森保JAPANの真実~日本☓ドイツ~

<必然と偶然の狭間で~森保JAPANの真実~>
変態の皆様、ご無沙汰しております。
ご新規の方々、どうも初めまして。
2022年カタールW杯、色んな意味で開幕しましたね。
今回の記事では先日のドイツ戦の完全解析を試みました。
森保JAPANをこのドイツ戦という点で見るのではなく、四年間という線で見ること。
その為に、お時間ある方は是非、こちらのアジアカップ決勝カタール戦のマッチレビュー⇒の冒頭部分だけで良いので、さらっと読んでから下に進んでいただけると幸いです。
今回のドイツ戦は、このカタール戦の敗戦と比較することで色々見えてくるものがあります。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
読んだら下へスクロール
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
・・・はい、では今回のドイツ戦のマッチレビューに移りましょう。
まずスタメンですが、選考からの過程で一番の驚きはFW大迫の招集外でした。
代わりにFWには前田大然、浅野らの名がリストアップされていました。
この選考から分かる事とは何か?
それはドイツ、スペインと同居した組にあって、指揮官の頭に描かれたプランは恐らくロンドン五輪のスペイン撃破(NINJYA永井)のそれです。

ロンドン五輪の対スペイン代表の試合は、当時から圧倒的なポゼッション力を持つスペインに対して、永井の神風特攻プレスを体力の限界までかけ続け、狙い通りショートカウンターから勝利を収めたのでした。
このU-23日本代表を率いたのは当時、52歳だった関塚監督です。
現在、森保監督も54歳ですが、この世代の日本人のサッカー観として、「格上相手に採るべき戦術」の最もオーソドックスな型がこの神風特攻になります。
一昔前の高校サッカー選手権では、こんなサッカーをするチームがそこら中に溢れていました。
無理もありません。
日本がまだW杯に出るどころか、アジア一次予選で苦戦していた時代です。
世界のサッカーの情報など、インターネットもなければ、衛星放送の環境も整っていなかったのです。
その時代に選手としてサッカーの原体験を経てきた世代に、この国に当たり前にプロリーグがあり、W杯出場が当然という感覚を持った若い世代のサッカー観とギャップがあるのはある意味当然といえるでしょう。
大迫を呼ばないという事はボールを動かして相手を押し込む攻撃を半ば放棄しているという事です。
コスタリカ戦もあるので、個人的には「正気か!?」と思うところもありますが、ともかく明確な戦い方と覚悟は感じる選考でした。
このような経緯を経てドイツ戦で選ばれたスターティングオーダーは前田大然をスタメンに抜擢した4-4-2(4-2-3-1)でした。
ドイツも基本布陣は同じく4-2-3-1なのですが、ボール保持時には3バックに可変します。
これにより両チームの噛み合わせは以下のようになります。
【ドイツボール保持時の噛み合わせ】

ドイツは左SBのらラウムを高い位置に上げて前線を5枚にし、5レーンを占有。
これは欧州予選でもネーションズリーグでも見られたドイツの基本形です。
対する日本は4-4-2で3ラインを組み、ドイツの3バックに前田と鎌田の2トップでファーストラインを形成。
ドイツの3バックは2トップで牽制し、機を見てSHを加勢させて3対3の数的同数に持っていく狙いが本線になります。
ギュンドアンとキミッヒの2ボランチには田中、遠藤のボランチを当てて、ドイツの3バック+2ボランチをハメて高い位置でボールを奪うのが理想のプランだったはず。
ところがドイツのIH(ミュラーとムシアラ)が日本のボランチ脇まで落ちてくる事で、田中と遠藤がドイツのボランチではなくIHを捕まえざるを得ない形になってしまいました。特に右のミュラーはサイドに落ちてくるタイミングも絶妙で、非常に嫌らしい位置取りを終始徹底。
この動き出しにより、ドイツの2ボランチを捕まえられる選手が不在という事態が引き起こされます。
前半3分の攻防に両チームの狙いが早くも表れていたので、流れを追って解析していきましょう。

立ち上がりの攻防から。
ドイツの3バックに対し、日本は前田→鎌田→久保の順にプレスをかけていきます。

ズーレからボランチのキミッヒにパスが出されるという場面ですが、田中碧のポジションに注目して下さい。
前に出る久保の背後のスペースを狙って前線から落ちてきているミュラーの対応に向かっています。
これによりキミッヒがフリーになります。

フリーのキミッヒは簡単に前を向けるので、日本の守備ブロックは中央を割られるルートでハーフスペースで待つムシアラへ。
田中碧がミュラーからキミッヒへと動かされているのでバイタルは遠藤1枚しかおらず、このパスコースは消しきれません。
驚くべきはドイツは前半3分の段階で右のミュラーで田中碧を誘い出し、中央を空洞化させた上でボランチを経由しながら右から左へ展開、伊東の背後をラウムで突くという攻め筋を早くも見せています。これはドイツの先制点の形、そのままですね。
フリック監督の周到な準備が伺える場面でした。
一方、日本の視点で見ると本来、中央を通させるのではなく、SHの伊東をこの高さで留まらせた状態でボールを敵陣で奪い→ショートカウンターへつなげるのが狙いでした。
ところがこの後、ムシアラがパスミスした事で、伊東の目の前にボールがこぼれてきます。

ドイツの技術的なミスではありましたが、伊東がこの高さで守備をしている内は、奪えば伊東の単独突破によるカウンターチャンスが見込めます。
このシーンも単騎突破でサイドをえぐり、この試合初めてのCKを獲得しました。
そしてこのシーンの3分後に前田大然の幻の先制点が生まれます。
このシーンは日本陣内左サイドからのスローインだったので、逆サイドの伊東を高い位置に残したままリスタート出来たのが布石になりました。
遠藤と鎌田の挟み込みでボールを奪った瞬間、伊東がカウンターのスタートを切り、自陣で奪ったボールを50M運んでクロス→オフサイドというもの。
アジア予選で森保JAPANが見せた明確な攻めの形は事実上、伊東の単騎突破、これしかありません。
(後半、ジョーカーの三苫を投入するまでは)
日本の幻の先制点を見てデジャヴを感じた方はいませんでしたか?
アジア最終予選サウジ戦の先制点の場面をリプレイしてみましょう。
【アジア最終予選サウジ戦の先制点シーン】

スローインのマイボール、相手ボールの違いこそありますが、ここからボールを奪って逆サイドに展開し、伊東がえぐるという形は全く同じ構造です。
要は左サイドのスローインは逆サイドで伊東を高い位置に残せるので、奪った瞬間にチャンスになると。
これは森保JAPANが持つ不変の構造です。
言い換えればリスタートではなく、インプレー時に伊東を高い位置に残す守備は偶発性(例えばムシアラの技術的なミス)に左右される、とも言えますが…。
<偶発性と必然性の違い>

前半のスタッツはボール保持率でドイツが72%、日本17%(どちらのボールでもない状態が11%)、シュート数はドイツの13本に対して日本はわずかに1本という数字でした。
改めて数字で見るまでもなく前半は完全にドイツのペース。
日本が得た2本のチャンスは偶発的(ムシアラのミスとスローイン)なものだったが、ドイツは日本の守備がハマっていないという構造を突いた極めて再現性の高い攻撃を繰り返した45分といえるでしょう。
その主要因としてミュラーというトリガーにより空洞化した中盤で躍動したギュンドアンの存在が挙げられます。

この場面ではギュンドアンが敢えてボランチのエリアから一度落ちて、FW前田を食いつかせ背後のスペースを作っている。

ギュンドアンは右のズーレに展開した後、パス&ゴーで自分が作ったスペースに移動。
日本のボランチ(この場面では遠藤)は相変わらずミュラーに気を取られており、キミッヒ経由で再びボールはギュンドアンへ

そして高い位置で守りたい伊東を自分に食いつかせて、日本の右サイドで2対1の数的優位を作り出している。
ボールはギュンドアンからムシアラ経由で大外のラウムへ

ギュンドアンはこのルートでボールを運べばラウムにSB酒井が食いつく二手先の画が見えているので、そのままハーフスペースへ抜けるフリーランニング。これを捕まえられるのはボランチの遠藤しかいない。

しかしボランチの遠藤がDFラインのカバーに入れば、当然バイタルエリアは空く。
ギュンドアンは文字通り「背中に目でも付いてんのかよ!?」というヒールパスで空いたバイタルエリアへボールを落とすのだった。
このシーン以外でも、前半の日本はとにかくギュンドアンを起点に崩されまくっていた。
決してアシストとか決定的なラストパスを出す訳ではないんだけど、その一つ前、二つ前には必ずこの男が絡んでいる。
最優秀助演男優賞みたいな存在。
『いやー、ギュンドアンうざいっすねー!』
(解説の某本田氏)
私もそう思います。
いや、サッカーファンならドルトムント時代から良い選手だという事は分かってたと思います。
でも当時はよく走れて展開力もある良いボランチだなってぐらいのイメージで
こんなポジショナルプレーマスターみたいな反則レベルの選手ではなかったはずでしょ!?
一体誰だよ!?
ギュンドアンにこんな魔改造施しやがったのは・・・!?

犯人はお前かー!!!
全く、いつのW杯でも部外者みたいな顔しながら、優勝戦線に絶大な影響を与えてくれるじゃねーか。
この男の手によって強化された国、選手が一体どれだけ過去のW杯を荒らしてきた事か…。
対戦する身にもなってくれ!!(笑)
さて、日本とすれば、もうドイツのボランチをフリーにさせたままにはしておけなくなりました。
かといって日本の2ボランチ(遠藤+田中碧)はドイツのIH(ミュラーとムシアラ)の対応に追われているので動かせません。
となればもう残るは2トップがドイツの2ボランチを見るしかなく、15分以降の両チームの噛み合わせは下記のように移行します。

日本は2トップを縦関係にするも、ドイツの3バック+2ボランチの5枚に対して2枚で鳥かごをされているようなもの。
ドイツの3バックにプレッシャーがかからないので、久保と伊東の両SHは引くしかありません。
ボールホルダーがどこにでも蹴れる状況で、自分の背後を空けるわけにはいかないからです。
そしてドイツのフリック監督はこの展開を想定していました。
それは左のCBにシュロッターベックを起用したことからも分かります。
この代表キャップ僅か4の若手CBは左利きを生かした展開力に定評のある攻撃型のCB。
ドイツはこの試合、日本を一方的に押し込んでボール保持の時間が長くなること、右からズレを作って左で崩すというルートを想定していたからこその起用でしょう。
ドイツの先制点は勿論、必然性の塊とも言える右からズラして左で生まれています。
【ドイツのゴールシーン解析】

局面はドイツが中央でボランチを縦関係にし、パスの出し入れをしようとしている場面です。
ボランチの位置でパスを受けるキミッヒの身体の向きに注目して下さい。
この向きでパスを受けてダイレクトに攻撃方向にパスは出せないので、日本とすれば次のバックパスで全体を押し上げ、守備のスイッチを入れたいところ。
しかしまず日本のDFラインが低すぎます。この低さに合わせて二列目を引くので、日本のファーストラインとセカンドラインには大きなスペースが出来ている事が俯瞰で見るとよく分かりますね。
特に左サイドの吉田と長友がミュラーとニャブリをボカして見れないので、常にSHの久保を自分達の前に置いておこうと低い位置まで下げさせるので、ズーレに展開された時に出ていく久保の距離が遠すぎるんです。

ズーレの前には充分スペースがあるので持ち運びが可能。
この時、ミュラーは久保の背中を既に取っていますが、久保がミュラーを気にする素振りを出したことで、ミュラーはズーレに対して手で「まだ出すな、運んで来い!」というアクションで指示を出してます。

ミュラーはお決まりのサイドに流れた事で、久保はミュラーへのパスコースを切る為、外切りでズーレに対峙。
久保を外切りにさせた事でハヴァーツへの縦パスのコースが空きました。
そしてこのハヴァーツに対してCB吉田の距離の遠い事。当然です、最初の段階であれだけラインを下げていたのですから。
楽に縦パスを受けたハヴァーツからフリーのミュラーへ

遅れて出てきた吉田の背中をハバーツに走られると、このカバーはボランチの田中碧。

ミュラーからボランチへのキミッヒへ横パスが出されますが、田中が一度押し込まれているので、ここでも距離が遠い。
キミッヒは楽にオープンでボールを受けて逆サイドを走るラウムへ→PK
「右でズラして、左で仕留める」
ドイツの必然性が生んだ得点でした。

<森保采配は本当に神采配だったのか?>
前半の日本の問題点をまとめてみましょう。
①ドイツの3-2-5に対して噛み合わせがズレていて(特に左サイド)全くハマっていない
②前からファーストディフェンスをかけたいが、2トップがドイツのボランチを見る格好になっている
③ボールの出どころとなっているドイツのCBに全くプレッシャーがかからないのでDFライン後退→両SH後退→5バック~6バック化
④自陣で回収してもSH(特に伊東)の位置が低過ぎて孤立した前田大然に蹴っても2秒で奪われる→カウンターが打てない
そもそも4バックでドイツの3-2-5を守ろうと思ったら、端から配置論では噛み合わないんですよ。
じゃあ、前半の日本は4バックでどうやって守るべきだったのか?
実は前半45分の間に、一度だけ日本がドイツ陣内の高い位置で意図的にボールを奪えたシーンがあります。
【3バック相手に4バックならこう守れ!】

局面は日本が蹴ったロングボールをドイツのシュロッターベックに拾われ、そこからリュディガーにパスが渡り、再びドイツのポゼッションが始まろうかという場面です。
パスを受けるリュディガーの身体の向きに注目して下さい。
後ろ向きで下がりながらパスを受けています。これを見た久保がスプリントの守備でスイッチを入れる。
→ボール状況を判断し、ファーストディフェンスを決める

後ろ向きでパスを受けたリュディガーに顔を上げる余裕はなく、久保が右サイドへ展開するコースを切りながら寄せているので、次のパスの選択肢は相当絞られました。
選択肢が絞れているので、次のパスに対して伊東、遠藤、前田が自信を持って狙いに出れています。
この瞬間、ボール周辺の局面は4対4の数的同数になりました。

シュロッターベックはパスを受ける前から伊東らのプレッシャーを感じているのでボールを守ろうと後ろ向きの体勢になってしまいました。
これを見た久保が素晴らしい二度追いで追い詰め、ボールを奪う事に成功。
この場面なんですが、上からの俯瞰映像で、全体を見ると↓こんな感じです。

そう、配置の噛み合わせ自体が変わった訳ではないので、実は前方では酒井に対してドイツは2対1の数的優位が作れていたのでした。
でもボールに対してファーストディフェンス→セカンドの連動と続いてるので、ボールホルダーの身体の向きと時間の無さから、そこは使いたくても使えないんですよ。
これがボード上のマグネットだけで見る配置論の限界で、ボールホルダーのアングル次第で、別に全てのポジションがハマってなくてもボールは奪えるんです。
だから3バック相手に4バックのままハメたいなら、そもそもマンツーマンでは無理で、どこかをボカして見ながら、ボール状況によって小まめにスイッチをオンオフし、ハメるとなった瞬間にファーストの決定→セカンドの連動→そしてニ追いで局地的な数的優位(または同数)を作って奪うのです。これが即ちゾーンディフェンスですね。
では、前半のこの構造的問題に対して日本ベンチは実際にどのような働きかけをしたのでしょうか?
今大会はアベマTVの放送だとカメラ切り替え機能が付いており、中でも「全体カメラ」は酔いやすいのが玉にキズですが、上から俯瞰の視点で見られるので重宝しています。
それだけでなく全体カメラ視点は実況+解説が無いので、ピッチ上の音声、特にテクニカルエリアまで出張っている監督の声を拾ってくれるので面白いです。
この視点でドイツ戦の前半を見てみればよく分かりますが、テクニカルエリアにいる森保監督の指示はおおまかにいって以下の2パターンでした。
「粘り強く!」
「我慢だ!我慢!」
これは苦しい展開の中で選手達を鼓舞する声がけではあるものの、現在陥っている状況を具体的に改善する情報は何一つ入っていません。必然として前半の45分間、ドイツの同じ攻撃パターンで日本は崩され続けていました。
勿論、90分を終えた結果を知っている観点から振り返れば、ハーフタイムまで修正を我慢した事で、ドイツにハーフタイムでの修正を許さなかった神采配、という見方も出来るでしょう。
果たして意図的に修正しなかったのか?それとも単に修正出来なかったのか?
こればっかりは当事者ではないので分かり得ない事です。
ですが、この采配をドイツ戦単体ではなく、3年前のカタール戦との比較で見てみるとどうでしょう?
3年前の試合では、カタールに同じように3バックで噛み合わせをズラされて、極めて似たかたちで前半の内に2失点しています。
修正したのは前半も終盤、ラスト10分を過ぎてからでした。
それ以外の試合においても、そもそも森保監督が前半の早い時間帯に修正に動いたことは過去なく、これは元々このチームが持っている体質のようなものだという事が分かります。
カタール戦とドイツ戦の違いは結果的に前半1失点で済んだか、2失点してしまったかの差しかありません。
無論、前半もラスト10分を切ってからは「この段階で修正するより、ハーフタイムまで我慢してドイツの修正を遅らせる」という意図は浮かんだ事でしょう。
怪我明けの冨安を3試合使うなら、出場時間はコントロールしたいという台所事情もあったはずです。
ただ、もし前半で0-2にされていたら、恐らく逆転するのは難しかったと思います。
なんならダメ押し弾をくらって前半0-3で折り返していた可能性すらあります。
前半の内容を確率論で捉えれば0-1は多分に幸運にも恵まれたもので、順当にいけば0-2,0-3の内容でした。
欧州のトップリーグではそれこそ両ベンチが監督を筆頭に5分単位で打ち手を繰り出す空中戦を展開することは、もはや珍しい光景ではなくなってきました。テクノロジーの進歩がそれを助長させている側面もあるでしょう。
もはや5分修正が遅れたら致命傷になる。
そういうつばぜり合いをしているのです。
ドイツ戦の神采配は極めて偶発的な要素に依拠されたものだったという側面も忘れるべきではないでしょう。

<瓦解した必然 ドイツの崩壊>
0-1で前半を折り返した日本。
後半に向けた修正パターンは大きく分けて二つあります。
①4バックのまま、噛み合わせるのではなくゾーンでの奪いどころを整理する
②3バックにしてミラーゲームに持ち込み、マンツーマンでハメる
いずれにせよ、左サイドが押し出せず、空洞化した中盤をボランチ経由で右サイドに展開され、しわ寄せを受けた伊東がいつも戻る形で走らされ半ば戦犯のようになっているこの状況。修正すべきは左サイドの押し上げで、その為には3だろうと4だろうと自信を持ってDFラインを押し上げられるスピードのあるDFが必要な訳です。
つまり・・・

まず修正すべきは左サイド、冨安INだ。
最終的に森保監督が3バック(5バック)のミラーゲームを選択した下りは、もう散々多方面で取り上げられてるので詳しくは割愛。
とにもかくにも、このシステム変更により、前半はやりたい放題だったドイツの3バック+2ボランチに日本は5対5の数的同数プレスを突如敢行。

前半、背走するばかりだった日本の守備が、後ろから前向きに押し出すかたちになり、一転してボールを回すドイツの選手達の身体の向きがプレッシャーからボールを守ろうと後ろ向きに。ドイツが日本陣内にスムーズにボールを運べなくなりました。
更に冨安を入れた事のメリットがラインの高さです。

ボールの出どころに対するマークが明確になったこともあり、前半とくらべて10Mはラインが高くなりました。
ちなみに前半は↑の最終ラインの高さに中盤のラインを引いてましたね。

ラインが高いのでバイタルに打ち込まれるクサビに対しても吉田が自信を持って潰しに出られる!
そしてカバーに入る冨安の動きに注目して下さい。
こういうシーンで従来の日本のCBはドイツのFWハバーツに裏を取られるのを恐れてハバーツより深さを取ってしまいがちなんですよ。ところがボール状況を見て冨安は吉田のカバーをしながらもラインを僅かに上げてハバーツをオフサイドポジションで殺せるんですね。
森保監督は後半の立ち上がり10分間を見て、守備がハマり出したことを確認し、満を持して三笘と浅野を投入します。
三笘をWBで起用したのは陣形を崩したくなかった事と、伊東は左に持ってこれないと考えたからでしょう。
どうしても三笘を一つ前で使いたいのであれば、相馬と三苫を左に並べざるを得ず、それはあまりにもリスキーという事か。
現実的に考えて3-4-3で三苫を使うなら、現状WBしかないと思います。
(長友と縦に並べると三苫の外を再三オーバーラップするので、かえって邪魔になる)
ただあくまでミラーゲームに持ち込んだ3バックへのシステム変更は、守備の噛み合わせでは上手くいったものの、攻撃面ではまだこの時点ではあまり上手くいってないんですよね。

後半はしっかり後ろからつなごうという意思を見せた日本。(恐らくハーフタイムの指示)
ですがGKからのリスタートで3バックが目一杯ワイドに開き、間にボランチが落ちてくるこの配置・・・あまり仕込まれてないんですよね。
まあ、実戦でほとんど試してこなかったので当たり前とも言えますが。
↑の場面でもGK権田からボールを受ける吉田の身体の向きが・・・・

これでビルドアップは無理よ(泣)
吉田の視野からはワイドに張った冨安しか見えておらず、ドイツからしても次のパスコースは読み切りでしょこんなの。

もらった冨安の方が泣きたくなるぐらい苦しいので、吉田に返すしかなく、追い込まれた吉田がタテポン→ドイツが回収。
これ、左の前には三苫がいるんですが、彼を活かすには下でつないでボールを渡すルートがないと駄目なんです。(ブライトン&川崎フロンターレ参照)
左のタッチライン際に吉田-冨安-三苫が一直線に並ぶこの配置を見ても、3バックのビルドアップが仕込みきれていない事がよく分かります。
そこで後半25分、森保監督とドイツのフリック監督が動きます。
まず森保監督は前半ミュラー番で動かされ疲れの見える田中碧に変えて堂安を投入。
鎌田を一つ下げてボランチにする事で、後ろからのビルドアップに顔を出せるように配置転換しました。
ドイツのフリック監督は日本の守備が後半ハマっているので打開策として交代だったのでしょうが、この一手が最悪の悪手でした。
これまでドイツの攻撃の肝を担い、前半日本を散々苦しめてきたギュンドアンとミュラーを下げてしまったのです。
交代ボードの番号を見た時、何かの間違いかと思いましたが、もしかすると戦前のプランではこの時間帯に2点差、3点差をつけていてクローズさせる想定だったのかもしれません。
とにかくこの交代でまずドイツのポゼッションと、それを支えていた立ち位置が壊滅的になります。
【後半のドイツの配置】

局面は何とか噛み合わせをズラそうとボランチのキミッヒがDFラインまで落ちてボールを受ける場面ですが、もう1枚のボランチで入ったゴレツカはどこ行った?
いるべきスペース(前半はギュンドアンが使っていたエリア)にいないので、浅野も背中を気にすることなくキミッヒにアプローチ出来ています。

仕方なくキミッヒが一度はたいて、自ら動き直して再びボールをもらおうとしますが、キミッヒの一人二役ではさすがに無理があります。
日本はただボールの動きを追ってキミッヒを前後から挟めば良いだけで、孤立したキミッヒから出せる次のパスコースがシュロッターベックぐらいしかありません。これなら堂安も読み切りでGO!

これはドイツと言えど厳しいwww
ドイツの混乱を象徴するかのようなチグハグなボール回しでしたが、ポジショナルプレーというスタイルを緻密に積み上げ偶発的なチャンスではなく必然的なプレーの積み重ねで勝とうとするチームが陥りがちな負けパターンとも言えます。
チームが緻密に「自分たちのサッカー」で組み上げられているので、どこか一つ歯車が狂うと脆いのです。
ちょっとしたバグが大惨事を招くチーム構造と言い換えても良いかもしれません。
昨今流行りのポジショナルサッカー(定位置攻撃)ですが、実はその内実は、正確な立ち位置よりもギュンドアンのような状況に対応出来る余白と頭脳を持ったパーツが決定的に大事だったりします。そういう意味ではどこまでいってもサッカーには属人的な領域がまだ残っていると言い換えてもよいかもしれません。人間がプレーする限りは。
混沌(カオス)に陥るドイツと反比例するように、日本の攻撃には明確な再現性が見られるようになってきました。
ビルドアップに鎌田が絡めるようになったからです。

先程ハマっていた左サイドからのビルドアップですが、サイドに流れた鎌田は逆足の右が利き足なので寄せてくるDFから遠い方の足でボールを受けつつ・・・

自陣ゴール前で顔が上がるこの余裕!
なんかヌルヌルとドリブルしながら、いとも簡単に逆サイドに展開しちゃってます。

このサイドチェンジ一発で、ドイツの前線を4枚置き去りですから、そりゃー板倉はフリーで敵陣まで運べます、と。
後半も終盤になってボランチ鎌田のビルドアップ関与により、日本は攻撃も整備されてきました。
良い流れの日本はアクシデントすら好機に変えてしまいます。
後半30分、酒井が左太もも裏を痛めるアクシデントが発生。
恐らくこのアクシデントがなければ、酒井はフル出場させる予定だったのではないでしょうか?
伊東に変わって南野だった可能性もあります。
ところが酒井が使えない事で逆に選択肢が削られ、森保JAPAN史上、最も攻撃的な布陣が完成しました。
酒井に変えて南野を入れ、右WBには伊東。
左WB三苫、右WB伊東、ボランチに鎌田と遠藤という3-4-3は、この土壇場で森保監督にビエルサの生き霊でも乗り移ったのかと思わせるほど、最高に狂気の采配だったと思います。(*注 褒めてます)
奇しくも日本の同点ゴールが生まれたのはこの交代の1分後でした-

そうそう、3バックは無闇に開くんじゃなく、近い距離感に並んで、大外の幅はWBの三苫に取らせる…この配置が強みなんですよ。
冨安はSHのホフマンが寄せてきてから三苫へ。4バックのドイツは右SBズーレの前に南野と三苫がおり、日本が2対1の数的優位を作れています。
つまり前半のドイツがやっていた事と全く同じですね。前半と後半で立場が入れ替わってしまいました。

ここで三苫が上手かったのが、タッチライン際でズーレに1対1を仕掛けて縦突破を選ばなかった事です。
恐らく両者のマッチアップなら、縦突破も可能だったはずななのに、です。
もしこのシーンで三苫が縦突破を選択した場合、ハーフスペースを抜ける南野をゴレツカがカバーする対応になったはずです。
その昔、どこかの天才選手が言った言葉を思い出します。
「1対1も選択肢の一つに過ぎねえ」
ドイツも当然、三苫のことはスカウティングしてきています。
この一つ前のプレーで三苫がボールを持った時には、瞬間2枚のDFが寄せてきました。
勿論、三苫もその対応を観ているので・・・

カットインだと…!?
敢えて密集している中に切れ込む事で、南野をマークするはずだったゴレツカ、更にキミッヒまで加えて、三苫一人でドイツの守備陣3枚を引き付けています。
常々私はサッカーにおいてドリブルは一つの引力だ、という定説を唱えているのですが、これを理解している賢いドリブラーは自分に引き寄せてラストパスという第二の選択肢を持っているものです(メッシ、マラドーナ、ネイマールetc)
この場面でも三苫はフリーになった(させた)南野へパスを選択


ドイツの先制点の逆バージョンですね。
ドイツの4バックに対して、前線を5枚にして、左から切れ込んだら最後に空くのは・・・

空くんですよ!ここが!!
続くニ点目もドイツの焦りからの自滅で生まれています。
【日本の2点目のシーン】

日本陣内のFKからなんだけど、ここでボールサイドのCBであるシュロッターベックの若さも垣間見られた瞬間でした。
1-1に追いつかれた焦りもあって、早く攻撃権を取り戻したいという意識からシュロッターベックはラインを止めてオフサイドで日本の攻撃を断ち切ろうと安易に決断するんですけど、事前にズーレの方までは確認してないんですよね。
真ん中のリュディガーは最初浅野の走り出しに付いて行こうとする素振りは見せるんですが、目の前でシュロッターベックがラインを止めたのを見て慌てて合わせる好判断。
ところが一番大外のズーレは元々スピードに自信が無いタイプなので、南野のダイアゴナルランに合わせて深さを取ってしまったのですね。これにより浅野がオンサイドで抜け出しに成功→どこのムバッペだ!?というパーフェクトトラップからノイアーぶち抜きの決勝点。
逆転を許したドイツにはもはや攻め手も明確なプランBも残っておらず、最後はペップとナーゲルスマンという智将から薫陶を受けたキミッヒが涙目になりながら前線目掛けてひたすらロングボールを蹴り続けるという醜態を晒して敗れ去っています。
(キミッヒ「うえっwww・・・前線にレバンドもいないのに無駄だろチキショーwwっw(涙目)」)
森保JAPANはと言えば、1点リードした試合を5-4-1で塩漬けにするのはお手のもの!と言わんばかりの躍動感。
WB三苫がロングボールを跳ね返し、堂安、南野も守備に奔走。
各々が「今やるべきこと」をベンチからの指示無しで実行出来る頼もしさ。
最後は自分たちの勝ちパターンに実力で乗せてきた、文句ない逆転勝利だったと思います。

<日常の延長線にある強さ>
この勝利の主要因として後半のシステム変更でまとめるのは簡単です。
ただ、サッカーにおいて噛み合わせとはあくまで選手個々のタスクを明確化させる下地に過ぎません。
各選手が前向きに守備を行う為の適切な距離を作るものでしかないのです。
マンマークがハマったところで各々が1対1で負けていたら惨敗は必至。
その意味で今から20年前、同じ3バックでフランス代表に挑んだものの、個でまともに張り合えるのが中田英しかいなかった日本代表は0-5の惨敗を喫しています。
「サンドニの悲劇」と言われたこの試合ではフランス代表から「日本には中田しかいなかった」と屈辱の捨て台詞まで食らうオマケ付き。
あれから20年-
後半、森保JAPANの面々はドイツを相手に実に堂々とプレーしていました。
当たり前です。
マンマークが明確になれば1対1の局面が増えます。
そして日本の中盤にはドイツ・ブンデスリーガのデュエル王遠藤が君臨しています。
後半、むしろ遠藤にビビっていたのはゴレツカ、キミッヒの方でしょう。
同じくブンデスリーガで常にMF部門のトップ3のスタッツを叩き出している鎌田は、普段通りのプレーでドイツの大男達を翻弄していました。
プレミアリーグでサラーを完封した冨安にとってドイツのFW陣は脅威でもなんでもなく、アーノルドをキリキリ舞いにさせた三苫のドリブルは冴え渡っていました。
もはや、彼らにとってW杯のドイツ戦は日常の延長線にあるものなのです。
もしかするとドイツと日本との差を現実より大きく見せていたのは我々の中にある古い価値観のせいだったのかもしれません。
適切な戦略を敷いてあげれば、全く引けを取らない「個の強さ」を、今の日本代表は持っているのではないでしょうか。
本ブログで展開したいのは森保批判でも、はたまた掌返しでもありません。
あくまでピッチ上で起きた事実を明らかにするのが趣旨であり、それをどう判断するのかは読んでいただいている貴方次第です。
- 関連記事
-
- 森保JAPANの真実~日本☓ドイツ~
- 欧州サッカーマイナー国紀行②~ドイツで現代サッカーの最先端を観る!の巻~
- 総額350億円の金満ダービーが欧州勢力図を塗り替える? ~モナコ×PSG~
スポンサーサイト
テーマ : FIFAワールドカップ
ジャンル : スポーツ