FCバルセロナが見せた異次元 【10/11CL決勝レビュー】
*2011-05-30更新 (アーカイブ記事)
<FCバルセロナが見せた異次元>
「このサッカーを超えるものは今後10年は現れないだろうな・・・」
昨年の11月、衝撃の"5-0クラシコ"を終えた時、そんな感想を抱いたものですが、
まさかシーズン中に自己ベストを塗り替えてくるとは・・・・。
いや~、恐れ入りました。(^^;
またもや近代サッカーのレベルを一つ上の次元へと押し上げたCL決勝戦。
僅か64m×108mのピッチに22人の人間とたった1つのボールだけで生み出された芸術の極み。
それでは早速、今季を締めくくるこの大一番を徹底レビューしていきましょう!
<両チーム スターティング布陣>
↑が両チームのスターティングオーダーです。
バルサは鉄板の4-3-3。
補足するならば両WG、ビジャとペドロの位置を
いつもとは左右逆にしてきた事ぐらいでしょうか。
(*これについては後述)
試合前のプレビュー記事でも注目点として挙げたマンUの布陣は4-4-2。
ファーガソンは公言通り、「いつも通りの布陣でガチンコ勝負」を挑んできました。
その意気や良し!
<小細工無しのファーガソン>
元来、ファーガソンは相手に合わせて戦術的に小細工を施すタイプの監督ではありません。
それでも2年前の決勝では
守備に不安の残るCロナウドをCFに置き、ルーニーを左のSHに回してサイドのケアを託したものの、
結局ルーニーは守備に撲殺されて完全に持ち味を消してしまった苦い経験があります。
この2年前の反省に加え、
これまでチーム最大の得点源でもあったCロナウドの離脱もあり、
今回はエース・ルーニーの持ち味を最大限、攻撃に活かそうという意図が汲み取れます。
想定された中でも最も攻撃的な4-4-2。
「バルサだぁ? しゃらくせぇ!真っ向勝負よ!」
ファーガソンのそんな男気が感じられる采配ですね。
この並びで来るにしても、今季のマンUの戦いぶりからは
恐らくルーニーを1列下げた縦並びの2トップ、
すわなち【4-4-1-1】でくるだろうと店長は予想していました。
バルサがボールを持った時には
ルーニーに中盤の守備へ参加させるだろうと読んでいたのですが、
実際にはエルナンデスと前線のラインに留まって完全な2トップ気味の体勢。
まあ、確かにバルサから90分で勝ちをもぎ取ろうと思ったら
ルーニーを前線に残す強気采配が一番ですが、
分かっちゃいるけど普通はなかなか出来ませんよ・・・・(^^;
このユナイテッドの強気な姿勢が
結果的に試合をよりオープンに
そして娯楽性の富んだものにしてくれました。
試合はキックオフからユナイテッドの強気な姿勢が
バルサの出鼻を挫きます。
果たしてバルサ相手に 過去こんな強気に出てきたチームがあっただろうか・・・?
ユナイテッドの今季最高とも思える
強烈なプレッシングによるボール狩り。
0・5トップで構えるメッシに対しても特別なシフトは敷かず、
あくまで自分達の形の中で正攻法で抑えようという体勢です。
必然的にCBのヴィディッチ、ファーディナンドがメッシと対面する時は
既にメッシが前を向いてトップスピードで仕掛けてくる局面になっている訳ですが、
ここでヴィディッチとファーディナンドが見せた気合の1対1は特筆もの。
(ヴィディッチの鬼のように深いタックル半端ねぇ・・・!!www)
ユナイテッドのゴール前ではお互いの意地を懸けた
世界最高レベルの「守備」対「攻撃」が絶えず繰り広げられていました。
<バルサの調律>
以前、このブログでも一度書いた事がありますが、
バルサには試合中、必ず"調律"と呼ばれる時間帯があります。
(*ちなみに僕が勝手に呼んでるだけですww)
この「調律」とは、バルサの試合でよく見られる 一見意味の無いパス回しの事です。
時には1~2メートルの近い距離で交わされるワンタッチでのパス回し。
行っては戻し、戻しては逆サイドへ流す。
ゴールに向かうでもテンポアップするでもない"攻撃を目的としない"パス回し。
じゃあこれ、一体何の目的の為にやってるの?っていうと、
つまりオーケストラで言うところの"調律"(リハ)なんです。コレ。(多分ね)
バルサのサッカーっていうのは、今更説明するまでもなく 通常のチームでは考えられない本数のパスが選手間を行き交います。
その為、僅か数センチのズレが致命的になり、その影響はチーム全体に及んでしまいます。
(100人のオーケストラでも99人が完璧な音程で演奏しているのに、1人が音程を外してしまうと致命的ですよね?)
その為、当日のピッチ状況、相手の出方、試合の流れ、お互いのリズムを
この一見意味のないパス交換を行う事によって確認し合っているのです。
言葉は交わさずともパスで
「今日のピッチは芝が長いから少し強めに行こう」
「相手はこの位置で回している分には取りにこないみたいだな・・・」
「○○だけ1テンポ、みんなよりリズムが早いぞ。調整しよう。」
そんなコミニケーションがボールを通じてチーム全体に行き渡っていくようなイメージです。
(~過去記事からのコピペ終了ww)
ユナイテッドの猛烈なプレスは試合開始からバルサにこの調律を許しませんでした。
パスを5本と繋げないバルサは非常に珍しい光景です。
これで、いつもは”相手にサッカーをさせない”バルサに
サッカーをさせない事に成功。
(なんか禅問答みたいだな・・・(^^;)
しかし、皮肉な事にこのユナイテッドが見せた最高の守備が
バルサから更なる覚醒を導き出す事に。
前半10分―
この試合で初めてブスケス⇒イニエスタ⇒シャビ⇒メッシ⇒ペドロと
綺麗にボールが繋がったシュートシーン。
シュート自体は枠を外れましたが、
この瞬間、シュートを外したペドロを始めとするバルサの各選手の表情に
確かな手応えを見る事が出来ました。
「行ける・・・・!!」
この1シーンを見て店長は確信しました。
こりゃスイッチ入ったな・・・・。
調律終了。
以降、残りの80分間で見せたバルサの鬼ポゼッションは
これまでのサッカーを超越したものとなりました。
『信じられません!バルサのシンクロ率が400%を超えています・・・!!』
『いけないわペップ君!これ以上はフットボールの形に留めておけない! ”神の領域”よ・・・!!』
<シャビの覚醒>
バルサのスイッチを入れたのは他でもないシャビでした。
この日のシャビのプレーは常軌を逸していたと言ってもいいでしょう。
バルサのトップチームデビューの頃からシャビのプレーは見続けてきましたが、
この試合はシャビの”生涯ベスト”になるかもしれません。
普段から人一倍、試合中首を振ってルックアップを欠かさないシャビですが
この試合では1・5割増。
普段からシャビのルックアップをスロー再生でカウントし、検証している
「自称・シャビ検定一級」の僕が言うのだから間違いありません。
この尋常ではないルックアップを見せながら、フィールド中を駆け回り、
最後尾でビルドアップを展開したかと思えば、
続いて中盤に顔を出し、最後はメッシと入れ替わるように前線で決定機を演出。
試合後のUEFAのデータでは
この試合、誰よりも多くのパスを受け(136本)、誰よりも多くのパスを成功し(124本)、
そして誰よりも長い距離を走り抜けました(11.95km)。
これぞ「フットボーラーの完成形」 「トータルフットボーラー」
「シャビがフットボールをしている」というより「フットボールがシャビを動かしている」
というのは言い過ぎか・・・・?(笑)
かつて、あの秋元Pは言った・・・・
「AKB48とは 高橋みなみの事である」と。
ならば言わせてもらおう。
「FCバルセロナとはシャビの事である。」
<秀才コンビが生んだバルサの先制点>
バルサの先制点も、当然
そんなスイッチが入ってしまったシャビが演出。
では検証していきましょう。
「4-4-1-1」ではなく「4-4-2」でマンUが挑んだ事から
中盤のセンターではギグス、キャリックの2ボランチに対し、
バルサはブスケス、イニエスタ、シャビの3枚で数的優位の状態。
それを察知したシャビが中盤のビルドアップをブスケスとイニエスタに任せ、
自身はユナイテッド2ボランチの裏を取りに行きます。
ユナイテッドの綺麗な3ラインが確認出来ます。
ボールを受けたイニエスタから裏へ抜け出したシャビへ。
狙い通りユナイッテドのMFとDFラインの間のスペースでシャビがフリーでボールを受ける。
フリーのシャビに対し、ユナイテッドはDFラインが当たりに行かざるを得ない。
シャビは充分にユナイテッドのDFラインを引き付けてから、
その間に裏へ流れたペドロへ向け スルーパス一銭・・・!!
しかもシャビはノールック状態で
パスは膝から下の振りだけで出したアウトサイド・・・!!
そんでもって両者の間にアイコンタクトは一切無し・・・!!
受けたペドロもシャビならここに出すと信じ切っていたかのような見事な動き出し⇒
完璧なファーストタッチ。
(ボール1個分でもズレて、シュートステップの踏み直しが必要だったならば、
ヴィディッチ決死のスライディングが間に合っていただろう)
トラップと同時にシュートモーションに入りつつ、
GKファンデルサールのポジショニングを確認して
ニアサイドへグランダーを流し込むペドロ。
"巧"です。
この先制点はバルサの歴史上でも「10年に1人の天才」と呼ぶべき
メッシとイニエスタがマークを引き付ける脇役に周り、
天才ではないものの、バルサのカンテラによって育てられた
「最高傑作」と呼ぶべき"秀才"の2人、
シャビとペドロによってもたらされました。
<現代サッカーの盲点を突くバルサ戦術>
続いて現在のバルサのサッカーがいかに「現代サッカーの盲点」を突いているかを見ていきましょう。
バルサの攻撃時における基本的な並びはこうです。↓
この日、いつもとペドロ、ビジャの並びを左右逆にしてきたのは
後ろのSBとの関係上だったと見ます。
ビジャは表記上のポジションこそウイングですが、
メッシが中盤に下がった時は代わりにCFを勤める「偽ウイング」です。
ビジャが中に入って来るなら 空いたウイングのポジションには
後ろのSBが上がってこなければならない。
この役割は左のアビダルより右のDアウベスの方が適役で
したがってビジャを右ウイングに置いたと見るべきでしょう。
この時点で、既に基本の【4-3-3】布陣からは大きく崩してきている訳ですが、
バルサはここから更なるローテーションを起こして
現代サッカーの盲点を突いてきます。
【ラインDFの穴をつく前線のローテーション】
局面は中盤に降りてきたメッシとシャビによる絡みから。
前線には"予定通り" ビジャとペドロの2トップ状態が形成されています。
メッシはボールをシャビに預けてパス&ゴー。
シャビに渡ると同時に大外からSBのアビダルが疾風のごとこ駆け上がり、
メッシ、ペドロと共に一斉にユナイテッドDFの裏へ走り始めます。
この動きに対し、「ライン」と「ブロック」単位で
組織的に動く事が基本のユナイテッドDFラインは後退せざるを得ません。
ところがこの瞬間、それまでCFの位置にいたビジャ"だけ"が
周囲と逆のベクトルを描いて手前に引いてきます。
DFからすると分かっちゃいるけど、原則的に付いていけない訳ですね。
狙い通り、自身の前にスペースを得たビジャへ
シャビから横パスが送られてシュート。
バルサの攻撃陣は誰もが「CF」であり「ウイング」であり「司令塔」でもある。
その時その時で役目を変えるバルサのローテーション攻撃に対し、
現代サッカーの基本戦術である「ブロック守備」と「ラインDF」では
もはや守る事に限界が来ているのかもしれない。
【ゾーンディフェンスの盲点を突く】
現代サッカーでは守備時、基本的に全てのチームがゾーンディフェンスで守備を行っています。
もはやサッカーにおける「イロハ」と言ってもいいでしょう。
最前線のFWからMF,DFと各セクションで受け持ちのゾーンを決め、
3ラインが綺麗にピッチに描かれるのが基本ですが、
バルサの攻撃はそのラインの間を巧みに突いてきます。
先制点の場面でもそうだったように、
バルサの各選手は相手チームのラインとラインの間でサッカーをしている事が確認出来るはずです。
*↑の局面は前線から降りてきて、
ユナッテドのMFラインとDFラインの間でボールを受けるメッシ。
(マンUとすれば、エルナンデスとルーニーを縦並びの2トップにして、
このブスケスにルーニーを当てたかったところだが、
これもファーガソンが勝つ為に選んだ布陣なので、守備時のリスクは表裏一体。)
【バルセロナの2点目を検証】
局面は中盤でイニエスタがボールを持っているところ。
近くにはシャビと前線から降りてきたメッシの2人。
この3人が並んでいるだけで既にボールを奪う事に絶望感が漂ってくるものだが、
ユナイテッドは懸命に組織で対応しようと試みる。
中盤のセンターはキャリックとパクの2枚。
(本来CHのギグスがサイドに流れている為、パクがしっかりとその穴をカバー)
だが、そもそもユナイッテドのCH2枚に対し、バルサは3枚かけているので既に数的不利が生まれている。
キャリックがイニエスタ、パクがシャビに付いたものの、
ボールはアッサリとメッシに展開され、
ここから前を向いて加速した【メッシ無双】で2点目を献上。
(*余ったメッシにはギグスが当たりに行くのが理想だが、
そもそもその役目を期待するなら最初からギグスではなくフレッチャーの起用だろう。
これも攻撃のメリットを取った故、致し方ない。)
<バルサのDNA>
これらの図解を見て、
ともすると「ユナイテッドはもっと何とか出来たのではないだろうか・・・?」
という疑問を持った方もいるかもしれない。
はたまた、試合を観ながら
もっと別の布陣、戦術をとれば別の結果もあったのではと考えた方もいる事だろう。
だが、果たして本当にそうだろうか・・・?
この試合を見終わった時、
かつてないぐらい「なんか頭が疲れたなぁ・・・」という感覚を覚えた人はいないだろうか?
それはバルサのポジションチェンジとパスのテンポを
次の展開の"読み"を入れながら目と頭で追った結果である。
文字通り「人」と「ボール」が同時に しかも全てが意味をもって 連動しつつ流れるバルサのサッカーは
将棋やチェスの名人がノータイムで手を指し続ける対局を見ているようなものだ。
我々がTVから俯瞰の図で見ていても目で追うのがやっとの動きを
実際にピッチレベルで走って追い続けなければならないユナイテッドの選手達の負担はいかほどのものか
ご想像いただきたい。
繰り返すが、この日、
ユナイテッドは現代サッカーにおける「最高レベルの守備」をしていた。
それでも止められなかったのは、
バルサが異次元の領域に入っていた・・・・ただ、それだけの事。
それは言うならば「DNAレベルの連携」だ。
シャビ、イニエスタ、ペドロと
それぞれが違う年代でカンテラを上がってきた彼らがコンビを組むのは
一見、トップチームが始めてのように映る。
・・・が、その実 彼らは既に同じチームで何年もプレーしてきたようなものだ。
きっと今更口に出して動きの確認をする必要もなければ、
アイコンタクトすらせずにお互いがお互いの位置と意図を分かり合っているような感覚だろう。
それは言うまでもなくバルサにおける「フットボール」が
カンテラからトップチームにおけるまで常に一貫している事の結晶だ。
このDNAに刻まれた連携に対し、
目で追って対応する現代のディフェンス理論では
そろそろ限界が見えてきたのではないだろうか?
・・・さて、まだあの試合を観たばかりの我々には
このバルサのサッカーが一つの完成形のように思えてしまうのも無理からぬ事。
だが、それでも必ずこのサッカーを凌駕するサッカーがいつか必ず現れる。
それはフットボールの歴史が証明している事だ。
幸せな事に、僕らの楽しみはまだまだ終わらないのである。
<FCバルセロナが見せた異次元>
「このサッカーを超えるものは今後10年は現れないだろうな・・・」
昨年の11月、衝撃の"5-0クラシコ"を終えた時、そんな感想を抱いたものですが、
まさかシーズン中に自己ベストを塗り替えてくるとは・・・・。
いや~、恐れ入りました。(^^;
またもや近代サッカーのレベルを一つ上の次元へと押し上げたCL決勝戦。
僅か64m×108mのピッチに22人の人間とたった1つのボールだけで生み出された芸術の極み。
それでは早速、今季を締めくくるこの大一番を徹底レビューしていきましょう!
<両チーム スターティング布陣>
↑が両チームのスターティングオーダーです。
バルサは鉄板の4-3-3。
補足するならば両WG、ビジャとペドロの位置を
いつもとは左右逆にしてきた事ぐらいでしょうか。
(*これについては後述)
試合前のプレビュー記事でも注目点として挙げたマンUの布陣は4-4-2。
ファーガソンは公言通り、「いつも通りの布陣でガチンコ勝負」を挑んできました。
その意気や良し!
<小細工無しのファーガソン>
元来、ファーガソンは相手に合わせて戦術的に小細工を施すタイプの監督ではありません。
それでも2年前の決勝では
守備に不安の残るCロナウドをCFに置き、ルーニーを左のSHに回してサイドのケアを託したものの、
結局ルーニーは守備に撲殺されて完全に持ち味を消してしまった苦い経験があります。
この2年前の反省に加え、
これまでチーム最大の得点源でもあったCロナウドの離脱もあり、
今回はエース・ルーニーの持ち味を最大限、攻撃に活かそうという意図が汲み取れます。
想定された中でも最も攻撃的な4-4-2。
「バルサだぁ? しゃらくせぇ!真っ向勝負よ!」
ファーガソンのそんな男気が感じられる采配ですね。
この並びで来るにしても、今季のマンUの戦いぶりからは
恐らくルーニーを1列下げた縦並びの2トップ、
すわなち【4-4-1-1】でくるだろうと店長は予想していました。
バルサがボールを持った時には
ルーニーに中盤の守備へ参加させるだろうと読んでいたのですが、
実際にはエルナンデスと前線のラインに留まって完全な2トップ気味の体勢。
まあ、確かにバルサから90分で勝ちをもぎ取ろうと思ったら
ルーニーを前線に残す強気采配が一番ですが、
分かっちゃいるけど普通はなかなか出来ませんよ・・・・(^^;
このユナイテッドの強気な姿勢が
結果的に試合をよりオープンに
そして娯楽性の富んだものにしてくれました。
試合はキックオフからユナイテッドの強気な姿勢が
バルサの出鼻を挫きます。
果たしてバルサ相手に 過去こんな強気に出てきたチームがあっただろうか・・・?
ユナイテッドの今季最高とも思える
強烈なプレッシングによるボール狩り。
0・5トップで構えるメッシに対しても特別なシフトは敷かず、
あくまで自分達の形の中で正攻法で抑えようという体勢です。
必然的にCBのヴィディッチ、ファーディナンドがメッシと対面する時は
既にメッシが前を向いてトップスピードで仕掛けてくる局面になっている訳ですが、
ここでヴィディッチとファーディナンドが見せた気合の1対1は特筆もの。
(ヴィディッチの鬼のように深いタックル半端ねぇ・・・!!www)
ユナイテッドのゴール前ではお互いの意地を懸けた
世界最高レベルの「守備」対「攻撃」が絶えず繰り広げられていました。
<バルサの調律>
以前、このブログでも一度書いた事がありますが、
バルサには試合中、必ず"調律"と呼ばれる時間帯があります。
(*ちなみに僕が勝手に呼んでるだけですww)
この「調律」とは、バルサの試合でよく見られる 一見意味の無いパス回しの事です。
時には1~2メートルの近い距離で交わされるワンタッチでのパス回し。
行っては戻し、戻しては逆サイドへ流す。
ゴールに向かうでもテンポアップするでもない"攻撃を目的としない"パス回し。
じゃあこれ、一体何の目的の為にやってるの?っていうと、
つまりオーケストラで言うところの"調律"(リハ)なんです。コレ。(多分ね)
バルサのサッカーっていうのは、今更説明するまでもなく 通常のチームでは考えられない本数のパスが選手間を行き交います。
その為、僅か数センチのズレが致命的になり、その影響はチーム全体に及んでしまいます。
(100人のオーケストラでも99人が完璧な音程で演奏しているのに、1人が音程を外してしまうと致命的ですよね?)
その為、当日のピッチ状況、相手の出方、試合の流れ、お互いのリズムを
この一見意味のないパス交換を行う事によって確認し合っているのです。
言葉は交わさずともパスで
「今日のピッチは芝が長いから少し強めに行こう」
「相手はこの位置で回している分には取りにこないみたいだな・・・」
「○○だけ1テンポ、みんなよりリズムが早いぞ。調整しよう。」
そんなコミニケーションがボールを通じてチーム全体に行き渡っていくようなイメージです。
(~過去記事からのコピペ終了ww)
ユナイテッドの猛烈なプレスは試合開始からバルサにこの調律を許しませんでした。
パスを5本と繋げないバルサは非常に珍しい光景です。
これで、いつもは”相手にサッカーをさせない”バルサに
サッカーをさせない事に成功。
(なんか禅問答みたいだな・・・(^^;)
しかし、皮肉な事にこのユナイテッドが見せた最高の守備が
バルサから更なる覚醒を導き出す事に。
前半10分―
この試合で初めてブスケス⇒イニエスタ⇒シャビ⇒メッシ⇒ペドロと
綺麗にボールが繋がったシュートシーン。
シュート自体は枠を外れましたが、
この瞬間、シュートを外したペドロを始めとするバルサの各選手の表情に
確かな手応えを見る事が出来ました。
「行ける・・・・!!」
この1シーンを見て店長は確信しました。
こりゃスイッチ入ったな・・・・。
調律終了。
以降、残りの80分間で見せたバルサの鬼ポゼッションは
これまでのサッカーを超越したものとなりました。
『信じられません!バルサのシンクロ率が400%を超えています・・・!!』
『いけないわペップ君!これ以上はフットボールの形に留めておけない! ”神の領域”よ・・・!!』
<シャビの覚醒>
バルサのスイッチを入れたのは他でもないシャビでした。
この日のシャビのプレーは常軌を逸していたと言ってもいいでしょう。
バルサのトップチームデビューの頃からシャビのプレーは見続けてきましたが、
この試合はシャビの”生涯ベスト”になるかもしれません。
普段から人一倍、試合中首を振ってルックアップを欠かさないシャビですが
この試合では1・5割増。
普段からシャビのルックアップをスロー再生でカウントし、検証している
「自称・シャビ検定一級」の僕が言うのだから間違いありません。
この尋常ではないルックアップを見せながら、フィールド中を駆け回り、
最後尾でビルドアップを展開したかと思えば、
続いて中盤に顔を出し、最後はメッシと入れ替わるように前線で決定機を演出。
試合後のUEFAのデータでは
この試合、誰よりも多くのパスを受け(136本)、誰よりも多くのパスを成功し(124本)、
そして誰よりも長い距離を走り抜けました(11.95km)。
これぞ「フットボーラーの完成形」 「トータルフットボーラー」
「シャビがフットボールをしている」というより「フットボールがシャビを動かしている」
というのは言い過ぎか・・・・?(笑)
かつて、あの秋元Pは言った・・・・
「AKB48とは 高橋みなみの事である」と。
ならば言わせてもらおう。
「FCバルセロナとはシャビの事である。」
<秀才コンビが生んだバルサの先制点>
バルサの先制点も、当然
そんなスイッチが入ってしまったシャビが演出。
では検証していきましょう。
「4-4-1-1」ではなく「4-4-2」でマンUが挑んだ事から
中盤のセンターではギグス、キャリックの2ボランチに対し、
バルサはブスケス、イニエスタ、シャビの3枚で数的優位の状態。
それを察知したシャビが中盤のビルドアップをブスケスとイニエスタに任せ、
自身はユナイテッド2ボランチの裏を取りに行きます。
ユナイテッドの綺麗な3ラインが確認出来ます。
ボールを受けたイニエスタから裏へ抜け出したシャビへ。
狙い通りユナイッテドのMFとDFラインの間のスペースでシャビがフリーでボールを受ける。
フリーのシャビに対し、ユナイテッドはDFラインが当たりに行かざるを得ない。
シャビは充分にユナイテッドのDFラインを引き付けてから、
その間に裏へ流れたペドロへ向け スルーパス一銭・・・!!
しかもシャビはノールック状態で
パスは膝から下の振りだけで出したアウトサイド・・・!!
そんでもって両者の間にアイコンタクトは一切無し・・・!!
受けたペドロもシャビならここに出すと信じ切っていたかのような見事な動き出し⇒
完璧なファーストタッチ。
(ボール1個分でもズレて、シュートステップの踏み直しが必要だったならば、
ヴィディッチ決死のスライディングが間に合っていただろう)
トラップと同時にシュートモーションに入りつつ、
GKファンデルサールのポジショニングを確認して
ニアサイドへグランダーを流し込むペドロ。
"巧"です。
この先制点はバルサの歴史上でも「10年に1人の天才」と呼ぶべき
メッシとイニエスタがマークを引き付ける脇役に周り、
天才ではないものの、バルサのカンテラによって育てられた
「最高傑作」と呼ぶべき"秀才"の2人、
シャビとペドロによってもたらされました。
<現代サッカーの盲点を突くバルサ戦術>
続いて現在のバルサのサッカーがいかに「現代サッカーの盲点」を突いているかを見ていきましょう。
バルサの攻撃時における基本的な並びはこうです。↓
この日、いつもとペドロ、ビジャの並びを左右逆にしてきたのは
後ろのSBとの関係上だったと見ます。
ビジャは表記上のポジションこそウイングですが、
メッシが中盤に下がった時は代わりにCFを勤める「偽ウイング」です。
ビジャが中に入って来るなら 空いたウイングのポジションには
後ろのSBが上がってこなければならない。
この役割は左のアビダルより右のDアウベスの方が適役で
したがってビジャを右ウイングに置いたと見るべきでしょう。
この時点で、既に基本の【4-3-3】布陣からは大きく崩してきている訳ですが、
バルサはここから更なるローテーションを起こして
現代サッカーの盲点を突いてきます。
【ラインDFの穴をつく前線のローテーション】
局面は中盤に降りてきたメッシとシャビによる絡みから。
前線には"予定通り" ビジャとペドロの2トップ状態が形成されています。
メッシはボールをシャビに預けてパス&ゴー。
シャビに渡ると同時に大外からSBのアビダルが疾風のごとこ駆け上がり、
メッシ、ペドロと共に一斉にユナイテッドDFの裏へ走り始めます。
この動きに対し、「ライン」と「ブロック」単位で
組織的に動く事が基本のユナイテッドDFラインは後退せざるを得ません。
ところがこの瞬間、それまでCFの位置にいたビジャ"だけ"が
周囲と逆のベクトルを描いて手前に引いてきます。
DFからすると分かっちゃいるけど、原則的に付いていけない訳ですね。
狙い通り、自身の前にスペースを得たビジャへ
シャビから横パスが送られてシュート。
バルサの攻撃陣は誰もが「CF」であり「ウイング」であり「司令塔」でもある。
その時その時で役目を変えるバルサのローテーション攻撃に対し、
現代サッカーの基本戦術である「ブロック守備」と「ラインDF」では
もはや守る事に限界が来ているのかもしれない。
【ゾーンディフェンスの盲点を突く】
現代サッカーでは守備時、基本的に全てのチームがゾーンディフェンスで守備を行っています。
もはやサッカーにおける「イロハ」と言ってもいいでしょう。
最前線のFWからMF,DFと各セクションで受け持ちのゾーンを決め、
3ラインが綺麗にピッチに描かれるのが基本ですが、
バルサの攻撃はそのラインの間を巧みに突いてきます。
先制点の場面でもそうだったように、
バルサの各選手は相手チームのラインとラインの間でサッカーをしている事が確認出来るはずです。
*↑の局面は前線から降りてきて、
ユナッテドのMFラインとDFラインの間でボールを受けるメッシ。
(マンUとすれば、エルナンデスとルーニーを縦並びの2トップにして、
このブスケスにルーニーを当てたかったところだが、
これもファーガソンが勝つ為に選んだ布陣なので、守備時のリスクは表裏一体。)
【バルセロナの2点目を検証】
局面は中盤でイニエスタがボールを持っているところ。
近くにはシャビと前線から降りてきたメッシの2人。
この3人が並んでいるだけで既にボールを奪う事に絶望感が漂ってくるものだが、
ユナイテッドは懸命に組織で対応しようと試みる。
中盤のセンターはキャリックとパクの2枚。
(本来CHのギグスがサイドに流れている為、パクがしっかりとその穴をカバー)
だが、そもそもユナイッテドのCH2枚に対し、バルサは3枚かけているので既に数的不利が生まれている。
キャリックがイニエスタ、パクがシャビに付いたものの、
ボールはアッサリとメッシに展開され、
ここから前を向いて加速した【メッシ無双】で2点目を献上。
(*余ったメッシにはギグスが当たりに行くのが理想だが、
そもそもその役目を期待するなら最初からギグスではなくフレッチャーの起用だろう。
これも攻撃のメリットを取った故、致し方ない。)
<バルサのDNA>
これらの図解を見て、
ともすると「ユナイテッドはもっと何とか出来たのではないだろうか・・・?」
という疑問を持った方もいるかもしれない。
はたまた、試合を観ながら
もっと別の布陣、戦術をとれば別の結果もあったのではと考えた方もいる事だろう。
だが、果たして本当にそうだろうか・・・?
この試合を見終わった時、
かつてないぐらい「なんか頭が疲れたなぁ・・・」という感覚を覚えた人はいないだろうか?
それはバルサのポジションチェンジとパスのテンポを
次の展開の"読み"を入れながら目と頭で追った結果である。
文字通り「人」と「ボール」が同時に しかも全てが意味をもって 連動しつつ流れるバルサのサッカーは
将棋やチェスの名人がノータイムで手を指し続ける対局を見ているようなものだ。
我々がTVから俯瞰の図で見ていても目で追うのがやっとの動きを
実際にピッチレベルで走って追い続けなければならないユナイテッドの選手達の負担はいかほどのものか
ご想像いただきたい。
繰り返すが、この日、
ユナイテッドは現代サッカーにおける「最高レベルの守備」をしていた。
それでも止められなかったのは、
バルサが異次元の領域に入っていた・・・・ただ、それだけの事。
それは言うならば「DNAレベルの連携」だ。
シャビ、イニエスタ、ペドロと
それぞれが違う年代でカンテラを上がってきた彼らがコンビを組むのは
一見、トップチームが始めてのように映る。
・・・が、その実 彼らは既に同じチームで何年もプレーしてきたようなものだ。
きっと今更口に出して動きの確認をする必要もなければ、
アイコンタクトすらせずにお互いがお互いの位置と意図を分かり合っているような感覚だろう。
それは言うまでもなくバルサにおける「フットボール」が
カンテラからトップチームにおけるまで常に一貫している事の結晶だ。
このDNAに刻まれた連携に対し、
目で追って対応する現代のディフェンス理論では
そろそろ限界が見えてきたのではないだろうか?
・・・さて、まだあの試合を観たばかりの我々には
このバルサのサッカーが一つの完成形のように思えてしまうのも無理からぬ事。
だが、それでも必ずこのサッカーを凌駕するサッカーがいつか必ず現れる。
それはフットボールの歴史が証明している事だ。
幸せな事に、僕らの楽しみはまだまだ終わらないのである。
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