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【孫子の兵法】から見るバルサの優位性と未来 ~0トップ誕生の歴史~ 

*2011-04-15更新 (アーカイブ記事)








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<9トップから0トップの時代へ>



まずは現在のバルサを、

サッカー創世記からの歴史上の観点で検証していこう。



この地球上にフットボールが生まれた頃、

その競技内容とは相手陣地に向かって大きくボールを蹴り上げ、

それをフィールドプレイヤーの10人が一斉に走って追いかけるというものだった。



おおよそ「戦術」や「フォーメーション」と呼ばれる概念は無く、
ボールを蹴り上げるプレイヤー1人を除く 残りの9人全員がFWという状態。

( 「9トップ」の時代)




そこから段々と戦術、フォーメーションが発展していくと
各チームはFWに割いていた人員の何枚かを後方に下げ、中盤とDFを構成。



「サッカー戦術」という概念上、
その歴史に初めて登場するフォーメーションらしいフォーメーションは「2-3-5」と記録されている。


2枚のDF、3枚の中盤、5枚のFW。


今では考えられないアンバランスな布陣だが、
およそ100年前のサッカーではこの布陣が主流であった。




そこから100年の時を経て、
現在に至るまでのフォーメーション変換の歴史とは一言でいってしまえば


「FWの枚数を減らして後方にまわす」


という流れで進んできた。




これはフットボールという競技が
「ゴール前での人海戦術」という原始の段階から
「中盤の主導権争い」に成熟してきた事の証。



そして、今では多くのトップクラブが採用する「1トップ主流」の時代に行き着いた。

(5トップ⇒4トップ(【4-2-4】)⇒3トップ'(【4-3-3】)⇒2トップ(【4-4-2】)⇒1トップ(【4-2-3-1】)






そんな時代にあって、今季のバルサが採用しているCFにメッシを置いた布陣は
「0トップ」(或いは「0・5トップ」) 「トップレス」「メッシ・システム」などと呼ばれている。




つまり、現代サッカーがいよいよ「1トップ」の時代から
次の「0トップ」へ移行する兆しと捉えられている訳だが、
この「0トップ時代突入」を語る上で、歴史上 飛ばしてはいけないチームがある。




それが2007~2008シーズン前後にイタリアのASローマが
世界に先駆けて披露した「0トップシステム」である。




<ASローマの「0トップシステム」を検証する>
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ローマでこのシステムが生まれたキッカケは半分偶然というか
「怪我の巧妙」のようなところがあった。


07/08シーズン、ローマはFWに怪我人が続出し、
遂には純粋なFWが1人も残っていないという窮地に追い込まれていた。




そこで当時、ローマを率いていたスパレッティ監督は
本来、「1・5列目」で「司令塔」の役割を担っていたチームの大黒柱トッティを1トップに据えて、
ピッチ上に純粋なFWを1人も置かないという賭けに出た。






この斬新なシステムに対し対戦チームは有効な対策を持ちえず、ローマの快進撃が始まった。


当時世界中から絶賛されたローマの「0トップ」を検証してみよう。




【ASローマの0トップ】
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基本的な布陣の並びは「4-2-3-1」で、
中でも前線の「3-1」の配置と動きにその妙が凝縮されていた。


司令塔のトッティが最前線で常に「攻撃の基準点」として定点に留まり、
トッティがボールをキープしている間に後ろのMFが一斉に追い越しをかける。



そして追い越したMFに向けて、
トッティからラストパスが送られるというのが攻撃の基本形。

最初の「3-1」の並びから「1-3」に並びが逆転するのがミソ。



【「3-1」の並びから⇒「1-3」に】
2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0500030011167098806.jpg



定点として一定の位置に留まり続ける「静」のトッティと
それを一斉に追い越す「動」のMF3枚というバランスがギリギリのところで機能した一例。



1トップのCFトッティが最終的にはアシスト役に回るこのシステムを指して
世間が「0トップ」と名付けたのも確かに頷ける。



だが、よくよく一連の流れを見てみると
戦術的にこそトッティは「0トップ」的な役割をこなしているが、


ピッチ上の位置取りは紛れも無くポストプレーに特化した「定点型1トップ」であり、

トッティの動きで「0トップ状態」が作られるのではなく、

MFの走り込みが結果的に「0トップ状態」を形成するに過ぎない。




したがって、個人的にはこれを「0トップ」と呼ぶには抵抗があり、

「1トップの亜流」として位置付ける方がシックリと来る。

(もちろん、人によっては異論もあるかとは思いますが。)





何より、このシステムが僅か1シーズン半しか持たなかったのは

メリットと同時に多くのデメリットを抱えていたからだ。




限界の要因は、まず「動かない1トップ」トッティにある。



ローマの選手からすれば、「攻撃の基準点」トッティが常に一定のエリアにいる事が
この不安定なシステムの中で唯一の拠り所になっていた訳だが、


同時にこれは相手チームのDFにしてみれば、絶好のターゲットに成り得る。


何故ならトッティ自身が裏に抜け出たり、

ボールを受けて自ら突破を計るという選択肢が無い上、

ローマの攻撃は必ず一度この定点にボールを当ててくるという按配だ。



これはもう対策を立てる側からすれば「潰せ」と言われているようなものだろう。



ローマの守備面に立って考えてみても

トッティのところでボールが奪われると

トッティ自身に加え、追い越しをかけたMF3枚の計4枚が

相手のカウンターに対し 「置いてけぼり」をくらうリスクを常に抱えている事になる。




それでもトッティの超絶的なキープ力で、セリエAでは無敵の威力を発揮していたのだが、

やはりレベルが一段も二段も上のCLでは マンチェスターUに0-7で大敗すると

このシステムは一気に限界を露呈した。





<メッシが体現する新時代の「0・5トップ」>




そこで現れたのが今季のバルサが見せている「0トップ」のハイブリッド版
「0・5トップ システム」(店長命名) である。


現在、世界最高のプレイヤーと言われるメッシが

紆余曲折を経てたどり着いたベストポジションこそ・・・・「0・5トップ」。



元来、右のウイングとしてプレーしてきたメッシだったが、

その「突破力」と「決定力」を よりゴールに直結するエリアで活かしたいと考えるのは

誰が監督だろうと必然的に辿り着く流れであった。



よりゴールを意識するなら、やはりゴール前 中央のエリアがベスト。


しかし、従来の定点的な1トップではメッシの「機動力」と「スピード」という

最大の持ち味が消えてしまう。



かと言って、トップ下に下げてトッティのように「アシスト役」に回してしまえば、
今度はその「決定力」が宝の持ち腐れ。



辿り着いた回答が「0・5トップ」だった。



メッシもトッティと同じように 本来CFの選手ではないが、

試合ではCFの位置を基本とするところまでは同じ。



しかしメッシは決して「動かぬ基準点」などではなく、
むしろ「動き回る」事こそを最大の武器としている。


引いて受けて良し


裏に抜けて良し


はたまた個人によるドリブル突破良し



一元的に見れば、まずはこの
「メッシというプレイヤーの能力が最も発揮されるポジションは ピッチ上のどこなのか?」
という理論から0・5トップ誕生という事になるが、"真の狙い"は更にその奥にある。



現在のバルサにあって、その攻撃時における最大のテーマとは


「いかにメッシに前を向いた状態でボールを渡せるか?」

にある事は普段バルサの試合を見ている方なら実感している事だろう。



安定したボールポゼッションも華麗なパス回しも

全ては「いかにいい状態のメッシに渡すか」という前振りであり、

メッシがスイッチを入れない限り、
ともすれば「ただのボール回し」に終わってしまう事もある。




これはつまり、裏を返せば、
バルサと対戦するチームにとっての最大のテーマが

「いかにメッシに前を向かせないか」

である事をも意味する。




通常、バルサと対戦するチームはその対策を練りに練ってくると考えるのが普通だろう。

中には露骨に「対バルサ用」のシステムを取ってくるチームも昨今では増えた。



この極度に戦術的でシステマチックな相手の布陣に対し、
バルサの緻密な攻撃戦術の中でメッシにだけ

敢えて最もファジーで

「従来の戦術からはみ出した役割」


を与える事で
対戦相手の「対バルサ戦術」を機能不全に陥れる事が「0・5トップシステム」の最大の狙いである。




ではこの「0・5トップシステム」における

実際の試合でのメッシの動きとバルサの攻撃を分析していこう。



【0・5トップシステムにおけるメッシの動き(パターン1)】
2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0578033211168997872.jpg



局面はボールを持ったシャビから攻撃が始まるというところ。



この時はまだ、バルサの前線が通常の「3トップ」の並びになっている事が確認出来る。


通常のサッカーチームにおいて、最もフィジカル能力に優れ守備能力が高い選手は

どこのポジションに置かれるだろうか?


当然、CBに置くのが普通だろう。



バルサとしたら、この「最も守備能力とフィジカルに優れる」CB2枚に

「ゴールに背を向けた状態」のメッシ1人が削られるという展開は避けたい。



そこでCB2枚のマークからメッシを意図的に剥がしにかかる。



2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0580032911168997871.jpg


メッシの「0・5トップ」発動の瞬間だ。


従来のCFの仕事は、相手CBの前で身体を張ってボールを収める事にあるが
メッシは「CFの職場」を放棄。一度 中盤に下がる。



この動きにマーカーのCBが反応、ついて行こうとするが・・・・



2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0580032611168997873.jpg


あまりにメッシの戻りが深く、これ以上深追いをすればDFラインに穴を空けてしまうと判断したCBが
メッシのマークをボランチに受け渡す。

(これ自体、決して間違った判断などではなく、むしろディフェンス戦術のセオリー)




2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0581034311169019240.jpg


メッシが完全に中盤まで降りた事で、(MF化)
文字通りバルサのCFが「0トップ状態」を形成。

(トッティと違い、自身の能動的な動きによって「0トップ状態」を作り出すのがローマとの大きな違い。)


注目すべきは、先ほど挙げた「チームで最も守備が強い」CB2枚が
マークする相手がおらず完全な「放置プレー」になっている事。


尚且つ、CFがいないのだから相手のマーカーも不在。
○で囲ったエリアに一瞬、無人のスペースが生まれている。


ボールを持ったシャビは中盤のメッシには出さず、一度Dアウベスにパスを渡す。


2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0582032811169019238.jpg

瞬間、空けておいたスペースへメッシがアクセル全快。

「スピードに乗って前を向いたメッシ」に向けてDアウベスからパスが送られる。



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局面はメッシにパスが渡った瞬間。


どうだろう?

もしかすると仮に貴方が この対戦チームのファンだっとして、
この画を見ても まだそこまでの危機感を憶える事は無いのではないか?

エリアは中盤だし、DFラインは揃っている。


・・・が、バルサの場合、これが攻撃の最終局面であり、
既に「スイッチが入って」しまっている。


2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0581033411169041971.jpg

前を向いて無敵状態のメッシがそのままドリブルでボールを持ち込み、
ゴール前で突然進路を中に変える鋭いカットイン。


得意の形から左足で放たれたシュートでゴールを決めた。



この失点を巻き戻して分析するならば、
やはりCBがメッシのマークを離して(受け渡して)しまった事に起因するという結果になるだろう。


では、メッシのマークを離さず、CBがついていったとしたら・・・・どうなるだろうか?


検証してみよう。


【0・5トップシステムにおけるメッシの動き(パターン2)】

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再び、中盤でシャビから攻撃が始まる局面。

予定通りメッシが前線から中盤に降りてくる瞬間だ。


先ほど痛い目を見たCBも学習したのだろう。

今度は決してマークを離さず「どこまでも付いていってやる!」という体勢だ。



このCBの前がかりになった重心を確認したメッシ。


2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0572032611169041974.jpg


瞬間、進行方向を切り替え、一気に裏抜けを開始。

先ほどの意気込みで完全に重心が前のめりのCBはこの動きについていけない。


そこにシャビからスルーパスが送られる。


2011-04-15_13-23-26_entry-10862225256_o0578032911169054391.jpg

はい、これでGKとの1対1がいっちょあがり。

さっきとはうって変わり、CFの仕事をメッシが果たしている。


この「半分CF」「半分MF」的な動きを指して「0・5トップ」と名付けた訳だが、


相手チームにすれば、


マークを離せば「前を向かれ」


ついていけば「裏をとられ」


常に究極の二択を迫られている 恐るべきシステムだ。




<【孫子の兵法】から見るバルサの優位性と近未来>


最後にまとめとして現代サッカーにおける「バルサの優位性」と
これから先、サッカーがどう進化していくかの「近未来」を検証して終わりにしよう。



まず、「バルサの優位性」を検証するにあたって
ちょっと突飛な話に聞こえるかもしれないが、【孫子の兵法】にこんな一説がある。




「実戦においては単純な兵力差よりも稼動戦力の方が重要である」


「遊兵を作らず、戦っている面積で上回れ」




歴史上の戦(いくさ)の中には

「僅か数千の部隊が○万の大軍隊を撃破!」

なんていう事例がいくつも残っている。



孫子が言っているのは、実際の戦では局面局面で全ての兵が稼動している訳ではない。



単純な兵力で劣っているのなら
なるべく相手に多くの遊兵(戦に参加してない兵力)を作り出すように自軍の陣形を工夫し、
局地戦で数的優位を作れ!という事だ。





さすがは、現代でも戦における最高の指南書の一つ。


これはそのままサッカーにも当てはまるとは言えないだろうか。


つまり、単純兵力差では「11対11」のピッチ上において「稼動戦力」で上回る。



「0・5トップシステム」による

一瞬、中盤の局地戦で数的優位を作るメカニズムはまさにこの教えそのもの。



そして、「遊兵を作らない」という点でも現在のバルサはその最高峰にある。


先ほど「ローマの0トップ」との比較でトッティとメッシの例を持ち出したが、
トッティに限らず、他の多くのチームでも同じ比較が当てはまる。


例えば、Fトーレスやイブラヒモビッチ、Cロナウドらの選手を抱えるチームでは、

「中盤の構築」「自軍の守備」という二つの局面で彼らが文字通り遊兵となってしまう。


何故なら「ゴールを決める」という最終局面でこそ

彼らは2人分、3人分の仕事が出来るスーパーなプレイヤーだが

それ以外の局面には一切介入しない職人でもあるからだ。



同じように「相手の攻撃を跳ね返すだけ」というDFを抱えるチームでは
「攻撃の局面」で遊兵が出てしまう事になる。



その点、「攻撃の構築」がGKから行われ、
「守備の局面」では誰よりも早くCFのメッシからプレッシングが始まるバルサには
攻守に遊兵が存在しない。



言い換えればバルサは「GK1人と10人のMF」で戦っているようなものであり、


であるならば、これからのサッカーとは職人が淘汰され

攻守において遊兵を作らない真の意味での「トータルフットボール」の時代を迎える事になろう。



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