日本サッカーの歪さの象徴として~日本×サウジアラビア~

<日本サッカーの歪さの象徴として ~日本×サウジアラビア~>
お久しぶりの人、どうもご無沙汰しております。
ブログでは初めましての人、ようこそ変態の世界へ。
このブログを放置していた期間に色々身の回りに起きたものの、わたくしサッカー店長の原点はここ戦術ブログにあります。
初心忘れるべからず、今一度原点に回帰して、ブログを更新したいと思います。
というのも、更新していない間にもDM等で「森保JAPANは一体全体どうなってるんや!?」「来年のW杯大丈夫なの?」「むしろ、ここらで予選敗退も悪くない」などなどたくさんの意見をいただいておりました故。
わたくしも重い腰を上げて、そろそろ日本代表について一太刀入れるべき時が来た、といったところでしょうか。
まず、昨年11月のオマーン戦黒星をピークに沸騰したW杯大丈夫なのか問題について。
これについては個人的に全く心配しておりません。予選が始まる前から全勝は無いだろうが、どう間違っても予選通過ラインは突破するだろう、と確信を持っていたからです。(万が一、3位で大陸間プレーオフに回った場合も、それはそれで楽しめるだろうという楽観主義ww)
言い方を変えれば、それだけ日本サッカーの総力は現在においてもアジアでは上位に入ると思っています。
これは主に選手個々のクオリティの高さが担保されていることからくる安心感でもありますが。
今回はここらへんも踏まえて本題に入りたいと思います。
先日のサウジ戦のマッチレビューから森保JAPANの現在(いま)を検証していきましょう。
<事前準備の差が明確になった立ち上がりの攻防>
まず日本代表のスタメンは先日の中国戦から継続でした。これはまあ過去の采配からも想定通りでしょう。
巷では不満の声も一部聞かれましたが勝っているチームをいじるにはそれ相応の理由が必要です。
チームとして明確な形がなく、選手同士の連携をパッチワークのようにつなぎ合わせて作られている現在の日本代表において、パズルを組み替えるリスクは小さくありません。
いっぽうのサウジにしたって前線のメンバーこそ一部入れ替わっていますが、やってくることは前回対戦時とほぼ何も変わっていません。後ろからしっかりボールをつないでくる事、その際3バックに可変して噛み合わせをズラしてくることなどなど。DFラインはほぼ同じメンバーなのでSBを上げてボランチを落とす可変のパターンも全く同じでした。
つまり、日本とサウジはお互いにお互いの手の内が分かり切った上での試合だったはずです。
となれば試合の優劣を左右するのはチームとしての事前準備と、選手個々のクオリティの総和になります。
ではまず実際の試合からサウジアラビアの最初のビルドアップに対して、日本がどのような守備を行ったかを見ていきたいと思います。日本のこの試合に向けた準備が問われるシーンになります。

サウジアラビアのフォーメーションは4-2-3-1。ビルドアップではそこからボランチが1枚落ちて3バックに可変するのが彼らの一つのパターンになっています。
これに対し、4-3-3の日本はCFの大迫が1枚でCBを見る守備を敷いていました。両WGは相手のSBが高い位置を取って来るのでそれに引っ張られるように後退。結果的に大迫が孤立するようなかたちになっています。システム的には4-5-1気味の守備とでも言いましょうか。
この守備では当然、ボールの出どころが1対3の数的不利なのでプレッシャーなどかかる訳もなく、自由に蹴られてしまいます。

サウジに高い位置を取ったSBに振られて、これに対応するのはSBの酒井。
同タイミングで酒井が出ていった裏のハーフスペースにサウジの選手が走り込んでいます。
このオートマティズムは試合を通して見られたサウジの形であり、彼らの事前準備が見られたシーンと言えるでしょう。

結果的にサウジに最初の攻撃からクロスまで持っていかれてしまいました。
サウジの最も基本的な攻撃パターンに対し、前半1分で後手を踏んでいることからも両チームの「事前準備」ではまずサウジに軍配が上がったと思える立ち上がりでした。
そしてこの日本の守備は前半を通してあまり大きな変化は見られませんでした。
次が前半30分過ぎのシーンです。

相変わらず大迫1枚ではファーストディフェンスにならず、サウジのCBに自由にボールを運ばれているのが分かります。
右ウイングの伊東は背後で高い位置を取るサウジのSBが気になるので出て行けず、実に中途半端な位置取りになっています。

日本の守備はボールの出どころに対してファーストディフェンスが定まらないので、結局中盤を経由されてSBを使われています。

前半の日本の守備の問題は結局サイドを使われて、前線のWGが後追いで戻ってくることにあります。
この守備だと例えボールを奪えたとしても、カウンターで本来使いたいWGのスピードが活かせません。
前半の日本の先制点がサウジの右サイドのスローインから始まっていたのは偶然でも何でもなく、こちらから攻めてくれた場合のみ逆サイドの伊東が高い位置に留まれるからです。
【日本の先制点につながったサウジのスローイン】

恐らくこのスローインが逆サイドからだったなら、日本の先制点は生まれていなかったことでしょう。
<最適解の修正>
後半、日本の前線の守備が修正されていました。
後半立ち上がり5分のシーンでそれが垣間見られます。

サウジのCBがビルドアップでボールを持つと、日本は両WGの南野と伊東が背中でSBを消しながら外切りで猛烈なプレスをかけに出ているのが分かります。
このハイプレスで落ち着いてボールを持てなくなったサウジは、慌ててSBへ対角のパスを送りますが・・・

このパスは後ろのSB長友を押し上げることでインターセプトに成功。
ファーストディフェンスでサウジの選択肢を削っているので、後ろのDFが次を狙いやすい状況を作り出していました。
この守備の利点は、ボールを奪った瞬間に前線の3トップが高い位置でカウンターに関われることにあります。
クロップ監督のリバプールなども得意としている4-3-3の守備ですね。
サラー…じゃなくて、伊東のスピードを活かすなら前半と後半、どちらの守備が良いかは一目瞭然。
願わくば事前準備の段階で、この守備を仕込んでおけば前半からもっとチャンスを作れたんじゃないかという気も?
この後半の修正もチーム主導なのか、選手達の判断なのかは内情を見た訳ではないので分かりません。
ですが、後半も選手交代で3トップの顔ぶれが変わるとまた元の守備に戻ったりしていたので、前半を戦い終えた選手達主導の話し合いで修正された可能性は充分あるな、と個人的には思いました。
<中盤の三銃士>

では続いて、日本の攻撃面を見ていきましょう。
日本が最終予選の序盤で苦戦を強いられていた要因がこの攻撃面にあります。
これまでの日本の攻撃における問題点は「前線に幅がないこと」と「柴崎が間で受けずに落ちてきてしまうこと」の二つでした。
↓の画像はオマーン戦からのワンシーンですが、日本の典型的なポジショニングがコレです。
【日本のポジショニングの問題点】

このポジショニングの問題点はまず3トップを敷いているにも関わらず、何故かFWが3枚とも中央に寄っていて3トップシステムが持つ本来の良さを全く活かせていないということです。
そして中盤ではIHの柴崎が密集を嫌がって間のスペースを離れ、相手の守備ブロックの外に落ちてきてしまっています。
よく現代サッカーにおける攻撃の定石として「深さ」「幅」「間」の三点を抑えろと言われますが、↑の日本代表が体現している4-3-3(らしきもの)のポジショニングでは何一つ抑えられていないということが分かります。

このポジショニングでいくらボールを回したところで、3トップが密集しているので相手の4バックも密集していしまい、前線は常に3対4の数的不利の状況。
加えて中盤の「間」に人(柴崎)がいないので、相手は何の躊躇いもなく3トップを潰しに行けます。
この状況でDFラインから無理な縦パスを打ち込んでは失っていたのがオマーン戦前半までの日本の攻撃でした。
ですが、この試合の後半に伊東と三苫が幅を取るようになり、中国戦からは中盤で守田が使われるようになって日本のポジショニングが大幅に改善されるようになりました。
ただ今回のサウジ戦も序盤は中盤の3枚が上手くボールに絡めない時間帯が続いていました。
アンカーの遠藤がサウジの2トップに上手く消されて狭いスペースに押し込められたことで、CBからアンカーにパスが出せず、外→外一辺倒の攻撃ではせっかくの3トップの幅を活かしきれません。
この状況にいち早く反応したのが田中碧です。
積極的にポジションをローテーションしながら動いて、CBからのパスを引き出す動きを見せ始めました。

このシーンでは遠藤の代わりに田中がアンカーの位置に入って、中盤3枚のポジションがローテーションされています。
そしてアンカーの位置に入った田中碧はDFラインまで落ちるのではなく相手の2トップの間で我慢のポジショニング。ボールを受ける前に背後から寄せてくる敵がいないことを認知しておきます。

だから2トップに挟まれていても余裕で前が向ける!
間で止めて(遠い左足)→前向いて→インサイドパス(右足)
この淀みないアクションがFWのプレスバックを許さない。

このパスを間で受けた守田も余裕で前向けちゃう。
これがKAWASAKIスタンダードの『止める・蹴る』なのか…!?
やはり4-3-3は中盤3枚が間で受けて前を向けたら強い。
中盤の真ん中を割ってパスを通しているのでサウジの守備がギュッと中央へ絞っているのが分かる。
これで3トップが幅を取る意味が最大化され、出し手の守田が前を向けるからスルーパスも出し放題。
そして、これだけサイドにスペースがある状況でモハメッド伊東を走らせておけば…

格が違うのだよ!格が!
これなんですよ、日本がアジアで取るべき正しい振る舞いは。
サウジの左SBが脅威とかいう事前報道もありましたが、相手はマルセロでもアルフォンソ・デイビスでもないんだから、問題無し!
田中と守田が中盤を制圧し、遠藤がボールを狩りまくる。
遠藤は前向きにボールを奪った後の最初のパスが必ず縦パスで一つ奥を狙っており、これぞブンデスリーガというMFに仕上がってきましたね。この試合の日本の2得点はいずれも遠藤がボールを奪った後の縦パスが起点になっています。
時にポジションをローテーションしながら阿吽の呼吸を見せる中盤3枚はモドリッチ、クロース、カゼミーロの領域に足を踏み入れつつあると言ったら言い過ぎでしょうか?
とにかくこの中盤3枚は現在の森保JAPANの核として機能しており、不動のトリオとして外せないユニットになってきました。
サウジの怪しいSBと違い、攻守で完璧なプレーを披露したSBの酒井。
「戦術伊東」と言わしめるほどの存在感を見せつつある伊東。
吉田、富安という守備の格を欠きながらも、危なげないプレーで無失点に抑えた谷口、板倉の急造CBコンビ。
サウジは怪我で欠場の主力ポジションに代わりに出場した選手が大きくチームのクオリティを落としていたのとは対照的に、日本はベンチも含めた選手層の厚さが際立っていました。
日本とサウジの選手個々のクオリティを見れば、一つ一つのプレーの精度の差は明らかです。
最終予選とは序盤は勢いで勝ち点を稼げても終盤戦ともなれば代表の総合力が問われる戦いになります。
だからこそ、日本の予選突破は最初から疑っていません。問題はその先にあります。
「戦術伊東」でフランスやブラジル代表のSBを果たしてこの日のサウジのようにぶち抜けるでしょうか?
守備のゲームプランを試合が始まってから組み立てているようでは、前半の内に致命的な失点を喫するリスクがないでしょうか?
選手という素材は間違いなく上質なものが揃い始めているにも関わらず、これを適切に調理出来る料理人が不在なだけでなく、使っている調理器具と厨房が20年前の時代錯誤な代物という日本サッカーの歪み。
森保JAPANの最終予選におけるチグハグな歩みはその歪みを象徴しているかのようです。
このままなんとなく予選を通過してしまうと、またもや「課題が見つかる」W杯本大会で終わってしまいそうなデジャヴ感。
ならばいっそ・・・本大会前に大陸間プレーオフで南米5位とガチの削り合いをしておくのも良い経験になるかもしれません(笑)
【お知らせ】『店長、本出すってよ』
なんとこの度、初の著書を出させていただくことになりました。
しかも二冊同時発売です。
二冊も本書いてたら、そりゃーブログも更新出来ないよね(言い訳)
まず一冊目は自分のサッカーヲタク人生30年余りで熟成されてしまった独自の戦術論を余すことなく一冊の本にまとめさせていただきました。
目次を見ても「 「打倒ペップ」で読み解く戦術史」「マルセロ・ビエルサ ~狂気のサッカーヲタク~」「ファンタジスタとは誰のことか?」等といったラインナップで、このブログの読者なら何も言わずとも分かってくれることでしょう(笑)
そうです、そういう本です。

⇒amazon『サッカー店長の戦術入門』
2冊目は全フォーメーションの噛み合わせを図版約500枚を使って解説するという、こっちも負けず劣らずの変態本(笑)
執筆中は毎晩戦術ボードの夢を見てうなされながら作りましたww
これからフォーメーションを理解したいという人からその筋のマニアまで幅広く読んでいただければ!

⇒『サッカーフォーメーション図鑑』
2月15日に同時発売予定となっております!
絶賛予約受付中なので同士の皆様におかれましては読む用、保存用、布教用のハットトリックをマストにご購入下さい(笑)
よろしくお願いします。
- 関連記事
-
- 踏み出した一歩 ~日本☓スペイン~
- 日本サッカーの歪さの象徴として~日本×サウジアラビア~
- 『愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶ』~日本×カタール~
スポンサーサイト