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5レーンを封鎖せよ!~シティ、チェルシー ポジショナルサッカー攻略法~

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<5レーンを封鎖せよ!~ポジショナルサッカー攻略法~

『ポジショナル VS ストーミング』

今季のプレミアリーグを敢えて今流行りのパワーワードで表現すれば、こんなところになるでしょうか。
ポジショナル勢は元祖ペップのシティと今季からサッリを招聘したチェルシー。ストーミング勢は元祖クロップのリバプールとポジェッティーノのスパーズですね。

開幕から5ケ月-
現在のプレミアリーグの順意表を眺めてみると1位リパプール、2位スパーズ、3位シティ、4位チェルシーとまさにこの4チームの明暗がクッキリ分かれてしまっています。
特にシティは直近のプレミア4試合で1勝3敗と明らかに攻略法がバレてしまった感もありますね。

そこで今回はポジショナルサッカーが陥っている現在の不調の原因を探る為、その目的と攻略法を解析していきたいと思います。


<ポジショナルサッカーの目的とは?>

こんな辺境のブログに迷い込んだ人の中に今更「そもそもポジショナルサッカーって何?」という人はまずいないと思いますが
詳しい解説を読みたい方はネットや雑誌にいくらでも転がってますのでそちらをご参照下さい(笑)

ここではその概念や言葉遊びみたいなのは本題から逸れるので一旦置いておき、
大雑把にポジショナルサッカーとは「再現性の高いポジショニングの型からロジカルにサッカーというゲームを攻略する戦術」という風に定義しておきましょう。

まあ要するに本質的にカオスであるフットボールに将棋の定石のような考え方を持ち込んで、詰め将棋のように相手を追い込んでいこうという訳です。

最近、よく聞く「5レーン」というワードもその定石の一つ、ポジショナルサッカーを遂行する上でのいち手段に過ぎない訳ですね。

で、最近のポジショナルサッカーを巡る言説の中で個人的に少し違和感を覚えていたのが、5レーンや再現性の高いポジショニングが手段ではなく目的のように一部語られていて、「そもそもこのサッカーの目的って何よ?」っていう部分が忘れられてはいないか?という話で。

別に5レーンを全て埋めるポジションを取れてるからスゲー!ではなく、この型が効率的な得点につながっているから凄い、とならなくては本来いけないはず。


現代サッカーにおいて、再現性を持って効率的に相手を崩す最終目的とは即ち「相手のCBを崩す」っていう事とほぼ同義と考えて良いと思います。何故なら数あるシュートパターンの中で最も得点率の高いパターンとは「GKとの1対1」だからです。

よくボール支配率70%とか、クロス60本も蹴って得点0みたいな試合、サッカーにはあるあるですよね?
あれは結局、一見攻めているように見えて外⇒外のUの字にボールを誘導されて、相手のCBが自分の持ち場を離れず、常に良い状態から守備をされているので最後の最後で崩しきれていないんです。

なので、サッカーというゲームでは質の低い決定機10本(大外からのアバウトなクロス)よりも質の高い決定機1本(GKと1対1)の方が遥かに価値が高いという事を分かっている監督かどうか?はそのチームのサッカー、特に攻め筋に大きく影響を与えます。
(まだ世界には「とにかくアフロに蹴れ!」が戦術の監督もいる)


言うまでもなくペップやサッリはこの「決定機の質」に人一倍こだわる監督なので、
再現性を持って効率的に質の高い決定機を作る為にポジショナルサッカーを志向しているという訳ですね。


では具体的にポジショナルサッカーが「5レーン」のポジショニングを用いて中央突破から相手のCBを崩す、理想的な例を見ていきましょう。



【5レーンを用いてCBを崩す(中央突破編)】
マンC得点1229-5
画像はシティの直近の試合(レスター戦)から。
シティの前線がお互い横のレーンに重なる事なく、綺麗に5レーンに各1枚、ポジションを取っている事が分かります。
(この場面ではアグエロとデブライネがポジションを入れ替えて更に守りずらくしているが、人は入れ替わっても「いるべき位置に誰かが立っている」というのがペップの再現性の高さ)





マンC得点1229-6
5レーンを取る事の狙いは、4バックで5レーンを守る場合、相手DFの意識は↑のような状態であると言えます。
SBは大外で「幅」を取るWGにピン止めされていて、CBは中央のCFに対してチャレンジ&カバーの関係性。
そうすると「間」を取るIH(この場面では金髪のアグエロ)がどうしても浮いてしまうという「王手飛車取り」



マンC得点1229-1
アングルを変えてみてもマッチアップの構図から1人、アグエロが浮いてしまっているのがよく分かると思います。
本来、守るレスターは2列目のラインで中を閉めて、アグエロへのコースを消さないといけないんですが、中央のMFが並列になってしまい閉め切れていません。





マンC得点1229-2
アグエロに通されてしまうとCBが対応に持ち場を離れて出て行かざるを得ない状況を作り出しています。
これが「CBを崩す」という事で、屈強な2M近い巨漢CB2枚をアグエロとBシウバの小男2人で完全に崩しきっています。
大外からのクロスを跳ね返す、という場面ではレスターのCB2枚は無敵の強さを誇りますが、このように理詰めの『型』で崩されるとその強みも無効化されてしまうのがよく分かりますね。



マンC得点1229-3
狙い通り、『GKと1対1』という最も得点率が高い決定機を作り出す事に成功。



とは言え、当然試合では相手も中は警戒して閉めてきますから、次はサイドからの5レーンを用いた「CBの崩し方」を見ていきましょう。



【5レーンを用いてCBを崩す(サイド攻撃編)】
hafspace3.jpg
局面はここでも人は入れ替わっているが5レーンをしっかり埋めているシテイ
(ボールがサイドにある時は逆サイドのWGは一つ内側のレーンに入る)

WGの位置に流れたジェズスにSBが釣り出されると内側のいわゆる「ハーフスペース」をフェルナンジーニョがオートマッティックに抜け出す




hafspace2.jpg
「5レーン」を用いて「ハーフスペース」を突く目的はCBを持ち場から引っ張り出す事。
すなわち「CBを崩す」事がここでも目的になっているのだ。

本来、守る側としてはゴール中央エリアにCB2枚が待ち構えて、チャレンジとカバーの補完性が効く状態なら失点率を減らす事が出来る。
しかし↑のようにCBが1枚引っ張り出されてクロスに対してCB1枚で守らないといけない場合は失点率が劇的に上昇。
何故ならCB1枚ではボールとマーク(背後のスターリング)を同一視で守る事が出来ないから。





hafspace5.jpg
ハーフスペースからCBを超えるクロスが送られると、スターリングは「GKと1対1」(実際はクロスにGKが動かされているので「1対0.5」ぐらいの感覚)で、ゴールに流し込むだけの質の高い決定機を迎えている。
これだと別に中で待っているのがアフロの大男でなくとも、クロスから充分に得点が狙えるのがお分かりいただけるだろう。


このように中央からでもサイドからでも「5レーン」という一つの型を使う事で極めて再現性高く、相手のCBを崩せる⇒効率的に得点を取れるサッカーがペップやサッリが志向しているポジショナルサッカーの正体という訳ですね。



<5レーンを封鎖せよ!~4-5-1で攻略~>
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ではこのサッカーにどのように対抗していくべきか?

皮肉にも一つの答えを出したのはペップのシティに今季初の土を着けた男サッリでした。
自分達も日頃から同じサッカーを磨いているので、逆説的にその攻略法を最も知っているのがサッリというのは考えてみれば当たり前の話。
しかし、サッリ自身が披露した攻略法で、今度はチェルシーが苦しめられているというのも何とも皮肉な話ではありますが・・・(笑)


サッリがシティに土を着けた試合で採用したシステムは4-5-1。
中盤に5枚のMFをフラットに並べて、予め5レーンを全て埋めてしまおうという守り方でした。

ではこれをシティ戦で模倣したクリスタルパレスの守り方から5レーンの守り方を見ていきましょう。


【2列目の5枚で5レーンを封鎖】
kuripare4.jpg
↑このように予めシティのIHが陣取るハーフスペースにはこちらもIHを置いて封鎖してしまおうという訳ですね。
これでグラウンダーのパスをIHに通されてCBが釣り出されるという「中央突破」のルートをまずは封鎖。




taikaku1229-1.jpg
こうなった時のシティの応手は相手の2列目を飛ばして逆サイドへ送る対角パス
ここから先ほどのサイド突破の型へ結び付けていきます。
何故なら2列目を飛ばされて逆サイドのWGに付けられた場合、4-5-1で守る側からするとWGに対応するのは大外のSBになるので、SBを釣り出して⇒ハーフスペースのコンボ発動になる訳ですね

しかし、もうこの攻め筋は研究されているので、ここでは逆SHが頑張って横スライド!



taikaku1229-2.jpg
大外をSHがカバーして、SBを釣りださせない守備陣形を維持。
SHがハードワークする事でハーフスペースをIHとSBの2枚で埋められています。
これをやられるとシティの攻撃はサイドで手詰まりになり⇒下げてやり直しというターンが続く

更にこの4-5-1には二重の保険もかかっており、次はSBがWGへの対応で外につり出された場合の守備も見ていきましょう。



【SBがWGの対応につり出された場合】
ih1.jpg
局面はWGザネの対応にSBがつり出された場面。
ここではSBが外に出るのと同時に予めハーフスペースに配置されていたIHが戻ってそこを埋める動きがオートマティックにセットになっています。



ih2.jpg
SBが釣り出されたハーフスペースをIHが埋める事でCBが一歩も動かされていないのがよく分かると思います。
シティはこの状態で大外からクロスを上げても得点を取れる設計にはなっていません(中はジェズスやアグエロ)
というより、先ほど触れたようにそもそもここから大雑把にクロスを上げずに済むよう設計されているチームなのです。

故にこのように中が万全の時は攻撃の目的が曖昧となり、次第にサイドで攻撃が停滞・・・




ih3.jpg
気付けばボールホルダーのザネが挟まれて奪われている、というようなシーンが最近の試合では目立ってきました。

やはり「CBを崩す」という手順に乗らないとなかなかフィニッシュに結び付かない事、
型が精密で再現性が高いが故に、対応策も再現性が高くなってしまうのがポジショナルプレーの弱点と言えるでしょう。



<負けパターンにおける再現性の高さ>
sati1229.jpg

シティとチェルシーは攻撃が手詰まりになった場合、被カウンター時におけるリスクも共通しています。

何故なら前線が常に5レーンを埋めるポジショニングを取っているという事は、失った時に5枚並んでいるワンラインが全員カウンターに置去りにされる、という事と同義だからです。

次の2枚の画像をご覧下さい。


mannc1228.jpg
失点チェルシー1229
↑これらはシテイ、チェルシーがそれぞれ対レスター戦でくらった失点シーンになります。

状況は驚くほど似通っており、カウンターからアンカーを通過されると3枚残りのDFが無防備に晒されている場面になります。
つまり、ここでも失点パターンにおける再現性の高さが確認出来る訳ですね。

では、具体例として実際にチェルシーの典型的な失点シーン(対スパーズ戦)を検証していきたいと思います。


【チェルシーの失点シーン検証】
ジョルジ3
↑は敵陣内でチェルシーがボールを失った瞬間です。
チェルシーは攻撃時、特に左サイドでSBのMアロンソを絡める事で攻撃の厚みを出すポジショニングに特徴があります。
特にウィリアンやアザールがサイドに開いて幅を取った時に、Mアロンソが内側のレーン(ハーフスペース)を取るオートマティズムは完成の域に達してきました。

しかし、↑の画像でも分かる通り、本来SBのMアロンソが内側を取るという事は失った時にSB裏に広大なスペースが広がっている事と同義。
スパーズは事前のスカウティングから完全にこのスペースを俊足のソンフンミンで狙い撃ちにするゲームプランを仕込んでいました。



ジョルジ
実際にソンフンミンに走られて並走で対応するジョルジーニョ。
しかしジョルジーニョは前線の守備が機能している時のパスコースの切り方や、読みを効かしたインターセプトでは守備力を発揮するものの、広大なスペースを肉弾戦で守る局面では無力です。

この場面でも無抵抗のままソンのスピードで千切られますが、チェルシーは被カウンター時アンカーで相手のスピードを止められないと3枚残りのDFが無防備に晒される状態になってしまいます。




ジョルジ2
しかもジョルジーニョが振り切られた後にカバーに入るDルイスも守備で我慢が効かない為、一発で飛び込んで万事休す。
これではいくら高いポゼッション率を記録しても失点が減る訳がありません。


では同じジョルジーニョをアンカーに置いていたナポリ時代はどうやって守っていたのか?と言われれば
それはIHのアランが常に被カウンター時に身体を張って相手のスピードを止めていたのです。

恐らくサッリはチェルシーでIHに起用しているカンテにこの役割を担って欲しいと考えているはずですが、
まだカンテも取るべきポジショニングを完全には理解しきれておらず、それがカウンターを食らった際のモロさに直結していると見ます。


シティの失点パターンも構造自体は同じ。

【シティの失点パターン検証】
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↑はレスター戦の失点シーンですが、アンカーのギュンドアンが置去りにされてDF3枚で守る場面。

ここでもレスターは事前のスカウティングからシティの失点パターンを解析し、フィニッシュパターンを仕込んでいました。
それはデルフのクロス対応です。





derufu3.jpg
クロス対応も基本的にゾーンで守るシティはバーディーが右足に切り替えしたタイミングでCBが1~2歩DFラインを上げています。
デルフは逆サイドからのクロスに対して、必ず隣のCBを基準にラインを上げるのでそれと入れ替わるように背後を取れる、この形を練習から準備してきたに違いありません。

それは同じ試合で何度も繰り返された攻撃パターンからも明らか↓



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本職がボランチのデルフは通常、逆サイドからのクロス対応で正しい身体の向きとポジションを取る、といった局面を数多く経験してきた選手ではありません。

故にどうしてもボール状況に応じてラインを崩して人に付いて行く、深さを取る、といった咄嗟の対応に弱さを覗かせるのはある意味当然です。


では何故ペップはわざわざ本職がボランチのデルフを左SBに起用しているのか?
それはSBの怪我人状況なども勿論ありますが、攻撃時(ボール保持時)に偽SBとして振る舞えるデルフのボランチ性能を高く買っているからに他なりません。


【偽ボランチとして振る舞う左SBデルフ】
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つまり攻撃時はメリットとなっているSBデルフは今後も再現性高く、クロス対応の守備では繰り返し「穴」になるはずだと予測されます。
これに対するペップの対応策、修正も今後一つの見所ですね。



<ポジショナルサッカーは器に過ぎない>
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例えばチェルシーにアランがいたら・・・、この被カウンター時の諸さは高確率で解消するでしょう。
同じようにシティはアンカーのフェルナンジーニョが怪我で離脱していなければ、DFラインが晒される前に相手のカウンターを潰すか、悪くてもスピードを殺す対応が出来るはずです。(その間に前線の5レーンが猛スピードでプレスバック)

攻撃も同じ話。
いくらハーフスペースを埋められたと言っても、シルバであれば絶妙のタイミングでマークを外してハーフスペースに入っていけるセンスが絶妙ですし、時には自分をオトリにワンツーでWGをカットインさせるなどのバリエーションも豊富。
同じくデブライネが万全の状態であれば、大外からのクロスでもGKとDFラインの間にピンポイントの質で入れる事で「CBを崩す事」が出来るはず。(昨季、何度も見た形)


つまりペップが言うように「戦術が凄いのではなく、まず選手が重要」なのです。
ポジショナルサッカーは単なる器に過ぎず、中身(選手)の質が乏しければ監督が誰であろうと「絵に描いた餅」に過ぎません。

一時、ペップバルサの模倣を目指した多くのチームで死屍累々・・・という時代がありましたが、
同じように今、ペップシティを目指した多くのチームが「質の伴わないポジショナルサッカーほど悲惨なものは無い」という教訓を与えてくれるに違いありません。







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初コメです。

パワーワードの『ポジショナル VS ストーミング』をどこかで見た事があると思ったら、フットボリスタ11月号の特集タイトルと全く同じですね(笑)

非常に分かりやすく、フットボリスタはまだ全部読んでいないので、スムーズに読めると思い書き込みました。



2018年も記事ありがとうございました~。
ジョゼが解任でモウリスタとしては残念な新年ですがペップが攻略されるサッカーを楽しみにして観ます。

まぁパレス、レスターとファーストシュート目で失点や相手のスーパーゴールで失点と不運な点もありますが、スタメンとサブで質の差が出るのでポジショナルプレーというか歯車一つで駄目になるペップのサッカーは運用が難しいですね。

年明けリバプールに凹られて早々にプレミア決まりそうな予感です(逆フラグ期待)

No title

おもしろかったです!

No title

ビエルサもポジショナルサッカーなのですか??

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