ペップとモウリーニョ 絡み合う両者の思惑 【クワトロクラシコ 第3ラウンド レビュー】

*2011-04-29更新 (アーカイブ記事)








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<クワトロクラシコ 第3ラウンド >


「クワトロクラシコシリーズ」もあっと言う間に第3ラウンド。


CL準決勝の1stレグを終えた。



このシリーズが始まる前は

「いくら何でも4連戦は多過ぎ」 「クラシコの価値が・・・」 「さすがに胃もたれ起こしそう」

そんな風にも思ったものだが、
蓋を開けてみれば「もうあと1試合しか見れないのか・・・」と一抹の寂しさを覚える始末。



何試合続けて見ようとクラシコはクラシコ。


さすがの安定感である。


では、残念ながら試合の展開上、おそらくこれが最後の「クラシコレビュー」となるであろう

サンチャゴベルナベウでの1stレグを振り返っていこう。



<想定通りの両布陣>

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両チームのスタメンは上記の通り。


Rマドリーは予想通りのメンバー。

このシリーズで一貫して機能している「3センター」を軸にした4-3-2-1。

ケディラの代わりには想定通りラサナ・ディアラを起用してきた。


バルサは「復活したカピタン」ことプジョルを左のSBに、
故障で欠場のイニエスタに代わってケイタを起用して並びはいつも通りの4-3-3。

(3トップ両翼の並びがいつもと逆になっているがこれは後ほど検証したい)



事前に想定された中でも最も無難な布陣を敷いてきた事が
この日のペップの狙いを端的に表している。


これまでの2試合とは違い、このCLラウンドは「180分の勝負」


ペップとすれば最悪このベルナベウでの90分を「0-0」で折り返せば、
次のカンプノウでいくらでも決着はつけられると踏んだのだろう。


これもCLにおける一つのセオリーではあるが・・・・。



<驚きと共にキックオフ>


試合は一つの驚きと共にキックオフされた。


驚きとはバルサが自陣から攻撃を組み立てようとしたその時、
Rマドリーが敷いた陣形である。



ロナウドを含めたフィールドプレイヤー全員を自陣に下げただけでなく、
ディマリア、エジルの両WGを中盤のラインに下げ、
自陣バイタルエリア手前にアンカーのアロンソを1枚残し、
2列目のセンターにはCロナウドを下げてFWは0枚。



つまりピッチに描かれた陣形は・・・



4-1-5-0!!


完全に自陣に網を敷いてバルサの攻撃を待ち受ける体勢だ。


この布陣に対し、バルサは当然CBが自由にボールを持って組み立てられるのだが、
なかなかレアルの網に飛び込んでいかない。


1つタテパスを入れても、Rマドリーの網が取り囲もうとする姿勢を見せれば
すぐにバックパスでやり直しを図る。


どちらのチームも極力リスクを減らしたプレーの連続で

必然的に試合はすぐさま膠着状態に。



まるで剣豪2人が鞘にかけた手から刀を抜かず、

ジリジリと睨み合うような展開。



これは両監督の思惑が複雑に絡み合った結果でもある。



<絡み合う思惑 【モウリーニョの狙い】>


考えてみればクワトロクラシコもこれで3試合目。



この短期間に連続して3試合も同じカードが続けば、

お互いがお互いの狙いと意図を掴み合っているような状態だ。


この試合のプランが、事前の2試合を踏まえて編み出されたのも当然の話である。



まず、マドリーのモウリーニョであるが、
直前のコパレルレイ決勝における反省点がよく活かされたプランで臨んできた。


その【反省点】とは、前半の飛ばしすぎが祟ってガス欠を招き、

神ージャス降臨で何とかしのいだものの、サンドバック状態に陥った後半45分にある。


このガス欠を招いた原因は、「ボールではなく人につく」ディフェンスで

3センターに対しマーカーを追いかけ回す事を要求しただけでなく、

攻撃でも長い距離を走らせるという「負荷のかけ過ぎ」に原因があった。



そこでこの試合では

あらかじめ自陣に網を引いて待ち構える事で体力の消費を抑え、


3センターに対してもそれぞれのマーカーにはマンツーマン気味でつくが、

マーカーがバルサ陣地に引いていく動きに対しては

ある程度のラインを越えてからは深追いせずに放させ、

自陣の網から はみ出させない事で3センターの稼動範囲を制限。



そんなモウリーニョの思惑があっての4-1-5-0だった訳だが、


これをもって

「ベルナベウでの引きこもり」 「アンチフットボール」とする声には

試合を片方の視点からしか見ていないと言わざるを得ない。



今更モウリーニョの経歴を持ち出すまでもなく、

彼はCLのスペシャリストなのだ。


「180分」の試合を想定してモウリーニョの立場に立てば、

ペップとは間逆のプラン、「ベルナベウでリードを持っての折り返し」は絶対に譲れない。



当然だがモウリーニョは「勝つ」為にこのプランを選択した。



Rマドリーほどの戦力を持ったチームが11人で張った自陣の網に対し

バルサが飛び込んでくれば、

そこでボールを奪ってのカウンターは必ず一定の確率で生じる得点機。



事実、コパデルレイ決勝の前半では

攻撃に上がったバルサSBの裏をロナウドやディマリアが高速カウンターで突く事で

何度もチャンスを作っている。



守備では自陣に引いて体力を「溜め込み」、

奪うやいなや高速カウンターで一気に仕留める。



ガス欠のリスクを最小限まで抑えつつ、

自軍の最大の強みである高速カウンターを最大限に活かす。



モウリーニョの「勝つ」為のプランがそこにはある。





・・・・では何故、試合は膠着してしまったのか?




答えは簡単。



バルサがレアルの張った網に「飛び込んでこなかった」からであり、


つまり原因はモウリーニョのプランにあるのではなく、

むしろそのプランにペップが「乗ってこなかった」からなのである。




<絡み合う思惑 【グアルディオラの場合】>



片や、グアルディオラは事前のクラシコ2試合をどう捉えていただろう?


バルサというチームとその指揮者グアルディオラは

これまで基本的に相手に合わせるのではなく

「自分達のサッカーを貫く」事で勝利を重ねてきたチームである。



・・・・いや、このクラブの歴史を遡れば勝てなくなった低迷期でさえ

このスタイルを崩す事は無かったので、

厳密に言えば勝ち負けに関係なく"このスタイルを貫く"事こそが存在意義のチームというべきだろうか…(^^;



このバルサと対戦する際、
事前にプランを練るのはモウリーニョでなくともそれは比較的容易な事だ。


最初からバルサの出方は分かり切っているのだから。

(問題は分かっていても止められない点にあるのだが・・・(^^;)



ところがグアルディオラはこの試合で一つ、
バルササッカーの大きな特徴に軌道修正を施してきた。


今年初のタイトルとなるはずだった 国王杯を取り逃したあの試合-


相手の注文に敢えて乗る形でいつも通りのサッカーを貫き、

まんまと両SBの裏を再三に渡って突かれ、

遂にはサイドを破られてのクロスから決勝点を献上・・・・。


(しかもマドリーのお調子者が直後に国王杯をぶっ壊すというコントのオマケつきwww)



この敗戦を踏まえ、この試合ではバルサの大きな特徴の一つ

「同時に上がる両SB」を完全に封印。


左SBにプジョルを使ったのも「専守防衛」の表れであるが

右のDアウベスまでがDFラインに張り付いたまま離れない姿は

普段、バルサの試合を見ている方なら大きな違和感を覚えた事であろう。


結果的には、これでモウリーニョの狙いを外させる事に成功したペップだったが、

同時にこれは自軍の攻撃力ダウンも意味する。



それでもペップは3トップ+MF3枚による中央突破で

何とか崩せるだろうと踏んだのだろうが、

事はそううまく運ばなかった。



<機能不全に陥ったバルサのビルドアップ>


まず中盤におけるビルドアップである。


バルサのビルドアップの始点はいつもアンカーのブスケス。



彼がシンプルにシャビ、イニエスタに預けるか、

もしくは真ん中の2人が警戒されている時は一度両サイドに張り出したSBに展開して

相手DFを横に広げるところから全ては始まる。




ところがこの試合では「SBの上がり」が封印されている上、

シャビはペペの密着マークにあっている。



残るはイニエスタの代わりに入ったケイタなのだが、
やはり攻撃時、ケイタにイニエスタの代わりを求めるのは荷が重いというもの。



この試合、守備では素早い潰しで貢献も出来たケイタだが、

マイボール時におけるポゼッションへの貢献度は0に近い。



やはりシャビ、イニエスタ、メッシ、ブスケスからなる

あの独特なバルサのパス回しは

カンテラという下地がない選手には厳しいのか・・・・。




結局出しどころに困ったブスケスがモタモタしている内に

Rマドリーの網が自分にもかかってくるものだから、

CBに下げるしか選択肢が無くなってしまう。




これでは一向にバルサの攻撃が構築されていかず、

バルサとすればレアルの網に対し

「飛び込まなかった」のではなく、実は「飛び込めなかった」のだ。





遂には見かねたシャビが
ブスケスの位置まで降りてきてビルドアップの始点を自ら駆って出ると
中盤の並びはブスケスとシャビによる「ドブレ・ピボーテ(Wボランチ)」状態に。




【シャビとブスケスによるWボランチへ】
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これで攻撃の「始点」は出来たのだが、
シャビが本来の位置から離れた事で新たな弊害が生まれてしまう。



そもそもバルサ本来のビルドアップの強みは

「ブスケス⇒シャビorイニエスタ⇒メッシ」

と短い距離を繋いでいく「相手にインターセプトのチャンスを与えない」繋ぎにあった。



これがシャビがブスケスの位置に降りたことで

「ブスケス+シャビ⇒   ⇒メッシ」 となってしまい、

メッシまでボールが上手く繋げない。


( 【メッシの孤立】 * ↑の画像でもメッシが映らないぐらいシャビとの距離が遠い )



う~ん・・・バルセロニスタならずとも
ここであの イニエスタたん のスルスルと抜けていくドリブルによる「ボール運び」が恋しいゼ・・・。




<失策の3トップ>


更にもう1点、前線の3トップにもペップは修正を施してきた。



コパデルレイ決勝の後半―


中央を閉めてくるRマドリーに対し、そのディフェンスを横に広げるためにメッシをWGに回したペップ。



ところが肝心のメッシが中に入ってきてしまう為、この狙いが活きなかった反省を踏まえ、

この試合ではメッシをCFに戻し、本来左に入るビジャを右に ペドロを左に回した3トップへ。



通常、ビジャを左に置いたバルサの3トップでは、

右利きのビジャが左から メッシが引いた事で空いた中のスペースへ度々入り込んで

「ストライカー」の役割も果たす「偽ウイング」にその特徴があった。


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だが、この「中へ、中へ」の3トップでは

Rマドリーの「中央封鎖」に対し、真ん中のエリアで交通渋滞を起こしてしまう。


ペップとしては、一度このRマドリーの守備陣を横に広げたい。



ビジャを左から右に回した狙いは、
右WGに「中へ」の動きではなく、本来のウイングらしい「外へ」の動きを求めた事による。



つまり、メッシを右WGに置いても中に入って来てしまう。


ペドロも本来は右利きながら左も同等に使える両利きの為、
シュートの際は中に入って来るだろう。


で、あるならば右利きのビジャを右に回そうという訳だ。



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だが、このペップの狙いは明らかに失策であった。



右に回されたビジャは本来「ストライカー」の選手であり、

自らドリブルで1対1をタテに仕掛けるタイプの選手ではない。


後ろのDアウベスも上がりを封じられているため

後方支援もない状況で孤軍奮闘するビジャの見せ場は

結局右から中へカットインしての不慣れな左足によるシュートという本末転倒な結果に。



メッシを真ん中で活かしたいあまり、

ビジャを犠牲にしてしまったような3トップとなってしまった。




結局前半は、攻撃しようにも機能不全に陥って組み立てもままならないバルサと

バルサに出てきてもらわねばカウンターが成立しないRマドリーとの
「噛み合わない攻防」に終始して45分が過ぎ去った。



<焦るモウリーニョ そしてあの退場劇へ・・・>



結局ペップは後半頭から、

3トップの並びをいつもの左ビジャ、真ん中メッシ、右ペドロへ戻す。


それでも最悪0-0でもいいペップにはまだ余裕があった。



焦ったのはモウリーニョである。


バルサが出てこないなら自分達からボールを奪いに行くしかない。


それもなるべく高い位置で奪えるのが理想だ―



恐らくモウリーニョのハーフタイムの指示はこんなプラン変更だったに違いない。



その狙いをより明確にする為、

後半頭からエジルに代わりアデバヨールを投入。



加えて3センターのペペ、ディアラにも「稼動範囲制限」を解除。


なるべく前に出ていって高い位置での潰しを指示。






その結果、前半に比べて俄然「自分達から取りに行く」姿勢が強くなったRマドリーだが

ここでバルセロナのGK、Vバルデスのキック技術が光った。



これまで自由だったバルサDFラインが

Rマドリーの前線による猛烈なプレッシャーに晒された為、

この時間帯はGKへのバックパスが急増。




通常、このバックパスにプレッシャーをかけたチームは、

相手GKに焦って前線へのロングキックを蹴らせる事で

自分達の陣地を押し上げ、尚且つ中盤でこぼれ球を拾う事で

試合を自分達のリズムに持っていけるものだが、



Vバルデスは全く慌てる事なく

このバックパスを味方に「明確なパス」として展開。



完全に11人目のフィールドプレイヤーとして機能する事で

Rマドリーの猛プレスを空転させる事に成功。



追っても追ってもバルサに展開され、

次第に「高い位置で奪う」はずだったRマドリーの選手達に焦りが見え始めると

これが一つの悲劇を生んでしまう。



高い位置で潰しをかけにいったペペが

足の裏を見せた危険なタックルを取られ一発退場に。



いつものようにこのブログではジャッジングの是非については話を置いておくとしても、

"いちサッカーファン"としては「90分 11対11」でのクラシコが見たかっただけに非常に残念。



<崩れた均衡 解き放たれたメッシ>


10人になったマドリーは「3センター」を解除せざるを得ず、4-4-1の布陣に。



3センター解体と共に「中央閉鎖」のロックが開かれてしまった事で

このスペースにメッシ、シャビ、ブスケスが好き放題進出すると試合は完全にバルサペースに。



【中央閉鎖が解除】
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4-4-1で守るRマドリー。

本来、ペペ(もしくはアロンソ)が潰していた中央のスペースが開いてしまいメッシがフリーになっている。


ここへシャビからボールが送られると・・・・


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一気にドリブルでボールを運ばれてDFラインが丸裸にされてしまう。



これを見たペップは試合のプランを「0-0でもOK」から

「残り30分でRマドリーを叩き、ここで決着をつける」に変更。



この日、何かとネックになっていた右のウイングに
本来のウインガータイプであるドリブラーのアフェライを投入。



更に右のDアウベスにだけ攻撃参加を解禁し、この右サイドから一気に攻勢をかけた。



これまでのクラシコシリーズを主にペドロ、ビジャのマーカーとして勤め、

その役割をほぼ完璧にこなしてきたマルセロだったが、

ここで急にタイプの違うアフェライのドリブルに対し後手に回ってしまう。



(野球でいう速球タイプから変化球タイプへのピッチャー交代、

もしくはチェンジアップのような効果が生まれる)





ペップの狙い通り、この右サイドを破っての鋭いクロスにメッシが中で合わせて先制。


(メッシにしては、めずらしいCFらしい得点)



1-0となってもバルサは攻勢の手を緩めない。



今度は空いた中央のスペースを使ってメッシ無双が発動しトドメの2点目が生まれた。
(アウェイゴール)




<クワトロクラシコ総括>


これでRマドリーは2点のアウェイゴールを背負い、

2ndレグはカンプノウでSラモス、ペペ、そしてモウリーニョを欠いた戦いを強いられる事となった。



もちろん勝負は終わってみるまで何が起こるかわからないが、

試合後の会見でモウリーニョも認めたように

これでほぼバルサの勝ち抜けは決まってしまったように思う。



そこで最後に軽くこの「クワトロクラシコ シリーズ」を総括してみると


バルサの「0・5トップ」に対する「メッシ封じ」として

「3センター」による「中央閉鎖」は非常に上手くいっていたように思う。



事実、Rマドリーが11人で、尚且つ3センターが体力万全の状態で機能している時は

バルサに得点どころか決定機も許していない。



あとはこれを「90分持たせる」工夫と

身体で潰しに行く守備に対する「退場へのリスクマネージメント」さえ万全にしておけば

或いは・・・・?と思わせるシリーズであった。




それでも今年に限って言えば

結局は、試合後の会見でペップ自身が語ったように



『メッシという選手に恵まれたチーム』が勝利を手にしたクラシコとなった。



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【孫子の兵法】から見るバルサの優位性と未来 ~0トップ誕生の歴史~ 

*2011-04-15更新 (アーカイブ記事)








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<9トップから0トップの時代へ>



まずは現在のバルサを、

サッカー創世記からの歴史上の観点で検証していこう。



この地球上にフットボールが生まれた頃、

その競技内容とは相手陣地に向かって大きくボールを蹴り上げ、

それをフィールドプレイヤーの10人が一斉に走って追いかけるというものだった。



おおよそ「戦術」や「フォーメーション」と呼ばれる概念は無く、
ボールを蹴り上げるプレイヤー1人を除く 残りの9人全員がFWという状態。

( 「9トップ」の時代)




そこから段々と戦術、フォーメーションが発展していくと
各チームはFWに割いていた人員の何枚かを後方に下げ、中盤とDFを構成。



「サッカー戦術」という概念上、
その歴史に初めて登場するフォーメーションらしいフォーメーションは「2-3-5」と記録されている。


2枚のDF、3枚の中盤、5枚のFW。


今では考えられないアンバランスな布陣だが、
およそ100年前のサッカーではこの布陣が主流であった。




そこから100年の時を経て、
現在に至るまでのフォーメーション変換の歴史とは一言でいってしまえば


「FWの枚数を減らして後方にまわす」


という流れで進んできた。




これはフットボールという競技が
「ゴール前での人海戦術」という原始の段階から
「中盤の主導権争い」に成熟してきた事の証。



そして、今では多くのトップクラブが採用する「1トップ主流」の時代に行き着いた。

(5トップ⇒4トップ(【4-2-4】)⇒3トップ'(【4-3-3】)⇒2トップ(【4-4-2】)⇒1トップ(【4-2-3-1】)






そんな時代にあって、今季のバルサが採用しているCFにメッシを置いた布陣は
「0トップ」(或いは「0・5トップ」) 「トップレス」「メッシ・システム」などと呼ばれている。




つまり、現代サッカーがいよいよ「1トップ」の時代から
次の「0トップ」へ移行する兆しと捉えられている訳だが、
この「0トップ時代突入」を語る上で、歴史上 飛ばしてはいけないチームがある。




それが2007~2008シーズン前後にイタリアのASローマが
世界に先駆けて披露した「0トップシステム」である。




<ASローマの「0トップシステム」を検証する>
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ローマでこのシステムが生まれたキッカケは半分偶然というか
「怪我の巧妙」のようなところがあった。


07/08シーズン、ローマはFWに怪我人が続出し、
遂には純粋なFWが1人も残っていないという窮地に追い込まれていた。




そこで当時、ローマを率いていたスパレッティ監督は
本来、「1・5列目」で「司令塔」の役割を担っていたチームの大黒柱トッティを1トップに据えて、
ピッチ上に純粋なFWを1人も置かないという賭けに出た。






この斬新なシステムに対し対戦チームは有効な対策を持ちえず、ローマの快進撃が始まった。


当時世界中から絶賛されたローマの「0トップ」を検証してみよう。




【ASローマの0トップ】
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基本的な布陣の並びは「4-2-3-1」で、
中でも前線の「3-1」の配置と動きにその妙が凝縮されていた。


司令塔のトッティが最前線で常に「攻撃の基準点」として定点に留まり、
トッティがボールをキープしている間に後ろのMFが一斉に追い越しをかける。



そして追い越したMFに向けて、
トッティからラストパスが送られるというのが攻撃の基本形。

最初の「3-1」の並びから「1-3」に並びが逆転するのがミソ。



【「3-1」の並びから⇒「1-3」に】
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定点として一定の位置に留まり続ける「静」のトッティと
それを一斉に追い越す「動」のMF3枚というバランスがギリギリのところで機能した一例。



1トップのCFトッティが最終的にはアシスト役に回るこのシステムを指して
世間が「0トップ」と名付けたのも確かに頷ける。



だが、よくよく一連の流れを見てみると
戦術的にこそトッティは「0トップ」的な役割をこなしているが、


ピッチ上の位置取りは紛れも無くポストプレーに特化した「定点型1トップ」であり、

トッティの動きで「0トップ状態」が作られるのではなく、

MFの走り込みが結果的に「0トップ状態」を形成するに過ぎない。




したがって、個人的にはこれを「0トップ」と呼ぶには抵抗があり、

「1トップの亜流」として位置付ける方がシックリと来る。

(もちろん、人によっては異論もあるかとは思いますが。)





何より、このシステムが僅か1シーズン半しか持たなかったのは

メリットと同時に多くのデメリットを抱えていたからだ。




限界の要因は、まず「動かない1トップ」トッティにある。



ローマの選手からすれば、「攻撃の基準点」トッティが常に一定のエリアにいる事が
この不安定なシステムの中で唯一の拠り所になっていた訳だが、


同時にこれは相手チームのDFにしてみれば、絶好のターゲットに成り得る。


何故ならトッティ自身が裏に抜け出たり、

ボールを受けて自ら突破を計るという選択肢が無い上、

ローマの攻撃は必ず一度この定点にボールを当ててくるという按配だ。



これはもう対策を立てる側からすれば「潰せ」と言われているようなものだろう。



ローマの守備面に立って考えてみても

トッティのところでボールが奪われると

トッティ自身に加え、追い越しをかけたMF3枚の計4枚が

相手のカウンターに対し 「置いてけぼり」をくらうリスクを常に抱えている事になる。




それでもトッティの超絶的なキープ力で、セリエAでは無敵の威力を発揮していたのだが、

やはりレベルが一段も二段も上のCLでは マンチェスターUに0-7で大敗すると

このシステムは一気に限界を露呈した。





<メッシが体現する新時代の「0・5トップ」>




そこで現れたのが今季のバルサが見せている「0トップ」のハイブリッド版
「0・5トップ システム」(店長命名) である。


現在、世界最高のプレイヤーと言われるメッシが

紆余曲折を経てたどり着いたベストポジションこそ・・・・「0・5トップ」。



元来、右のウイングとしてプレーしてきたメッシだったが、

その「突破力」と「決定力」を よりゴールに直結するエリアで活かしたいと考えるのは

誰が監督だろうと必然的に辿り着く流れであった。



よりゴールを意識するなら、やはりゴール前 中央のエリアがベスト。


しかし、従来の定点的な1トップではメッシの「機動力」と「スピード」という

最大の持ち味が消えてしまう。



かと言って、トップ下に下げてトッティのように「アシスト役」に回してしまえば、
今度はその「決定力」が宝の持ち腐れ。



辿り着いた回答が「0・5トップ」だった。



メッシもトッティと同じように 本来CFの選手ではないが、

試合ではCFの位置を基本とするところまでは同じ。



しかしメッシは決して「動かぬ基準点」などではなく、
むしろ「動き回る」事こそを最大の武器としている。


引いて受けて良し


裏に抜けて良し


はたまた個人によるドリブル突破良し



一元的に見れば、まずはこの
「メッシというプレイヤーの能力が最も発揮されるポジションは ピッチ上のどこなのか?」
という理論から0・5トップ誕生という事になるが、"真の狙い"は更にその奥にある。



現在のバルサにあって、その攻撃時における最大のテーマとは


「いかにメッシに前を向いた状態でボールを渡せるか?」

にある事は普段バルサの試合を見ている方なら実感している事だろう。



安定したボールポゼッションも華麗なパス回しも

全ては「いかにいい状態のメッシに渡すか」という前振りであり、

メッシがスイッチを入れない限り、
ともすれば「ただのボール回し」に終わってしまう事もある。




これはつまり、裏を返せば、
バルサと対戦するチームにとっての最大のテーマが

「いかにメッシに前を向かせないか」

である事をも意味する。




通常、バルサと対戦するチームはその対策を練りに練ってくると考えるのが普通だろう。

中には露骨に「対バルサ用」のシステムを取ってくるチームも昨今では増えた。



この極度に戦術的でシステマチックな相手の布陣に対し、
バルサの緻密な攻撃戦術の中でメッシにだけ

敢えて最もファジーで

「従来の戦術からはみ出した役割」


を与える事で
対戦相手の「対バルサ戦術」を機能不全に陥れる事が「0・5トップシステム」の最大の狙いである。




ではこの「0・5トップシステム」における

実際の試合でのメッシの動きとバルサの攻撃を分析していこう。



【0・5トップシステムにおけるメッシの動き(パターン1)】
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局面はボールを持ったシャビから攻撃が始まるというところ。



この時はまだ、バルサの前線が通常の「3トップ」の並びになっている事が確認出来る。


通常のサッカーチームにおいて、最もフィジカル能力に優れ守備能力が高い選手は

どこのポジションに置かれるだろうか?


当然、CBに置くのが普通だろう。



バルサとしたら、この「最も守備能力とフィジカルに優れる」CB2枚に

「ゴールに背を向けた状態」のメッシ1人が削られるという展開は避けたい。



そこでCB2枚のマークからメッシを意図的に剥がしにかかる。



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メッシの「0・5トップ」発動の瞬間だ。


従来のCFの仕事は、相手CBの前で身体を張ってボールを収める事にあるが
メッシは「CFの職場」を放棄。一度 中盤に下がる。



この動きにマーカーのCBが反応、ついて行こうとするが・・・・



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あまりにメッシの戻りが深く、これ以上深追いをすればDFラインに穴を空けてしまうと判断したCBが
メッシのマークをボランチに受け渡す。

(これ自体、決して間違った判断などではなく、むしろディフェンス戦術のセオリー)




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メッシが完全に中盤まで降りた事で、(MF化)
文字通りバルサのCFが「0トップ状態」を形成。

(トッティと違い、自身の能動的な動きによって「0トップ状態」を作り出すのがローマとの大きな違い。)


注目すべきは、先ほど挙げた「チームで最も守備が強い」CB2枚が
マークする相手がおらず完全な「放置プレー」になっている事。


尚且つ、CFがいないのだから相手のマーカーも不在。
○で囲ったエリアに一瞬、無人のスペースが生まれている。


ボールを持ったシャビは中盤のメッシには出さず、一度Dアウベスにパスを渡す。


2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0582032811169019238.jpg

瞬間、空けておいたスペースへメッシがアクセル全快。

「スピードに乗って前を向いたメッシ」に向けてDアウベスからパスが送られる。



2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0580031211169019239.jpg

局面はメッシにパスが渡った瞬間。


どうだろう?

もしかすると仮に貴方が この対戦チームのファンだっとして、
この画を見ても まだそこまでの危機感を憶える事は無いのではないか?

エリアは中盤だし、DFラインは揃っている。


・・・が、バルサの場合、これが攻撃の最終局面であり、
既に「スイッチが入って」しまっている。


2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0581033411169041971.jpg

前を向いて無敵状態のメッシがそのままドリブルでボールを持ち込み、
ゴール前で突然進路を中に変える鋭いカットイン。


得意の形から左足で放たれたシュートでゴールを決めた。



この失点を巻き戻して分析するならば、
やはりCBがメッシのマークを離して(受け渡して)しまった事に起因するという結果になるだろう。


では、メッシのマークを離さず、CBがついていったとしたら・・・・どうなるだろうか?


検証してみよう。


【0・5トップシステムにおけるメッシの動き(パターン2)】

2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0580032911168997871.jpg


再び、中盤でシャビから攻撃が始まる局面。

予定通りメッシが前線から中盤に降りてくる瞬間だ。


先ほど痛い目を見たCBも学習したのだろう。

今度は決してマークを離さず「どこまでも付いていってやる!」という体勢だ。



このCBの前がかりになった重心を確認したメッシ。


2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0572032611169041974.jpg


瞬間、進行方向を切り替え、一気に裏抜けを開始。

先ほどの意気込みで完全に重心が前のめりのCBはこの動きについていけない。


そこにシャビからスルーパスが送られる。


2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0578032911169054391.jpg

はい、これでGKとの1対1がいっちょあがり。

さっきとはうって変わり、CFの仕事をメッシが果たしている。


この「半分CF」「半分MF」的な動きを指して「0・5トップ」と名付けた訳だが、


相手チームにすれば、


マークを離せば「前を向かれ」


ついていけば「裏をとられ」


常に究極の二択を迫られている 恐るべきシステムだ。




<【孫子の兵法】から見るバルサの優位性と近未来>


最後にまとめとして現代サッカーにおける「バルサの優位性」と
これから先、サッカーがどう進化していくかの「近未来」を検証して終わりにしよう。



まず、「バルサの優位性」を検証するにあたって
ちょっと突飛な話に聞こえるかもしれないが、【孫子の兵法】にこんな一説がある。




「実戦においては単純な兵力差よりも稼動戦力の方が重要である」


「遊兵を作らず、戦っている面積で上回れ」




歴史上の戦(いくさ)の中には

「僅か数千の部隊が○万の大軍隊を撃破!」

なんていう事例がいくつも残っている。



孫子が言っているのは、実際の戦では局面局面で全ての兵が稼動している訳ではない。



単純な兵力で劣っているのなら
なるべく相手に多くの遊兵(戦に参加してない兵力)を作り出すように自軍の陣形を工夫し、
局地戦で数的優位を作れ!という事だ。





さすがは、現代でも戦における最高の指南書の一つ。


これはそのままサッカーにも当てはまるとは言えないだろうか。


つまり、単純兵力差では「11対11」のピッチ上において「稼動戦力」で上回る。



「0・5トップシステム」による

一瞬、中盤の局地戦で数的優位を作るメカニズムはまさにこの教えそのもの。



そして、「遊兵を作らない」という点でも現在のバルサはその最高峰にある。


先ほど「ローマの0トップ」との比較でトッティとメッシの例を持ち出したが、
トッティに限らず、他の多くのチームでも同じ比較が当てはまる。


例えば、Fトーレスやイブラヒモビッチ、Cロナウドらの選手を抱えるチームでは、

「中盤の構築」「自軍の守備」という二つの局面で彼らが文字通り遊兵となってしまう。


何故なら「ゴールを決める」という最終局面でこそ

彼らは2人分、3人分の仕事が出来るスーパーなプレイヤーだが

それ以外の局面には一切介入しない職人でもあるからだ。



同じように「相手の攻撃を跳ね返すだけ」というDFを抱えるチームでは
「攻撃の局面」で遊兵が出てしまう事になる。



その点、「攻撃の構築」がGKから行われ、
「守備の局面」では誰よりも早くCFのメッシからプレッシングが始まるバルサには
攻守に遊兵が存在しない。



言い換えればバルサは「GK1人と10人のMF」で戦っているようなものであり、


であるならば、これからのサッカーとは職人が淘汰され

攻守において遊兵を作らない真の意味での「トータルフットボール」の時代を迎える事になろう。



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