『ティキタカを思い出せ』~イニエスタがいないバルサといるバルサ~

<イニエスタがいないバルサといるバルサ ~FCバルセロナ×Rマドリー~>
さて、本当はもう少し早くクラシコのマッチレビューでもやろうかと思ってたんですが
ちょっと時間が経ってしまったので今日はこのクラシコの焦点にもなった「イニエスタのいないバルサ」と「いるバルサ」の比較から
今季のバルサのメカニズムを検証していく、というアプローチで攻めたいと思います。
まあ実も蓋もない言い方をすれば僕のイニエスタたんをひたすら褒めるだけの記事にもなりそうですが、
そこは長い付き合いの読者であればイニエスタ狂があの試合を見せられて黙っていられるはずがないと分かってくれるはず(笑)
では、まずクラシコの前半、つまりイニエスタが「いないバルサ」におけるビルドアップを見ていきましょう。
【クラシコ前半に見せたバルサのビルドアップ布陣】

この試合、レアルは4-5-1でかなり引き気味のブロックを自陣に形成。
エンリケのバルサが狙いたいのはこの布陣の泣き所である1アンカー、モドリッチの両脇に出来るスペースです。
バルサはCBがボールを持つと両SBが同時に高い位置を取って、空いたスペースにインサイドハーフのラキティッチとAゴメスを落とし、メッシとネイマールのウイングがアンカー脇で間受けを狙うという可変をオートマティックに見せていました。

↑このように右サイドではSロベルトが上がった後のスペースにラキティッチが降りてSBのような役割

ここから逆サイドにボールを迂回させるとAゴメス、Jアルバ、ネイマールの3枚がサイドでポジション移動
要はこれ、ビルドアップ時に安全なパスルートを確保する為、インサイドハーフ(ラキ&Aゴメス)をサイドでフリーにさせるって事なんですけどね。
ただ、ラキティッチとAゴメスがボールを受けるまではいいとして、問題は中に入って来るネイマールとメッシに対して当然レアルの3センターも中を閉めますから前半はタテパスが全く入らなかったと。
(特にモドリッチは鬼神のごとき横スライドと守備範囲の広さで中に入って来るボールをことごとくインターセプト)

という事は当然、バルサのパスルートは外⇒外⇒外になってネイマールもDFに背を向けた苦しい状態でボールを受けるかたちになり・・・

強引に個のドリブルでサイドチェンジしてる有り様です。
要するにエンリケバルサのビルドアップとは、いかにMSNへリスク無くボールを届けるかが重要で
その為にDF~中盤はとにかくシンプルにボールを循環させて「あとはMSN頼んます!」ってのがその実態。
ただ、本来中盤でボールを運ぶ役割だったインサイドハーフがこれだけ簡単にSBの位置まで降りちゃうと
MSNが中盤のボール運びから崩し⇒最後のフィニッシュと全て担うようなかたちになり、その結果がコレです↓
【ティキタカ無きエンリケバルサの攻撃】

もうね、ラキティッチが持った段階で、「どうせ中で待っててもボール入ってこねえや」とばかりに
見かねたメッシがブロックの外まで降りてくる場面が頻出し始めます。

そんで中盤から「自分で運びます」って強引なドリはいいんだけど・・・・

相手からすると結局一番怖いところに怖い選手がいない、というだけの話なんですな。
いくらメッシが凄いと言ったって、これではいくら何でもドリブルのスタート地点が低過ぎです。

だから後半もバルサの攻撃スイッチが自陣からのメッシ無双頼みじゃあ・・・

さすがにレアルには潰されますって
とにかくイニエスタの「いない」バルサはこれがあの「間受け」の元祖か?と思うほどに
攻撃ルートが右から左、左から右へと外⇒外を迂回するだけで一向に中へタテパスが入りませんでした。
<選手任せの貴族ディフェンス>
続いて、今回の本筋とは少し離れますが今季のバルサの守備についても少し触れておきましょう。
バルサの布陣は4-3-3ですが、エンリケのチームは完全ヒエラルキー制なので前線の3枚、特権階級のMSNは守備が免除されています。
つまり現代サッカーにおいて3ラインではなく2ラインで守るというちょっと有り得ない構図になっているんですが
攻撃では貢献度の低いラキティッチらのハードワークとブスケスの守備範囲で何とかごまかているのがその実情です。

局面は右から左へ攻めるレアルの攻撃。
右サイドに展開されたボールにバルサの中盤3枚(普通は2列目だがバルサだとここが守備のファーストライン)が
ボールサイドにスライドして守備をしています。(ブスケスとAゴメス)
で、ここから中央のモドリッチに戻されたバックパスに対してスアレス、メッシは完全棒立ちでプレスバックが皆無。
となるとボールにはノープレッシャーのまま中盤はラキティッチ1枚でカバーしなけりゃいけない地獄絵図

当然、フリーのイスコに前を向かれて・・・・

左サイドに展開すればバルサの右WGであるメッシは絶対に自陣まで帰ってこないので攻撃参加のマルセロが常にフリーダム
これもラキティッチが鬼の横スライドで対応するんですが、どうしたって後追いの守備になってしまいます。
これがバルサの守備が抱える構造的欠陥で、マドリーはフリーマンのマルセロを攻撃の起点にしていました。
ちなみにこれ、特権階級が守備するかどうかは選手に任されているらしく、左のネイマールはプレスバックするので問題なく対応出来てたんですけどね。
【左のネイマールはプレスバックするので守備が厚い】

右SBカルバハルのオーバーラップにはネイマールが対応するのでJアルバはロナウドに付いて左サイドは2対2の構図が作れていました。
マドリーもロナウドが同じように守備免除なんですがその分、左サイドはベンゼマが入って4-5-1を作るので守備ブロックのメカニズムがギリギリ担保されていました。
スアレスはメッシの代わりにプレスバックする時もあるんですが気まぐれというか単発で、特に最近はかなりおざなりになっている模様。
<イニエスタで蘇るティキタカ>
で、退屈な前座の60分が終わり、いよいよいイニエスタの投入です。
この交代で一体バルサの何が変わったのか?
実際の試合から見ていきましょう。
【①インサイドハーフのポジショニングが変化】

局面は後半、右から左へ攻めるバルサのビルドアップ
ラキティッチに変わってインサイドハーフに入ったイニエスタのポジショニングにご注目
前半とはうって変わってインサイドハーフが「中」で待ってます。

バルサのティキタカの基本は「敵と敵の間で受ける」
いわゆる三辺の中心でパスを受け・・・・

涼しい顔のままターンしてボール運べちゃうから!
しかも1人でDF3枚引き付けてるんで周りの味方にスペースも提供しちゃう一挙両得。
更にイニエスタ投入の効果は周囲に波及し、特に前半は死んでいたブスケスとメッシを蘇らせる事につながります。
【②イニエスタのポジショニングがブスケスを蘇らせる】

局面はGKからマスケラーノが受け取ったところでイニエスタがブスケスと逆方向に動いてモドリッチを引きつける場面
守る方はイニエスタに中で受けられると致命傷なのでケアせざるを得ません

結果、前半まで窒息寸前だったブスケスがフリーで前を向けてメッシが間受けの準備
前半喪失していたバルサの中盤が蘇りました。
これを分かり易くすると・・・・

↑要はこれブスケス、イニエスタ、メッシが中盤で大きめのトライアングルを作ってロンドを始めたに過ぎないんです。
これをラインを敷いてゾーンで守ろうとすると必ずどこかにギャップが出来る現代サッカーにおけるハメ技みたいなもんですな(笑)

結果、メッシが最も得意なかたちでボールを受けて無双発動。
前半とドリブルのスタート位置が全く違ってメッシが自分の役割に集中出来ているのがよく分かるかと思います。
つまり前半はブスケスとメッシが中盤で切り離されていた感じですが、この2人をイニエスタがつなぐ事でバルサのパスルートに1本芯が通った感じですかね。
バルサのティキタカはボールをつなぐ前にまずポジショニングでお互いがつながらないとパスが回りません。
そして「お互いのポジショニングに意味を持たせる」とはつまりこういう事です↓

この3人のポジショニングこそバルサの全てです。
それぞれがそれぞれを助け、各自が敵と敵の間に入っているのでマドリーの守備陣形が機能していません。
(誰かに付けば別の誰かが空く・・・という状態)
ブスケスが受ける前にスッと横に降りて来るイニエスタの動きも往年のシャビを彷彿とさせますね。
そしてイニエスタの凄みはボールを「受けない」時にもその効果が発揮されるところ↓
【③イニエスタのバックステップがバルサに時間を与える】

局面はバルサのビルドアップからマスケラーノがボールを持ったところ
ここでインサイドハーフのイニエスタはSBの位置に落ちるのではなくボールに身体を向けたままバックステップで「中」へ進入していく得意の動き出し
この守備ブロックの「間」で受けようとする準備動作に対し、マドリーはバスケスとイスコが対応する為にイニエスタに引っ張られていきます。
これでマドリーのファーストディフェンスがボールにプレッシャーをかけられず、バルサのCBとSBに時間が与えられる・・・という寸法です。
つまりイニエスタはボールに触らずともバルサにポゼッションを与える事が出来るんですね。

時間を与えられたCBは余裕を持ってボールを運べるのでそもそもの攻撃開始地点が高くなります。
そしてイニエスタは定石通り、今度はマドリーDFの四辺の中心にポジションを取っています。
これでマドリーのCB,SB,CH、WGはそれぞれイニエスタを気にしながらプレーせざるを得ず(自分のポジショニングを間違えるとイニを使われる為)、Jアルバとネイマールに対して思い切ったアプローチに出ていけない制限をかけられているんですね。
このように守る方としてはイニエスタを気にするとどうしても守備ブロックをバルサ主導で動かされてボールを取りに行けないのですが、かと言ってじゃあ「ブロックの外では放っておけ!」と放置プレーをしてしまうと・・・

ブロックの外から神スルーパス!!!
一発で決定機を作られてしまう・・・と。
世界最高のタレントをかき集めたクラシコが、たった1人のMFによってここまで変質させられてしまうとは・・・。
シャビ無き今、イニエスタこそがバルサに残された最後のフットボールと言えよう。
<添え物に過ぎなかった両指揮官>

結局、クラシコでのエンリケの仕事は「残り30分になったらイニエスタを投入するだけのお仕事です」に過ぎず、他の采配も実にチグハグなものでした。
1-0リードで逃げ切る為のデニススアレス&アルダの投入は
Dスアレスが肝心の守備で穴になっていたばかりか、アルダの不必要なファウルがマドリーの同点弾を生んでいます。
そもそもこのチームが逃げ切りを図りたいのであればボールを相手に渡して自陣に引くのではなく
守備的ポゼッションでボールを相手に渡さない、という閉め方こそ勝ちパターンだったはず。
トランジションゲームに持ち込んでMSNの決定力で勝つ!というエンリケの唯一の勝ちパターンも既に攻略されかかっている気配。
ソシエダ戦のようにDFラインに強烈なプレスをかけられるとそもそもMSNまでボールが渡らずにジ・エンドのパターンはリーガの中堅&弱小クラブにも恰好のお手本になるだろうし、マドリーのようにトランジションゲームに持ち込ませないゲーム運びをされると試合が膠着してしまいます。
ペップであれば相手の出方に応じてシステムを変え、選手を変え、ポジショニングのメカニズムを変える応手で対応していましたがエンリケはピッチ上で選手達が解決してくれるのを待つのみ。
バルサの肝である中盤を軽視してカンテラーノから外注路線に舵を切ったものの、肝心のクラシコでエンリケを救ったのがカンテラーノによるティキタカというのは皮肉でしかありません。
一方のジダンもデルボスケよろしく、ただ最高の選手をピッチに並べるだけでそれ以上でもそれ以下でも無し。
クラシコでもリードされてからボールの収まりどころだったイスコを下げてカゼミロを投入し攻撃力を下げたばかりか
終盤まで空気以下だったベンゼマを引っ張っるなど謎采配につぐ謎采配。
(結局、前線を若手に変えてからマドリーの攻撃は明らかに活性化されました)
結局この両指揮官ではクラシコという試合の格に対して添え物になってしまい、
ピッチ外の空中戦は皆無なまま膠着した試合は互いセットプレーで1点づつを取り合ってのドロー決着は必然と言えよう。
ただ唯一、イニエスタだけがフットボールの神がこの試合につかわした救世主(メシア)だったのである-
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