見たかったのは!!

勿論、こんな守備が出来るのも両WBに本職がウイングを置いているという狂気のフォーメーションだからこそ。
この日本サッカー史上「最狂」の布陣にドイツに続き、スペインも全く対応出来ていません。
スペインが混乱に陥る最中、日本の追加点が生まれます。

日本陣内のFKからのリスタートですが、ここでも三笘、伊東の両WBは高い位置を取って日本は5トップ状態。
4バックのスペインは一枚落として守る必要があるのですが、ダニオルモ、お前のその位置取りは少々伊東を舐めすぎだ。
日本はGK権田のキック一発で伊東が背後を取る事に成功。
そこからサポートに入る田中碧にパスが渡る

田中碧から堂安にラストパスが出ようという瞬間には、既に逆サイドで三笘がゴールに向かって走り出している。
オシム『日本では、うまい選手ほど少ししか走らない。それは逆だ。技術のある選手が、もっと走ればいいサッカーができる。』

三笘がラインギリギリのボールに足を伸ばそうとするその瞬間、ゴール前のスペインの選手達を見てください。
全員足が止まっています。CBのロドリに至ってはオフサイド(?)を主張して手を上げている有様。
その中で一人・・・・、ただ一人田中碧だけが足を止めずにゴール前へ走り出しています。
そしてこの差が日本とスペインの勝敗を分けました。
オシム
『相手より5歩余計に走れば、その5歩がすでに勝利の5歩だ』
これね、普通は一瞬足が止まるもんなんですよ。
その証拠に日本の選手達だって、ラインを割るかどうか一瞬見てしまってますよね?
この瞬間に折り返される事を信じて足を動かせるのは、考えて走っていたんじゃ遅いんです。
思考を越えた反応で走っていないとこの田中碧の走りは説明がつきません。
その理屈を越えた反応の事を日本語でこう言います。
『信頼』と

田中碧(試合後の談話)
『本当に小さい頃から一緒にサッカーをやってきたので。
最後まで信じて走ったので、それが最終的にはゴールにつながったので、彼を信じて良かったなって思います』
スペインの中盤にバルサの血が流れているならば、日本代表の中盤にはスカイブルーの血が流れていました。
オシムさん、見てくれていますか?
日本の選手達はこんなにも逞しくなりましたよ-

<過去の悲劇が今日の奇跡を作る>
日本が逆転に成功したことで、FW前田はお役御免。浅野と交代になりました。
逆転に必要だった2得点で、前田が影のアシストを担っていた事は忘れるべきではないでしょう。
1点目はGKへの猛烈なプレスが最初のスイッチになっていますし、2点目も三笘と共に最後までゴール前に飛び込む執念を見せていました。
FIFAの公式スタッツでは62分の出場で60回のスプリント(勿論、この試合最多)を記録。
1分に1回スプリントするという驚異的なパフォーマンスで走り切りました。
一方のスペインは日本の狂気のWBを切り崩すためにサイド攻撃を強化。
左SBにレギュラーのジョルディ・アルバを入れて伊東が前に出てくる背後を2枚で突こうという姿勢を見せてきました。
すると返す刀で一分後に日本ベンチが動きます。

森保「冨安、右サイドを封鎖だ」
この交代は完全に用意されていたプランでしたね。
さすがの伊東と言えど、スペインにWGとSB(アルバ)の2枚がかりで攻められたら分が悪いのは明らかです。
鎌田に代えて冨安を入れて、伊東は攻撃に専念出来るよう左のSHへ。
ここからはもう我慢からのカウンター狙いなので、鎌田のキープ力よりも伊東のスピードを残したかったという意図でしょう。
交代で入った冨安はこもミッションを完璧にこなし、Jアルバを完封。
当たり前です。サラーを完封した男なのですから。
以降の日本は5-4-1の10枚ブロックを引いて森保JAPAN得意の塩漬け戦法を開始。
この時間帯は押し込まれてはいますが、今大会最もコンパクトに戦えていました。
プレスバック、スライド、全体が一つの生き物のように連動。
スペインはどこにボールを動かしても全ての局面で日本が数的優位を作れているのでブロックの強度は崩れません。

試合はさながら、スペインリーグでバルサがアトレティコに負ける時のパターンの様相です

森保「我慢だ!粘り強く戦え…!!」
ここにきて森保監督が今大会でずっと強調してきた「我慢」と「粘り強さ」の最高峰を見せています。
一方のスペインの指揮官、ルイス・エンリケはこの終盤になって打つ手が無くなっていました。
スペイン代表の選手選考基準は明確です。上手くて賢い奴、それを26人集めました。
「我々が一番良いフットボールをしている」という自負と自信があったはずです。
誰が出ても上手い反面、足元は不器用でもでかくて強いアフロ頭とか、パスワークは苦手でも無骨に仕掛けるドリブラーといったタイプは今回のスペインにはいません。
交代カードを切る度、スタメンの劣化版が出てくるに過ぎないスペインに対して、日本は三笘、冨安、終いにはクローザーとしてブンデスリーガのデュエル王(遠藤)が出てくるなど、交代カードを切るたびにチームが強化されていきました。
ルイス・エンリケ
『森保半端ないって!ベンチから次々とエース級が出てくるもん!そんなんできひんやん、普通(涙目)』
森保JAPANには明確なスタイルもゲームモデルもありません。
だからこそ、上手いやつ、速いやつ、強い奴、何か一芸に秀でていればどんな選手でも選考対象になります。
「全員がレギュラー」と公言してきた森保JAPANは選手構成によってガラリと姿を変え、ドイツやスペインはその変化に全く対応出来ませんでした。
欧州と言わず、今大会世界中を見渡してもこんなチームは他に類を見ないからです。
特筆すべきはロスタイムの7分間、スペインに1本のシュートはおろか、CKさえ与えていない日本の戦い振りでしょう。
それは日本サッカーが積み上げてきた歴史が、ロスタイムの戦い方をピッチ上の選手達にインストールしてきたからです。


もしかすると観ているファンの脳裏には過去幾多のシーンが浮かんだかもしれません。
しかし昨日までの悲劇が、今日の強さにつながっているのです。
森保監督
「最後の1分くらいのときに、私のドーハの記憶が出てきました。でもちょうどそのときに選手が前向きにボールを奪いに行っていたところで、あ、時代は変わったんだな、と。選手たちが新しい時代のプレーをしてくれているということを思いました」
一方のスペインがロスタイムにした事。
それはCBからのタテポン放り込みでした。万策尽きたスペインは最後の最後に自分達のスタイルを捨てるしか手が無かったのです。
僕にはそれはスペインからの白旗のように見えました。
リスクを恐れずに一歩を踏み出した森保JAPANが日本サッカーに新たな歴史を作ってくれました。

<森保JAPANが見せた二面性>
この勝利の要因を分析すると森保JAPANが持つ二面性が見えてきます。
まずはドイツ戦に続いてこのスペイン戦でも森保監督の戦略がビタリとハマった事が最大の勝因になります。
日本がスペイン相手に「神風特攻プレス」をかけるなら15~20分が限界と踏み、それをどの時間帯で繰り出すか?
森保監督が出した答えは前半45分をひたすら我慢(0-1でもOK)して、後半の頭から三笘、堂安という人的リソースを投入し15分で勝負を賭けるというもの。そこでリードを奪えば今度は冨安、遠藤といったカードで試合をクローズさせる。
そしてこの神風戦略を成功に導いているのが日本の選手達が持つ自己犠牲の精神です。
考えても見て下さい。チームで一番ドリブルが上手い三笘と伊東が本番でいきなりWBをさせられて、賢明に守備でも頑張っているからこそこの戦略は成り立っている訳です。
これは南米や欧州の国だったらそう簡単な話ではないですよ。
だってネイマールやムバッペがいきなりWBやらされて、こんなに献身的にプレー出来ると思いますか?
普通は逆です。
今大会でもアルゼンチンやポルトガルの試合を見てみて下さい。GK権田より一試合の走行距離が少ないメッシやロナウドといった選手の負債をチームが肩代わりしている図式です。
これらの例を見ても日本人が持つ特性と森保監督の戦略がビタリとハマっている事は間違いないと思います。
一方で、では具体的にどう前半45分を耐えるのか?
スペインのポゼッションをどのように制限し、どこでボールを奪うのか?
そういった具体的な戦術に関してのベンチワークは今大会ほとんど見られていません。
2日前までは別のシステムでスペインに対峙しようとしていたんですから、それも無理はないでしょう。
現状は選手の「粘り強さ」に一任されている状態です。
だからこそ、強豪相手(ドイツ、スペイン)にビハインドを負い、やる事が明確になった時にこのチームは最大の強さを発揮します。
リアクションの強さと言い換えても良いかもしれません。
一方でドイツ、スペイン相手に快勝したのが森保JAPANの現実なら、コスタリカ相手に何も起こせず敗戦したのもまたこのチームが持つ一面なのです。歴史的勝利でそこから目を背けるべきではないでしょう。
コスタリカのように、相手に日本を研究されて、ボールを持たされて自分達からアクションを起こす時、このチームが持つ武器はあまりに少ないと言わざるを得ません。
過去の日本代表も「自分達のサッカー」と言い出した途端、負けパターンにハマってきた歴史があります。
果たしてベスト8を賭けたクロアチア戦で見られるのはどちらの森保JAPANなのでしょうか?
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テーマ : FIFAワールドカップ
ジャンル : スポーツ