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『ティキタカとの決別』~バイエルン×ドルトムント~

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<『ティキタカとの決別』 ~バイエルン×ドルトムント~

先週は多くのビッグカードが組まれたおかげで頭を悩ませましたが
戦術的にも多くの発見と驚きがあった「バイエルン×ドルトムント」のカードを検証していきたいと思います。

今季の流れと現代サッカーの最先端を観測していく上で外せない試合となりました。

ではまず両チームのスタメンから

1012スタメン(ドルバイヤン)

バイエルンはいつも通り3バックをベースとした3-4-3気味の布陣。
攻撃時はミュラーが前線に張り出せば3-3-4となります。

王者らしい自分達のサッカーをこの大一番でも全面に押し出してきました。


対するチャレンジャーサイドのドルトムント。
クロップ政権から新監督トゥヘルを迎え、サッカーもリニューアル。

前監督の代名詞であった変態プレス(Gプレス)は封印し、守備はオーソドックスな方に少しバランスを取り直して
昨季相手に引かれると頭打ちだった攻撃はポゼッションで主導権を握る形にも真正面から取り組んでいます。

これに伴い、布陣はヴァイグルをアンカーに置いて香川とギュンドアンがCHに並ぶ4-3-3を基本にしてきました。
しかしバイエルン相手に4-3-3をぶつけた場合、トゥヘルには懸念材料があったはず。

それはバイエルンの攻撃の起点であるアロンソをフリーにしてしまうという事。

【トゥヘルの懸念 (4-3-3をぶつけた場合)】
1012ドルスタメン(通常時)

その上、バイエルン相手に中盤で3対4の数的不利を自分達から作るのは自殺行為に等しいのではないか・・・、そんな疑問が浮かんでも当然な程、今季のバイエルンは開幕から強さを見せています。

そしてもう1点、個人での仕掛けが「人間兵器」とも言えるレベルのドウグラスコスタ。ここを抑えずに勝機は無い。


最終的にトゥヘルはバイエルン対策として4-3-1-2を選択。

【トゥヘルのバイエルン対策】
1012ドルスタメン(実際)

まず人間兵器にはドルトムントの中で最も対人に強いパパスタソプーロスをマッチアップ。
左SBには怪我のシュメルツァーに代わって右SBのピシチェクを回し、CBにベンダーを入れた緊急布陣。

そしてアロンソには香川をマンマークで付けて3バックの両脇アラバとボアテングにも簡単にボールを運ばれないよう2トップをワイドに張らせて対応。

試合後、フンメルスと香川がインタビューでドルトムントのゲームプランについて触れています。

フンメルス「ボールを持った時のボアテングとアラバに時間を与えないこと」

香川「シャビアロンソをフリーにさせるな、と言われていました」

その代償として3バックの中央にはある程度ボールは持たせてもOK!という割り切った戦術を採用してきました。


<先手を取ったトゥヘルとペップの応手>

トゥヘル「アタッキングサードでの仕掛けは結果に結び付かなかったが、最初の20分は悪くない出だしだった」

トゥヘルが言うとおり、結果的にこのバイエルンシフトは序盤、ある程度機能していたように思います。

ではその序盤の攻防からドルトムントの狙いがよく表れているシーンを一つ検証してみましょう。


【バイエルンシフトの狙い】
ハビマル1012

局面は右から左へ攻めるバイエルンのビルドアップから
この日は3バックの中央に入ったハビマルティネスが放置プレーとなります。

アロンソは香川にコースを消されているのを見てDFラインに降りる


ハビマル1012-2

「アロンソ番」の香川は当然アプローチに行くのでハビマルが浮く形に


ハビマル1012-3

但し、先ほども言ったようにドルトムントからするとこれは想定内。

フンメルス「ビルドアップではアロンソとボアテングにロングボールを蹴らせない事を第一とした」

ハビマルティネスはビエルサ時代のビルバオでも見せていたように
基本的には中盤を飛ばしたロングボールではなく左右にグラウンダーのパスを丁寧に散らすタイプのスペイン産レジスタ。
ここでもシンプルにサイドのチアゴ・アルカンタラを選択。


ハビマル1012-4

受けたチアゴから大外で待つドウグラス・コスタの足元へ「中⇒外⇒外」のビルドアップ。

確かにこれはこれでバイエルンの強みではあるんですが、この攻め筋はドルトムント側が誘導したものでもあり、
最後に1対1の勝負となるドウグラスにはその為のパパスタソプーロスをマッチアップさせています。


ハビマル1012-5

トゥヘルの期待通りにパパスタが粘り強く対応して、その間に中盤がゴール前までプレスバック。
ここではドウグラスが上げようとしたクロスをカットしていますが、仮にゴール前まで上げられたとしても人数は充分揃えていて準備万端という按配。

バイエルンは一見ボールは回っているように見えてもトゥヘルの手の内で回させられているだけなので決定機にはつながりません。


これを観たペップが早速、応手に動きます。
3バックの並びを変えて右にハビマル、中央をボアテングに。


【ペップの応手 (ボアテングをフリーにさせる)】
ボアテング1012-1

局面は3バックの並びが変わった事でアラバとハビマルにドルの2トップが、アロンソに香川がマークに付いて中央(ボアテング)がフリーという構造自体には変わりはありません。

しかしボアテングのビルドアップはハビマルとは違い、ドイツらしい中盤を飛ばした長いパスにその持ち味があります。
しかもペップ政権でその精度は目覚しく向上中。

ここでもピルロがよく見せているような中盤を飛ばしての・・・


ボアテング1012-2

レバンドへのクサビをグサッと通してきます。

先ほどの「中⇒外⇒外」と違い「中⇒中」で通されると守備側は中央に絞らざるを得ず、外が空いてしまいます。


ボアテング1012-3

ほら、これだと外で受けるドウグラスがこの高さでフリーになれるので、ボールを受ける前段階で攻撃側が圧倒的にアドバンテージを握れるんですよね。

これが「中⇒中⇒外」の攻め筋が持つ強み。


続いて必殺の対角パスも↓

ボアテング対角1012-1

ドルがボールサイドに寄せているのを見て・・・


ボアテング対角1012-2
現代サッカーのトレンド筋「対角パス」!!

レバークーゼン戦で先制点とったパターンや!

これやられたら守る方はズルズル下がるしかないし、ドウグラスはファーストタッチでペナ内進入出来るから迂闊に足出せん!


このぐらいから失点の匂いが漂ってきていたドルトムントですが、案の定前半の26分にバイエルンの先制点が生まれます。

↑の2つと同じように起点は構造上、フリーになっているボアテングからの1発のロングパス。
ドルトムントとしては最も警戒していた形ですが何故アッサリと裏をとられてしまったのでしょうか?

【バイエルンの先制点】
ミュラー先制1012

う~む、レバンドフスキを警戒させといて中途半端な位置にいたミュラーがダイアゴナルランで裏を取ってるのね。

バイエルンはこの時3-3-4の並びになっていて左SBのピシチェクには大外のゲッツェというマークがいるので
CBとSBの中間に位置しているミュラーはどうしても浮いてしまった訳です。

ハッキリ言って今季のミュラーはもう、ボールさえ持たなければ「世界一の受け手」です。

DFの背後を取るフリーランは芸術の領域で、ドルの最終ラインとしても対応は極めて難しかったと思います。

【ミュラーが裏を取った瞬間の配置】
バイ図解1012

青丸がそれぞれのマッチアップとマークの意識で、この時ドルの最終ラインとバイエルンの前線は一見4対3に見えて実は4対4でした。

ボアテングがフリーでキックモーションに入れるのを見て、又ドルの最終ラインがボールの出し手と自分のマークに意識が集中するその瞬間を狙ってミュラーがバイエルンの前線を「3」から「4」に変えているので、まあ空いちゃいますよね。


<バイタルエリアの覇者>
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一方、反撃を試みたいドルトムントですがなかなか決定的な形を作る事が出来ません。

今季のドルの攻撃は基本的にブロックの外でヴァイグル、ギュンドアン、フンメルスらが中心となってボールを動かし
相手に横スライドを強いてタテパスのコースが空いた瞬間に香川が顔を出す・・・という形が基本。

しかし香川が守備でアロンソをマークしていたという事は、香川がアロンソにマークされるという事でもあります。
つまり両チームのキーマンがバイタルエリアで覇権を巡る争いを繰り広げていたのでした。

【アロンソの香川封じ】
アロンソ守備1012-1

局面は自陣でドルトムントがボールを奪った瞬間、カウンター発動のチャンスです。

バイエルンからするとこの時、一番避けたいのが香川にタテパスを入れられてターン⇒香川無双発動ですが、ここはアロンソが素早く寄せて真っ先にケア。
絶対にタテパスは入れさせない構えです。


アロンソ守備1012-2

仕方なく一度外に迂回させてからナナメのパスコースを探るドルトムント

アロンソにボールと香川を同一視出来ない状況を作り出しますが、アロンソは守備でも首を振って香川の位置取りを確認。
ボールと香川の間に常に自分が立てるポジショニングをキープしてパスコースを徹底的に寸断し続けます。


アロンソ守備1012-3

ここに揺さぶりをかけたのがカストロでアロンソの背後を斜めに抜けていきました。(ナイスフリーラン!)

ここで中盤の底を1アンカーに任せているチームにありがちなのが、このランニングにアンカーが外に引っ張り出されて
空いたバイタルにクサビを打ち込まれるシーンです。

ダブルボランチなら1枚が付いて行ってもう1枚が絞ってカバーすれば良いですが
1アンカーは文字通り「そこにいる」事が仕事になってくるので常に今、一番ケアしなければならないゾーンとマークを判断し続ける事が重要。

アロンソはここでも迷いなくカストロは後ろのボアテングに受け渡し・・・


アロンソ守備1012-4

自分は引っ張られるどころか逆に前に出てバイタルを明け渡しません。

これでパスコースの無くなったムヒタリアンが逡巡している内にバイエルンのプレスバックが間に合って取り囲んでしまいました。

これが現代サッカーのアンカーに求められる守備で、アロンソは常にボールの次の出所を巡ってギリギリのリスクマネージメントを行っています。まさに「ピッチ上の監督」ですね。
(ちなみにマドリーの試合を観て分かる通りクロースはこのセンスが致命的に欠けている。故にトレードは正解)

おかげでドルトムントはタテパスが出せずに攻撃が停滞。
横パスとバックパスを出しているうちにバイエルンのボール狩りの餌食・・・という悪循環へ。

ならばこっちもボアテングよろしく、タテポン一発で勝負だ!
最前線のオーバメヤンをヨーイドン!させて裏とったるでー!

【ドルトムントのタテポン戦法】
オバメにタテポン1

局面は同じく自陣でボールを奪ったドルトムントから。
やはり香川へのタテパスはここでもアロンソが寄せて封じています。

という事で中盤をすっ飛ばしてタテポン!


オバメにタテポン2

この形でオーバメヤンを走らせたら2回に1回は勝つ!



オバメにタテポン3
残念、そこはノイアー
(コイツの守備範囲も反則だろww)

トゥヘル「八方塞やんけ・・・」


こうなったらドウグラスはいないけどドルも外の攻め筋から仕掛けるぐらいしか手が残されていません。

【ドルトムントの外攻め】
2点目1012-1

4-3-1-2のドルトムントのワイドはSBが使うしかありません。

という事で、SBのピシチェクが縦勝負。


2点目1012-2
アッサリ奪われたー!

やっぱりドウグラスコスタみたいはいかん!個の力に差がありすぎる・・・。


2点目1012-3
逆にSBが上がった裏を使われてバイエルンのカウンター発動!

このカウンターからPKをゲットしたバイエルンが追加点。

バイエルンの攻め筋が次々決まっていくのに対してドルトムントは全てが裏目、裏目。
前半にして勝負の大勢が決まったかに思われましたが、この得点シーンの最中、バイエルンベンチを映したカメラに僕が釘付けとなりました。


2点目1012-4
なにやらラームがペップに駆け寄り戦術の確認を行っていると思わしき一幕が。

一見、全てが順調に運んでいるバイエルンにしてはラームの表情がひっ迫しています。

これはこの試合、まだ何かある-

僕はそう確信したのでした。


<ラームの不安とは?>

ではラームは何をあんなに必死に訴えていたのでしょうか?

それを探る為、試合をバイエルンの追加点のシーンからほんの少し巻き戻してみましょう。
バイエルンの追加点が決まったのは前半の33分ですが、その3分ほど前の30分前後に実はドルトムントが布陣を修正していたのです。

香川が封じられた上、ボアテングをフリーにするなど攻守に機能しない4-3-1-2から、より普段着に近い4-2-3-1へ。
並びはオーバメヤンを1トップにその下に香川、左にムヒタリアンで右にカストロ、ボランチがヴァイグルとギュンドアンのコンビになりました。

これでピッチでは何が起こったか・・・?
ラームの不安の種を探っていきましょう。

【ドルトムントの修正】
ラームの不安1

局面は左から右へと攻めるドルのビルドアップから。
SBパパスタソプーロスからSHのカストロを越した一つ奥へタテパスが入ります。


ラームの不安2

この場面では引いて受ける動きをしたカストロにはボアテングが付いていったので3バックの中央は変わりにアラバが入ってます。
ドルトムントからするとこのSHが引いて食いつかせた裏に香川がナナメに出て行く動きは4-3-1-2では出ない攻め筋であり早速4-2-3-1に修正した利点が出ました。

バイエルンからすると香川の稼動域が広がったせいでアロンソのマークも後手を踏み始める危険な流れ。

しかも↑の場面、斜めに抜ける香川にはアラバがカバーに入って対応するので
オーバメヤンをハビマルが見るまではいいですが3バックだと大外のムヒタリアンが空いてしまいます。

なのでラームがこの穴埋めのカバーを行う事に


ラームの不安3

香川へのボールはアラバが先に触るもセカンドボールはギュンドアンの元へ。

バイエルンの守備は先ほどの流れでムヒタリアンにラームが付いていますが、ムヒタリアンは大外で張っているタイプではなく自由に中にも入って来るSH。
(役割的には去年までのシティのシルバと同じ)

バイエルンは1アンカーのアロンソがボランチのギュンドアンに対応しているのでその脇は弱点となるスペース。


ラームの不安4

ムヒタリアンがアロンソの背後で受けて、この試合初の間受け成功。
これを見て香川とカストロが前線でモビリティを発揮


ラームの不安5

ムヒタリアンから香川へのタテパスは間一髪のところでボアテングが跳ね返しますが注目していただきたいのがこの時のバイエルンの守備陣形です。

先ほどまでのドルの攻め筋と違って「外⇒中⇒中」を使われているので全体がギュッと中に絞らされてますよね?

こういう状況でクリアをしてもですね・・・


ラームの不安6

ホラ・・・必然的に外でセカンドを拾うのはドルトムントになるでしょ?
(このスペース、本来はラームのカバースペースなんですがここに到るまでのドルの攻撃のせいで中に絞らされた結果、こういう事態に)

アロンソは急いで両手を広げて全体に横へ広がるように指示していますが、これがラームの感じていた不安の正体です。

ちなみにこの後、ドルは左サイドのピシチェクへ展開してさきほどの2点目のシーンへ繋がる訳ですが、
こう見ていくとバイエルンの追加点は順風満帆の流れで生まれたのではなく実は紙一重だったんですね。

要は守備の時にバイエルンの陣形が崩されているので、狙った形でセカンドボールを回収出来ていない・・・と。
(にしても、ピッチ上にいながらたったこのワンプレーでそれを察知したラームの戦術眼なww)


そしてこういう戦術的要因が元の不安やひずみは必ずピッチ上に具現化されるのがサッカー。
バイエルン追加点の僅か2分後に生まれたドルトムントのゴールはもはや必然と言えるでしょう。


【ドルトムントのゴールを検証】
ドル得点1012-1

局面は右から左へ攻めるバイエルンのビルドアップから。
ドルが4-2-3-1にした事でもうボアテングがフリーじゃなくなってしまいました。
こういう時の頼みの綱はドウグラスコスタという事でパスは外⇒外


ドル得点1012-2

・・・が、中を経由していないのでパパスタがここまで寄せられる&遅らせている間にSHのカストロが戻れる。
これがサイドに2枚置いている4-2-3-1の強みですね


ドル得点1012-3

中盤のこの位置で2対1で仕掛けるのはさすがのドウグラスでもリスクしかないので一旦下げる事に


ドル得点1012-4

しかし下げられたアラバからのパスコースがありません。
ボアテングには1トップのオーバメヤンが、アロンソへのコースは香川が切ってるし、チアゴにも背後からアルカンタラが寄せています。

こういう時のバイエルンは・・・・そう、「レバンド頼んだぞ!」


ドル得点1012-5
・・・おっとそこは通さない。

前線の守備が機能し始めた事でバイエルンのパスコースが限定⇒後ろがインターセプトを狙える好循環。

さあ、ドルのカウンター発動だ!


ドル得点1012-62

奪ったベンダーから、またまた随分中に入ってきているムヒタリアンへタテパス。
アロンソは香川をケアしているので背後から中に入ってきているSHのムヒタリアンはケア出来ません。
従ってここでもまたラームがケアする事に。

そしてラームが食いつかされた事で大外はゲッツェが下がってカバーするしかない状況



ドル得点1012-7

ゲッツェが下げられた事でバイエルンの前線が薄くなり、フンメルスがフリーに
ここからフンメルスがボールを運んで・・・

ドル得点1012-8

フンメルスからの次のパスが勝負の分かれどころでした。
こういう時、フンメルスから香川へのタテパスはデータ的にも最もドルで頻繁に見られるラインです。
アロンソもはやり香川を警戒して前傾姿勢になっていますが、その背後でまたもや自由なポジショニングのムヒタリアンが空いてしまいました。


ドル得点1012-9

ドルの4-2-3-1は攻撃時、右のカストロは外に張っていますが左のムヒタリアンは香川の隣まで入ってきて2シャドーになるのでアロンソがカバーしきれなくなってきていました。

バイタルで前を向いたムヒタリアンと3バックでボールサイドに寄せていたバイエルンの守備陣
大外で空いたカストロからダイレクトで中に折り返したところをオーバメヤンが詰めて前半は1点差で折り返す事に。


結果的にラームの不安は的中してしまいました。
システムの噛み合わせで見ると序盤は4-3-1-2のドルに対して3-3-4気味に前から守備が出来ていたバイエルン↓

【序盤の噛み合わせ】
バイヤン334守備

序盤はラームがカストロとヴァイグルの中間地点から局面によって上手くぼかしつつ1人で2人を見れていました。



【ドルが4-2-3-1にした事でラームに不安が生まれる】
ラームの不安(図)

しかし30分過ぎにドルが4-2-3-1に変えた事で中途半端に中へ入って来るムヒタリアンが捕まえづらくなります。
CBがこれに付いてしまうと最終ラインが2バックになってしまうので難しく、ラームがムヒタリアンに引っ張られる事で
ボールの出所のヴァイグルがフリーになり、時間が作れるようになった事でSBピシチェクが上がってこれるようになりました。

これがドルトムントのゴールが生まれる戦術的な布石になったのです。


<ティキタカとの決別?>

ハーフタイム、今度はペップが修正に動きます。
後ろが3枚じゃ足りていないのとアロンソの両脇が狙われた事で4-2-3-1へ。

【ペップの修正】
バイヤン4231-1012

ラームを右SBに入れてボランチはチアゴとアロンソの2ボランチに。

ドルトムントとすればいい時間帯に1点取れた事で後半は反撃の狼煙を上げたかったはずですが、後半開始早々にプランは脆くも崩れ去るのでした。

【バイエルンの3点目】
バイヤン3点目1012-1

局面は後半、キックオフのボールをノイアーまで下げたバイエルン。
これにスタートから勢い良く飛び出たオーバメヤンが追いますが、これは完全にバイエルンの罠でした。

1トップのオーバメヤンがノイアーに食いついたらCBのボアテングが空いてしまいます。


バイヤン3点目1012-2
そしてフリーのボアテングが持った瞬間の別アングルがコチラ↑

先制点の流れがまだ脳裏に焼き付いているフンメルスは瞬間、ミュラーに意識がいっていました。

この隙を今度はレバンドフスキが突きます。


バイヤン3点目1012-3

ボアテングからロングボールが蹴られると、フンメルスはミュラーに気をとられた分、隣のベンダーのカバーポジションを取る深みが足りずCB間に生まれたギャップをレバンドフスキに突かれてキックオフの流れから失点。

いい流れで前半を終えていただけにこの3点目は痛かった・・・。


それにしてもペップのバイエルンはCBのタテポンで2得点って・・・ティキタカは一体どうしたのか?
象徴的なのはここまでただのオトリに過ぎないゲッツェや脇役のチアゴ、アロンソだって守備面でしか目立っていません。

エンリケのバルサもイニエスタの存在感はますます薄くなるし、これが世界の流れなのか・・??



720p-Pep Guardiola Sebastian Kehl Shut Up
<これがペップの二刀流!>

後半開始早々に1-3となった事でドルトムントは最低でもあと2点が必要になりました。
ここでいつもの4-3-3解禁です。

4141ドル1012

前半から両サイドに個で仕掛けられる駒が無かったのでロイスとヤヌザイの投入で両ワイドからも圧力をかけられる布陣に。
アロンソに消されていた香川と解き放たれたムヒタリアンではどちらをピッチに残すかは明白だったので日本人としては残念ですが致し方ないでしょう。

しかしドルが4-3-3にした事でアロンソのマークは緩くなるはず。
果たしてバイエルンはこの布陣変更にどう出るか。


バイヤン4点目1012-1

局面は左から右へ攻めるバイエルンのビルドアップにドルの前プレ発動。
ノイアーにオーバメヤンが寄せて本来空くはずのアロンソにはロイスとムヒタリアンが寄せて「前プレ」によって守備のウィークをカバーしつつ、ここで奪ってショートカウンターがトゥヘルの狙い。

しかしドルが前プレに出た事でバイエルンの攻め筋がここで一変します。


バイヤン4点目1012-2

相手が取りに来るなら剥がすだけと言わんばかりに2人に寄せられたアロンソはその間を通して続くヴァイグルの寄せもワンタッチパスで回避


バイヤン4点目1012-3

ヴァイグルの二度追いも軽くいなしてワンツーでミュラーへ

ドルはアンカーが剥がされているので・・・


バイヤン4点目1012-4

ミュラーに対応するのはもう最終ラインしか残ってません。
SBピシチェクの寄せも鼻先でパスを裏に通されると・・・



バイヤン4点目1012-5
もう2バックしか残ってない!

バイエルンはGKからのビルドアップで前プレを1枚づつ丁寧に剥がされて最後はCB2枚と2対2の状況を作り出す事に成功。
これを逃すはずもなくゲッツェから芸術的なクロスが出てレバンドが4点目。

相手が中盤に網を張って待ち構えているなら一発で裏を取るし、
取りに来てくれるならいくらでも剥がしますよ?というペップの二刀流・・・恐るべし。

後半は前半脇役だったアロンソ、ゲッツェ、チアゴが主役になり、ドルのプレスをいなす事、いなす事。
象徴的なのは5点目でバイタル進入からチアゴのアシストで最後はゲッツェが決めました。



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<『ペップのバイエルン』は『ペップのバルサ』を超えたのか->

ティキタカの一点突破を芸術の域まで高め、結果と内容を両立させながら頂点を極めたペップのバルサ。

そこからのシーズンは一転してポゼッション迎撃からの一発で裏を取るカウンターが盛り返し、
ここ2シーズンはその年「最高のカウンター」を持ったRマドリーとエンリケのバルサがビッグイヤーを獲っています。

従来のペップのサッカーはこれに見事にハマって大量失点というパターンが続いていました。
相手はペップシフトとして中盤とDFラインを狭くした2ラインでコンパクトな網を張って中央密集、
そこにあえてタテパスを打ち込んで崩そうとするもボールを狩られて薄くなった背後にカウンター⇒失点

【従来の負けパターン】
旧ペップ1012

とにかく「間受け命!」って感じのサッカーで、これに対する相手の常套句は「CB放置」「中央密集」「DFはハイライン」

まあ、相手からすれば待っていればそこに進入してきてくれるので、ここで狩るか
それともバルサが細かいワンツーとメッシ無双で突破するかの切り合いを演じてきたわけですね。


一方、今季のバイエルンは違います。

「CB放置」と「DFはハイライン」を逆手にとって、じゃあその裏を一発でとったらええやん、というカードを持っています。

【今季のバイエルン】
新ペップ1012

これで「CB放置」が出来なくなったチームが前プレを仕掛ければ、ティキタカの香り漂うパスワークで丁寧に剥がして仕留めようという二刀流ですね。

前者のサッカーだとボアテング、アラバ、レバンドフスキ、ミュラー、ドウグラスらが躍動し、
後者のサッカーだとゲッツェ、アロンソ、チアゴ、ハビマルらが躍動するので相手の出方に応じて主役と脇役を入れ替えています。
(ラームはどちらのサッカーでも輝くエクストラカード)


以前よりこのブログでは「いずれCBが司令塔になる時代がくる」と言ってきましたが
この試合ではボアテングが2アシストでドルトムントの得点も起点はフリーになったフンメルスのタテパスからでした。

ペップですら「自分達のサッカー」一点突破ではなく相手の出方によるカードを増やす時代。
ますます攻守は一体化し、前線の守備力やGKとCBの展開力が試合の勝敗を左右するようになってきました。

そんな時代にCBにテリー、ケーヒル、スモーリング、メルテザッカー・・・etcの「跳ね返し屋」を起用しているリーグがCLで苦戦を強いられているのはある意味当然の帰結と言えるでしょう。

昨季、致命的だった「ロッベリー不在時の限界」はこの試合を見る限り完全に克服されています。
果たしてここにロッベリーが戻ってきた時、ペップは一体どんなサッカーを見せてくれるのか。

あの『ペップのバルサ』を完全に超えたサッカーが今季、観られる予感がする-






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『狩るか、狩られる か?』 ~バイエルン×レバークーゼン~

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<『狩るか、狩られるか?』 ~バイエルン×レバークーゼン~

以前、このブログでロジャーシュミットと共にレバークーゼンを推しチームとして紹介させていただきましたが
そういえばマッチレビューは1試合もやってないな・・・という事で
今回はブンデスから早くも実現した変態待望のマッチレビューをお届けしようと思います。

今季のブンデスはドルトムントも好調ですが、サッカー自体はクロップ時代の変態的なGプレスと鬼カウンターから脱却し、
完全な別チームとして特に守備は極めてオーソドックスなものに整備し直されています。

そういう意味でブンデスで今変態サッカーを見ようと思ったらバイエルンとレバークーゼンのこのカードしかないだろう!という試合です。


<CB不在の3バック>
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まずレバークーゼンですが、この試合の2日前にはCL予備予選でラツィオと激闘を終えたばかりのツライ日程。
CLに出れるかどうかで今季の収入が50億前後変わってくると考えるとクラブにとって本当に「絶対に負けられない戦い」だった訳で心身の消耗は大きかったはず。

勿論、そういった事も含めてのリーグ戦なので致し方ないのですが、
第三者としては万全のコンディションで王者バイエルンに挑む挑戦者・・・という構図が見たかったのも本音。

尚、この試合の直前にソンフンミンがスパーズに移籍した模様。
パクチソンの上位互換として「前プレ命!」のポジェッティーノサッカーには確かにハマるかも(?)


対する王者バイエルン。
ロジャーシュミットに対する賛辞を隠さないペップが、この変態サッカーを分析し尽くして出した回答が3-4-3でした。

今季のチームはリベリーがシーズン前半を棒に振るという事で
昨季「ロッベリー不在時のパンチ力不足」に悩んだ反省も踏まえてワイドプレイヤーに突破力に優れたドウグラス・コスタを獲得。

注目は3バックで何とSB3枚でDFラインを組んできました。
(ちなみに身長で言うと右から170cm、180cm、171cmという3バックになりますwww)

相手ボール時はアロンソをCBに下げて多少高さ不足を補おうという可変式の意図はありましたが
ダンテをベンチに置いてまでチビっ子3人を使ってきたという事は「守る」という発想ではなく
あくまで「ボールを支配する事が最大の守備」という発想から基づいたものなんでしょう。

実にペップらしいレバークーゼンシフトだと思います。


<狩る者、外す者>

この試合の構図はボール支配を目論むバイエルンからそれを狩ろうとするレバークゼンと
その変態前プレを真正面から外そうとする王者という非常に分かりやすいものです。

通常、ロジャーシュミットの変態前プレにはロングボールを蹴って回避しようと考えるチームが多いものですが
敢えてそれを正攻法のポゼッションで外そうという戦いはなかなか見られないという意味でも変態心をくすぐられずにはいられません。

では実際の試合の立ち上がりから、ビルドアップでどこに起点を作るかを探るバイエルンと、
全面プレスでそれをさせないレバークーゼンとのやり合いを見ていきましょう。

まずは守備時4-4-2の3ラインを作るレバークーゼンに3-4-3で対峙した時のオーソドックスな構図がコチラ↓

【ビルドアップの起点探し】
アロンソ浮く0909
当然アロンソが中盤で浮く恰好であり、ペップの第一の狙いはコレ。

しかし敵将のロジャーシュミットもそんな事は百も承知な訳で。


【アロンソは浮かせません】
アロンソにボランチ0909-1

実際の試合から、アロンソを使うバイエルン。
これに対しては・・・


アロンソにボランチ0909-2
ボランチが出て行って捕まえるという対応が徹底されていました。

つまりレバークーゼンのボランチの守備範囲は中盤全域となる訳ですが、そこは鬼の運動量でカバーするのと
そもそもバイエルンに中盤を越したロングボールが少ないのでそこは計算は立つ、と。


じゃあ次は「中がダメならサイドだ」という事でインサイドハーフをワイドに取らせるペップ。

【中がダメならサイドだ!】
CH.jpg

サイドに3枚置ける3-4-3の強みを活かして4-4-2を攻略だ!


アルカンタ開く1
局面は右から左へ攻めるバイエルンのビルドアップ


アルカンタ開く2

インサイドハーフのアルカンタラがここからワイドに開く


アルカンタ開く3

・・・が、SHのベララビが鬼の横スライドでワイドも通さず。


このようになかなかシュミットの4-4-2を攻略出来ないバイエルン。
長いパスで前プレを回避しようにも肝心の発射台アロンソがほとんどフリーでボールを持てないので苦しい。


<ティキタカ一年生の受難>
GettyImages-485731008-compressor.jpg

序盤の攻防を終え、「・・・これ、実は3-4-3だと噛み合わせ悪いんじゃね?」と気づき始めたペップ。
(シュミット「・・・計画通り」)

本来パスの起点にしたいアロンソが消されている3-4-3に意味はないので
攻撃時にもアロンソをDFラインに下げた4-3-3に可変式させてみる。


【アロンソを最終ラインに落とす】
ビダル落とし442

レバークーゼンの前線4枚に4バックを当て、ボランチにはミュラー、アルカンタラと
敢えて明確なマーク役を置く事で強制的にマンツーマンの状態を強いる。
そして本来アロンソがいた位置でビダルをフリーにする・・・という策略。


ビダル×0909-1

↑の局面は狙い通り最終ラインで4対4になっている構図


ビダル×0909-2

ボランチのクラマーとベンダーにも明確なマークを置いてピン止めさせているのでビダルはフリー

ペップ「もらった!」


ビダル×0909-3
そこで下げるんか~い!


ビダル×0909-4
ペップの表情www

これじゃせっかくレバクのファーストラインを突破したのに何の意味もねー(笑)

まあ、ガチガチのカルチョで4年もプレーしてたビダルにいきなりアロンソの代役でボール運べって言っても無理があったか・・・(^^;
まだピッカピカのティキタカ1年生ですから。


他にもビダルはまだちょっとバイエルンのメカニズムからは浮いているなーという場面がチラホラ。

【ティキタカ1年生の受難】
ビダル-ティキタカ×0909-1

例えばこんなシーン。
バイエルンの中盤のポゼッションでボールに対しアルカンタラが敢えて近付く事で手前のボランチを食いつかせ、
奥でブスケ・・・ならぬビダルにフリーで受けさせようという場面


ビダル-ティキタカ×0909-2
う~ん、感じ取れないかー(^^;

これ2手先の展開までイメージ出来てるとレバクのボランチを手前に食い付かせて奥で間受けさせる・・・っていう場面なんですね↓

食いつかせ0909
(間受け役はレバンドでもrOK)

まあ、シャビとかブスケスなら一発でこの画を共有出来るんだけどカルチョではこういう事はしないからね。

ビダルもペップ塾で1年も過ごせば、あの運動量を持って「運ぶ」「剥がす」「間受け」が出来るチートなMFになっているかもしれません。


<遂に攻略されたレバークーゼン>
news_134691_1.jpg

ビダルは期待ハズレだったものの、バイエルンはアロンソを下げた4バックの利点を徐々に活用しはじめます。

まずは「外⇒外⇒中」の攻め筋

【外⇒外⇒中】
アロンソ最後尾0909-1

局面はバイエルンのビルドアップから。
可変式で4バック+1アンカーの4-3-3発動中でCBから横へ横への展開。


アロンソ最後尾0909-2

SHの曲者ベララビビにはSBのベルナトを意識させつつ、中のビダルは放置プレーで
CBから一つ飛ばした大外のWGドウグラスコスタへ


アロンソ最後尾0909-3


外⇒外⇒ときて中。ボランチの背後に置いておいたアルカンタラの間受け発動です。


この攻め筋に加えてアロンソから一つ飛ばしたパスも

【中⇒中(アロンソ⇒間受け)】

奥のミュラー0909-1

↑ビダルとアルカンタラにボランチを食い付かせて置いて、その背後を狙うミュラーの構図

アロンソなら手前を飛ばして奥のミュラーへピンポイントパスを通すのぐらい朝飯前です。


奥のミュラー0909-2

レバクの前線4枚に対して4バックを当てつつ、発射弾のアロンソがCBに入った事で
「外⇒外⇒中」に加えて「中⇒中」と攻め筋が一気に多彩になりました。

バイエルンの先制点もこの「中⇒中」から生まれています。


【バイエルンの先制点を検証】
バイヤン先制0909-1

局面はバイエルンのビルドアップから。
アロンソが中盤を飛ばしてボランチの背後を取っているミュラーへのタテパスが起点となっている


バイヤン先制0909-2

ボランチの背後にいるミュラーへの対応はCBが出るしかない。
結構距離はあるのだがロジャーシュミットに鍛えられているCBは全く後ろ髪を引かれる事なく突進。
これを見てミュラーは残ったCBと1対1の関係になっているレバンドへタテパス。

一見、レバクのこの守り方はかなりリスキーに見えるが、
まず普通のチームであればCB(アロンソ)からこの精度のタテパスがボランチの背後に出てくる事はない。
仮に出てもFW(ミュラー)の背後から寄せるCBが間に合う前にパスで外される事も普通は出来ない。
よってこの守備は成り立つ・・・はずなんだけどね。(^^;

バイヤン先制0909-3

受けたレバンドからワイドのロッベンへ。
しかしSBのヴェンデルはこのパスを読んでいた。


バイヤン先制0909-4

ヴェンデルはインターセプト成功。
ちなみにこの時のレバークーゼンの守備陣形はボールを奪ったSBのヴェンデルが攻撃にかかるのは当然として
インターセプトを試みて前に飛び出していたCB2枚も最後尾に不在。

代わりにボランチのベンダーがプレスバックしてCBの位置に入り、逆サイで残っていたSBヒルバートと2バックのかなりイビツな状態。

そして問題はここから。
カウンターチャンス到来のはずのレバークーゼンだが、この日の相手は同じ変態プレスの使い手バイエルン。

違うのはバイエルンはGプレスにも簡単にボールを失わない技術があってもレバークーゼンにそれは無いという事。


バイヤン先制0909-5

結果、あっと言う間に奪い返されてしまいました。

そしてこのボールが再びアロンソの元へ。

この瞬間を別角度で見てみると・・・


バイヤン先制0909-7

レバークーゼンはまだベンダーがCBに入っている上、ボールサイドに極端に寄せる戦術を取っているので逆サイドで張っているドウグラスコスタがどフリー。

ボールは発射台アロンソからピンポイントの対角線パス

このシーンを見て僕は思わずあの場面を思い出してしまいました。

1tenme0610-6.jpg

・・・得点の予感がします。


バイヤン先制0909-8

SBのヒルバートも必死に横スライドを間に合わせようとしますが
ドウグラスコスタはファーストタッチをヒルバートが届かない背後のスペースに出して完全に裏を取ります。

このダイアゴナルパスとファーストタッチで勝負アリ。

SBの背後を取ってペナルティに進入されたら中のCBはボールに対応するしかないのでマークのミュラーは
どうしたって同一視出来なくなっちゃいます。
コスタの折り返しをミュラーが冷静に中で詰めてバイエルンが先制


<密集プレスはダイアゴナルパスで打開せよ>
20140622131113b4d.jpg

そもそもレバークーゼンのような挑戦者は個対個ではかなわないのでボールサイドへの密集を作る訳です。

バイエルンも本来両ワイドには1対1なら絶対に勝てる個(ロッベン&コスタ)を置いているので
サイドで手早く1対1に持ち込みたいのが本音ですがDFラインから対角のロングパスを出しても
レバークーゼンの陣形が整っているので横スライドが間に合ってしまうところに苦労していたペップでした。


【DFラインからのロングパスは横スライドが間に合う】
レバ横スラ0909

故に一度中にパスを通して起点を作り、レバークーゼンの陣形を剥がしながらカバーという作業をさせる事で
ポジションバランスを崩しつつ密集させる必要があった。

言わばバスケ戦術で言うところのアイソレーションですね。


アイソレ0909

↑この状態を作ってからダイアゴナルのパスを出す事で相手の横スライドが間に合う前に片をつける・・・というのが昨今、強者のトレンドになってきました。


<外せて狩れるバイエルン>
720p-Bayern Munich v Bayer Leverkusen

試合は先制された事でレバークーゼンが更に攻撃の意識を強めていきますが、
若いチームにありがちな「焦りからバランスを崩す攻撃」という場面が増えていきます。

例えばこんなシーン↓


レバ7枚攻撃1

局面はバイエルン陣内に攻め込んだ後のセカンドボールを拾おうという場面。

攻撃に6枚+SBのウェンデルが今上がって合計7枚をかけるのはいいとしても重要なのはボール状況です。

これが完全に足元に収まってマイボールなら上がって来るのもいいと思うんですけど、
まだセカンドを完全に収められていないこの状況でSBが見切りで上がって来るのはリスクが高過ぎではないでしょうか。

しかも相手はバイエルンですから、こういうこぼれ球には常時2~3枚で囲んできます。


レバ7枚攻撃2

結果、奪われてSB(ウェンデル)の裏で前残りになっていたロッベンへ

レバークーゼンは7枚で攻めていましたから・・・・


レバ7枚攻撃3

当然3枚でバイエルンの3トップを止めなければならず、あとはロッベン無双発動。


後半はプレスの強度も落ちたところに厳しい判定もあり2点を追加され3-0の完敗に終わりました。

この試合の決定的な差はバイエルンは「狩られるだけの側」ではなく
レバークーゼンがボールを奪った瞬間には「狩る側」にもなれるという事だったと思います。

そしてレバークーゼンは自分達が実践している鬼プレにいざ対峙すると
これを剥がす術をもっておらず、せっかく奪ったボールを5秒以内に取り返される場面がほとんどでした。

よってペップのチビっ子3バックが抱えるリスクはほとんど試合で顕在化されず。
むしろダンテを外してまで「運べる」「外せる」選手でDFラインを固めていた事が、+アロンソを迎えて4バック化した時に一気にメリットが開花したようなイメージです。

ロジャーシュミットとすれば走る量で相手を圧倒して鬼プレスに神プレスで凌駕したかったはずですが
日程の妙もあり元々のチームの地力差がモロに出てしまうような展開になってしまいました。

次回はフルコンディションでの再戦が観たいですね。




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超攻撃的サッカーのススメ ~ロジャーシュミットとは何者か?~

454060176.jpg
<超攻撃的サッカーのススメ ~ロジャー・シュミットとは何者か?~

どうも、ご無沙汰しております(^^;

前回はアギーレJAPANを取り上げましたが、元々このブログの本職は欧州サッカーなのに今季全く取り上げておりませんでした!

・・・で、久々の更新だってのに今が旬のマドリーだのペップだのモウリーニョチェルシーでもなく
かと言ってファンハールのチームをdisるでもなく、敢えてのレバークーゼンネタ!

これでこそ変態ブログって感じでしょう?www


というのも今季、僕が個人的に1番注目しているのがレバークーゼンだからなんですけど。

何故か?と言えば今季からこのチームの指揮をとる事になった1人の男が、僕の変態レーダーにビビビッ!と反応したからですね。
「遂に変態サッカーの頂を目指す道のりに新鋭が現れたか・・」と、そんな感じです。

このブログのヘビー読者の方ならご存知の通り、僕がリスペクトする監督ってのは勝敗を超えたところで「一つの美学」を追求しているタイプの男達。

例を挙げると殿堂入りのビエルサ師匠に始まり、カルチョの世界で異端の攻撃サッカーを貫くゼーマンやドリームチームを築き上げたクライフ、そしてここ最近だとペップあたりがこの道の求道者です。

面子を見ても分かる通り、かなり厳しいハードルを超さないと僕は尊敬を込めて「変態」の称号はあげられないんですが
ここに1人、新たに名前を加えるべきなのが前述のロジャー・シュミットという男です。

184059813_m.jpg

では彼が一体何者なのか?について話を進めていきましょう。

そもそも彼が世界にその名を轟かせたのがちょうど1年前-
当時オーストリアの強豪ザルツブルクを率いていた彼がペップのバイエルンを相手に3-0の快勝を収めた試合です。

この試合、ザルツブルクはバイエルンに全くサッカーをさせないまま、文字通りサンドバックにしたのでした。
僕が今年観た試合の中でも一番の衝撃を憶えた試合でもあります。

試合後、敵将に脱帽のペップがこんなコメントを残しています。

グアルディオラ『この試合が我々の目を覚まし、進むべき正しい道を教えてくれた。
シュミットは常に攻撃的な姿勢を持つ優秀な監督で、ファンにとってもサッカー界にとっても待ち望んでいた人材と言える』


その手腕が認められシュミットを巡っては今季のシーズンオフ、欧州のクラブ同士で獲得合戦が繰り広げられた結果、
ドイツのレバークーゼンの指揮をとる事になりました。
(そう、これでペップ×シュミットがブンデスリーガで観られる事になったのです。)

では果たしてペップをしてここまで言わしめる彼のサッカーとは一体どんなものなのでしょうか?


2158014_w2.jpg
<攻撃、守備という概念を超えたボールとの一体化>

シュミットの手腕は今季、早くもブンデスリーガの開幕戦から遺憾なく発揮されてます。
ドルトムントを相手に持ち前の超攻撃的ハイプレスでキックオフから僅か9秒で決勝点を奪うというブンデスリーガ記録を塗り替えての快勝。
(思えば今季のドルはこれがケチのつき始め(^^;)

そんなシュミットのサッカーを一言で表すなら「ゴールから逆算したボールとの一体化」です。

当たり前ですがサッカーという競技はゴールの数を競い合うものであり、そのゴールはボールを相手ゴールに入れる事でカウントされます。
故にシュミットが目的とするのは「攻撃」とか「守備」ではなく、とにかくボールをゴールに入れる事です。

どういう事か順を追って説明しましょう。

昨今、いわゆる「攻撃」という概念の一つでポゼッションの事を「ボールを握る」なんて表現されますが
その実、手を使えないサッカーでは文字通りボールは握れないのです。

つまり片方のチームがボールを持って「攻撃」しているように見えてもその所有権は安定したものではなく
常にインターセプトとボール所有権の入れ替わりの可能性に晒されているのです。

故にシュミットはその瞬間のボール所有権、つまりどちらが「攻撃」していてどちらが「守備」をしているかという概念に興味はなく、刹那的に今どちらかの足元にある(もしくはイーブンの状況にある)ボールへチーム全員でアタックを仕掛け、それをゴールへ運ぶというサッカーになります。

仮にボールが自分達のチームの誰かの足元にあるのなら、ゴールへ向かう全員の推進力は追い越しやサポートという効果をもたらし、もし相手チームの誰かがボールを持っていたのなら、それはボールを狩る狩猟へと姿を変えます。

つまり、ゾーンを守るとかブロックを作るとかって概念は二の次、三の次で、あくまで標的は「ボール」、そして目的は「ゴール」なんです。

では実際の試合からシュミットのサッカーの一端を検証してみましょう。

【シュミットのボールを標的にゴールを目指すサッカー】
開始1

↑これは今季のレバークーゼンの試合からキックオフの場面を抜き取りました。

2-1-7の並びが意思を感じるキックオフです。(変態乙)


開始2

キックオフされたボールをドリブルして(ファッ!?)サイドへ展開。

ここを発射台にしてゴールへ向かって一直線に走る4トップに向けてパス。

ここでポイントなのは、このパス(ボール)を結果として味方が拾おうが、相手が拾おうがあまり大した問題ではないという事です。

どちらにしろボールに向かって既にスタートを切っていますし、目的は最初からゴールと決まっていますから。

結果としてこのボールは相手チームのCBが拾うのですが・・・


開始3
そんな事、シュミットのチームにとってはどっちでも構いません。

すぐさま全員が標的のボールに向かって狩りを始めます。
(ゴールへの推進力をそのままボールへ向ける)

注目すべきなのはこの画面に7人もの赤いユニフォームが収まっている事であり、
キックオフ3秒後にして初期設定のポジションという概念など、とうの昔に捨て去られているという事です。

それはそうです。あくまで標的は「ボール」なのでお仕着せのポジションとかゾーンとかは邪魔でしかないし、
チーム全体が目指すのは相手ゴールなので常に全体の矢印も前向きです。


開始4
そしてここから一つ展開された相手のパスに対してこのボール狩りです。

よく見ると敵陣のアタッキングサードに赤いユニフォームが8枚ですww
(SBの潔い職場放棄っぷりwww)

つまり自陣には既に2バックしか残ってません(笑)

でも標的はボールなので、これでいいんです。
プレッシングをかけ続けている限り、ボールが勝手に自分達のゴールへ飛ぶ事はありませんから。


開始5

結局パスミスから2秒後にボールを狩り取ってしまいました。
(別に彼らにとっては「パスミス」という概念ですらもはやないのだろうけど)

そしてこの人数と推進力をそのまま相手ゴールへ向けるのです。

一連の流れを従来の概念で考えるとレバークゼンボールで始まったキックオフからパスミスで相手にボールが渡り、そこから再びレバークーゼンがボールを奪い返した・・・となりますが、
彼らのキックオフからの動きを見ればそこに一貫してあるのは「ゴールという目的を目指したボールへのアプローチ」であり、ボールの所有権は一旦行き来しているように見えますがレバークーゼンが終始「アタック」し続けていたというのが現実に近い見方ではないでしょうか?


近年の現代サッカーのトレンドでクロップのGプレスを筆頭としたインテンシティ強化の流れがありますが
シュミットのサッカーの凄いところはこれを「切り替え後の5秒」に限らず、試合を通して終始行うところにあります。

「アグレッシブにボールへ向かうハイプレス」なんて今ではよく聞くワードですが
その実、現代サッカーの遅攻及びビルドアップに対するハイプレスも
自分達の最終ラインで「+1」の数的優位を担保しているので相手のボールの出所に割く人員は常に「-1」の数的不利が基本なんですよ。

一番よくあるのが相手の2CBを1トップで見る形ですね。
2トップのチームでも守備時のオーガナイズでは縦並びにして片方のFWは相手のボランチをケアするのが基本なんで原理的には同じです。

例えばザックJAPANで言えば昨年のオランダ戦でやったのが2トップを縦関係にするこの形↓
【ザックJAPANの対ビルドアップ】
4231-433-2.jpg
オランダの3トップに対し、4バックで「+1」の数的優位(Sデヨング×吉田・今野)を作っているので
逆にオランダの2CBは大迫1人で見る「-1」の数的不利という関係性です。

4231-433.jpg

そしてこれは何もザックJAPANに限った話ではなく現代サッカーではどこのチームも取り入れているやり方ですね。


でもこれは最終ライン(自分達のゴールの一番近いエリア)で保険を担保する考え方で
優先順位が「ボール」と「相手ゴール」にはなっていません。

故にシュミットが相手のビルドアップに対峙する時の並びはこうです↓

【レバークーゼンの対ビルドアップ】
4-2-4-2
4バック相手なら4トップでしょうが!www

この並びでこうやってプレスをかけます↓

424-1.jpg

う~む、潔い変態っぷりだが、あくまでボールを基準(標的)にしてアプローチをかけるならこれが正しい姿勢ですな。

その昔ビエルサのビルバオが伝説のバルサ戦で行ったオールコートマンツーマンに通じるやり方です。
(変態は皆、一つの道へと集約される)

きっとシュミットから言わせれば
「ゾーンディフェンスはゆとり」「数的優位は温さ」「リトリートは負け犬」なんでしょう、きっと(笑)

彼のサッカーの凄さはこの「潔さ」なんですよねー。


では最後にそれが最も端的に現れたザルツブルク時代の対バイエルン戦を検証して締めにしましょう。

「ボールを握る」ポゼッションで現在世界一のチームと言えるペップのバイエルン相手にも果たしてこのやり方を貫けるのでしょうか?

【バイエルンのビルドアップに対するザルツブルクのアプローチ】
zaru1.jpg
局面はGKノイアーから出されたボール(標的)に早速GO!をかけるザルツブルクという構図


zaru2.jpg
1本パスをサイドに展開されたところでもうこの密集っぷり。
逆サイドのSHがここまで絞ってスモールコート形成とボール狩りに参加しているのがミソです。
(ボール!ボール!ボール!)

よく見るとこれ、バイエルンはサイドのエリアで6対4をやらされてるんですね。

通常、敵陣の深いこのエリアで攻めてる側が数的優位を作るって現代サッカーではほとんど見かけないシーンなんですけどもwww


ざる3
たまらずボールをCBのダンテに下げたバックパスに全員でGO!をかけるザルツブルク

これを見ても、もはやボールの所有権から「攻撃」と「守備」を定義するのはナンセンスだ!

(というかおまいら、バイエルン相手にもう少し敬意を払わんかい!(笑) 地元の大学生と試合してるんちゃうぞwwww)

但し、こういった密集でのロンドはペップのチームからすれば「俺達の庭」。
彼らもこのハイプレスを真っ向から受けて立ちます。


ざる4
ダンテがこのプレスを外してボランチへパス。
(っていうか、CBのダンテ相手に3枚行ってますがwwww)

ザルツブルクの方も外されようが標的はボールで続行。
すかさず第二の矢がボールへ急行。


ざる5
で、バイエルンはこの二の矢も外して大外でフリーになっていたSBのラフィーニャへつなげます。

この瞬間がポイント!

普通のチームであれば前プレが外されたこの場面では思考を「ボールを奪う」から「ゴールを守る」に切り替えて
バイエルンの攻撃をディレイさせながら全体を帰陣⇒ブロック形成に至るのがセオリー。

ましてやパスを受けたラフィーニャとザルツブルクのSBとの距離を見てください。
ここに出て行くのはいくらなんでも無謀・・・・


ざる6
ズサーー!!!⊂(゚Д゚⊂⌒`つ

行ったよ・・・オイ。


そう、コレなんです。シュミットサッカーの凄さ。

普通、「あくまで標的はボール」「前が外されたら後ろから出て行け!」って言われても
DFの本能からしたら前プレが外されているこの場面で自分の背後を空けて出て行くってのは恐怖以外のなにものでもないですよ。
(実際この場面でSBの背後でフリーになっているのはミュラーさんです)

チーム戦術だから・・・と言ったって、どこか後ろ髪を引かれながらの中途半端な寄せになってしまい、逆にかわされるという悪循環が普通。

でもシュミットのチームはそこのリミッターというかブレーキが外れちゃってるとしか思えないんですよねwww
(*注:褒めてます)

結果的にこの場面では、躊躇なく飛び込んだ第3の矢で潰して標的のボールを狩るんですけど
もし外されてたら2CBでバイエルンのアタッカー4枚と対峙する場面になってました(笑)

シュミット「ディレイは甘え」

【シュミット流プレス⇒前が外されたら後ろが出て行き、その間に前のプレスバックを同時に行う】


どこぞの代表チームの、ディレイ⇒ディレイで「結局ボール誰がいくの?」のままミドルどぅーん!を見慣れている我々からすると目まいを起こしそうなスリリングなサッカーがそこにはあります。

どこが相手だろうと「引かぬ!媚びぬ!省みぬ!」を貫くシュミットのレバークーゼンから今季は目が離せません!




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ピッチをチェス盤に変えたペップ ~ドルトムント×バイエルン~

BZuHCkPCcAAiIqx.jpg
<ピッチをチェス盤に変えたペップ ~ドルトムント×バイエルン~

なんだか久しぶりに欧州サッカー関連の話題に帰ってきたような気がします(^^;
(本当はこっちの方が主流のブログだったんですがww)

日本代表が躍進したり、W杯の組み分けが決定している間にも欧州サッカーシーンは動き続けていました。
(本田ミランは今度こそ本当に信じていいんだな!?)

中でも個人的に衝撃的だったのは「ドイツ版クラシコ」における
現代最高峰のビルドアップとGプレスのせめぎ合いです。

その攻守にインテンシティの高い(2013流行語大賞)試合内容は
スペインの本家クラシコが低調な内容に終始した事と併せて考えると
いよいよ現代サッカーの先端を引っ張る役目がリーガの二強からブンデスの二強へと移行しつつあると確信させるに充分なものでした。


更にもう一点、この試合でペップが見せた都合3回に渡るシステム変更とポジションチェンジは
まるでピッチ上をチェス盤に選手をに見立てたような頭脳戦そのもので
これが机上の空論で終わらず実現出来てしまうところにちょっと采配の面でも一つ上のレベルへ突き抜けた感もあります。

そこで今日はこのドイツクラシコを検証していく事で
現代最高峰のサッカーとはどの領域で争われているかを皆さんに知っていただければ幸いです。


<ドルトムントのスカウト力>
1211sutamen.jpg

バイエルンのスタメンはシュバインシュタイガーとバロンドーラー(僕の中では勝手に確定ww)のリベリーが不在でも
「僕達、これだけのスタメンが組めちゃいます!」という嫌味の領域(笑)

これがバルサ時代だとちょっと怪我人が重なるとテージョとかクエンカとか出てきたのでまだ可愛げがあったのですが(爆)、だからペップに戦力充まで与えちゃダ~メだって!(僻み)


一方のドルトムントはDFラインに怪我人続出中。

フンメルスとスボティッチの両CB抜きでバイエルン戦とか不運にも程があるんですが、
正直初めて見た控えCBのフリードリヒ、ソクラテスは大きな穴を感じさせないプレーを披露していたのでビックリしました。

やっぱりこのへんはドルトムントのスカウト力の高さというか
限られた予算を無名だけれどもしっかり計算の立つ駒に投資しているんだなぁ…と改めて感心させられたものです。


<現代最高峰のビルドアップを巡る攻防>
162825259.jpg

このドイツの二強が現在最高峰である所以はお互いがお互い勝つ為に「Gプレス」
(ボールを奪われた瞬間に襲いかかる極めて強度の高いプレッシング戦術)をもはやデフォルトとしながらも
その上で自分達の武器である伝家の宝刀カウンター(ドル)とバルサ直輸入ティキタカ=ポゼッション(バイエルン)にそれぞれ磨きをかけているからなんです。

そこから両チームのゲームプランを考えていくとまずバイエルンとしてはいくらポゼッションを武器としているからとドルトムント相手に不用意なボールロストは即失点に繋がるリスクが高い事は明白です。


【不用意なボールロスト=伝家の宝刀発動】
kaunta1211-1.jpg

局面は右から左へと攻めるバイエルンのビルドアップから。
CBのボアテングがボールを持ったところですね。

ドルトムントは前線のレバンド&ムヒタリアンを縦並びにして
バイエルンのビルドアップで中心的な役割を担う中央のアンカー(ラーム)をしっかりとケアしてきました。


kaunta1211-2.jpg

ボールを持っているボアテングからすると中央のラームへのコースは切られ、
更に外のSB(ラフィーニャ)へのコースもロイスに巧みに切られながらプレッシャーをかけられる苦しい局面となりました。

こうなると残ったコースはタテパス1本になりますが、
ドルトムントとしても、勿論これは誘い込んだ罠であり前線がパスコースの可能性を一つ一つ切っていく事で
後ろのDFが確信を持ってインターセプトを狙えるという見本のような守備が実践出来ています。


kaunta1211-3.jpg

ここで狙い通りインターセプト⇒伝家の宝刀カウンター発動!


kaunta1211-4.jpg

バイエルンは攻撃時、後ろに残している枚数も少ないという事で
あっちゅう間に3対3の局面まで持ち込まれてしまうという訳です。


これこそ誰あろうペップ自身がバルサを発端として世界にポゼッション賛美の流れを生み出したが故に
そのカウンターカルチャーとして誕生したクロップ・ドルトムントのサッカーなんですね。

世界中のチームがポゼッションサッカーに舵を切れば、
一方でそのポゼッション自体をリスクにしてやろうという反動のようなサッカーが台頭してくる訳です。
彼らからするとわざわざポゼッションで黄色い蜜蜂の巣に入ってくる外敵など格好の餌食でしかないのかもしれませんね。

事実、ペップにとって初の対ドルトムントとなったスーパーCUPでは未完成のティキタカがカウンターの餌食となって完敗を喫しています。


・・・さて、前回の完敗を踏まえてペップはどう修正してくるのか?

不用意なポゼッションがリスクになるのは分かっていますが、
かと言ってそのポゼッションを捨ててしまうようではクロップの思う壺。

そこでペップはこの試合のビルドアップ時、面白い動きで布陣に変化を加えていきます。

【ペップの二段階式アンカーシステム】
baybiru1211.jpg

もはやポゼッションサッカーを志向する多くのチームでは
ビルドアップ時両SBを上げて中央のアンカーを最終ラインまで落とし擬似3バックを形成するのは半ば教科書化していますが、この試合のバイエルンはむしろアンカー(ラーム)の前にいるクロースハビマルティネスの動き方にその妙がありました。

まずクロースをそれまでラームがいた位置に下げる事で
中央のラインをラーム⇒クロースとテクニック的にも信頼がおける強固なものへ。

【2段階式ビルドアップ】
baybil1211-1.jpg

バイエルンはビルドアップでCBがボールを持つと・・・


baybil1211-2.jpg

まずラームが落ちて、その後に続いてクロースが落ちる事で


baybil1211-3.jpg

ドルトムントの2トップによる前プレに数的優位を確保しながらも中央にラーム⇒クロースという強固なラインを敷く狙いです。

これでまずは先程のようなCBが焦ってタテパスを蹴らされてのカウンター被弾という
前回の負けパターンを排除していきます。

その上でビルドアップをラームがリードする事で安定感を確保するのですが
この形はクロップとしても織り込み済みです。


【ラーム主導のビルドアップに中絞りで対応するドルトムント】
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ドルトムントはラームがボールを持ち出す時はしっかりクロースへのコースを切りつつ、
全体も中絞りにしてバイエルンのポゼッションに対抗。

要するにバルサ時代のペップが陥った「バルサ対策」のテンプレートですね。

DFライン裏を目掛けた縦1本のパスやサイド突破からのクロスという攻撃ルートを半ば捨てていたバルサ時代のペップはここで一つの大きな行き詰まりを痛感していたはずですが(そして辞任)、
バルサと違いバイエルンの持ち駒には前線に「高さ」もあれば裏へ抜ける「速さ」もあり、
しかも両サイドにはロッベリーという凶悪な「突破力」まで兼ね備えているとなれば話は別です。

まずペップは前回(スーパーCUP)の反省を活かし、試合序盤は無理に中攻めを繰り出すのではなく
簡単にDFラインの裏を狙ったボールを意図的に増やしていました。

【序盤は無理なく裏へ蹴るバイエルン】
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ここで役に立つのがロッベンの「スピード」や「岡崎上位互換」ことミュラーの裏抜けセンス、
そしてマンジュキッチとハビマルの「高さ」です。

中盤でラームとクロースを二段階式で下げる一方でハビマルを一列上げていたのは
明らかに前線に「高さ」を増そうという狙いがあったからでしょう。

ドルトムントは中盤をコンパクトに保つ事が生命線なので
常にDFラインの位置取りは高く、上手くすると縦1本で裏を突ける可能性があります。

【高いDFラインの裏を1本のタテパスで裏取り】
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昨季までバイエルンを率いていたハインケスもクロップのチームと対戦数を重ねるにつれ
CL決勝戦のように序盤は敢えて彼らの守備の狙いを外す為にロングボールを多用していたのを思い出しますね。

どうやらペップも同じ結論に辿り着いたのでしょう。


更にペップの狙いは「裏」だけでなくバルサ時代は捨てていた「サイド」のスペースにも着目していました。

では実際の試合から現在、世界最高峰とも言えるドルトムントの前プレと
それをかいくぐるべくこちらも世界最高峰と呼ぶべきバイエルンのビルドアップの攻防を検証していきましょう。


【世界最高峰のビルドアップを巡る攻防】
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局面は既にラームを降ろして擬似3バックで数的優位を形成するバイエルンのビルドアップと
4-4-2の布陣でこれを迎え撃つドルトムントという構図。

ドルトムントは前線の2トップがバイエルンの3バックに上手く対応しつつ、
アンカーのクロースへのコースも同時に切り続けなければいけません。

ボールはラームからダンテへ。


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ダンテへ展開されたところでまずレバンドがこれに寄せて、同時にムヒタリアンはクロースをケアするべく2トップが縦並びに。

ここでセンスが問われるのがSHブラシチコフスキの寄せ方で、SBアラバへのコースを切りつつ巧みにダンテへ寄せる必要があります。

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現代サッカーにおけるポゼッション型チームのテンプレ「擬似3バック」に4-4-2で前プレをかけていく際のお手本がコレですね。

中と縦のコースを切りつつ巧みに追い込んでいく守備です。

さて、これを受けてペップはどう攻略していくのか?


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追い込まれたダンテは無理せずバックパスを使ってGKノイアーを経由しボールは再びラームの元へ。

(ここでGKを11人目のフィールドプレイヤーとして使えるかどうかが今後ますます明暗を分ける時代へ突入していくと見ます。)


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ドルはレバンドが一度ダンテに寄せている為、サイドのスライドが間に合わないので
今度はボールにムヒタリアンが当たって(当然クロースへのコースは消しつつ)
ロイスが一列上がってボアテングにプレッシャーをかけに向かいます。


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すると当然ロイスがそれまでマークしていたSBラフィーニャが空くので
ラームはボアテングを一つ飛ばして裏のラフィーニャへピンポイントの浮き球を送ります。
これでドルの前プレを取り敢えず剥がす事に成功しました。

これを見ればアンカーから中央に降りてくる選手の展開力が重要な鍵を握るという事は一目瞭然で
もしラームが単純に右のボアテングを使っているとロイスのラフィーニャへのコースを切りながら詰めるプレッシャーがもろに効いてきてしまうのですが、ラームが一つ飛ばして裏を狙える事でドルの前プレを無効化する事が出来るんですね。

ペップは明らかに意図して横パスを多用する事でリスク無くサイドのスペースを突くビルドアップと
それが無理な場合は簡単に裏へ蹴り出すロングパスを使ってドルトムントのカウンターチャンスをかなりの割合で削る事に成功していました。

つまりバルサ時代に一度捨てた「サイド」「裏」のスペースに再び目を向けた訳ですね。


とは言えクロップもそもそも最初から「中」も「外」も「裏」も全てをケアするのが不可能だと分かっているから
敢えて「外」と「裏」はある程度捨てつつも中をしっかり固めてきているという事情があります。

これはつまり中から崩されなければ後はある程度対応出来るという自チームの守備に対する自信の裏返しとも言えるでしょう。


勿論バイエルンもバイエルンで守備で穴になりそうなスペースは未然に塞いできていました。
例えばそれは「ロッベンの裏」とかそういう部分ですね。

【ロッベンの裏のスペースを埋めるマンジュキッチ】
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確かに守備時はカウンター用に最前線に残すならマンジュキッチよりロッベンの方が理に適っているので
バイエルンは攻撃時はマンジュが1トップ、守備時はロッベンの1トップとポジションを入れ替えていました。

細かい事ですが、こういうディティールで隙を見せず、かつカウンターの威力を少しでも上げておくという詰めが勝敗に影響するレベルの戦いなのです。


バイエルンが攻守に隙を見せない一方、ドルトムントは端からポゼッションとテクニック勝負で勝てるとは考えていませんから攻撃では手数をかけずに1トップのレバンドフスキへまず当てて、そのこぼれを強奪するというのが基本プラン。

【ドルの手数をかけないレバンド狙い】
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中盤に敷かれたバイエルンの守備網の頭を越して裏のスペース、もしくはレバンドへ縦1本。

一見雑な攻撃プランにも思えますが、ドルトムントの運動量と
なによりレバンドフスキのボールの収まりが異常なので
これはこれで一つの攻撃戦術として成り立っちゃってるんですよね・・・。

なるほど、今季クロップがゲッツェは放出してもレバンドは頑なに出さなかった理由がよく分かります。
(来期以降は大丈夫なんだろうか・・・?)


このように前半はお互いが高度なビルドアップと前プレ、そして一旦攻守が切り替われば当たり前のようにGプレスをかけ合いつつも無駄なリスクは侵さない非常に密度の濃い攻防が展開され、
その結果としてある意味レベルの高い膠着を招いた45分は当然の帰結として0-0で折り返す事に。


<勝負を分けたペップの三手>
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お互いが納得済みの前半0-0。

しかしドルトムントが持てる戦力をフル稼働させ、後半も自分達のサッカーを貫き通すしか選択肢が無いのに対し
(このチームの勝ちパターンは前半に先制して、相手が前がかりになってきたところを伝家の宝刀でトドメを刺す!が理想形)、
バイエルンのペップはまだ持ち駒に金、銀、飛車、角を残している状態。

後半はいかようにもゲームプランを変更出来る余力が残っています。


後半11分―

ドルトムントの運動量とプレスがひと段落したのを見たペップが動きます。
最初の一手はマンジュキッチ⇒ゲッツェへのパーツ交換。

しかしこの一手は単なるCFのパーツ交換以上の意味がありました。

そうです・・・・ここである意味ペップにおける伝家の宝刀とも言うべき【0トップの解禁】です。

マンジュキッチはゴール前に居座る事で空中戦に強さを発揮するクラシカルなタイプのCFですがゲッツェの本職はMF。
バイエルンはこのゲッツェがバルサにおけるメッシのように度々前線から降りてくる事で中盤で数優位を形成するという
1枚カード切っただけで戦術プランそのものを変更出来る強みがあります。

加えてペップは前半はある意味捨てていた「中盤勝負」をより強く押し出す為、
ゲッツェ投入と同時に中盤の並びにも手を加えてきました。

アンカーをハビマルに代えてラームを一列前へ。

【後半の中盤逆三角形の並び】
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ここに前線からゲッツェを降ろす事で・・・


【ペップの初手⇒ゲッツェを投入し0トップへ】
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これで中盤にハビマル-ラーム-クロース-ゲッツェというダイヤモンド型の並びが現れました。

結局ペップはどこまで行っても中盤勝負が本線だったのですね!
(前半はその為の布石に過ぎません)


さて、実際に試合ではこの一手によって何が起きたかを検証していきましょう。

【0トップ解禁で中盤の主導権を握るバイエルン】
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局面は後半、左から右へ攻めるバイエルンの攻撃。

早速ゲッツェが前線から降りてきます。


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こうなるとドルトムントの2ボランチにはそれぞれマークする相手がいて
ムヒタリアンが中盤を助けに来てもバイエルンのダイヤモンドに対し3対4の数的不利になってしまうんですね。


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↑実際の試合でもこのように中盤で1枚空いてしまう・・・と。


ドルトムントは前半から散々裏と横狙いの散らしに走らされていたので
試合の3分の2を過ぎてからいきなり相手が中盤でポゼッション勝負とか180度攻め筋を変えてこられると結構対応がキツくなってくる訳ですよ。

(と言うか普通のチームであれば90分の間にここまでゲームプランを変えられる事はまず無い(^^;)


試合ではこの一手が効いて完全にバイエルンが中盤を支配し始めるんですが
これに感触を得たペップが後半19分、続けざまに打った第二手がボアテング⇒チアゴの交代。

これでまた配置がガラッと変わるんですね。

【ペップの二手目⇒チアゴ投入とCBハビマルでティキタカ無双】
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バルサ直輸入ティキタカの申し子チアゴを中盤に入れて、ハビマルをCBへ。
(これで最終ラインからかなり繋げる布陣に)

ポゼッション主義全開の面子でヘトヘトのドルトムント相手にここでティキタカ無双解禁とか・・・
エグイ、エグ過ぎるぞペップ!(笑)

ちなみに前回対戦時にはスタートからチアゴを4番のアンカーポジションで使った事で
守備時のリスクヘッジが効かず、元気一杯のドルトムントから前プレの餌食にされるという痛い目を見ていたペップ。

まあ、ある意味前回は自身がバルサで培ってきたティキタカという文化と心中した訳ですが、
それを教訓にしてチアゴとティキタカの使い時を見極めてきたところにペップの成長を感じる訳ですね。

この交代から2分後、右サイドでボールを持ったミュラーから
それまで散々マンジュキッチへ浮き球のクロスが入っていた事でここでもクロスを想定したドルトムントDF陣の裏をかくようにグラウンダーの横パスがバイタルで待つゲッツェに渡って勝負アリ。

ゲッツェが古巣から先制点を奪います。


<ティキタカの使い方>
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最近では本家バルサもあまり試合で使わなくなってきたティキタカ
(*スペイン特有のボール回し。選手間をボールがリズミカルに行き来する様をチックタック⇒スペイン語でティキタカの擬音で表現)

スペイン代表もコンフェデでブラジル相手に痛い目を見ており、来年のW杯本大会でどこまで使うかは微妙なところです。

何故一時は無敵を誇ったティキタカが衰退の方向に向かっているのかと言えば
相手に網を張られて待ち構えられているところにパスを入れた瞬間、
これを剥がすより速いスピードで囲まれた上に屈強なフィジカルで当たられるとボールロストのリスクが非常に高くなってきたからですね。

(バルサ×バイエルン、スペイン×ブラジルのデジャヴ感と言ったらない。)

そう考えると実はティキタカを行う上では相手に取りどころを定められて待ち構えられるより
全力でボールを取りに来てもらった方が遥かにボールは回しやすくなるんです。

この試合でもバイエルンが後半の半ば過ぎに先制点を奪った事で
もはや行くしかないドルトムントがボールを奪いに来るとバイエルンのティキタカが回る事、回る事。

何故ならもうバイエルンは別に攻め切る必要も無いので
なんなら「ボール回しの為のボール回し」を延々と続ける事が出来るからです。


【先制した事で冴え渡るバイエルンのティキタカ】
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局面はバイエルンのビルドアップからここまで深い位置に降りてきたゲッツェへ。


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CBが付いていく訳にもいかず、かと言ってドルトムントの中盤はそれぞれマークすべき相手がいるので深い位置のゲッツェを捕まえる術がありません。


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かと言って攻め急ぐ訳でもないバイエルンは慌てず騒がず。

ラームへのバックパスを経由してボールはクロースへ。
(本来ここに当たりたいロイスは大外のSBラフィーニャをケアしなければならない)


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あかん・・・!これ全然捕まえられへん!(涙目)

チアゴを筆頭に「回すだけ回せ」と言われたら三日ぐらい回しかねないのがペップのチーム。

それもそのはず、普段遥かに狭いスモールコートで鳥かごの練習を延々とやっている訳ですから
ゴールという目的から開放されて68×105Mの広々としたピッチで「鳥カゴ」をやれと言われたら
このティキタカ集団からボールを奪うのは至難の業です。


ペップは1点のリードを最大限に活用し、それでいて単に下がって守備を固めるのではなく、
(意外とサッカーではドン引きの守備固めは追いつかれるリスクも高い)
相手からボールを取り上げる事でノーリスクのまま試合を終わらせにかかるのでした。

(う~む・・・この人、鬼でっせ(^^;)


<ペップの三手目>

ただ、試合ではそれでもドルトムントが最後の力を振り絞って猛攻を見せます。

これを受けたペップは三枚目のカードをラフィーニャ⇒Vブイテンに使ってきました。

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VブイテンをCBに入れ、ハビマルティネスを再びアンカーに戻し、右SBには本職のラームが収まる形に。

これだけ動かしてもそれぞれのポジションに全く無理が出ないあたり「う~む…」と唸るしかありません(^^;

これで中央はダンテ、ブテイン、ハビマルの3枚でドルトムントのパワープレイも想定しつつ、
右サイドはSBをやらせても「世界最高のSB」がキッチリ蓋をする構えです。


すると試合では85分、ドルの総攻撃を受けきったバイエルンがカウンターから前残しにしていたロッベンにボールが渡り、ここからロッベン無双発動。

左サイドを独走して決定打となる2点目を決めると気落ちしたドルを尻目に2分後にはトドメの3点目も決めてしまいます。


【バイエルンの3点目】3tenme1211-1.jpg

局面は中盤で相変わらず数的優位を確保するバイエルンの攻撃から。


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やっぱりこのエリアで3対2の数的優位にしたペップの采配が試合の流れを左右した決定打だったように思います。

↑この場面でもドルトムントの2ボランチは的を絞れません。


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慌てず騒がずのバイエルンはアラバを経由してチアゴへ


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このチアゴにシャヒンが当たりに行くと今度はアンカーポジションから顔を出すハビマルに当たりに行ける人員がもうドルには残っていません。


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フリーのハビマルがボールを運んでからサイドに流れたロッベンへ。


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再びロッベン無双が発動すると対面するDFは飛び込めず、
その脇を世界最高のSBが駆け上がっていくハインケス時代の黄金パターン発動!


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ロッベンが得意のカットインからDF2枚を引き付けると(ベーハセと長友がコレでやられたんだよな…)フリーのラームへパス。

深くえぐったラームから中で待つミュラーにラストパスが渡ってバイエルン完勝劇の幕が降りました。


<ドイツの二強が引っ張る現代サッカーの進化>
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とは言え、3-0というスコアは両者の実力を正当に表した数字とは言えません。
スコア以上に内容は均衡していました。

但し、これまではある意味王者バイエルンが持っていた「傲慢さ」をクロップが突いて一泡吹かせてきましたが
そのバイエルンが謙虚にドルトムントに習って「Gプレス」と「高いインテンシティ」を得てしまった今、
なかなか隙の無い絶対王者が誕生してしまったような気もします。

(これでドルとバイエルンの勝ち点差は7。今季のブンデスもほぼ決まっちゃったかな…(^^;)


しかもこのタレント軍団を率いる頭脳があのペップとあればその壁はますます高くなるばかり。

このチームを倒せるとしたらそれこそ戦力と資金力で対抗出来るシティ
ペジェグリーニのパスサッカーを極めてもらうとか、再びモウリーニョにペップ封じを考案してもらうとか…?


本来、戦力とチーム力的に対抗馬の一番手にならなければいけないスペインの二強に関しては今季はちょっとキツイような気もします。

例えばペップ時代のバルサに当時バイエルンから加入してスタメンを取れる選手が何人いたでしょうか…?
(恐らくラーム以外はキツかったはず。まだリベリーも守備をサボっていた時代)

それが僅か2年後、バルサがビラノバで足踏みをしてマルティーノでようやく別の方向を模索している間に
今ではバルサからバイエルンに加入してスタメンが約束されている選手が何人いるのか?という時代に。

ドイツ版クラシコを見ても分かる通り、この極限まで高められたインテンシティが求められる試合で
果たして現在のメッシ、シャビ、イニエスタの使いどころはあるでしょうか?

それはマドリーも同じ話で気が付けばアンチェロッティの「ポゼッションフットボールを目指す」というお題目は
いつの間にか「攻守分断サッカー」のロナウド+ロナウド弟(ベイル)の個人技ゴリ押しサッカーにすり変わっており、
同じように彼ら(ロナウド+ベイル)も、もしバイエルンだったとすると使いどころが見当たりません。


残酷なようですが、これこそがフットボールが日々進化し続けるスピードの速さであり、
バイエルンのフィジカルと豊富な持ち駒、そしてペップの頭脳に高いインテンシティ、
これを打ち破るチームが現れるのも時間の問題なのでしょう―




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ミュンヘンの地でティキタカを奏でし者 ~グアルディオラのバイエルンを検証~

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<ミュンヘンの地でティキタカを奏でし者>
 ~グアルディオラのバイエルンを検証~


さて今日は記念すべき13/14シーズン最初のマッチレビューという事で
先日開催されたドイツスーパーCUP「バイエルン×ドルトムント」の一戦から
主にペップ就任後のバイエルンの仕上がり具合と今季の展望を見ていきたいと思います。
(モタモタしてたらブンデス開幕しちまったし…!!ww)

気が付いた方もいるかもしれませんが昨季12/13シーズンのラストマッチレビューを飾ったのがCL決勝を戦ったこの2チームだったというのは奇遇というより時代の風がいよいよドイツに向かって吹き始めているのだなと改めて実感させられますね。


<0からのチームと完成間近のチーム>

【ドルトムント×バイエルン (ドイツスーパーCUP)】
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バイエルンは新加入選手やコンフェデを戦った選手もおりコンディションがバラバラ。

当然このスタメンがペップのファーストチョイスという訳ではなく、
あくまで現時点でのコンディションを考慮したものだ。

ドルトムントは唯一の新加入選手(ゲッツェの後釜)ムヒタリアンが怪我で出遅れている為、
この試合では昨季までのメンバーがそのままスタメンとして名を連ねている。


まず先に試合の流れをざっと観ていくと、バイエルンは思ったより「ペップのチームになっているな」という感じ。

もし仮に今季バイエルンの監督が変わったという事を知らずにこの試合を観ていた人がいたとしても
明らかに昨季までのチームとは「何かが違う」と感じられる…そんなレベルにまでペップはチームにメスを入れていた。

しかし悲しいかな、この事が逆に試合の大勢を決めてしまったのは皮肉だった。


思い出していただきたい。

昨季CL決勝で試合開始からドルトムントのハイプレスを受けたハインケス指揮下のバイエルンは
これに一切付き合わず
しばらくの間中盤は飛ばしてDFラインからマンジュキッチの頭目掛けてロングボールを蹴り続けていた事を。

無論これはドルトムントの戦い方を熟知しているハインケスが彼らが得意とするカウンター合戦にはさせまいと後半のガス欠をも見込んで仕掛けたゲームプランである。

一方、ペップが目指すサッカーはとにかく「中盤至上主義」
「中盤を制する者が試合を制す」を地で行くペップのメンタリティはドルトムントにとってはむしろ好都合だったと言えるだろう。

結果、試合は序盤からバイエルンにボールを「持たせる」ドルトムントが
彼らの慣れないティキタカをGプレスでかっさらってショートカウンター⇒ウマー!(゚д゚)という展開がしばらく繰り返されていた。

但し、これはペップとドルトムントの相性という話ではなく
単に今まさに0からチームを作り始めているバイエルンと既に完成されているドルトムントが戦えばこうなるという至極単純な話である。

故にこの展開とこの結果(2-4)に驚きは無く、個人的には概ね予想通り。

いきなり4失点というとすぐにでも「バイエルンの堅守崩壊か!?」と周囲が騒ぎ出しかねないが
この内2失点はGKのやらかしとファンブイテンの芸術的なオウンゴール(笑)によるものなので必要以上に深刻に受け止める必要は無いだろう(笑)


<ペップバイエルンを解析してみよう>

ではいよいよ、ペップイズムが注入されたバイエルンのチーム構造を解析していこう。

まず、改めてスタメン表を見ていただいても分かる通り、昨季までのバイエルンを見ていた人なら一目瞭然。
ポジションがめちゃくちゃじゃないか・・・!!(笑)

勿論これはベストメンバーが揃わなかったチーム事情もあるが、
ブンデスリーガに関して余計な情報が無い分実にペップらしいユニークな並びになったと言えるだろう。


さて、ペップが目指すサッカーは繰り返すようだが「中盤至上主義」
その為に外せないのが0トップ戦術だ。

1トップに配置されたCFが状況を見て中盤に降りてくる事で4-6-0を形成。
確実に中盤で数的優位を作り出し(普通、中盤に6枚割いてくるチームなんていないので *ビエルサ除く)、試合を優位に運ぶというもの。

プレシーズンからペップは戦術のキーマンでもある0トップの適材探しを積極的に行っていて
既にリベリー、ミュラー、ゲッツェと試されてこの試合ではシャキリを持ってきた。

(まーそりゃそうだわな。まずは0トップが見つからない限りペップのサッカーなんて実現不可能だし(^^;)

まだ若い上に実質今季がブンデス1年目みたいなところがあるシャキリは
リベリーやロッベンと比べると個の完成度ではまだまだでもその分白紙の伸びしろがある。

ペップはそこに賭けたのかもしれないし実際シャキリは監督の指示を懸命にこなそうという動きを見せていた。

ペップバイエルンの4-2-3-1は攻撃時、↓以下のように動くメカニズムを持っている。

【バイエルン 攻撃時のメカニズム】
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CFのシャキリが中盤に降りてきて、代わりに左WGのマンジュキッチが中に入ってくると
空いた左サイドのエリアにはSBのアラバがかなり前掛かりの位置を取るという按配。


【バイエルン 攻撃時の全体図】
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この一連の流れを見て勘のいい人はすぐにピン!ときたかもしれませんが、
これはペップがバルサで見せていたメカニズムと全く同じですね。↓

【ペップバルサのメカニズム (攻撃時)】
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上がるサイドがバルサとバイエルンで左右逆なのはそれぞれのチームにおける選手キャラクターの違いから。
(つまりバイエルンではアラバがDアウベス役をマンジュキッチがビジャの役割を担っているという事)

重度のバルセロニスタなら、もうこの一連の動きを見ただけでペップの香りを嗅ぎ付けられるはずです(笑)


加えて守備面で一番顕著な変化はハインケスの時代に比べるとDFラインが常時10M前後高い位置取りになっています。

【ペップバイエルン (DFラインの位置取り)】
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本当に高けーな!オイ!wwwww


併せて守備の仕方もハインケス時代は前プレから始まってそこを掻い潜られた場合は一旦自陣に引いてのリトリートを使い分けていましたが、ペップに「撤退」の二文字はありません。

守備でも常に前進あるのみ。ペップのチームでは原則、例えファーストプレスが掻い潜られても
後ろの選手が二の矢、三の矢としてボールが奪い取れるまで前進守備を行います。

但しこの守備方法は優れた駒と統一された動きが要求される非常に高度なものなので一朝一夕という訳にはいきません。

この試合では特にこの「前進守備」の完成度の低さを突かれてドルトムントのお家芸でもあるカウンターにやられてしまった感じです。


<0トップと4番>

では続いて、このペップのメカニズム下で実際にバイエルンの選手達がどういうプレーを見せていたのかを検証してみよう。
ここからバイエルンの現在の仕上がり具合も見えてくるはず。

まずは戦術の鍵を握る0トップに抜擢されたシャキリから。


【降りてくる0トップ [シャキリ]】
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局面はシャキリが最前線からハーフライン付近まで降りてきてタテパスを受ける場面。

バルサの試合でもメッシが度々ふら~っとこの近辺まで歩いてきてボールを受けるシーンがよく観られますよね。


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しかしシャキリはこの何でもないタテパスをトラップで思いっきり浮かしてしまう有り様。

フリーの状態でグラウンダーのパスであれば、「シャキリ無双」とは言わないまでも
ここは余裕のターンから前を向くまでは最低条件。

ちなみにメッシだとパスが荒かろうが、DFを背負っていようが何事も無かったかのようにパーフェクトなファーストタッチでボールを沈める事が出来ただろう。
(更にコンディションが良ければトラップと同時にDFを置き去りにしてのメッシ無双まである!)

改めて「0トップ戦術」とメッシという稀有なクオリティを持った選手との強い結びつきを思わずにはいられない。
(まあ、セスククラスでもボールは収まるんだけど、そこから先の突破まではなかなか辿り着かないからねぇ・・・(^^;)


続いてシャキリのプレーぶりをもう一つ。

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今度はバイタル付近でふらふらしていたシャキリにロッベンからクサビのタテパスが出される場面。

ゴール前の密集地帯であろうと、通せるコースさえあるなら信じて出せ!というのがバルサ流。
(実際、メッシだったらDF4枚に囲まれていても足元にビシッ!と通してやりさえすればボールはロストしない)


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フンメルスを背負いながら受ける形となったシャキリ。ここはミュラーに落として一気に崩し切りたい場面。


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しかし背中からフンメルス将軍の圧力を受けつつボールを処理する事が求められたシャキリはこの落としをミスパス。シャヒンにボールが渡ってしまう。


このようにシャキリからは懸命に言われた役割を全うしようという心意気は感じられたが、
いかんせん一昨年までスイスリーグのバーゼルでプレーしていた選手。

まだ0トップを務めるには明らかにクオリティ不足と言わざるを得ないだろう。


ペップのサッカーを語る上でもう一つ。
実は彼のチームでは0トップと同様か或いはそれ以上に重要な戦術の鍵を握る存在がある。

それが長い事バルサで「4番」と言われてきた中盤の底を務めるポジションである。


ペップの…というかバルサのサッカーでは「ボールを持ったらまずは4番を見なさい」と言われるぐらいに
全てのボールがこの4番を経由してピッチ上に行き渡っていく。

チームを一つの人体に見立てた場合、文字通り心臓を務めるポジションという訳だ。
(ご存知の通りペップは現役時代、バルサの伝説的な4番だった)

近代サッカーにおいてはとりわけこの4番が守備でも重要な役割を果たすようになってきた。

現バルサのブスケスのプレーぶりを思い出していただければ話は早い。

イニエスタやシャビと言った必ずしも身体の強さを活かしてボールを奪い返すのが得意ではない選手達で構成されながら、ペップ時代のバルサが何故あれ程の堅守を誇っていたのか?

それは前述の「前進守備」が彼らのハンデを覆い隠し、一転して長所へと変えていたからだ。

よく「バルセロナは攻めながら守っている」と言われるが、
これは実際に理路整然としたポジショニングで攻撃をするバルサは仮に技術的なミスでボールを失う事があっても
周囲のポジショニングは整っており、むしろボールを奪う為にポジションバランスを崩していた相手チームの方が一転して危機に陥ってしまう事に起因している。

この状態でバルサは攻撃に投入していた人員をそのまま前進守備でもって再活用するのだ。

選手個々が身体のぶつけ合いからボールを奪うのではなく、
理路整然としたポジショニングからの囲い込み(小回りが利く機動力が活きる)⇒苦し紛れに出されたパスをインターセプトで奪い返す…という具合に。

そしてこの前進守備を支えているのが4番のお仕事。
前進守備におけるクリーナー(掃除人)の役割を果たしているブスケスの存在である。

【前進守備時におけるブスケスのポジショニング】
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↑はバルサではなくスペイン代表だが、ブスケスが担う役割は全く同じ。

スペインはブスケスより前にいる2列目の4枚が前進守備を行ってDアウベスにプレッシャーをかけパスコースを限定させる。


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で、この出されたパスに読みを利かせていたブスケスがインターセプトしてしまうというのがその役割。

ブスケスはこの仕事をさせたら現在世界ナンバー1のプレイヤーである事は間違い無く、
言い換えればブスケスの存在がバルサの守備面での弱さを覆い隠していたと言ってもいいだろう。

故に前プレが機能しなくなった昨季のバルサはペップ時代に比べて失点が倍増してしまっている。



話がだいぶバルサ寄りに逸れたので戻そう(笑)

この試合、バイエルンは2ボランチなので厳密には「4番」のポジションは存在しない。
しかし攻撃時にはクロースが上がってチアゴが1人底に残る関係性だったので
実質的にはチアゴがバイエルンにおける「4番」の役割を担っていたと言っていいだろう。

まあ、文字通りバルサのカンテラ上がりの傑作であるチアゴはその為に取ってこられたようなところもあるので当然なのだが、このチームで唯一本場のティキタカが身体に染み付いている男である。

実際に攻撃時は持ち前のテクニックを活かしてティキタカの香りを漂わせるパスの散らしを見せていた。


問題は守備である。

バルセロナではチアゴが4番の位置で使われた事は恐らく一度も無い。
何故ならブスケスと比べるとドリブルでのボール運びなど攻撃面では優れる一方、決して守備が計算出来る駒では無いからだ。

では実際の試合からチアゴの守備を検証してみよう。

【チアゴの守備 (前進守備時)】
tiago0810-1.jpg

局面はドルトムント陣内へ攻め込んだバイエルンがボールを奪われ攻⇒守に切り替わり、
ボールホルダーのグロスクロイツにグスタボとクロースが寄せてパスコースを限定させている場面。
*先ほどのブスケスの場合とほぼ同じ場面を抽出

ここでは本来チアゴはレバンドフスキへのタテパスのコースを消すポジション取りが望まれるのだが
(逆に言うとこの場面ではこのパスコースだけには出させてはいけない)
恐らく中のギュンドアンが気になったのか中途半端なポジショニングでコースを消せていない。

こうなると前進守備は単なるリスクでしかなく・・・


tiago0810-2.jpg

チアゴの裏を取られてレバンドに通されてしまうとタテパス1本でもうDFラインが丸裸状態。

(チアゴの後ろはもう最終ラインだからね(笑))


tiago0810-3.jpg

サイドに振られてから中へ通されるとジ・エンド。

CBのVブイテンまでサイドに釣りだされてるから、もうボアテングとラームしか残ってねえし!
DF2枚×攻撃3枚ってシュート練習かよ!www

結局、このままボアテングとラームはズルズルと後退するしかなく、
無人の荒野を持ち運んだギュンドアンが最後はミドルシュートをぶち込んで試合を決定付ける3点目を決めている。

これに併せて続く4点目のシーンでもチアゴが自陣からドリブルでボールを持ち運ぼうとしたところを囲まれてしまい、
何とか出したパスも引っ掛けられてドルトムントのショートカウンター発動。

今度はビルドアップ時だったので両SBも共に高い位置を取っており、チアゴの後ろに残っていたのはCBの2枚だけ(笑)

やはり守備時のリスクを考えると現状のチアゴでは4番起用は難しいのではないか-


<ドイツサッカーをイノベーション(革命)せよ!>
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改めて試合を振り返ると前半はペップの期待に応えようとお仕着せのサッカーで窮屈そうにしていたバイエルン相手に
ドルトムントが「これが俺達のサッカーだ!」と言わんばかりのカウンターで圧倒。

後半に2点差を付けられたところでペップも決心し、
0トップ(シャキリ)に見切りをつけてシュバインシュタイガーを投入。布陣も以下のように修正された。↓

【後半のバイエルン】
baypurototype.jpg

0トップは諦めてマンジュキッチを定点的な1トップに置き、
ロッベンを得意の左に回して「しょうがないからもうお前は張ってろ!」と言わんばかりのウイングへ。

・・・そう、つまりは昨季までの従来の布陣へ戻しただけ(笑)

これで前半は無理に「中⇒中」の攻撃ルートを意識していたバイエルンが
得意の「外⇒外⇒中」というコースをとる事で両サイド攻撃が蘇った。

左でロッベンの突破とアラバのフォローが、右で中へ飛び出すザキオカ…もといミュラーとラームのオーバーラップが急に機能し始めたのだからペップにとっては皮肉でしかあるまい。

現金なもので、前半は完全に「借りてきた猫」状態だったロッベンが突如復活しての2得点で
一時は1点差まで追い上げるのだから昨季王者の底力を感じさせる。


…まあ、結果としては「ティキタカ」は美しいメロディーを奏でる事は無かったのだけれど、これは当たり前の話で。

ライカールト時代の遺産ともっと言ってしまえばクライフイズムの伝統+それに則ったカンテラという育成機関まで持つバルサは
ペップ就任時に既にベースとして70点からのスタートみたいなところがあった。

ところがここドイツでそれをやろうと思ったら文字通り0からのスタートだ。
今はまだ20~30点ぐらいの段階だろう。


一方で僕は何よりもドイツサッカー界のこの貪欲さに驚かされている。

国を挙げて行ってきた育成改革でドイツ代表のサッカーとこの国から生まれるサッカープレイヤーは一新された。

国内リーグ(ブンデスリーガ)は世界一の観客動員数を誇り、
2006W杯を機に各地のスタジアムは最新鋭のハードを揃えている。

欧州全体を襲う経済危機もなんのその。各クラブは黒字の健全経営を敷いているし、
それでいながら近年はワールドクラスのビッグスターも集まるようになってきた。

その上、今度は戦術面でも世界の最先端を学ぼうとマイスター達を招聘し始めたのだからドイツサッカーはどこまで行ってしまうのか考えただけでも末恐ろしい。

そしてこのドイツの地で今、イノベーションの先端にいるのが、まさにこの試合で顔を合わせた2人の男、クロップとグアルディオラなのである-


次はリーグ戦の「ドイツ版クラシコ」で再び両者が相まみえる時、お互いのサッカーがどこまで進化しているのか。

今は期待に胸を膨らませて待とうではないか-




<【オマケ】12/13シーズン バイエルン各選手の展望>

最後にオマケとしてこの試合から見えてきた今シーズンのバイエルンにおける各選手の展望をポジション別に予想してみたい。


【Vブイテン&ボアテング(CB)】
恐らく今季は両者共にベンチを暖める事になるだろう。
何故ならCBのファーストチョイスはダンテ&ハビマルのペアに行き着くと個人的に確信しているからだ。
ペップのサッカーを考えた時、最終ラインからの展開力ではこの2名が安定している。

但し、ハビマルを中盤で起用すると結論した場合はその限りではないが。
尚、Vブイテンに関しては「プジョル枠」としてそのキャラが気に入られる可能性も微レ存(笑)


【ラーム(右SB)】
監督が変わろうともこの「世界最高の右SB」がDFラインの中心である事に変わりは無い。

相変わらず安定感は抜群だが、左肩上がり(アラバ)のチーム構成の割りを食う形で右のラームが自重気味になってしまうには
この男のオーバーラップの切れ味はあまりにも惜しいのだが・・・。


【アラバ (左SB)】
見事「Dアウベス同位互換機」としての存在価値を見せ付けた。
コイツなら左サイドは1人で任せられるだろう。


【チアゴ (ボランチ)】
ティキタカの伝道者。多分、当面はこのプレイヤーが中盤にいないとバイエルンのパス回しに「ティキタカ」のリズムを生み出すのは無理だろう。

但し「4番」で使うには現状、守備面が怖過ぎる。
現実的な選択肢としては4-3-3にして本来のポジションに納めるか、布陣は変えずにトップ下で使うか、
もしくは相棒を守備職人のグスタボと組ませる事ぐらいか。

もちろんペップがブスケスを育て上げたように、今からチアゴを「本物の4番」として時間をかけて磨いていくという腹積もりならそれも面白そうではある。



【クロース (ボランチ)】
可もなく不可もなく。予想通りバイエルンの選手の中で最もペップとの適正が高そうである。

ただこの選手もこれまでずっと一列前のトップ下として使われてきた選手でやはり守備面に難がありチアゴとボランチを組ませるのは不可能だ。
あとは2列目で使うにしろ3列目で使うにしろ最大の武器であるミドルレンジからの正確無比なシュートは活かしたいところ。



【ミュラー (トップ下)】
この日の布陣だと実質中盤の組み立てはチアゴ、クロース、ミュラーの中央の3人が担う事になるが、明らかに彼の持ち味では無かった。
攻撃のベクトルが「中⇒中」へと向いているペップの元では中盤の選手に足元で繰り返しボールを受けるプレーが求められるが、ミュラーの持ち味はやはりボールを持っていない時のフリーランニング(飛び出し)にある。
中よりは外で使うべき駒だろう。





【マンジュキッチ (左WG)】
残念ながらペップが理想を貫く限りこの選手の居場所はチームに無いと思われる。
前線からの献身的なチェイシングは買うがいかんせんペップサッカーでは致命的に使いどころが無い。

1トップに置けば0トップは実現不可能になり、この日のようにサイドに置いてみても足元の技術が足りないので中盤と絡める訳でもなし、かと言ってサイドで個の突破力があるでも無し。

あとはもうペップが理想を諦めて従来のドイツサッカーに路線変更すると言うのなら出番もあるだろうが…。
(多分、開幕からしばらくは使われるだろうけど、よほどのブレイクスルーがない限りレギュラー定着は厳しいか?)




【シャキリ (0トップ)】
リベリーやロッベンは既にプレーヤーとして一定のスタイルが確立されている分、今から0トップへの順応は厳しいかもしれない。
…であれば、この選手にはまだ可能性がある。足りないのはクオリティだけ。
今季精進すれば大化けの可能性も(?)



【ロッベン (右WG)】
予想通りと言うべきか・・・ペップサッカーにとっては異物でしかなかった。
前半の空気っぷりがあるだけに、後半の清清しいまでの覚醒ぶりが逆に腹立たしい(爆)

試合中、タッチライン際でペップが何度も「サイドに張りっぱなしになるな…!」「前プレをしろ…!」と叫んでみても「オランダ語でおk」とどこ吹く風。ww

はて、どうしたもんかね・・・?(^^;



・・・以上を踏まえて僕が導き出した今季バイエルンのベスト布陣予想がコチラ↓

mybaiyanbest.jpg

布陣はやっぱりの4-3-3にして0トップにはリベリー、ロッベンよりは若く、シャキリよりもクオリティが保障されているゲッツェに賭ける方向で。

これなら引いてきたゲッツェに合わせてミュラー、リベリーのどちらが中に入ってきてもOKだし、
という事はつまり状況に応じてアラバ&ラームのどちらが上がってきても大丈夫って事。

チアゴとクロースは1列上げて守備の負担を軽くしてあげてアンカーには「バイエルンの頭脳」シュバインシュタイガーを昨季に続いて任命。

CBがどちらもタテパスが出せるのでこれなら中からも外からも攻められる万能布陣…と妄想するのは簡単なんだけどね(笑)





【今日の一枚】
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サッカー店長/龍岡歩

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